ワルターには数種の同曲の録音がある。1938年のSP復刻のもの、1952年にウイーン・フィル盤(2種)、そしてこのニューヨーク・フィルとの1960年のスタジオ録音盤(唯一のステレオ収録、ほかにライヴ盤も知られる※)などである。
【ウイーン盤について】
カスリーン・フェリアー(コントラルト)
ユリウス・パツァーク(テノール)録音年月:1952年5月15日-16日、20日
録音場所:ウイーン
【本盤について】
ミルドレッド・ミラー(メゾ・ソプラノ)
エルンスト・ヘフリガー(テノール)
収録時間:1時間12分55秒
録音時期:1960年4月18、25日
録音場所:ニューヨーク、マンハッタンセンター
※参考【ニューヨーク・フィルとの別の音源】
モーリーン・フォレスター(アルト)リチャード・ルイス(テノール)
録音時期:1960年4月16日
録音場所:ニューヨーク、カーネギー・ホール
録音方式:モノラル(ライヴ)
当盤はワルター逝去(Bruno Walter, 1876年9月15日-1962年2月17日)の2年前の記録であり、「告別」が最後のテーマになっている本曲には象徴的なものを感じる。
第1楽章「大地の哀愁に寄せる酒の歌」
第2楽章「秋に寂しき者」
第3楽章「青春について」
第4楽章「美について」
第5楽章「春に酔える者」
第6楽章「告別」
ワルターは1911年本曲を初演した(※※)。マーラーの弟子、後継指揮者として、この曲を35才のワルターが世に問うたことは、彼自身が述懐しているように実に大きな飛躍のステップであった。
※※参考【初演について】
(以下は引用)
1911年11月20日、ミュンヘンにて、ブルーノ・ワルター指揮、カイム管弦楽団(ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の前身)による。この年の5月にマーラーはこの世を去っており、マーラーの弟子であるワルターが指揮を担当することとなった。
ワルターは、「・・・『大地の歌』の初演は最も貴重な芸術上事件として生涯忘れることはできない。それは、マーラーが残してくれた、私自身にとっても極めて大事なこの作品の初演の責任を感じていたことであり、さらには、私が師に代わって行う事を感じていたことなどが理由である。また、初演で、彼から私にゆだねられたスコアがここに初めて感動的な音楽の響きとなるや、故人の有り様を痛ましくもまた身近に感じたからだ。・・・」とその時の思いを回想録「主題と変奏」に書き残している。
そうした点を一応、措くとしても当盤はその演奏の品位、クリアな録音ともいまもこの曲の代表的名作である。とくに、エルンスト・ヘフリガー(テノール)は他に代えがたい深い詠嘆を湛えており、心に染み入るものである。第一楽章「大地の哀愁に寄せる酒の歌」の出だしから、マーラーの心境に寄り添っているような一体感さえあると感じる。至芸である。
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