金曜日, 8月 25, 2017

ピアノ協奏曲 ~アルゲリッチ 名盤5点  Martha Argerich

Piano Concerto 1 / Piano Concerto 3
Piano Concerto 1 / Piano Concerto 3

草創期のチャイコフスキー国際コンクールは1958年が第1回(第1位:クライバーン)、62年が第2回(第1位:アシュケナージとオグドン)であった。

この間、アルゲリッチは1957年ブゾーニとジュネーヴの両国際コンクールで16歳にして1位をとり、65年ショパン国際コンクールで優勝している。因みに、同コンクールでは、55年(第1位:ハラシュヴィチ、第2位:アシュケナージ)、60年(第1位:ポリー二)だった。この演奏を聴きながら、アシュケナージとの比較において「もしもアルゲリッチがチャイ・コンに出場していたら」と考えるのも楽しい。

本盤は、1970年12月ロンドンで収録されたデュトワ/ロイヤル・フィルとの共演。第1楽章中間部まではテンポが緩くアルゲリッチらしい快速、パワーフルな演奏を期待すると意外感がある。あえて、情感豊かに弾き込むスタイルをとろうということかも知れない。第2楽章も大人しい、落ち着いた演奏で他の録音に比べても、管弦楽の音が前面に出ている。終楽章はテンポを上げて、シンフォニックさは強調されるがピアノがですぎないように制御されているようにも感じる。全体としてはメロディの美しさを際だたせた、ピアノとオケの融合感に配慮した正統派の演奏。

但し、思いきり楽しめるという意味では、より奔放にしてファンタジックな1994年12月のアバド/ベルリン・フィル盤 チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番/ラヴェル:ピアノ協奏曲 に軍配があがるかも知れない。。

➡ Martha Argerich Collection 2: The Concerto Recordings にて聴取

ショパン&リスト:ピアノ協奏曲第1番
ショパン&リスト:ピアノ協奏曲第1番

ショパン第1楽章の長いオケだけのイントロ部分、アバドの才覚が見事に光る。曲想の全体像を明確に示し、醸す高貴なる雰囲気で十分にお膳立てし、そしてアルゲリッチが華麗に登場する。この冒頭部分だけで名演の予感は十分である。

1968年2月の録音。新進気鋭の若きピアニストと指揮者による「新風」を吹きこむ1枚という触れ込みは、約半世紀の間しっかりと聴き継がれ、いまもトップの名盤の座にある。アルゲリッチは1965年ショパン国際コンクールに弱冠24歳で優勝、その3年後の収録ながら、いま聴いても感動はかわらない。第2楽章の濃やかな表現ぶりには直観的にして女性的、豊かな感性が満ちている。終楽章、高音部の速く、力強く、美しいパッセージ処理には感嘆を禁じ得ない。

リストも圧倒的な迫力。技巧的には悪魔的難曲とも言われるが、アルゲリッチはこれをサラリと弾きこなしている印象で、その底知れぬ力量に驚かされる。

➡ Martha Argerich Collection 2: The Concerto Recordings も参照

➡ アルゲリッチ & アバド 鋭敏なリズム感、表現の拡張性に挑戦 も参照

シューマン:ピアノ協奏曲/ショパン:ピアノ協奏曲第2番
シューマン:ピアノ協奏曲/ショパン:ピアノ協奏曲第2番

アルゲリッチは1957年ブゾーニ国際コンクールで16歳にして1位をとるが、その衝撃が大きすぎたか、同コンクールではその後3年間1位がでなかった。同年ジュネーヴ国際コンクールでも1位をさらい、そして1965年ショパン国際コンクールで優勝し、驚異的、鮮烈な世界デビューを果たす。

本集は、1978年1月ワシントン、ジョン・F・ケネディ・センターで、地元のワシントン・ナショナル交響楽団を、当時シェフになったばかりのロストロポーヴィチ(1977~1994年音楽監督)が振っての演奏。アルゲリッチ36歳のときの収録だが、これがいまも名演として燦然と輝く。アルゲリッチらしく完璧な技巧とそれを感じさせないくらいパッション溢れた演奏だが、ロストロポーヴィチが同じ波長で、全体を情熱的に包み込んでいる。

シューマンもさることながら、ショパンの第2番をライヴさながら、一瞬も弛緩せずにこれほど集中して聴かせる演奏は稀である。

➡ Martha Argerich Collection 2: The Concerto Recordings も参照

BEETHOVEN: PIANO CONCERTOS NO. 1 & 2
BEETHOVEN: PIANO CONCERTOS NO. 1 & 2

アルゲリッチは、ベートーヴェンのコンチェルトでは1番をよく取り上げている。8歳のデビューを飾ったときの1曲であり、彼女の感性とよく合うからであろうか。シノーポリは大指揮者のなかで、いわゆる全集を系統的に録音していくタイプではなく、これも自分の関心にそって曲目を選別する。その二人が邂逅したのがこのアルバムである。

