金曜日, 5月 03, 2013

1960年代 カラヤン / ウィーン・フィル 名演 


 Legendary Decca Recordings

 ユニバーサル【デッカ ザ・ベスト1200 100タイトルが再販される。2013.5.15にリリースとのことなので、以下を再掲してみたい。まず、全体についてコメントしたものとして、次を参照。


晩年、カラヤンはベルリン・フィルと決別して、ウィーン・フィルに回帰した。しかし、そこには残念ながら、往時のカラヤンらしい抜群の切れはない。しかし、この壮年期の選集は別である。驚くべきほど充実し、その音楽の<純度>、爽快な<迫力>には得難い魅力がある。
 帝王カラヤンのもっとも充実した時期の記録であり、ウィーン・フィルは、このカリスマとの邂逅に、持てる力を出し切っている。ベルリン・フィルの隙のない完璧な演奏スタイルとは異なり、ウィーン・フィルらしい流麗さ、時に統制を緩めたようなパッショネイトな表情もあり、いずれも生き生きと息づく音楽である。どれも甲乙つけがたい出来だが、特に『惑星』、『ジゼル』そして、もっとも録音の早い『ツァラトゥストラはかく語りき』の斬新な解釈には現代のリスナーにも新鮮な驚きがあるだろう。廉価盤の多いカラヤンのなかではいささか値が張るがその価値は十分。推奨したい。

<ライン・ナップ(録音年)>
CD 1
・ブラームス:交響曲第1番ハ短調作品68 (1960年)
・ハイドン:交響曲第103番変ホ長調『太鼓連打』 (1963年)

CD 2
・ハイドン:交響曲第104番ニ長調『ロンドン』 (1960年)
・ブラームス:悲劇的序曲作品81 (1962年)
・ブラームス:交響曲第3番ヘ長調作品90 (1962年)
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ベートーヴェン:交響曲第7番/ブラームス:交響曲第3番

CD 3
・モーツァルト:交響曲第40番ト短調K550 (1960年)
・モーツァルト:交響曲第41番ハ長調K551『ジュピター』 (1963年)
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モーツァルト:交響曲第40番&第41番「ジュピター」
・チャイコフスキー:幻想序曲『ロミオとジュリエット』 (1961年)

CD 4
・ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調作品92 (1960年)
・ドヴォルザーク:交響曲第8番ト長調作品88 (1965年)

CD 5
・チャイコフスキー:『白鳥の湖』組曲(1965年)
・チャイコフスキー:『胡桃割り人形』組曲 (1962年)
・チャイコフスキー:『眠れる森の美女』組曲 (1965年)
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チャイコフスキー:3大バレエ

CD 6
・アダン:『ジゼル』 (1962年)

CD 7
・グリーグ:『ペール・ギュント』作品23より (1962年)
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グリーグ:ペール・ギュント、他
・ホルスト:組曲『惑星』作品32 (1962年)
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ホルスト:組曲「惑星」

CD 8
・J.シュトラウス2世:喜歌劇『こうもり』序曲 
・J.シュトラウス2世:喜歌劇『こうもり』よりバレエ音楽
・J.シュトラウス2世:『アンネン・ポルカ』作品117
・J.シュトラウス2世:喜歌劇『ジプシー男爵』より序曲
・J.シュトラウス2世:『狩にて』作品373
・J.シュトラウス2世:『ウィーンの森の物語』作品325
・ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ『うわごと』作品212 (以上1960年)
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ヨハン・シュトラウス・コンサート

・R.シュトラウス:『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯』作品28 (1960年)
・R.シュトラウス:『サロメ』より7つのヴェールの踊り(1960年)
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 7つのヴェールの踊り、リズムの精華 (amazon.co.jp)

