木曜日, 10月 29, 2026

ルドルフ・ケンペの芸術

ルドルフ・ケンペの芸術



円熟の境地をもっと示して欲しかった名指揮者

ルドルフ・ケンペ(Rudolf Kempe:1910~76年)は、古都ドレスデン近くに生まれ、地元の音楽学校で専門的な教育をうけたのち、1929年ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団にオーボエ奏者として入団します。当時の首席指揮者はブルーノ・ワルターでした。指揮者に転じたのち1950年にはドレスデン国立歌劇場の音楽監督として帰省します。

 冷戦下、1952年には「西側」のバイエルン国立歌劇場の音楽監督に就任します。一時米国でも活躍しますが、1960~63年のシーズンには、バイロイト音楽祭で『ニーベルングの指輪』を振っています。

 東独で専門的な教育をうけ実力で地位を築いたのち、「西側」に転じたキャリアはテンシュテットと共通します。また、その後、イギリス(ロイヤル・フィル、BBC交響楽団)でも高く評価され長きにわたり活躍しますが、1965年-1972年チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団首席、1967年ミュンヘン・フィルの首席と、スイスをふくめ広くドイツ圏にもしっかりと軸足をおいて活動した指揮者です。1976年、チューリッヒにて逝去しますが、円熟の境地をもっと示して欲しかったと惜しまれました。ベイヌム同様、いささか蒲柳の質であったのでしょうか。

 イギリスでは巨匠トーマス・ビーチャムの跡目をつぎ、またミュンヘン・フィルではクナッパーツブッシュ時代とチェリビダッケ時代の中間に位置します。メインの活動の時期は、カラヤンやベームらの全盛期であり、ほかにもミュンシュ(ミュンシュがゲヴァントハウスのコンサート・マスター時代にケンペはオーボエ奏者として仕えています)、バルビローリ、アンセルメはじめそれこそキラ星の如く、国別にスペシャリティの高い領域では大家がいまだ各所で健在でしたから、ケンペの活動は相対的には地味に見えます。しかし、今日、振りかえってみると、ケンペは堂々のドイツ正統派の実力を有し、ドイツ古典派・ロマン派を中心に多くの成果を残しています。

 ミュンヘン・フィルとの演奏では、ときにデューラーの少し暗い色調の絵を観賞するような趣きがあり、また、重量感のある低弦が美しい緩徐楽章では、これぞドイツ的な音の渋さ、くすみ、幾分の暗さが微妙にブレンドされていて、素晴らしい響きを聴くことができます。

<収録情報>

【モーツァルト】

・ピアノ協奏曲第27番 グルダ(Pf) (1972)

【ベートーヴェン】

・交響曲第5番  チューリッヒ・トーンハレ管(1971)

【ワーグナー】

・歌劇『ニュリンベルクのマイスタージンガー』 第1幕への前奏曲(1972)

【ブラームス】:

・交響曲全集(1975)

【ブルックナー】:

・交響曲第4番(1975)、第5番(1976)、第8番チューリッヒ・トーンハレ管(1971)

【ドヴォルザーク】:

・交響曲第8番(1972)、第9番 (1)ロイヤル・フィル(1962)、(2)チューリッヒ・トーンハレ管(1971)

【R.シュトラウス】

・交響詩 「ドン・ファン」ロイヤル・フィル(1964)

【レスピーギ】

・交響詩「ローマの松」ロイヤル・フィル(1964)


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ラヴェル:ピアノ協奏曲 ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第4番(クラシック・マスターズ)

 ラヴェル:ピアノ協奏曲 ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第4番(クラシック・マスターズ)




ラフマニノフ 第4番の代表的な名演

以下はラフマニノフ ピアノ協奏曲第4番について。ミケランジェリの本盤はいまも代表的な名演とされるもの。第2番、第3番にくらべて取り上げられる機会は少ないが、亡命後に長期に推敲を重ねて世に問うた本曲は完成度の高い作品である。ときにラフマニノフらしい親しみのあるメロディも顔をだすけれど、全体としては、複雑な和音、軽快な律動の独特のリズム感、高度なピアノテクニックによる超速なパッセージ処理などで現代音楽的な色彩をもつ曲である。ミケランジェリがラフマニノフの協奏曲中、なぜ本曲のみの録音を残したのかはわからないながら、とくに第3楽章、いかにも彼らしいクリスタル輝くような均質な音色と抜群の技量をあますところなく表出しており、本曲との相性の良さを感じさせる。

