金曜日, 6月 26, 2009

ブルックナー その人物像 

 ブルックナーといえば、生涯独身の堅物、なかなか芽がでず金にも出世にも辛酸をなめた苦労人、聖地バイロイトになんども足を運んだ類まれなワグネリアン、神経症を患い、自らの作品をいくども手直しした優柔不断な性格といったイメージが強い。しかし、それは実像だろうか?
 もちろん、史実にもとづくものだから、そうした事実はあるのだろうが、見方をかえると別の人物像も浮かび上がってくるのではないか。

 第1に「生涯独身の堅物」だが、一方で結婚願望が強くなんども求婚を試みていること、ご婦人とのダンスをこよなく愛したこと、大食大飲の食いしん坊、大酒飲みで結構ユーモアのセンスももっていたこと等の指摘もあり、敬虔なるカトリック教徒ゆえ<戒律にも忠実>・・・といった堅物ではない。

 第2に「金にも出世にも辛酸をなめた苦労人」という点だが、これは主として保存されている手紙などからのイメージである。しかし、若い頃は別として、実はある段階以降は金の苦労はなかったし相当な遺産も残したこと、また本人は上昇志向が強く、権威・権力欲(といってよいと思うが)からはいつも不満はあったろうが、世俗的にみれば大変な成功者であったといってよい。最後の住処はときの宮殿内だったわけだから、赤貧のうちに憤死するといったことではない。

 第3に、熱烈なワグネリアンであったことは事実だが、自分で思っているほどにはその音楽はワーグナーとは近くはない(というよりも誰とも異なっているといった方がよいかも)。たとえば、標題性は希薄で、絶対音楽の技法では、バッハ、ベートーヴェンからの影響のほうがはるかに強く、伝統的な教会音楽の系譜も研究し、かつパイプオルガンの当代きっての名手として、交響曲において、オルガンのもつ広大で構築性の強い独自の音楽空間を設計したともいえよう。

 第4に、神経症を患っていたこと、ここはたしかに他人が計り知れない苦労、懊悩があっただろう。しかし、改訂魔というほどいくども自稿に手をいれることはあっても、これも意外なほど、その「本質」はかわっていない。堂々巡りといってはなんだが、後世からみて、果たして改訂によって、その音楽が良くなっているのか、その逆かの評価はきわめて難しい。極論すれば、最後はリスナーの感性の問題に帰着するものかもしれない。

 こうみてくると、その人物像をパセティックに見ていいのかどうか・・・とかねがね疑問に思っている。同時代にカウンセリングの精神科医が隣にいたら、本人に向かって、


 「ブルックナー先生、いやー、実に簡素で良いお暮らしで幸せではないですか。ブラームス先生も独身ですし、作曲に専心されるのであれば、そのほうが煩わしさがなくてよいかも知れませんよ。食事はともかく酒は少し控えられたほうがよいかも知れませんね。お得意のダンスと水泳は是非、続けられたら良いですね。なんといっても適度な運動は気分転換にもなりますし。でも、若いご婦人にはご注意あれ、いつかもセクハラで訴えられそうになったでしょ。いやいや、先生に限って、もちろん誤解でしょうが男性はそうした局面では実に不利ですからね。それから先生、ほら!もっと人生前向きに考えてください。ウイーンのみならず、いまや世界的に有名な大作曲家なのですから」


と言ったかも知れないなとひそかに思う。
http://shokkou3.blogspot.com/2008/05/blog-post_26.html

土曜日, 6月 20, 2009

クレンペラー ブルックナー 4番、8番@ケルン響

 本日入手。ケルン響でクレンペラーを聴くのははじめてである。以下では 8番について。

 1957年6月7日ケルンWDRフンクハウスでのライヴ録音である。クレンペラーの8番では、最晩年に近い1970年ニュー・フィルハーモニア管弦楽団を振った録音があるが、こちらは第4楽章で大胆なカットが入っており、それを理由に一般には評判が芳しくない。一方、本盤は遡ること13年前、ノヴァーク版のカットなしの演奏である。  

 驚くべき演奏である。巨大な構築力を感じさせ、またゴツゴツとした鋭角的な枠取りが特色で、いわゆる音を徹底的に磨き上げた流麗な演奏とは対極に立つ。また、第3楽章などフレーズの処理でもややクレンペラー流「脚色」の強さを感じる部分もある。小生は日頃、クナッパーツブッシュ、テンシュテットの8番を好むが、このクレンペラー盤は、その「個性的な際だち」では他に例をみないし、弛緩なき集中力では両者に比肩し、第1、第4楽章のスパークする部分のダイナミクスでは、これらを凌いでいるかも知れない。ケルン響は、クレンペラーにとって馴染みの楽団だが、ライヴ特有の強い燃焼度をみせる。「一期一会」ーいまでも日本では語り草になっているマタチッチ/N響の8番に連想がいく。リスナーの好みによるが、小生にとっては8番のライブラリーに最強カードが加わった新たな喜びを感じる。