小生にとっては好きなアーティストの共演であり、贔屓の引き倒しかも知れないが、いまだ1番ではベスト盤であり、2番も好演であると思う。特に、1番の終楽章、アルゲリッチのいつにない優しいタッチでのエンディングには特有の色香が漂い、なんど聴いてもぐっとくる。その後、どうだと言わんばかりの強奏でシノーポリが締めくくる。爽快な余韻があるだろう。アルゲリッチ44才、シノーポリ38才の1985年5月の収録である。

➡ Martha Argerich Collection 2: The Concerto Recordings も参照


ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番/ハイドン:ピアノ協奏曲第11番
ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏​曲第1番/ハイドン:ピアノ協奏​曲第11番

➡ アルゲリッチ、はち切れんばかりの表現力

アルゲリッチのショスタコーヴィチ、ピアノ協奏曲第1番の旧録音を聴く。本盤のはち切れんばかりの表現力は迫力抜群で、その身体的能力の高さには驚きを禁じ得ない。トランペットがときにシニカルな語部になったり(ちょっとムソルグスキー/ラヴェル版「展覧会の絵」を連想させる)、ときに警笛のような亀裂的な役割を果たすが、アルゲリッチの強力な表現力は、これを呑み込み、なお最大限に生かしつつも、ピアノが絶対的な優位のなかで存分の働きをする。古典的な親しみやすい曲に思えて、なかなか晦渋な表情もあるこの曲の特性を完全に見切っているかのようだ。併録のハイドンは一転軽快な好演。


アラウの魅力 真の職人芸 Claudio Arrau

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番&第5番「皇帝」
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番&第5番「皇帝」

アラウ晩年の「皇帝」。一切の気負いがなく、高音部が粒の揃った丁寧な演奏(特に第2楽章が絶品)。一音一音大切にリスナーに届けようという誠実さが伝わってくるようで、そこに感動の「原質」があるように思う。

さて、コリン・デイヴィスの演奏が聴きもの。コヴァセヴィッチとのバルトーク(協奏曲3曲)ではけっして出すぎず引き立て役に徹していたデイヴィスが、ここでは恬淡たるアラウに対して、バックで少しく劇的な背景を提供しているように感じる。あくまでもアラウの至芸を前面に、しかしいつになくアクセントをつけた熱っぽい追走である(特に第3楽章)。これは一種の感動への「触媒」といっていいかも知れない。その心栄え、掛け合いがなんとも清清しい。

→ Philips Years にて聴取。


リスト:ピアノ作品集
リスト:ピアノ作品集

1950年代初頭からアラウはリストを得意としており、晩年にいたるまで、ベートーヴェンやショパンとともに主要なレパートリーであった。

「超絶技巧練習曲」のような思い切り技量を発揮する演目から、「巡礼の年」のような静謐なポエティックな曲まで、アラウは豊富な経験からしかと手中にしている。前者ではことさらに技巧を誇示せず、むしろテンポをしっかりと保ち、後者ではあえて過度な感情移入を抑制しているように感じる。これは、技巧的な曲は華麗に、詩的な曲は叙情たっぷりにという「のめり込み」タイプではなく、あくまでも沈着冷静な「中庸」型。抜群の安定度が持ち味であり、これぞ晩年までリストを十全に弾きえた大家アラウ流ともいえようか。本盤はそのエッセンスである。

→ リスト・ソロ・レコーディングス クラウディオ・アラウ 5枚組 にて聴取


ショパン:ワルツ全集
ショパン:ワルツ全集

アラウはショパンを系統的に録音した。「24の前奏曲」(1973年)、「バラード集:第1番~第4番」(1977年)、「夜想曲全集:第1番~第21番」(1978年)、「スケルツォ集:第1番~第4番」(1984年)、そして本「ワルツ集:第1~19番」(1979~1980年)などである。

アラウのショパンを聴いていると、単純で無邪気な明るさから、陰陰鬱鬱たる感情の深い屈折まで、実に丁寧に表現していると感じる。ショパンの心象は実に複雑で、音楽の凝縮感の技法は天才的である。アラウは没入型とはちがい、一歩下がったところから、客観的に、しかし十分な愛情をもってショパンに臨場している。ワルツ集ではとくに気高き抒情性が屹立している。座右の名盤である。