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ヴォルフガング・サヴァリッシュ&バイエルン放送響 ライヴBOX (Wolfgang Sawallisch Edition) (8CD-BOX) [輸入盤]

 ヴォルフガング・サヴァリッシュ&バイエルン放送響 ライヴBOX (Wolfgang Sawallisch Edition) (8CD-BOX) [輸入盤]




サヴァリッシュ&バイエルン放送響&合唱団 3大曲ほかのライヴ

ドイツの名匠、サヴァリッシュが手塩にかけたバイエルン放送響との、1958~2001年のおよそ半世紀にわたるライヴ音源からの選集。定評あるオルフの宗教曲、ハイドン『四季』およびメンデルスゾーンのオラトリオ『エリヤ』が主力。それにモーツァルト「ハフナー」「ジュピター」の2曲の交響曲と自身がピアノを弾いてのシューベルト「ます」という玄人好みのラインナップとなっている。3大曲はいずれもサヴァリッシュ代表的な名演だが、とくに修道院で収録された『四季』の充実ぶりと残響の美しさは格別のものである。

<収録情報>

・オルフ 『アンティゴネ』

マルタ・メードル(S アンティゴネ) マリアンネ・ラーデフ(S イズメーネ)ウィリアム・ドゥーリー(Bs-Br コロスを導く者) カルロス・アレクサンダー(Br クレオン)パウル・クーエン(T 門番) フリッツ・ウール(T ヘモン) ヨゼフ・トラクセル(T ティレジアス)クルト・ベーメ(Bs 使者) リリアン・ベニングセン(S オイリディセ) バイエルン放送響&合唱団(1958年6月1日/ミュンヘン)

・ハイドン 『四季』

ルート・ジーザク(S ハンネ) ロバート・ギャンビル(T ルーカス) アルフレート・ムフ(Bs ジーモン)バイエルン放送響&合唱団(1994年7月31日/ディーセン・アム・アンマーゼー,マリー修道院)

・メンデルスゾーン 『エリヤ』(オラトリオ)

ミヒャエル・フォレ(バス) アンドレア・ロスト(ソプラノ1) マルヤーナ・リポヴシェク(アルト)ヘルベルト・リッペルト(テノール1) レティツィア・シェレール(ソプラノ2)トーマス・クーリー(テノール2) バルバラ・フレッケンシュタイン(ソプラノ) バイエルン放送響&合唱団(2001年7月12日/ミュンヘン・ヘルクレスザール)

・モーツァルト 交響曲第35 番「ハフナー」(1998年6月7日/ヴュルツブルク)、第41 番「ジュピター」(1998年12月1日/ミュンヘン、プリンツレゲンテン劇場)  バイエルン放送響

・シューベルト ピアノ五重奏曲「ます」、ノットゥルノ変ホ長調D897

ヤン・ポスピハル(Vn) ヴォルフガング・クロス(Va) ヴィルフリート・レーム(Vc)エルンスト・ヴァイセンシュタイナー(Cb) ヴォルフガング・サヴァリッシュ(P)(1997年/ウィーン)


👉shokkouのブログ : 年末はワーグナー三昧だった頃

プロコフィエフ:バレエ 《ロメオとジュリエット》(SHM-CD)

プロコフィエフ:バレエ 《ロメオとジュリエット》(SHM-CD)(2枚組)



 ゲルギエフ 屈託のないストレートなアプローチ

1990年8月25日-9月2日にサンクトペテルブルク、マリインスキー劇場で手兵の同劇場管弦楽団を振ってセッション収録された全曲盤。なお、ロンドン交響楽団の最近のライヴ再録もある(→ Romeo & Juliet (Hybr))。

 生き生きとしたドライヴ感が身上で、おおらかで屈託のないストレートなアプローチ。ダイナミックレンジの広い演奏だが、最強音をすこしくセーヴして全体のバランス感をけっして崩さない。作曲家の意図をじゅうぶんに汲み取った自信に満ちた解釈と楽器の特性を最大限引き出すゲルギエフ流の隠された巧者の手法が背景にあるのだろう。

 セッション録音ながらライブ感も豊富。その一方、何度も聴くと部分的にはメッシュの肌理の細かさではやや粗さもあるが、全曲盤ではいくども変奏がくりかえされるフィギア・スケートですっかり有名になった主要なメロディなどの聴かせどころは大向こうをうならせる魅力満載。

