土曜日, 10月 31, 2026

Eugen Jochum Complete Recordings On Deutsche Grammophon Vol. 2 Opera And Choral Works

 Complete Recordings On Deutsche Grammophon Vol. 2 Opera And Choral Works



ブルックナーとオルフでは一頭群を抜く名演

ヨッフムのオペラ&合唱曲集である。ヨッフムのレパートリーが交響曲 Eugen Jochum : The Complete EMI Recording に限らず多方面に広がりをもっていたなによりの証左である。宗教曲集には定評があるが、オペラでも『魔弾の射手』などはクライバー盤以前は決定盤の評価であった(日本公演でも素晴らしい演奏を披露した)。

その一方、「持ち駒」の多いドイツ・グラモフォンである。同じ企画ではカラヤン Sacred & Choral Recordings やリヒター(➡も参照)などもある。他の作曲家についても同様にヨッフム以外にも多様な選択肢があろう。

そうしたなかで、ブルックナーとオルフこそはヨッフムの独壇場。本セットでは、ブルックナーは、『テ・デウム』、ミサ曲第1番~第3番、モテット集、詩篇第150篇を、オルフは、ヨッフムの畢生の名演『カルミナ・ブラーナ』に加えて、『カトゥリ・カルミナ』、『アフロディテの勝利』の3部作が収録されている。

ヨッフム・ファンにとってはボーナス盤(「オイゲン・ヨッフム、人生を語る(ドイツ語)」やヨッフムのコール・ポーター、オルガン演奏)は魅力があろう。

<収録情報>

【J.S.バッハ】

・マタイ受難曲BWV244(1965年)

・ヨハネ受難曲BWV245(1967年)

・ミサ曲ロ短調BWV232(1957年)

・クリスマス・オラトリオBWV248(1973年)

➡ リヒター盤 Bach: Sacred Works (11CD+4DVD+BLU-RAY) が秀逸

【ハイドン】

・『天地創造』(1966年)

➡ 上記カラヤンも得意の演目ながら、鬼才マルケヴィッチ盤 ハイドン:オラトリオ「天地創造」 も迫力ある名盤

・聖チェチーリアのミサ(1958年)

➡ ハイドン:ミサ曲 ではヨッフム盤が著名

【モーツァルト】

・レクイエムK.626(完全版) 、レクイエムK.626(1955年)

・歌劇『後宮からの誘拐』(1965年)

・歌劇『コジ・ファン・トゥッテ』(1962年)

➡ ベーム盤が有名。Operas (Cosi Fan Tutt Le Nozze Di Figa といった廉価盤もある。

【ベートーヴェン】

・ミサ・ソレムニス ニ長調Op.123(1970年)

【ウェーバー】

・歌劇『魔弾の射手』(1959年)

➡ 歌劇『魔弾の射手』全曲 ベーメ、ゼーフリート、シュトライヒ、ホルム、ヴェヒター、ヨッフム&バイエルン放送交響楽団&合唱団

【ワーグナー】

・歌劇『ローエングリン』(1952年)

・楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』(1976年)

【ブルックナー】

・ミサ曲:第1番(1972年)、第2番(1971年)、第3番(1962年)

・『テ・デウム』(1965年)(1950年)

・モテット集(1966年)、詩篇第150篇(1965年)

➡ 3 Masses、ブルックナー:テ・デウム、他 も参照

【オルフ】

・カンタータ三部作『トリオンフィ』(『カルミナ・ブラーナ』1952年、『カトゥリ・カルミナ』1954年、『アフロディテの勝利』1955年)

・『カトゥリ・カルミナ』、『カルミナ・ブラーナ』、録音を終えたカール・オルフのスピーチ(1967年)

➡ オルフ:カルミナ・ブラーナ も参照


織工Ⅲ: クラシック音楽 聴きはじめ 4 ヨッフムの思い出


shokkouのブログ : EXPO’70 CLASSICS10 インデックス(総集編)

Wiener Philharmoniker 175th Anniversary Edition

 Wiener Philharmoniker 175th Anniversary Edition



国際色豊かな「現役」指揮者にスポット

ウィーン・フィルの175年記念の44CD(+1DVD)集。近時、鬼籍に入ったアバド、アーノンクールのほか、プレヴィン(André George Previn, 1929年~)、レヴァイン(James Lawrence Levine, 1943年~)、ガーディナー(Sir John Eliot Gardiner, 1943年~)、ミョンフン(Myung-Whun Chung, 1953年~)、ティーレマン(Christian Thielemann, 1959年~)など国際色豊かな「現役」指揮者に多くの配分を行っている点が第一の特色だろう。