<データ> 以下はHMVからの転載
◆ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調『ロマンティック』(ノヴァーク第2稿)
 ケルン放送交響楽団 オットー・クレンペラー(指揮) 
 録音時期:1954年4月5日(モノラル) 録音場所:ケルン、WDRフンクハウス、第1ホール(ライヴ)

 1917年から24年にかけてクレンペラーはケルンの音楽監督を務めていますが、戦後ヨーロッパに戻って1950年代半ばにまたケルン放送響とともに数多くのすばらしい演奏を繰り広げました。ベートーヴェンの第4番と第5番(AN.2130)でも確かめられるように、この時期のクレンペラーの音楽は引き締まったフォルムが何よりの特徴。ブルックナーは過去に複数のレーベルから出ていた有名な演奏で、のちのフィルハーモニア管との録音と比較しても全体に4分半ほど短くテンポが速め。

◆ブルックナー:交響曲第8番ハ短調 
 ケルン放送交響楽団 オットー・クレンペラー(指揮) 
 録音時期:1957年6月7日(ライヴ、モノラル) 録音場所:ケルン、WDRフンクハウス、第1ホール

 WDRアーカイヴからの復刻。スタジオ盤では大胆なカットも辞さなかったクレンペラーのブル8ですが、ケルン放送響との57年のライヴではノーカットで演奏。にもかかわらず全曲で72分弱と快速テンポを採用、心身ともに壮健だった時期ならではの充実ぶりが聴き取れます。

土曜日, 6月 13, 2009

フランツ・ヴェルザー=メスト

 メストは、ブルックナーの7番(ロンドンのプロムス・コンサートにおけるライヴ。1990年に音楽監督就任が発表されたロンドン・フィルとの初レコーディング)、5番(下記の10)を聴いて感心している。
以下は「瞬間的」だが本日のHMVのメストの売れ筋上位10を転記。

1.セレンセン:『沈黙の影』、ルトスワフスキ:ピアノ協奏曲、他 アンスネス、ヴェルザー=メスト&バイエルン放送響 録音:2007年5月16-19日、ミュンヘン、ヘルクレスザール(ライヴ) 2007年7月13,14日、ロンドン、エア・スタジオ
2.オペレッタ「メリー・ウィドウ」(ライヴ収録、2004年、スイス、チューリヒ歌劇場) メスト/チューリヒ歌劇場管弦楽団&合唱団/他
3.歌劇「イタリアのトルコ人」(2002年、スイス、チューリヒ歌劇場) ライモンディ/バルトリ/ヴェルザー=メスト/チューリヒ歌劇場管弦楽団&合唱団/他
4.コルンゴルト (1897-1957) ( Erich Wolfgang Korngold ) 交響曲嬰へ長調、歌曲集 ヴェルザー=メスト&フィラデルフィア管弦楽団  1995年11月デジタル録音
5.ブルックナー 交響曲第5番 ヴェルザー=メスト&クリーヴランド管弦楽団 収録時期:2006年9月12-13日  収録場所:リンツ、聖フローリアン大聖堂
6.歌劇「椿姫(ラ・トラヴィアータ)」(収録:2005年チューリヒ芸術祭) メイ/ベルツァーラ/ハンプソン/ヴェルザー=メスト/他  収録: 2005年 チューリッヒ歌劇場(ライヴ)
7.歌劇『ボエーム』全曲 シレイル演出、W.-メスト&チューリヒ歌劇場管弦楽団、G.-ドマス  収録:2005年
8.歌劇『ヘンゼルとグレーテル』全曲 コルサロ演出、ヴェルザー=メスト&チューリヒ歌劇場 1998年12月3,4,7日 チューリヒ歌劇場におけるライヴ収録
9.ブルックナー 交響曲第9番 ヴェルザー=メスト&クリーヴランド管弦楽団  収録:2007年10月、ウィーン、ムジークフェラインザール(ライヴ)
10.ブルックナー 交響曲第5番 ヴェルザー=メスト&LPO  1993年、ウィーン、コンツェルトハウスでの演奏会をライヴ・レコーディング