→ Art of Valery Gergiev も参照


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Karl Munchinger: The Baroque Legacy

 Karl Munchinger: The Baroque Legacy





ミュンヒンガー バッハ演奏の権威、バロック音楽の旗手の選集

ミュンヒンガーは、バッハ演奏の権威であるとともにバロック音楽の旗手であった。しかし、前者についてはドイツでカール・リヒター率いるミュンヘン・バッハ管弦楽団が聳えていた。また、後者についてはイタリアでアーヨ率いるイ・ムジチ合奏団の明るく開放的な演奏が世界を制覇した。

本集はミュンヒンガー/シュトゥットガルト室内管弦楽団の優れた特色を知るうえで有益ながら、その編集方針には疑問がある。8枚組のなかで『四季』を3種入れる意味は果たしてあるのか(58年盤だけで十分では)。その一方、バッハはいくらでも優れた音源(『音楽の捧げもの』全曲でも『ブランデンブルク』でも)があり、もっと充実できたはず。さらに、たった1曲のみ入っているハイドンの『告別』はむしろハイドン、モーツァルトを集めたThe Classical Legacy集に入れて、逆にボッケリーニを本集に入れたほうが良かったのでは・・・等々。しかし、以下のラインナップをみても、いまだ揺籃期のバロック音楽の振興にいかに大きな影響力があったかは明らかであり、その足跡を辿る意味は大きいだろう。

<収録情報>

【ヴィヴァルディ】

・ヴァイオリン協奏曲集『四季』(1)ラインホルト・バルヒェット(ヴァイオリン)(1951年3月)、(2)ヴェルナー・クロツィンガー(同)(1958年5月)、(3)コンスタンティ・クルカ(同)(1972年7月)

・チェロ協奏曲 RV.40(V.ダンディ&P.バズレール編)ピエール・フルニエ(チェロ)(1952年9月)

【J.S.バッハ】

・管弦楽組曲第1~4番(1961年6月)

・フーガ BWV.947(ミュンヒンガー編)、フーガ BWV.542『大フーガ』(1951年10月)

・音楽の捧げもの BWV1079より6声のリチェルカーレ(フィッシャー編)同上

―――――・―――――

【ガブリエリ】(Giovanni Gabrieli,~1612年)

・8声のソナタ第13番/7声のカンツォーナ第7番/7声のカンツォーナ/第1旋法による8声のカンツォーナ第1番/カンツォーナ第10番(サクラ・シンフォニア集第2巻より)/6声のカンツォーナ第2番/ピアノとフォルテのソナタ/3つのヴァイオリンのためのソナタ第21番/2つの弦楽オーケストラのためのカンツォーナ第1番/ピアノとフォルテのソナタ(2つの弦楽オーケストラ版)

ブライアン・ランネット(チェンバロ)(1969年5月、1952年9月)

【クープラン】(François Couperin, 1668~1733年)

・チェロと弦楽のための演奏会用小品(P.バズレール編)ピエール・フルニエ(チェロ)(1952年9月)

【ペルゴレージ】(Giovanni Battista Pergolesi,1710~36年)

・フルート協奏曲第1番、第2番 ジャン=ピエール・ランパル(フルート)(1963年10月)

【テレマン】(Georg Philipp Telemann,1681~1767年)

・ヴィオラ協奏曲ト長調 ハインツ・キルヒナー(ヴィオラ)(1952年9月)

・組曲『ドン・キホーテのブルレスカ』(1975年6月)

【ヴァッセナール】(Unico Wilhelm rijksgraaf van Wassenaer Obdam, 1692~ 1766年)

・コンチェルト・アルモニコ  第1~6番(1962年10月)

【J.C.バッハ】

・6つのシンフォニア Op.18/1-6(1973年7月、1975年6月)

【ハイドン】

・交響曲第45番『告別』(1951年10月)

【ベートーヴェン】

・大フーガ Op.133(1951年10月)



 👉フルニエ&グルダ ベートーヴェン チェロ・ソナタ全曲

日曜日, 10月 25, 2026

Arturo Toscanini Conducts Beethoven

 Arturo Toscanini Conducts Beethoven



トスカニーニ 古録音ながら斬新な解釈と圧倒的迫力

トスカニーニのベートーヴェン、指揮者にとっては一種の教則本的な演奏といわれます。初期のカラヤンがこの演奏を強く意識していたことは有名ですが、とりわけアメリカで活躍した指揮者にとっては(1950年代以降、否応なく比較の対象になっていたわけですから)、トスカニーニ/NBCの演奏はひとつの「規範」でした。ライナーやセル、バーンスタインらに、殿堂カーネギーホールでの本録音が与えた影響は計り知れないものがあったでしょう。

