http://www.amazon.co.jp/gp/product/B012LBMLF2?ref_=pdp_new_dp_review
まずは、バーンスタイン自作自演集から。
すでにLeonard Bernstein Conducts Bernsteinの廉価盤集が出ており、相当程度はこちらでカヴァーできる。
以下では、交響曲を中心にコメントしたい。コープランドが後世を託したといわれるだけの実力を感じさせる作品集で、メロディの親しみやすさが現代音楽の晦渋さを緩和している。ラフマニノフの自作自演コンサートをライヴで聴いて感動したといわれるバーンスタインが、そうした体験を自身生かしているといえるかも知れない。リズムの切れ味はストラヴィンスキーに通じる部分もある。マーラーやショスタコーヴィッチで秀でた演奏を残したバーンスタインだが、この2人の影響も垣間見えるような独特の量感もある。次に各曲別に若干のコメントとともに、有名な主要作品についても一言。
◆交響曲第1番、第2番
第1番「エレミア」 Symphony No.1 for Orchestra and Mezzo-Soprano,
"Jeremiah" は1.預言、2.冒とく、3.哀歌からなる。また、第2番「不安の時代」 Symphony No.2 for Piano and Orchestra,
"The Age of Anxiety"は、 第1部:プロローグ、7つの時代、7つの段階、第2部:挽歌、仮面舞踏会、エピローグの6つのパートにわかれる。
非常に敬虔なユダヤ教徒であった父の影響をうけて、バーンスタイン自身、ユダヤ教の教義には幼少から通じており、これは両曲の思想的、宗教的バックボーンになっている。音楽技法に現代的な装いはあるが、真摯で固い音楽の殻をもった作品である。
その一方、表題と歌詞(第1番)にそって鑑賞すれば、作品そのものの晦渋さは相当緩和されよう。第2番のエピローグのピアノソロの微音のあとの強奏のフィナーレの効果などは抜群である。優れた現代作曲家の若き才能を色濃く感じることだろう。
(参考)
・交響曲第1番『エレミア』
1961年5月20日 ニューヨーク、マンハッタン・センター(ステレオ)
・交響曲第2番『不安の時代』
1965年7月19日 ニューヨーク、マンハッタン・センター(ステレオ)
ジェニー・トゥーレル(メゾ・ソプラノ:第1番)
フィリップ・アントルモン(ピアノ:第2番)
バーンスタイン/ニューヨーク・フィル
→ 本集では、第2番『不安の時代』は、1949年オリジナル版(1950年2月27日 ニューヨーク)ルーカス・フォス(ピアノ)も併録。Symphony 1
◆交響曲第3番
第3番「カディッシュ」 Symphony No.3 for Orchestra, Mixed Chorus, Boy's
Choir, Speaker and Soprano Solo, "Kaddish" は、1.祈り、カディッシュ[1]、2.ディン・トーラー、カディッシュ[2]、3.スケルツォ、カディッシュ[3]、フィナーレからなる。
カディッシュは「神聖なるもの」、ディン・ドーラは「(神からの)試練」といったユダヤ教からの言葉といわれる。全篇に英語でナレーション(バッハの受難曲でいえば、エヴァンゲリストEvangelistにあたろうか?)が入るが、その語るとことの意味は難解である。
音楽は面白い。マーラー的な詠嘆の響き、ショスタコーヴィチ的な強烈なリズム感、ときにヴォルフの歌曲のような深き不安感が交錯し、新ウィーン学派の無調性も顔をのぞかせる。しかし、全体としての明快性への配慮やジャズのノリの良さのブレンド、華麗な楽器の活用などでは、いかにもバーンスタイン流を貫いている。
すでにその兆しもあるが、今後20世紀後期音楽の古典の仲間入りをしてもおかしくない普遍性をそなえた曲といえよう。
(参考)
・交響曲第3番『カディッシュ』
1964年4月15日 ニューヨーク、マンハッタン・センター(ステレオ)
フェリシア・モンテアレグレ(語り)
ジェニー・トゥーレル(メゾ・ソプラノ)
カメラータ・シンガーズ
コロンバス少年合唱団
バーンスタイン/ニューヨーク・フィル
◆有名な主要作品について
クラシック、ジャズ、ポップスといったジャンルを超える試みは、ショスタコーヴィチなどでも行われているが、バーンスタインの魅力は、大胆にして自由な発想(「ウェスト・サイド・ストーリー」)、全体を支配する天真爛漫な明るさ(「キャンディード」序曲)、楽器の能力を極限までひきだす実験的手法の駆使(「波止場組曲」)といったところにあるように思う。
一方で、メロディは親しみやすく(「ファンシー・フリー」)、リズムは不敵な切れ味、そしてオーケストラの質量はときに爆発的になる快感もある。リスナーを自然体で楽しませる才能豊かな作品群である。
(参考)
『ウエスト・サイド・ストーリー』~シンフォニック・ダンス
1961年3月6日 ニューヨーク、マンハッタン・センター(ステレオ)
『キャンディード』序曲
『ウエスト・サイド・ストーリー』~シンフォニック・ダンス
1961年3月6日 ニューヨーク、マンハッタン・センター(ステレオ)
『キャンディード』序曲
1960年9月28日 ニューヨーク、マンハッタン・センター(ステレオ)
映画『波止場』からの交響的組曲
1960年5月16日 ニューヨーク、マンハッタン・センター(ステレオ)
バレエ音楽『ファンシー・フリー』
1963年6月11日 ニューヨーク、フィルハーモニック・ホール(ステレオ)