第二に「天下の名器」ゆえに、カラヤン、ベーム、クライバー、バーンスタインの音源あり、古くは、フルトヴェングラー、クナッパーツブッシュ、ワルターの音源も散りばめられている。全体としては、著作権切れの古い音源は少なく、比較的新しい録音を収録している。

一方、個人的にはややプログラム構成の散漫さを感じる。ベートーヴェンやシューマンなどは全集で入れてこそと思うし、DGレーベル中では、たとえば Collectors Edition: Symphonies Nos. 1-9/5 Overture や シューマン:交響曲全集 など多くの選択肢がある。また、175年記念と銘打つならば、歴史の証人ウィーン・フィルゆえにマーラーや新ウィーン楽派(シェーンベルク、ヴェーベルン、ベルク)にもより照準があたってよいだろう。

なお、なにを演奏してもボトムラインを下回ることのない自律性、安定性こそがウィーン・フィルの特徴なれど、以下のラインナップを見ると、R.シュトラウスなど録音は新しくても、訴求力にはやや難のあるものも紛れ込んでいることも慎重に考慮すべきだろう。

<収録情報>

【ハイドン】

・交響曲第88番、第92番『オックスフォード』(バーンスタイン、1984年)

【モーツァルト】

・交響曲第38番『プラハ』(ワルター、1955年)

・交響曲第29番、第35番『ハフナー』、第38番『プラハ』、第39番、第40番、第41番『ジュピター』、フリーメイソンのための葬送音楽(ベーム、1976~80年)

・アイネ・クライネ・ナハトムジーク、セレナード第9番『ポストホルン』(レヴァイン、1982年)

・レクィエム(カラヤン、シントウ、モリナーリ、コール、ブルシュラーゼ、ウィーン楽友協会合唱団、1986年)

【ベートーヴェン】

交響曲:第5番『運命』、第6番『田園』(バーンスタイン、:1977年、78年)、第7番(カルロス・クライバー、1975年、76年)、第9番『合唱』(フルトヴェングラー、1953年)

【シューベルト】

・交響曲第9番『グレート』(クナッパーツブッシュ、1957年)

【シューマン】

・交響曲第2番、『マンフレッド』序曲(シノーポリ、1983年)

・交響曲第4番(カラヤン、1987年)

【ワーグナー】

・『タンホイザー』序曲、ジークフリート牧歌、『トリスタンとイゾルデ』から『前奏曲』と『愛の死』(カラヤン、ジェシー・ノーマン(ソプラノ)、1987年)

【ブラームス】:

・交響曲全集、アルト・ラプソディ、悲劇的序曲(レヴァイン、オッター、シェーンベルク合唱団、1992~95年)

・ドイツ・レクィエム(カラヤン、ヘンドリックス、ヨセ・ヴァン・ダム、ウィーン楽友協会合唱団、1983年)

・ハンガリー舞曲第5番、第6番(アーノンクール、2003年)

【ブルックナー】

・交響曲:第4番『ロマンティック』(フルトヴェングラー、1951年)、第7番(ジュリーニ、1986年)、第8番(ブーレーズ、1996年)、第9番(ジュリーニ、1988年)

・ミサ曲第1番、モテット集『アヴェ・マリア』、『マリアよ、あなたはことごとく美しく』、『この所を作り給うたのは神である』、『正しい者の口は』、『キリストはおのれを低くして』(ガーディナー、モンテヴェルディ合唱団、1996年、98年)

【マーラー】

・交響曲:第4番(ワルター、1955年)、第5番(ブーレーズ、1996年)

【リヒャルト・シュトラウス】

・アルプス交響曲、『ばらの騎士』(組曲)、交響詩『英雄の生涯』、交響的幻想曲『影のない女』(ティーレマン、2000年、2002年)、家庭交響曲(マゼール、1983年)

・『インテルメッツォ』 Op.72からの4つの交響的間奏曲、 『カプリッチョ』 Op.85から序奏、『月の光の音楽』、『サロメ』 から『7つのヴェールの踊り』(プレヴィン、1992年)

・オーボエ協奏曲、ホルン協奏曲第1番・第2番、二重小協奏曲(プレヴィン、ガブリエル(オーボエ)、ストランスキー(ホルン)、ヤネツィク(ホルン)、シュミードル(クラリネット)、ヴェルバ(ファゴット)、1996年)