 最近、ベートーヴェンの交響曲全集がとても安い価格で市場にでるようになりました。有名指揮者の全集を2~3千円で入手できるのですからオールド・ファンには隔世の感があります。その中にあっても本全集は、その高質さから抜きんでた「買い物」ながら1949~53年の録音であることは明記しておかねばならないでしょう。録音の古さはいかんともしがたいレヴェルです。

しかし、はじめて聴くリスナーにとって、演奏そのものには、古さを感じるよりもおそらく新鮮な驚きがあるでしょう。堅牢な楽曲アプローチ、明快かつ曖昧さのない解釈、専用オケたるNBCの忠誠と集中力ーそこから導かれる完璧なハーモニー、独特のダイナミズムと軽快なリズム・速度感。数多あるベートーヴェン交響曲全集中、今日でも最高峰の記録であることは間違いありません。以下、各番ごとの簡単なコメントを。

【第1番】 ハイドンの古典的な交響美をよりいっそう厳しく追求したような本曲第1楽章の冒頭から、トスカニーニはいきなりトップ・ギアを入れるような発進である。以降、全般に斧を正確に振り下ろし均一に薪を割っていくような運動を連想させる。第2楽章では効果的に木管を響かせ、第3楽章のメヌエット(というよりもスケルツォ)はとにかく早く、終楽章は音量を一段上げて、歌舞伎の大見得を切るごとくビシッと極める。

Recorded: No. 1: 21/12/1951 (Session) Carnegie Hall, New York

【第2番】 第1楽章のアレグロ・コン・ブリオの本曲のはじめの聴かせどころの明瞭な処理の「スカット」感から引き込まれる。第2楽章のラルゲットは上質の抒情をたたえ木管楽器の伸び伸びとした響きが気分を寛がせる。後半2楽章は、高性能なスーパー特急に乗っているような抜群の疾走感が味わえる。

Recorded: No. 2:7/11/1949,5/10/1951 Carnegie Hall, New York

【第3番】 スピードとダイナミズムを重視し、緊迫感に満ちた「エロイカ」である。瞑想的なフルトヴェングラーの演奏とは対極に、一切の観念を振り払って、即物的にベートーヴェンの交響曲のもつ造形美を彫刻せんとするような解釈。第2楽章葬送行進曲も感傷的ではなく表情はあくまでも抑制的。しかし、原曲のもつ深い心象は不思議なことに自然に浮かび上がってくる。ここではティンパニーの思い切った使い方にも注目。第3楽章スケルツォは1番同様、圧倒的な快速感があり、終楽章で緊張感は頂点に達して、終演後「天下の名曲」を堪能した爽快な充足感に満たされる。

Live Recording: 06/12/1953 at Carnegie Hall, New York JVC K2 24 BIT REMASTERING / MONO

【第4番】 第1楽章の長い導入部はトスカニーニとしては遅いテンポ、じっくりと奏でた後の主部の転換は、強烈な音響の炸裂で劇的に盛り上げる。第2楽章アダージョも緩徐楽章というイメージよりは二度目の転調といった風情で生気に溢れた明るさが身上。第3楽章のメヌエット(というよりもスケルツォに近い)は快速かつハイテンションで一気に疾駆する。終楽章は大きな構えとくっきりとした隈取りで光輝あるエンディングである。シューマンは本曲を「二人の北国の巨人(第3と第5)の間の窈窕(ようちょう)のギリシアの乙女」にたとえたが、トスカニーニの演奏は、どうして乙女ではなく活力に満ちた青年を連想させる。

Recorded: No. 4:3/2/1951 Carnegie Hall, New York

【第5番】 第1楽章、序奏部なしに突然提示される4音の運命動機をこれほど強調し激烈に繰り返し表現する演奏はめずらしい。しかも疾風のようにテンポは速く、金管の被せ方が完璧で全体がひとつの響きに統一されて迫ってくる。第2楽章以降もトスカニーニは手綱をまったく緩めない。木管のパートも表情はむしろ控えめな吹奏で、統一感にいささかの乱れもない。第3楽章はクレッシェンドとディミヌエンドが自在に按配され低弦の迫力が強調される。終楽章は強靭な合奏を楯に、コントロールされた存分の音の奔流で圧倒する。

