リヒテルは強烈な個性のピアニストである一方、集中力あふれる堅牢な演奏スタイルは、当時のソビエト連邦の象徴だったハンマーにたとえられた。
あらゆる演目で駄作といったものがないのは、当時のソ連の鉄の政治体制を反映したような完璧性ともイメージの共有がある。音楽、音楽家といえども、否、それが人びとの心をぎゅっと掴む作用をもっている以上、むしろそれゆえに時代が反映されている。
しかし、リヒテルの果て知れぬ力量に世界が圧倒されたのは、ロシアものでも通俗的な名曲でもなくたとえば次のバッハであった。
【以下は引用】
リヒテル/バッハ:平均律クラヴィア曲集全曲
第1巻が1970年7月、第2巻が1972年8月と9月及び1973年2月と3月に、それぞれザルツブルクのクレスハイム宮殿で入念に収録されたセッション録音盤。演奏は、リヒテルの個性が強く反映された、瞑想的で奥深い雰囲気の漂う見事なもので、その深遠さは比類の無いものと世界的にも絶賛されています。
録音時期:1970~1973年(ステレオ)
録音場所:ザルツブルク、クレスハイム宮殿
プロデューサー:フリッツ・ガンス
エンジニア:ホルスト・リントナー
Amazon.co.jp
バッハの音楽世界を単調と感じるかどうかは、「平均律クラヴィーア曲集」を聴けばよくわかる。「平均律」というのは1オクターブを12の等しい半音に分割した調子のことで、一般的な「純正律」に対して用いられる。純正律はもっとも響きのよい5度と3度で構成されるため、ピッチが固定される鍵盤楽器では演奏できる調が限られてしまった。バッハ自身が書いた第1巻の序文には、「学習熱心な音楽好きの若者に役立つように、さらには、すでにこの学習に習熟した人々の慰めのために」とある。ハ長調・ハ短調・嬰ハ長調・嬰ハ短調…ロ短調と、半音階をたどる長短併せた24の調による前奏曲付きのフーガによって構成されていることからも、作品の性格がうかがえる。個人的にはチェンバロの演奏が好きだが、ピアノの滑らかな雰囲気も捨てがたい。ロシアのピアニスト・リヒテルは、神格化されたピアニストのひとり。ときには激しく、ときには叙情的になり、平均律の深山の世界を表現している。(新井由己)
内容(「CDジャーナル」データベースより)
記念碑的な名演奏。バッハの組み上げた音楽のエネルギーを,多彩な語り口でぐんぐん燃え立たせたリヒテルの表現力は圧倒的である。リヒテルのピアニストとして,人間としての巨大さを思い知らされる演奏といってよい。第1巻より第2巻の演奏のほうが引き締まっている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そのリヒテルには多くの音源があるが、特に協奏曲集を中心とした次は注目される。その感想は次のとおりである。
スヴィヤトスラフ・リヒテル/EMIレコーディングス(14CD)
14枚の構成は、ピアノソロ、協奏曲、ヴァイオリン・ソナタ等からなるスーパー廉価盤集。ソロ曲はいずれもリヒテル十八番で定評あるもの。以下では協奏曲集を中心にコメント。 ここまで絢爛にして豪華、聞き比べができる第一級のピアノ協奏曲集はちょっと考えられない。バックを務める指揮者群の顔ぶれは、カルロス・クライバーはじめ、ムーティ、カラヤン、マゼール、マタチッチである。とくにリヒテルvsマタチッチの共演は特異の名演。リヒテルのハンマーのような屈強さ、マタチッチの無骨といった表面的な印象を超えて、迫力満点のグリーグでは思わぬ抒情性にはっと心がぐらつく。その一方、たっぷりの哀愁のシューマンの底にはとぐろを巻く強い情念が疼く。しかし、こうした意表を衝くスリリングさの先に、どちらも、とびっきりに、こころを籠めた真の「音楽」を感じる。多くのヴァイオリン・ソナタはいずれも若き天才といわれたオレグ・カガン(1990年43才で逝去)との共演。リヒテル・ファミリーといわれた2人の演奏の呼吸は見事にぴたりと合っている。
<収録情報>
【CD1】ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第1番、第7番(1976年)、第17番ニ短調(1961年)、アンダンテ・ファヴォリ(1977年)
【CD2】シューベルト:ピアノ・ソナタイ長調D.664、幻想曲ハ長調D.760「さすらい人」(バドゥラ-スコダ編、1963年)、シューマン:幻想曲ハ長調Op.17(1961年)
【CD3】シューマン:蝶々Op.2、ピアノ・ソナタ第2番ト短調Op.22、ウィーンの謝肉祭の道化Op.26(1962年)
【CD4】ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調Op.24「春」、※(1976年)、シューベルト:ピアノ五重奏曲イ長調D.667「ます」ボロディン四重奏団、ゲオルグ・ヘルトナーゲル(コントラバス、1980年)
【CD5】モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタニ長調K.306、同変ロ長調K.378、同変ロ長調K.372、アンダンテとアレグレットハ長調K.404/385d、※(1974年)
【CD6~7】ヘンデル:クラヴィーア組曲第2番、第3番、第5番、第8番、第9番、第12番、第14番、第16番(1979年)
【CD8】ブラームス:マゲローネのロマンスOp.33(全15曲)、ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン、1970年)
【CD9】モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番変ホ長調K.482(1979年)、ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調Op.37(1977年)、ムーティ(指揮)フィルハーモニー