【ドヴォルザーク】

・交響曲:第3番、第7番(ミョンフン、1995年)、第8番(カラヤン、1985年)

【チャイコフスキー】

・交響曲:第4番、第6番『悲愴』(アバド、1975年、1973年)

・バレエ組曲『白鳥の湖』、『眠りの森の美女』、『くるみ割り人形』(レヴァイン、1992年)

【スメタナ】

・『我が祖国』全曲、歌劇『売られた花嫁』より(序曲/ポルカ/フリアント/道化師の踊り)(レヴァイン、1986年)

【シャブリエ】

・田園組曲、ハバネラ、狂詩曲『スペイン』、ラルゲット、『グヴァンドリーム』序曲、田園前奏曲、楽しい行進曲、ポーランドの祭り(ガーディナー、1995年)

【エルガー】

序曲『南国にて』、序奏とアレグロ、ため息、エニグマ変奏曲 (ガーディナー、キュッヒル四重奏団、1998年)

【フランツ・シュミット】

・ハンガリー軽騎兵の歌による変奏曲(クナッパーツブッシュ、1957年)

【シェーンベルク】

・『グレの歌』(アバド、イェルザレム、スウィート、リポヴシェク、ヴェルカー、ラングリッジ、バルバラ・スコヴァ(語り)、ウィーン国立歌劇場合唱団、シェーンベルク合唱団、スロヴァキア・フィルハーモニー合唱団、1992年)

【ヨハン・シュトラウス2世】

・ワルツ『美しく青きドナウ』、トリッチ・トラッチ・ポルカ、皇帝円舞曲、ポルカ『雷鳴と電光』、ワルツ『南国のばら』、ピチカート・ポルカ、アンネン・ポルカ、常動曲(ベーム、1971年、72年)

・行進曲『フランツ・ヨーゼフ1世万歳』、喜歌劇『ジプシー男爵』より『宝のワルツ』、ニコ・ポルカ、冗談ポルカ、ワルツ『うわごと』、ポルカ『ごちゃまぜ』 、ポルカ『2度のポルカ』、ヘレーネ・ポルカ、皇帝円舞曲、ポルカ『田園ポルカ』、ポルカ・マズルカ『女性讃美』、ワルツ『戴冠式の歌』、ポルカ『浮気心』、ポルカ『狂乱のポルカ』、ワルツ『美しく青きドナウ』

〔ヨハン・シュトラウス1世〕中国人のギャロップ、ラデツキー行進曲(アーノンクール、2003年)

【レハール】

・喜歌劇『メリー・ウィドウ』全曲(ガーディナー、ステューダー、ターフェル、ボニー、スコウフス他、モンテヴェルディ合唱団、1994年)

【その他】

・メンデルスゾーン:劇音楽『真夏の夜の夢』序曲、序曲『フィンガルの洞窟』

・ウェーバー:歌劇『オイリアンテ』序曲、歌劇『オベロン』序曲、※「舞踏への勧誘」

・ニコライ:歌劇『ウィンザーの陽気な女房たち』序曲

・マルシュナー:歌劇『ハンス・ハイリング』序曲

・ワーグナー:歌劇『リエンツィ』序曲(原典版)

(ティーレマン、2002年、※アーノンクール、2003年)

【DVD】『ニューイヤー・コンサート1989』(カルロス・クライバー)


shokkouのブログ : Wiener Philharmoniker を含む記事

Georg Solti  The Hungarian Masters

 The Hungarian Masters



ショルティ ハンガリーものの実力

ショルティ/ロンドン・フィルによるバルトーク、コダーイ集。収録されている各曲は以下のとおり。ショルティには録音の良い新盤 Solti Conducts Bartok もあるが、40代の昇竜の勢いをもっていたこの時期、十八番のハンガリーものの迫力は聴きもの。

◆バルトーク:舞踏組曲(1952年録音)

1923年ブダペスト市制50周年記念のために作曲された祝祭的作品。ストラヴィンスキーを連想させるような鋭いリズムの打ち降しとどこか懐かしい素朴なフォークロアの見事な融合をショルティは生き生きと活写している。

◆バルトーク:弦楽器 打楽器とチェレスタのための音楽(1955年録音)