Recorded: No. 5:22/3/1952 Carnegie Hall, New York

【第6番】 全般に速度早く固有の表題性をあまり感じさせない。よって、楽章ごとのト書きにそって緩やかに聴きたいリスナーには、なんとせかせかと気ぜわしいことかと感じるだろうが、その実、滋味、潤いは欠かさないトスカニーニ的スタイリッシュな演奏。カラヤンが本盤を徹底的に研究していることがよくわかる。第2楽章の抒情性も甘さはなく微かに芳香する上質な香水のような感じ。第3楽章以降の連続楽章も情景描写よりも激しい内的パッションのほうが勝る雄雄しき「田園」である。

Recorded: No. 6:14/1/1952 Carnegie Hall, New York

【第7番】 トスカニーニのリズミックで気迫にすぐれた演奏スタイルからはもっともふさわしいのが本番だろう。叩きつけるような強打のリズムと切り込み鋭い音の彫琢によって激しい展開が最後まで一貫してつづく。第1楽章、オケを一瞬も休ませない凌ぎ方で、まるで格闘技を演じるかのように、よくここまで戦闘的な演奏ができるものだという驚きが走る。その緊迫感は第2楽章のアレグレットでも持続するが、音色の明るさが増しテンポを緩めたメロディアスな部分ではリスナーの別の抒情の感性を刺激する。後半2楽章は、威厳をもって堂々たる「舞踏の聖化」(ワーグナー)のなんたるかを語りかける。

Recorded: No. 7: 11/1951 (Live & Session), Carnegie Hall, New York

【第8番】 第1楽章の冒頭の全合奏からカラリとした晴天に注ぐたっぷりの明光をイメージさせる。第7番の姉妹編のようなリズムの饗宴の一方で、第2、3楽章ではハイドンやモーツァルトの古典に模したような遊び心の展開があり、ここではトスカニーニもベートーヴェンの演奏ではめずらしく実に洒脱な表情をみせる。第4楽章のアレグロ。ヴィヴァーチェは、ふたたび第1楽章の緊張感貫くアプローチに回帰し、引き締まって終結する。

Recorded: No.8: 10/11/1952 Carnegie Hall, New York

【第9番】 フルトヴェングラーのバイロイト盤と双璧をなす最高峰の演奏。演奏時間はフルトヴェングラー盤(約74分)より10分も短く、とにかく速くそして切れ味が鋭い。これよりも速い第9は大所ではミュンシュ(約61分)くらいではないか。

 音にさまざまな「想念」が付着し思索的で粘着度の強いフルトヴェングラー盤に対して、こちらは明燦でかつ「からり」と乾いた感じの音楽であり、純粋な音響美を彫刻していく印象である。しかし、その集中度、燃焼度は凄まじくリスナーは音の強靱無比な「構築力」に次第に圧倒されていく。そこからは「第9とはこういう曲だったのか」という新鮮な発見がある。どの音楽も最高に聴かせるトスカニーニ流とは、スコアから独自の音を紡ぎ出す専門的な技倆と言ってもいいかも知れない。なればこそ、高度な音楽技能者として、その後の指揮者に与えた影響は絶大だったのだろう。

 第4楽章を聴いていて、ベートーヴェンが管弦楽法の究極を追求するために、「楽器としての人声」を独唱と合唱をもって置いたのではないかという仮説をトスカニーニ盤ほど実感させてくれるものはないだろう。第3楽章までの完成されたポリフォニーでリスナーは十分に管弦楽曲の粋を聴き取り、それが第4楽章ではじめて肉声と融合しさらに一段の高みに到達する瞬間に遭遇する。しかもそれは宗教曲の纏のもとではなく世俗的な詩を語ることによって表現される。そうしたアプローチは、ドイツ精神主義とは対極のものかもしれない。しかし、そこには作曲家のひとつの明確な意図が伏在していると感ぜずにはおかない強い説得力がある。トスカニーニ盤は、その意味でも普遍性を意識させるし今日的な輝きをけっして喪っていないと思う。

Recorded: 31/03 and 01/04, 1952 Carnegie Hall, New York


👉shokkouのブログ : 2つの ≪フィデリオ≫

サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン」、ドビュッシー:交響詩「海」 & イベール:寄港地(期間生産限定盤)