【CD10】ベートーヴェン:三重協奏曲ハ長調Op.56、オイストラフ(ヴァイオリン)、ロストロポーヴィチ(チェロ)、カラヤン(指揮)ベルリン・フィル(1969年)、
・同:ヴァイオリン・ソナタ第4番イ短調Op.23、※(1976年)
【CD11】ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調Op.83、マゼール(指揮)パリ管弦楽団(1969年)、モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタト長調K.379、※(1974年)
【CD12】ドヴォルザーク:ピアノ協奏曲ト短調Op.33、クライバー(指揮)バイエルン国立管弦楽団(1976年)、バルトーク:ピアノ協奏曲第2番Sz.83、マゼール(指揮)パリ管弦楽団(1969年)
【CD13】グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調Op.16、シューマン:ピアノ協奏曲イ短調Op.54、マタチッチ(指揮)モンテ・カルロ国立歌劇場管弦楽団(1974年)
【CD14】プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第5番ト長調Op.55、マゼール(指揮)ロンドン交響楽団(1970年)、ベルク:室内協奏曲※、ユーリ・ニコライエフスキー(指揮)モスクワ音楽院器楽アンサンブル(1977年)
※はすべてオレグ・カガン(ヴァイオリン)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
EMIとのレコーディングのまえに、リヒテルはドイツ・グラモフォンとの契約を結んでいた。協奏曲ではモーツァルト、プロコフィエフ、ラフマニノフ、シューマン、チャイコフスキー、ベートーヴェンが収録されている。このうち、チャイコフスキーについては以下のとおり記した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
EMIとのレコーディングのまえに、リヒテルはドイツ・グラモフォンとの契約を結んでいた。協奏曲ではモーツァルト、プロコフィエフ、ラフマニノフ、シューマン、チャイコフスキー、ベートーヴェンが収録されている。このうち、チャイコフスキーについては以下のとおり記した。
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番
リヒテル(スビャトスラフ)1962年9月ウィーンでの録音。リヒテルの西側デビューが1960年で、「幻の巨匠」の噂は西欧を走ったが、2年後、その評価を決定づけたのが本盤。カラヤンのバックで、いわばキラー・コンテンツのチャイコフスキーの1番を引っさげての登場だったので話題性は十分。付随的に、カラヤンは当時、ウイーン・フィルとの関係が冷えており、(実はかつてから相性のよい)ウイーン響を使っての演奏。これも「意外性」があって一層注目度を上げた。
個人的な思い出だが、中・高校の昼休みに毎日、このレコードがかかる。幾度も耳にした演奏だが、いま聴き直すとライヴ的なぶつかり感、「即興性の妙」よりも、リヒテルの強烈な個性と巨大な構築力を、周到に考えぬきカラヤンが追走している姿が思い浮かぶ。カラヤンはEMI時代から、協奏曲でもギーゼキングなどとの共演で抜群の巧さをみせるが、特に本盤での阿吽の呼吸は、ピアニストと共同して音楽の最高の地点に登攀していくような臨場感がある。けっして出すぎず、しかし背後の存在感は巨大といった感じ。だからこそ、リヒテルという稀代の才能の「衝撃」に聴衆の照準はぴたりと合う。これぞ協奏曲演奏の模範とでも言えようか。
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%81%E3%83%A3%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%83%95%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC-%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E7%AC%AC1%E7%95%AA-%E3%83%AA%E3%83%92%E3%83%86%E3%83%AB-%E3%82%B9%E3%83%B4%E3%83%A3%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%95/dp/B000TLYE34/ref=cm_cr-mr-title
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%81%E3%83%A3%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%83%95%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC-%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E7%AC%AC1%E7%95%AA-%E3%83%AA%E3%83%92%E3%83%86%E3%83%AB-%E3%82%B9%E3%83%B4%E3%83%A3%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%95/dp/B000TLYE34/ref=cm_cr-mr-title
【以下は引用】
スヴィヤトスラフ・リヒテルコンプリート・ドイツ・グラモフォン・ソロ&コンチェルト・レコーディングス(9CD)鍵盤の巨人、リヒテルの遺産がBOXセットに!