CD 9
・R.シュトラウス:交響詩『ドン・ファン』作品20 (1960年) 
・R.シュトラウス:交響詩『死と変容』作品24 (1960年)
・R.シュトラウス:交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』作品30 (1959年)
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Strauss: Also sprach Zarathustra, etc / Herbert von Karajan, Vienna Philharmonic Orchestra

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン 録音:1959-1964年、ウィーン(ステレオ)
 
 
 次に、主要なものについてコメント。このほかにも優品が多く、この時代のカラヤンの昇竜のような勢い、抜群の推進力を感じる。 

モーツァルト:交響曲第40番&第41番「ジュピター」


カラヤン/ウイーン・フィルによる<独自>の名盤である。古楽器による復古調の演奏を好む方には向かない演奏だろう。モーツァルト、本来かくあるべしという強い信念の方からも相当な違和感があろう。しかし、そういった先入主をもたずに、作曲家晩期の2曲について、明確な解釈でシンフォニックな音楽を<創造>するという方法論を大いに楽しみたい方には是非、一聴をお薦めしたい。
 それくらいこの演奏は個性的に響く。テンポは極めて速く、凝縮された音響の振幅はとても大きい。ウイーン・フィルは、自分の馥郁たる音質、個性を少しく殺してカラヤンの斬新な解釈に全力で付きあっている印象だ。一方、カラヤンは、ウイーン・フィルだから・・といった特別扱いを全くしていないと感じる。翌日、仮にベルリン・フィルをドレスデン・シュタッツカペレを振ったとしても同様な演奏をしたであろうと思わせるほど<カラヤン>的な交響空間を自信をもって展示している。
 多くのカラヤンの演奏で最近思うことだが、今日、若手の指揮者がこれと同じのようなアプローチで大胆かつ完成度をもった演奏をしたら間違いなく<衝撃的>との評価を受けるであろう。それくらい本盤の切れ味は厳しくも鋭い。好き嫌いはリスナーの選択だが、緩急のテンポの設定、強烈なダイナミックレンジの振幅の取り方などでみせる演奏の凄み、緊張度ではいまも抜群の個性を誇る。これと同じレベルの演奏を今日再現することは至難だろう。
 
 
ヨハン・シュトラウス・コンサート


 現在、毎年恒例のニューイヤー・コンサートによってウインナーワルツ・ポルカ集は新たな音源、映像が絶え間なく供給されている(たとえばカラヤンでは1987年盤)。   
  1970年代は別であった。エリザベト・シュワルツコップは孤島に持っていく究極の1枚にフリッツ・ライナー盤を選んだが、一般には当時ウイリー・ボスコフスキーという実力コンサート・マスター主導(外部指揮者なし)の演奏が、自主性の尊重と特有の洒脱さから決定盤との世評をえた。
  さて本盤は、カラヤン+ボスコフスキー+ウイーン・フィルの「黄金トリオ」の演奏である。シンフォニックで優美、ほどよい緊張感とスタジオ録音ながらライヴ感覚の「乗り」の良さ。全体からうける印象はカラヤンらしい最上等な演奏と1959年とは思えぬ醍醐味あふれる録音。聴き終わっての感想、これは<天晴れ>の一言ではないかと思う。

グリーグ:「ペール・ギュント」抜粋/R.シュトラウス:交響詩「死と変容」



カラヤンは第1組曲のほか第2組曲から2曲を選び計6曲ユニットで、このペール・ギュントを再構成した(これはウイーン・フィル盤のみの特色)。全曲は約85分かかるがこれを25分弱におさめ、非常な凝縮感をだしている。
 
 さらにこの6曲は、メリハリよく、清涼な部分はあくまでも爽快に(第1曲「朝」)、甘美な部分は美々しくも蕩けるように(第2曲「オーセの死」、第6曲「ソルヴェイグの歌」)、劇的な部分は快速かつ激烈に(第4曲「山の魔王の宮殿にて」、第5曲「イングリッドの嘆き」)に演奏される。ウイーン・フィルの音色は硬軟ともにしなやかで強奏でも節度を失わない。