 

サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン」、ドビュッシー:交響詩「海」 & イベール:寄港地(期間生産限定盤)




ミュンシュ、ボストン・サウンドの至芸

ミュンシュのドビュッシーは最晩年のミュンシュ&パリ管/ドビュッシー:交響詩「海」 他 (Berlioz:Symphonie fantastique&Debussy:La Mer / Munch & Orchestre de Paris (14/11/1967)) があまりにも有名だが、慣れ親しんだボストン響を振った本盤の秀演も甲乙はつけがたいだろう。なによりも豊かな表情と高音部の伸びやかさに特色のあるボストン・サウンドはミュンシュが磨いたものであり、このフランスものの1枚はその到達点を示している。

全般にテンポがはやく、曖昧さのない歯切れの良いサウンドで、しかもその質量は軽からず重からずの程よさ、ドビュッシーのきらきらと揺らめくような色彩感が幽玄郷にあるごとく示される。こうした至芸はミュンシュの独壇場ともいえるだろう。

→ Classique-La Discotheque Ideale にて聴取



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shokkouのブログ : 蠱惑のバレエ音楽

土曜日, 10月 24, 2026

Munch, Charles  Complete.. -Box Set-

 Complete.. -Box Set-



ミュンシュ 苦闘の4年間<1941~44年>の記録も収録

1940年6月14日、ドイツ軍によりパリ陥落。1944年8月25日連合国軍によりパリ解放。フランス人にとってもっとも屈辱的な4年間。ミュンシュは、『指揮者という仕事』(福田達夫訳、春秋社、1994年)のなかで、「ドイツ軍の占領という恐ろしい4年間があった。当時の私の役割は、より幸福な世界へと人々の心が逃避するのを助けることにあった。《中略》物質的などんな力も決して音楽の躍動を打ちのめすことはできないだろう」(p.34)と述べています。この期間、全力で音楽に没頭した旨も書かれていますが、本集で、もっとも録音点数が多いのは1941~44年、パリでのフランスの作品がその中心です。ミュンシュは終戦後、渡米し活動の本拠をボストンにおきます。20年後の1967年、新生パリ管の初代指揮者に就任し、ふたたびパリへ。その成果も本集の特色です。以下ではこの4年間の本集所収録音をリストしてみました。ご参考まで

<1941~44年の録音盤>

・ドビュッシー:海

・ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ、 ラ・ヴァルス

・オネゲル:交響曲第2番、オラトリオ『死の舞踏』

・マルセル・ドラノワ:バレエ音楽『ガラスの靴』、協奏的セレナーデ、

・ルイ・オーベール:交響詩『ハバネラ』

・ギュスターヴ・サマズイユ:繰り返す時間、夜…withエリエット・シェーンベルグ

・アンドレ・ジョリヴェ:兵士の三つの嘆きwithピエール・ベルナック

・ショパン(オーベール編):バレエ『魅せられし夜』

・エルネスト・アルフテル:ポルトガル狂詩曲withマルグリット・ロン

・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲withジャック・フェヴリエ

・J.S.バッハ(ホフマン作):カンタータ『わが魂はほめ讃う』with ピエール・ベルナック

・モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番withジャック・ティボー

・モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番withジャン・ドワイアン

・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番『皇帝』withマルグリット・ロン

・リスト:ピアノ協奏曲第1番withジョセフ・ベンヴェヌッティ

・チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番withコンスティア・コンスタンティノフ


👉shokkouのブログ : シューマンの交響曲 名盤で聴く

Sergiu Celibidache - The Munich Years

 Sergiu Celibidache - The Munich Years



“最後の巨匠”のメモリアル

本集の録音を3つに分類すれば、《第1グループ》はチェリビダッケの主力演目であり、ベートーヴェン、ブルックナーの交響曲集はいずれも1987~95年にかけて同時に収録されている。宗教曲系では“3大レクイエム”のほかミサ曲ロ短調は、《第2グループ》その他ドイツ演目のトップに掲げた。《第3グループ》は、イタリア系、フランス系、ロシア系およびその他に便宜的に分けたが、ここは系統的ではなくおそらくチェリビダッケの好みが反映されていよう。

