ワーグナー : 管弦楽曲集 (Bruno Walter's Wagner / Bruno Walter & Columbia Symphony Orchestra) [CD]
「マイスタージンガー」第1幕前奏曲は泰然自若とし、激することなくインテンポで堂々とした演奏。「パルジファル」第1幕 前奏曲と聖金曜日の音楽ではハーモニーの深き美しさを余すところなく表現し、「オランダ人」 序曲や「ローエングリン」 第1幕 前奏曲では管弦楽のパートを見事に引き立たせている。
「タンホイザー」 序曲、前半は悠然とすすめられるが、後半からヴェヌスベルクの音楽へ展開されるにつれ、響きが豊かで表情も濃やかになっていき余韻をもって終わる。本録音後1年をへずしてワルターは逝去するので、最晩年の記録の一つである。
全体として、ワルターらしい落ち着いた格調ある演奏だが、スペクタルな展開を好む向きにはやや物足りなさを感じるかも知れない。録音はこの時代のもととしては艶やかさがあって良好。
➡ The Original Jacket Collection:Bruno Walter Conducts Famous Mahler & Bruckner にて聴取
マーラー:交響曲第5番
1987年9月、フランクフルト、ゼンパーオーパーでのライヴ音源。この年の3月までフランクフルトの郊外に住んでいたので、本コンサートの現地における「衝撃」はいかばかりであったかと想像がつく。会場のゼンパーオーパーには、結構、ウィーン・フィルは来演するのでそれ自身は珍しいことではないが、バーンスタインがマーラーを引っ提げてくるとなると話は別である。
そうした良い意味での緊張感はあるが、翌年のウィーン・フィルの本拠地、ムージフェラインザールでの、同じコンビによる6番 マーラー:交響曲第6番「悲劇的」 の方が白熱度と音響のふくよかな広がりでははるかの良いと感じる。ホールの違いもあろうが、やはりうるさがたの(耳のこえた)聴衆との関係もあるかも知れない。
第2楽章と第3楽章の濃密なフレージングは特筆すべきだろうが、狂気、惑乱への密やかな欲求がこめれているようなバーンスタインの初期の激しいマーラー像が、なにか収まりのよいところに納まってしまったようにも感じてしまう。もちろん、ライヴで接していたら、これだけの高密度の名演には感涙ものであっただろうが。
➡ People's Edition にて聴取
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
Klaus Tennstedt: The Great EMI Recordings にて聴取。これだけの名演奏が「単品」では現役盤でないこと自体が不思議。ライヴとは思えない完成度であり録音も良好。
さりげなく自然体の構えに見せて、実は大変バランスよく均整のとれた演奏で、いままで聴いてきたほかの指揮者のあまたの音源と比較しても、トップクラスの名演であると思う。すこしオーケストラの統制を緩めて軽快に飛ばすドライブ感(第1、3楽章)と速度をぎりぎりまで減速してたっぷりと情感をもって丁寧に仕上げていく(第2、4楽章)交互の手法が見事にいかされている。
テンシュテットでは、かつて全集 クラウス・テンシュテット ベートーヴェン 交響曲全集(全曲Live)
も販売されたが本盤に限らず、是非廉価版での登場を望みたい。間違いなく再評価に繋がるだろう。
モーツァルト : フルート&ハープ協奏曲&クラリネット協奏曲
うららかな春のマチネ、ひだまりで爽快な風を感じながらくつろぐひととき。そんな気分にひたれる1枚。暖かなパイヤール室内管の響きのなかで、ランパル&ラスキーヌの息のあったかけあいが、あたかも飛びかう蝶の遊戯のようだ。ランスロのクラリネット協奏曲も自然体の構えで躍動感があって楽しめる。2曲の長調の名曲の駘蕩さを存分に味わいたい。
<収録情報>
モーツァルト:
・フルートとハープのための協奏曲ハ長調
・クラリネット協奏曲イ長調
ジャン=ピエール・ランパル(フルート)
リリー・ラスキーヌ(ハープ)
ジャック・ランスロ(クラリネット)
パイヤール室内管弦楽団
ジャン=フランソワ・パイヤール(指揮)
録音時期:1963年
➡ 50CD レガシーボックスセット ERATO BOX にて聴取
5 Violin Concertos
モーツァルトのヴァイオリン協奏曲集。美音で流れるような演奏が多いなか、男性的な力強さが身上。クレーメルの突き抜けるような高音の妙技に対して、アーノンクールはウィーン・フィルの低弦の整然たるアンサンブルを強調して、そこに厚みある音楽空間を作り出している。第3番が典型だが、がっちりと組み立てられたような演奏スタイルは、美しさの背後にある、モーツァルトの強き生命力を表出している。クレーメルの個性と集中力が光り、アーノンクールの自信に満ちたアプローチが噛み合った見事な名演。
ホルスト:組曲《惑星》
Blu-ray Audio の廉価で登場。以下は演奏評について
カラヤンが取り上げたことでブームをつくった曲は数ある。「R.コルサコフ:シェエラザード」や「オネゲル:交響曲第2番、第3番「典礼風」」などもそうだが、ウィーン・フィルとの蜜月時代に録音された「アダン:バレエ「ジゼル」」やこの「惑星」などもその代表例。
ストラヴィンスキー的な激しいリズムの刻み方(火星)、壮麗なメロディアスの魅力(木星)にくわえて「ボリス・ゴドゥノフ」の戴冠式の場を連想させるような眩い管弦楽の饗宴も随所にあり、変化に富んだ曲づくりをここまで見事に、メリハリよく表現しきったカラヤンの実力には恐れ入る。このドラマティックで色彩感ある描写はウィーン・フィルの特質を最大限引き出したという意味でも大きな成果だろう。
ムソルグスキー:展覧会の絵&サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付き」(期間生産限定盤)
以下は、展覧会の絵について。なんとも緻密で、各曲別に性格づけを考えぬいたような周到な演奏。華麗なるフィラデルフィア・サウンドを前面に立てての演奏といったイメージとはギャップがある。むしろ、総じていえば「地味」な印象で、かつこのコンビが通常、リスナーを無条件に魅了する「明るき音響美」よりも、少し型にはまった「形式美」を追求しているようにすら感じる。
オーマンディは、パート譜でもフィラデルフィア全団でも自在にスクランブルして見事な音楽を奏する。「手兵」フィラデルフィア管にとって、親和性の強い本曲には大いに自信をもっていたことだろう。しかし、そのレヴェルにとどまらず、さらにより高き目標にオーケストラを引っ張っていこうという意思があったのかも知れない。
その試みは、半分は成功しており、オーケストラに一層の緊張感をあたえ、慎重な運行はより各パートの至芸を際立たせている。他方、天才的(ないし狂気の)パッションが横溢するようなこの曲の破天荒さに比して、やや常識的すぎる解釈が透けて見えてしまった気もする。規範的な良き演奏ながら、あえて言えば小生が本曲に好む惑乱するような激しき情熱が抑制されているようにも感じた。
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