 ベルリン・フィル盤(2種)も基本はかわらぬ名演ながら、このウイーンの薫る絶品の音色をもって本盤を小生は好む。
 
◆グリーグ:『ペール・ギュント』作品23より (1962年)
R.シュトラウス:交響詩『死と変容』作品24 1961年)

 
ホルスト:組曲「惑星」

 

カラヤンが取り上げたことでブームをつくった曲は数ある。R.コルサコフ:シェエラザードやオネゲル:交響曲第2番、第3番「典礼風」などもそうだが、ウイーン・フィルとの蜜月時代に録音されたアダン:バレエ「ジゼル」やこの惑星などもその代表例。 
 ストラヴィンスキー的な激しいリズムの刻み方(火星)、壮麗なメロディアスの魅力(木星)にくわえて「ボリス・ゴドゥノフ」の戴冠式の場を連想させるような眩い管弦楽の饗宴も随所にあり、変化に富んだ曲づくりをここまで見事に、メリハリよく表現しきったカラヤンの実力には恐れ入る。このドラマティックで色彩感ある描写はウイーン・フィルの特質を最大限引き出したという意味でも大きな成果だろう。

チャイコフスキー:3大バレエ


3大バレエ組曲(白鳥の湖、くるみ割り人形、眠りの森の美女)。カラヤンはフィルハーモニー(1952年)、ウイーン・フィル(本盤、19611965年)、ベルリン・フィル(19661971年)の3種ほかの録音を残している。基本的にどれも見事にシンフォニックで一貫した解釈だが、快速&ダイナミズム感の強いフィルハーモニー盤、完璧な音響空間に身をおきたければベルリン・フィル盤といった感じか。小生は従来からこのウイーン・フィル盤こそ、上記カラヤンの3種中のベストとともに、3組曲での最右翼の名盤ではないかと思っている(全曲、組曲ともアンセルメも秀逸)。


 カラヤンは若き日からチャイコフスキーを得意(特に「悲愴」)としており、ベルリン・フィルとの交響曲全集はいまも燦然と輝く。「大曲」勝負の交響曲にくらべて、カラヤンはここでは、堂々たるシンフォニックな構えとともに、ときに洒脱で切なく、ときに軽妙でウイッティな表情も自在に表現してみせる。そして、ウイーン・フィルの音は瑞々しく柔らかく、その一方、強音部では躍動的で美しい。その抜群の融合がエクセレンスな名演を生んだ。本盤に限らずこの時代のカラヤン/ウイーン・フィルの音源はどれも秀逸。
 
R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはこう語った」「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
 

有名なエピソードだが、映画『2001年宇宙の旅』冒頭の部分でこのカラヤン/ウィーン・フィル盤が使われている。映画の大成功もあり、曲そのものが大きな注目を集めるとともに、当初、使用音楽の一部の修正もあり、そのため契約関係で指揮者・演奏団体があえて秘匿されたことから、いっそう本盤が脚光を浴びることとなった(なお、当初のサウンドトラック盤はあえてベーム/ベルリン・フィルに差し替えられたが、最新のサウンドトラックCD(EMI)は本カラヤン盤に戻っているという)。
 
 このカラヤン/ウィーン・フィル盤によって「ツァラトゥストラ」自体が人口に膾炙した一因にもなっただろうが、こうしたカラヤン・エピソードはほかにも数多い。気宇浩然たるこの曲の特質をあますところなく表出した本盤はいま聴いても新鮮であり、かつこの演奏を評価されたら是非、同路線をゆくテンシュテット盤(→Also Sprach Zarathustra / Don Juan / 4 Last Songs)にも耳を傾けていただきたい。
R.シュトラウス:交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』作品30 (1959年)
R.シュトラウス:『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯』作品28 1961年)
R.シュトラウス:交響詩『ドン・ファン』作品20 1961年)

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