若きチェリビダッケは戦後、ベルリン・フィルの実質シェフを務めたのち決別しベルリンを去った。それ以降、常任は不向き、練習魔、録音嫌い、仏教への傾倒などが話題となったが、鍛え上げたミュンヘン・フィルと、結果的に《第1、第2グループ》で貴重な録音を残したことは大きなメモリアルである。

以下は余談。先日、行きつけのクラシック音楽喫茶(これ自体がもはや“絶滅危惧種”だが)でブラームスの第1シンフォニーがかかった。濃密にして震えるような緊張感がときに貫く。しかし、そのテンポ設定は、どうしても恣意的に思えた。帰りがけにジャケットを見て、やはりチェリビダッケ(本集所収)であった。1968年、ベルリン・フィルについての映画を劇場に行って見た。チェリビダッケの振るエグモント序曲は鮮烈な印象だった。晩年、東京でブルックナーの第8番のライヴを聴いたが、その失速寸前に思えるギリギリの遅さが強度な緊張感を醸成していると感じた。こうした個性的な演奏スタイルは、“最後の巨匠”チェリビダッケの独壇場であっただろう。

<収録情報>(録音年)

《第1グループ》

【ベートーヴェン】

・交響曲集〔第2番~第9番〕(1987~95)

・『レオノーレ』序曲第3番(1989)

【シューマン】

・交響曲集〔第2番~第4番〕(1986~94)

【ブラームス】

・交響曲全集(1979~91)

・ハイドンの主題による変奏曲(1980)

【ブルックナー】

・交響曲集〔第3番、第4番、第5番、第6番、第7番、第8番、第9番〕(1987~95)

・テ・デウム(1982)、ミサ曲第3番(1990)

【チャイコフスキー】

・交響曲集〔第4番、第5番、第6番〕(1993, 1991, 1992)

・組曲『くるみ割り人形』(1991)

【3大レクイエム】

・モーツァルト、ヴェルディ、フォーレ(1995,1981,1994)

―――――・―――――

《第2グループ》

【J.S.バッハ】

・ミサ曲ロ短調(1990)

【ハイドン】

・交響曲集〔第92番、第103番、第104番〕(1993,1993,1992)

【モーツァルト】

・交響曲第40番(1994)

・『ドン・ジョヴァンニ』序曲(1982)

【シューベルト】

・交響曲第9番(1994)

・『ロザムンデ』序曲(1996)

【メンデルスゾーン】

・序曲『フィンガルの洞窟』(1993)

・『夏の夜の夢』序曲(1984)

【ヴェーバー】

・『オベロン』序曲(1985)

【ワーグナー】

・『パルジファル』~聖金曜日の音楽(第3幕)(1993)

・『トリスタンとイゾルデ』第1幕への前奏曲(1983)

・『トリスタンとイゾルデ』~『愛の死』(1983)

・『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第1幕への前奏曲(1993)

・ジークフリート牧歌(1993)

・『神々の黄昏』~葬送行進曲(1993)

・『タンホイザー』序曲 (1993)

―――――・―――――

《第3グループ》

【ロッシーニ&ヴェルディ*】

・序曲集〔『ウィリアム・テル』、『セミラーミデ』、 『絹のはしご』、『泥棒かささぎ』、*『運命の力』〕(1983~95)

【フランス曲集】

・ベルリオーズ:序曲『ローマの謝肉祭』(1988)

・ドビュッシー:『海』、『映像』より「イベリア」(1992)

・ミヨー:マリンバ、ヴィブラフォーンと管弦楽のための協奏曲(1992)、フランス組曲(1991)

・ルーセル:小組曲(1990)、組曲ヘ長調(1992)

・ラヴェル:ムソルグスキー(ラヴェル編):組曲『展覧会の絵』(1993)、ボレロ(1994)

【ロシア曲集】

・R=コルサコフ:交響組曲『シェエラザード』(1984)

・プロコフィエフ:交響曲第1番(1988/ボーナストラック:ベルリン・フィル1948あり)、交響曲第5番(1990)

・ショスタコーヴィチ:交響曲第1番(1994)、第9番(1990)

・ストラヴィンスキー:詩篇交響曲(1984)

【その他】

・バーバー:弦楽のためのアダージョ(1992)年1月19-20日

・バルトーク:管弦楽のための協奏曲(1995)年3月20日

・スメタナ:交響詩『わが祖国』より「モルダウ」(1986)

・J.シュトラウス2世:『こうもり』序曲(1991)


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