第1楽章の半音階的な主題は不気味な、底知れぬ不安をかきたて、第2楽章のピアノの特色のある打鍵と弦の跳ねるような追尾(バルトーク・ピッツィカート)はとても躍動的。第3楽章の拍子木による幕開けの後は第1楽章の不安が再来しサイコ・ストーリーのバックにぴったりの曲が展開され、終楽章は民族的なメロディと強いリズミックな音感が綾を成し壮大なクライマックスにいたる。ショルティの演奏は以上の過程を整然かつ濃厚に描いており秀でたもの。

◆コダーイ:組曲『ハーリ・ヤーノシュ』(1955年録音)

「プレリュード」の音楽的冗談<くしゃみ>の絶妙な表現、聴かせどころ第2曲「ウィーンの音楽時計」の無類の楽しさ、第4曲「戦争とナポレオンの敗北」にみる大胆なウイッティさ、第3曲「歌」、第5曲「間奏曲」でのやるせない民謡への郷愁、終曲「皇帝と廷臣たちの入場」の最高潮への誘導、ショルティの演奏は完璧という言葉を連想させるにたる周到な出来映え。

◆コダーイ:ガランタ舞曲(1952年録音)

1933年ブダペスト・フィル創立80周年記念のため作品された曲。ジプシーのメロディが多用され、哀愁もあるがエネルギーにも満ちた、かつ管弦楽の能力を最大限引き出すようなこの曲をショルティは自信をもって堂々と仕上げている。

◆コダーイ:ハンガリー民謡『孔雀』による変奏曲(1954年録音)

第2次世界大戦が勃発した1939年に、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団創立50周年記念のために作曲された曲。『孔雀』は正確には「孔雀は飛んだ」という民謡で、マジャール人のオスマン帝国支配下での自由への情熱を意味し、当時のファシズムに対しての抵抗がこめられていた。ショルティは晩年、世界平和への音楽での貢献を企図するが、そのいわば<表象>ともなった曲で、この頃から重要な「持ち駒」であった。切れ味のよい色彩感に富む演奏である。

◆コダーイ:ハンガリーの詩篇<英語歌唱>(1954年録音)

ウィリアム・マカルパイン(テノール)、ロンドン・フィルハーモニー合唱団

1923年ブダペスト市制50周年記念のために作曲された曲。16世紀の詩篇(ハンガリー語訳)がベースで、ハンガリー革命後の反動にあたって、革命派だったコダーイの思いをこの詩篇の歌詞によって表現しているといわれる。ショルティは、ここでも同国人の気概をもって集中力ある名演に仕上げている。

なお、ヤーノシュ・クルカ/北西ドイツ・フィルによるリスト集<ハンガリー狂詩曲第6番『ペシュトの謝肉祭』、レーナウの『ファウスト』による2つのエピソード(夜の行列/村の居酒屋での踊り)、交響詩『フン族の戦い』>(1982年録音)がCD1に所収されている。


shokkouのブログ : ライブで聴いた10人の名指揮者

Georg Solti  Wagner: The Operas

 Wagner: The Operas



前人未踏、巨大なワーグナー・アルバム

ショルティの偉業を再認識させるアルバムである。彼がウィーン・フィルを振って史上初のセッション録音「指輪」全曲指揮者として登壇した当時、正直、その背景がよくわからなかった。並みいるワーグナー指揮者群像のなかにあってなぜショルティなのか? 

 

最近、それ以前の分厚い蓄積 George Solti Conducts Opera Works に接して、なるほどと得心した。この人は1940年代後半から50年代にかけてオペラ分野の録音でコツコツと努力をかさね実績を積み上げ、その確実な<布石>と<強運>をもって栄えある地位をえた。しかも、そこにとどまらず、一層の精進をかさねウィーン・フィル、シカゴ響と録音を継続し、1958年から85年まで23年の歳月を費やして前人未踏の巨大な本ワーグナー・アルバムを残した。

 

この時代、黄金期の歌手のラインナップが凄い。ニルソン、ヴィントガッセン、ジョージ・ロンドン、フラグスタート、ジェームズ・キング、クレスパン、ホッター、フィッシャー=ディースカウ、クリスタ・ルートヴィヒ、マルガ・ヘフゲン、プラシド・ドミンゴ、ルネ・コロ、ジェシー・ノーマン・・・、目が眩むような豪華絢爛たる布陣である。

ショルティ再評価はこのアルバムに限定されない裾野の広さ(たとえばバルトークやR.シュトラウスなど)をみせるが、本セットはまちがいなくその中核を形成する。質量ともに本年、最強といってよい廉価盤集の登場である。

