1957年6月7日ケルンWDRフンクハウスでのライヴ録音である。クレンペラーの8番では、最晩年に近い1970年ニュー・フィルハーモニア管弦楽団を振った録音があるが、こちらは第4楽章で大胆なカットが入っており、それを理由に一般には評判が芳しくない。一方、本盤は遡ること13年前、ノヴァーク版のカットなしの演奏である。
驚くべき演奏である。巨大な構築力を感じさせ、またゴツゴツとした鋭角的な枠取りが特色で、いわゆる音を徹底的に磨き上げた流麗な演奏とは対極に立つ。また、第3楽章などフレーズの処理でもややクレンペラー流「脚色」の強さを感じる部分もある。小生は日頃、クナッパーツブッシュ、テンシュテットの8番を好むが、このクレンペラー盤は、その「個性的な際だち」では他に例をみないし、弛緩なき集中力では両者に比肩し、第1、第4楽章のスパークする部分のダイナミクスでは、これらを凌いでいるかも知れない。ケルン響は、クレンペラーにとって馴染みの楽団だが、ライヴ特有の強い燃焼度をみせる。「一期一会」ーいまでも日本では語り草になっているマタチッチ/N響の8番に連想がいく。リスナーの好みによるが、小生にとっては8番のライブラリーに最強カードが加わった新たな喜びを感じる。
<データ> 以下はHMVからの転載
◆ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調『ロマンティック』(ノヴァーク第2稿)
ケルン放送交響楽団 オットー・クレンペラー(指揮)
録音時期:1954年4月5日(モノラル) 録音場所:ケルン、WDRフンクハウス、第1ホール(ライヴ)
1917年から24年にかけてクレンペラーはケルンの音楽監督を務めていますが、戦後ヨーロッパに戻って1950年代半ばにまたケルン放送響とともに数多くのすばらしい演奏を繰り広げました。ベートーヴェンの第4番と第5番(AN.2130)でも確かめられるように、この時期のクレンペラーの音楽は引き締まったフォルムが何よりの特徴。ブルックナーは過去に複数のレーベルから出ていた有名な演奏で、のちのフィルハーモニア管との録音と比較しても全体に4分半ほど短くテンポが速め。
◆ブルックナー:交響曲第8番ハ短調
ケルン放送交響楽団 オットー・クレンペラー(指揮)
録音時期:1957年6月7日(ライヴ、モノラル) 録音場所:ケルン、WDRフンクハウス、第1ホール
WDRアーカイヴからの復刻。スタジオ盤では大胆なカットも辞さなかったクレンペラーのブル8ですが、ケルン放送響との57年のライヴではノーカットで演奏。にもかかわらず全曲で72分弱と快速テンポを採用、心身ともに壮健だった時期ならではの充実ぶりが聴き取れます。
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