バーンスタイン/ニューヨーク・フィル
→ Symphonic Dances From West Side Story / Candide Ov
映画『波止場』からの交響的組曲
1960年5月16日 ニューヨーク、マンハッタン・センター(ステレオ)
バレエ音楽『ファンシー・フリー』
1963年6月11日 ニューヨーク、フィルハーモニック・ホール(ステレオ)
バーンスタイン/ニューヨーク・フィル
→ Symphonic Dances From West Side Story / Candide Ov
<本集のその他の主要収録作品>
・歌劇『タヒチ島の騒動』全曲
1973年8月11,13-15日 ロンドン、CBSスタジオ1(ステレオ)
アントニア・バトラー(ソプラノ)
ナンシー・ウィリアムズ(メゾ・ソプラノ)
マイケル・クラーク(テノール)
マーク・ブラウン(バリトン)
ジュリアン・ブラウン(バス・バリトン)
コロンビア・ウィンド・アンサンブル
レナード・バーンスタイン(指揮)
1973年8月11,13-15日 ロンドン、CBSスタジオ1(ステレオ)
アントニア・バトラー(ソプラノ)
ナンシー・ウィリアムズ(メゾ・ソプラノ)
マイケル・クラーク(テノール)
マーク・ブラウン(バリトン)
ジュリアン・ブラウン(バス・バリトン)
コロンビア・ウィンド・アンサンブル
レナード・バーンスタイン(指揮)
・ミュージカル『オン・ザ・タウン』
1960年5月31日 ニューヨーク、マンハッタン・センター(ステレオ)
クリス・アレクサンダー、ベティ・コムデン
アドルフ・グリーン、ジョン・リアドン、ナンシー・ウォーカー
オーケストラとコーラス
レナード・バーンスタイン(指揮)
・ミサ曲(歌い手、演奏家、ダンサーのための劇場用作品)
1971年8月、9月、10月 ワシントンDC、ジョン・F・ケネディ・センター・コンサート・ホール&ニューヨーク、52番街49E スタジオB(ステレオ)
アラン・タイタス(バリトン)
ノーマン・スクリブナー合唱団
バークシャー少年合唱団
オーケストラ
レナード・バーンスタイン(指揮)
バーンスタイン/ニューヨーク・フィルは1970年に来日、マーラー交響曲第9番を東京文化会館で演奏した。高校生だった個人的な思い出だが、会場で打ちのめされたような<衝撃>を受けて以来、このマーラー像に魅せられている。
ライブで聴いた10人の名指揮者
本全集は、バーンスタイン (1918-90年)が42才から57才頃までの最もエネルギッシュな活躍の時代に録音されたが、その後の再録もあるので一般には「旧盤」と呼ばれる。8番と『大地の歌』以外は手兵ニューヨーク・フィルとの演奏で、一貫してバーンスタインの、「没入型」ともいえる独自のマーラー解釈が表現され、迸るような熱い強奏と深く沈降するような弱奏が全般に早いテンポで交錯する。ワルター、クレンペラーの世代とは一線を画し、新マーラー解釈の扉を開いたといった当時の評価が思い出される。
録音は古くなったが、演奏の最高の質、破格の値段(CD12枚組)からみて、シノーポリのような「分析型」との対比聞き比べの妙味でも、マーラー全集選択の最右翼である。
【データ(録音年)】
第1番ニ長調『巨人』(1966年)、第2番ハ短調『復活』(1963年)、第3番ニ短調(1961年)、第4番ト長調(1960年)、第5番嬰ハ短調(1963年)、第6番イ短調『悲劇的』(1967年)、第7番ホ短調『夜の歌』(1965年)、第8番変ホ長調『千人の交響曲』(1966年、ロンドン響)、第9番ニ短調(1965年)、『大地の歌』(1972年、イスラエル・フィル)、第10番嬰ヘ長調「アダージョ」(1975年)
バーンスタイン 交響曲第9番 異説
バーンスタイン 交響曲第9番 異説
ベートーヴェンの交響曲全集。たとえば、カラヤンには、多くのリスナーを説き伏せるような「カラヤン流儀」といったものがあり、ベームにはメトロノームを内在したような堂々としたテンポ設定で、リスナーはじっくりと安心して身を委ねられるような安定感がある。
対して、バーンスタインのベートーヴェンの特色は、ダイナミックながらすっきりとした解釈にあり、意外にも過不足なく標準的な印象もある。しかし、全体を通じて解釈の一貫性があり、どの曲を聴いても爽やかな聴後感があるのはやはり只者ではない。けれんみなく素直な解釈によって、ベートーヴェンの素材をもっとも生(き)のままに味わうことができるように思う。良い意味で機能主義的なニューヨーク・フィルもいい。ここには、ベルリン・フィルにみるドイツ本流の、とかウィーン・フィルにみる伝統の誇り高きといったブランドイメージはなく、かわってベートーヴェンという名の偉大なコスモポリタニズムを感じさせる。これこそ、意図してバーンスタインが念頭においていたことであり、かつそのお手本は、トスカニーニにあり!ということかも知れない。
(参考)比較したい全集
◆ベーム:Collectors Edition: Symphonies Nos. 1-9/5 Overture
◆トスカニーニ:Beethoven: The 9 Symphonies
→ Scoprire Beethoven-I Capolavori に所収、聴取
バーンスタイン・ザ・シンフォニー・エディションIgor Stravinsky: Orchestral Works, Violin Concerto, Oedipus Rex, The Rake's Progress | |