金曜日, 5月 15, 2009

カルロス・クライバー














カラヤンがもっとも恐れた男は誰か?といった「問いかけ」は結構、話のネタとしては面白い。フルトヴェングラーやチェリビダッケといった初期の闘争史からのアプローチもあるし、同時代人として、バーンスタイン、ヨゼフ・カイルベルト、イーゴリ・マルケヴィッチなどの名も取り沙汰された。しかし、バーンスタインは活動の本拠がアメリカでいわば棲み分け、カイルベルトは田舎に引きこもり、マルケヴィッチも地味系でその敵ではなかったろう。

しかし、カルロス・クライバーは別である。クライバーについては、病弱、神経質、レパートリーの狭さなどのマイナス要素はあるにせよ、上記のラインナップでみても、オペラを含め、カラヤンのメインの領域での「競合」は強く、かつ、どれも発売されればベスト盤の評価。コンサートでも人気は沸騰。しかも、自分が一時明け渡した頃のウィーン・フィルを振っての名演だから、余計に帝王カラヤンとしては気になる存在だったことだろう。

演奏スタイルでも「競合」はあり、両者ともに曲によって軽快な疾走感では共通し、ダイナミズムのレンジの広さを大きくとり、大向こうを唸らせる技法も似ている。聴き比べると、ときには、カラヤンが生真面目に聞こえ、クライバーの方が奔放なテンポ取り、蕩けるようなメロディの響かせ方などで凌駕することもある。
なによりも、クライバーの録音は、大家にしては極端に少なく、再録もしないから希少価値性があるが、カラヤンは彼の価値観上の「最高」を求めて、飽くなき録音、録画を繰り返し結果的に、いまとなっては厖大な音源がダンピング対象になっていることは大きな違いだ。
 
さて、そのクライバーの実演にたった一度、行ったことがある。ミラノスカラ座の引越公演で、1988年9月25日(日)13:30からのマチネー、「ボエーム」を東京文化会館で聴く。感想をこう記した。
ー「絶品」のラ・ボエーム。このオペラに規範的な上演法ありとすれば、今日のこのメンバーと装置と演出によるそれがまさしくそうなのですよ、と訴えかけるような名演である。
 題材の底流にある「悲劇性」が、プッチーニの音楽では天国に通じる至福の響きに見事に転化されていく。美しい旋律、その気高きメロディを奏するカ
ルロス・クライバーの見事なタクトさばき。はじめて実演に接したクライバーの指揮ぶりになによりも驚愕した。・・・・

下記のディスコグラフィーはだいたい耳にしているが、クライバーの存在はいまも偉大だ。しかし、この都会的でやや偏屈な音楽家は、どうもあまりブルックナーは好みではなかったようで、知る限りにおいて音源がない。その点はとても残念なことではある。

[CD 1]
ベートーヴェン:交響曲第5番 op.67『運命』、交響曲第7番 op.92ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1974年3月、4月、1975年11月、1976年1月(ステレオ)
[CD 2]
シューベルト:交響曲第3番 D.200、交響曲第8番 D.759『未完成』
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1978年9月(ステレオ)
[CD 3&CD 4]
ウェーバー:歌劇『魔弾の射手』 全曲
ペーター・シュライアー(T)、グンドゥラ・ヤノヴィッツ(S)、エディト・マティス(S)、テオ・アダム(Bs)、他
ライプツィヒ放送合唱団ドレスデン国立管弦楽団
録音:1973年1、2月(ステレオ)
[CD 5&CD 6]
J.シュトラウス2世:喜歌劇『こうもり』 全曲
ヘルマン・プライ(B)、ユリア・ヴァラディ(S)、ルネ・コロ(T)、ルチア・ポップ(S)、ベルント・ヴァイクル(B)、他
バイエルン国立歌劇場合唱団バイエルン国立管弦楽団
録音:1975年10月(ステレオ)
[CD 7&CD 8]
ヴェルディ:歌劇『椿姫』 全曲
イレアナ・コトルバス(S)、プラシド・ドミンゴ(T)、シェリル・ミルンズ(B)、ステファニア・マラグー(Ms)、他 バイエルン国立歌劇場合唱団バイエルン国立管弦楽団
録音:1976年5月、1977年5、6月(ステレオ)
[CD 9]
ブラームス:交響曲第4番ホ短調 op.98
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1980年3月(デジタル)
[CD10~CD12]
ワーグナー:楽劇『トリスタンとイゾルデ』 全曲
マーガレット・プライス(S)、ルネ・コロ(T)、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(B)、ブリギッテ・ファスベンダー(Ms)、クルト・モル(Bs)、他
ライプツィヒ放送合唱団ドレスデン国立管弦楽団
録音:1980年8月、10月、1981年2、4月、1982年2、4月(デジタル)

 

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