リヒテルがドイツ・グラモフォンに行ったすべてのソロと協奏曲録音を9枚組お買得価格で集大成!1956年のシューマン・リサイタルに始まり、1962年のイタリアにおけるリサイタル・ライヴ録音に至るまでの、5つの協奏曲録音、2つのリサイタル録音をそれぞれのLP録音そのままのカップリングで(リマスターのみ行い)収録。ボックスの中には、LPジャケット・デザインをそのまま生かした紙ケースにCDが収められています。
【収録情報】
CD1
・シューマン:行進曲Op.76-2
・シューマン:森の情景Op.82
・シューマン:幻想小曲集Op.12より
録音:1956年11月(モノラル)
CD2
・モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番 K.466
・プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第5番 Op.55
ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団
スタニスラフ・ヴィスロツキ(指揮)K.466
ヴィトルド・ロヴィツキ(指揮)Op.55
録音:1959年4月(ステレオ)
CD3
・ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調 op.18
・ラフマニノフ:6つのプレリュード(Op.32-1,2、Op.23-2,4,5,7)
ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団
スタニスラフ・ヴィスロツキ(指揮)
録音:1959年5月(ステレオ)
CD4
・シューマン:ピアノ協奏曲 Op.54
・シューマン:序奏とアレグロ・アパッショナート Op.92
・シューマン:ノヴェレッテ ヘ長調 Op.21-1
・シューマン:トッカータ ハ長調 Op.7
ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団
ヴィトルド・ロヴィツキ(指揮)Op.54
スタニスラフ・ヴィスロツキ(指揮)Op.92
録音:1958年10月、1959年4月、5月(ステレオ)
CD5
・ハイドン:ピアノ・ソナタ ト短調 Hob.XVI:44
・ショパン:バラード第3番変イ長調 op.47
・ドビュッシー:前奏曲第1巻~帆、野を渡る風、アナカプリの丘
・プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第8番 Op.84
録音:1961年7月-8月(ステレオ)
CD6
・チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番変ロ短調 Op.23
ウィーン交響楽団
ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)
録音:1962年9月(ステレオ)
CD7
・ベートーヴェン:ピアノと管弦楽のためのロンド WoO.6
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調 op.37
ウィーン交響楽団
クルト・ザンデルリング(指揮)
録音:1962年9月(ステレオ)
CD8
・ショパン:幻想ポロネーズ Op.61
・ショパン:練習曲 Op.10-1
・ショパン:練習曲 Op.10-12『革命』
・ショパン:バラード第4番
・ドビュッシー:『版画』(パゴダ/グラナダの夕べ/雨の庭)
・スクリャービン:ピアノ・ソナタ第5番 Op.53
録音:1962年10月、11月(ライヴ、ステレオ)
CD9
・J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集~BWV846,849,850,851,853
・シューベルト:アレグレット D.915
・17のレントラー D.366~第1番、第3番、第4番、第5番
・シューマン:アベッグ変奏曲 Op.1
・ラフマニノフ:前奏曲 Op.32-12
・プロコフィエフ:束の間の幻影 Op.22~第3曲、第6曲、第9曲
録音:1962年10月、11月(ライヴ、ステレオ)
スヴィヤトスラフ・リヒテル(ピアノ)
0 件のコメント:
コメントを投稿