(参考)本集年代順録音記録

◆指輪 Wagner: Der Ring des Nibelungen (Ring Cycle Complete) 1958〜1965年

◆トリスタンとイゾルデ Tristan Und Isolde 1960年

◆タンホイザー Tannhauser (Slipcase) 1970年 

◆パルジファル Parsifal-Comp Opera 1971、72年

◆マイスタージンガー Die Meistersinger Von Numberg 1975年

◆オランダ人 Wagner: Flying Dutchman 1976年

◆ローエングリン ワーグナー:歌劇「ローエングリン」全曲 1985年

ほかに管弦楽集などがある。


shokkouのブログ : ライブで聴いた10人の名指揮者

金曜日, 10月 30, 2026

セル(ジョージ) ライヴ・イン・東京 1970

 ライヴ・イン・東京 1970

Amazon.co.jp: ライヴ・イン・東京 1970: ミュージック

いまから約半世紀前(1970年)に東京でおこなわれたセル/クリーヴランド管弦楽団によるライヴ音源である。この日、このコンサートを東京文化会館で聴いていた。その時の感動が正確に甦ってくる。セルがこの時に重篤な病気であったことはコンサート会場では知るよしもなかったし、同年大阪万博の記念コンサートが東京でも目白押しで、多くの注目は同時期に来日していたカラヤン/ベルリン・フィルに寄せられていた。セルはもちろん「著名中の著名」な指揮者ではあったが、それでもあまりに多くの巨匠の来日ラッシュのなかに埋没し正直地味な印象はぬぐえなかった。

しかしその魂魄の演奏は、はじめての日本でのライヴで、私ならずとも聴衆の驚きは大きかったと思う。当時、セル/クリーヴランド管弦楽団の演奏は「冷たい」とか「クールな精密機械」といった一部評論家の言動があったが、実際の演奏はそれとはまったく異質の熱気あふれるものであり、オケから紡ぎだされる音楽は暖かく表情豊かな音色とともに、アンサンブルはけっして乱れないといったものだった。前半の「オベロン」序曲、モーツアルトの40番も一気に流れるように展開され素晴らしいものだったが、後半のシベリウスの2番は文字通り白熱の名演だった。当時、シベリウスはいまほど演奏される機会がなく、このプログラムでも透明なクリーヴランド・サウンドに合う曲を選んだのかなと事前には感じたが、のちにセルがこの曲をもっとも得意としていたことを知り十八番での勝負といった演目であったのだろう。
 
若き日から彗星のごとく登場したセルの晩年の輝きを本CDを聴き返して追想した。忘れえぬ思い出である。


♫ ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ ♫


ストラヴィンスキー:火の鳥/ブラームス:交響曲第1番 他

 ストラヴィンスキー:火の鳥/ブラームス:交響曲第1番 他



当夜の思い出

1975年3月17日、NHKホールにてこの演奏を聴いた。当日ウィーン・フィルが珍しくもフルスロットルの状態であったのは、大家ベームとの共演であったことに加えて、聴衆の真剣さがホールに満ちみちていたからかも知れない。

齢80歳のベームは思いのほかエネルギッシュで、矍鑠(かくしゃく)とし気力充実していた。そして日本での公演をなによりこよなく楽しんでいた。終演後、オケが退場しても延々と続く長いカーテンコールに最後まで誠実に満面の笑顔で応えてくれた。謹厳実直居士のような印象のベームが、「こんなに嬉しそうに笑うんだ!」という、ある意味新鮮な驚きも聴衆の足をさらに引き留めた。

「火の鳥」が実はベームの得意の演目であったこともサプライズであったが、お目当てのブラームスは、1959年のベルリン・フィルとの歴史的名盤を彷彿とさせる出来栄えであった。弦のふくよかで分厚いハーモニーと管楽器群の伸びやかなれど乱れぬ重奏、悠揚とした一定のテンポ、起伏の大きな構成力、そしてとぎれぬ緊張感から、聴き終わったあとにズシリとくる充足感。アンコールは鎮静剤ではなく、上記の聴衆の興奮の導火線になった。幸い、そうはならなかったのだけれども、その時は、年齢からみてもしかすると、これは老大家の日本への最後の置き土産ではないかと感じさせるものだった。

shokkouのブログ : ライブで聴いた10人の名指揮者