Etudes Op.10 Et 27 - Arrau
Etudes Op.10 Et 27 - Arrau

アラウはショパンを系統的に録音した。「24の前奏曲」(1973年)、「バラード集:第1番〜第4番」(1977年)、「夜想曲全集:第1番〜第21番」(1978年)、「ワルツ集:第1〜19番」(1979〜1980年)、「スケルツォ集:第1番〜第4番」(1984年)などである。

さて、本「練習曲集」(Op.10、Op.25、3つの新しい練習曲、演奏会用アレグロ Op.46)は、それらのはるか以前の1956年録音(モノラル)。しかし、音はリマスターでそれなりに鮮度がある。

アラウのショパンを聴いていると、単純で無邪気な明るさから、陰陰鬱鬱たる感情の深い屈折まで、実に丁寧に表現していると感じる。ショパンの心象は実に複雑で、音楽の凝縮感の技法は天才的である。アラウは没入型とはちがい、一歩下がったところから、客観的に、しかし十分な愛情をもってショパンに臨場している。練習曲集ではとくに感情の屈折が大きく、アラウ50才台のパワーあふれる集中度が伝わってくる。歴史的な名演と思う。

→ Serious Wizard of Sound にて聴取

アラウは健康に恵まれ長寿で晩年まで活躍したので音源は多い。ソナタでは、全般にテンポが緩やかで情感表現が豊かゆえ、素直に曲想に入っていけるのが好ましい。特に、ショパンでは演奏家が前面に立つような派手さを嫌い、中庸の大家らしい解釈の深さを自然に感じさせる。音量を控えイン・テンポを守った演奏スタイルはドイツ音楽に限らず、あらゆる作品に適応するアラウならではのアプローチである。

土曜日, 7月 22, 2017

今日の気分は リパッティ Dinu Lipatti

生誕100年記念BOX ~ リパッティ・コレクション (100th Anniversary Edition ~ Dinu Lipatti Collection) [12CD Box] [輸入盤] [日本語帯・解説・歌詞対訳付]
生誕100年記念BOX ~ リパッティ・コレクション (100th Anniversary Edition ~ Dinu Lipatti Collection) [12CD Box] [輸入盤] [日本語帯・解説・歌詞対訳付]

しばらく聴かないと、ときたま古巣にかえるようにふとリパッティを取り出したくなる。なぜかはよくわからないが、これも一種の中毒症状かも知れない。
クラシック音楽に親しむと、リパッティへの関心はだれでもが一度は抱くと思う。
美男にして抜群の技量、惜しまれての夭折、そして晩年の鮮烈なエピソードなど、永遠の若手天才ピアニストの線条的な生きざまは、とてもドラマティックである。

最近、100 Piano Masterworks  を聴いていて、現代のピアニストのテクニックの凄さと感性の柔らかさには感心しつつ、一方でリパッティの凄さに改めて刮目した。

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リパッティは、自身も作曲をし、また独特の音楽的感性から他の編曲者への関心も高かった。潜在的なレパートリーは下記をみても豊富だが、病をえてからはそれを広げることはおそらく難しかったであろう。
ショパンのワルツ集を除けば、重複して収録したもの(※※は2つ、※※※は3つの音源を表示)はけっして多くない。むしろ、最晩年の録音を別とすれば周到に考え抜いて曲目を選び、後世に貴重な記録を残してくれた。
今日の厳格なテクスト主義とは異なれども、抜群の技量のもと、タッチの柔らかさと、思念の豊かさでは現代の若手ピアニストの演奏を先取りしているようにも感じるときがある。

なお、いまなら Dinu Lapatti Collection: 100th Anniversary Edition (12CD) でより廉価で入手可能。

<収録情報>
【J.S バッハ】
パルティータ第1番変ロ長調 BWV.825
アルマンド~パルティータ第1番変ロ長調 BWV.825(チェンバロ、ピアノ)※※
ブゾーニ編:「トッカータ ハ長調」による即興(チェンバロ演奏)
ブゾーニ編:いざ来たれ、異邦人の救い主よ BWV.659
ブゾーニ編:主イエス・キリスト、われ汝を呼ぶ BWV.639※※
ブゾーニ編:ピアノ協奏曲第1番ニ短調 BWV.1052
ヘス編:主よ、人の望みの喜びよ BWV.147※※※
ケンプ編:シチリアーノ~フルート・ソナタ第2番 BWV.1031

【D.スカルラッティ】
ソナタ ホ長調 L.23
ソナタ ト長調 L.387, K.14
ソナタ ニ短調 L.413

【モーツァルト】
ピアノ協奏曲第21番ハ長調 K.467
ピアノ・ソナタ第8番イ短調 K.310※※

【シューベルト】
即興曲 変ホ長調 D.899-2
即興曲 変ト長調 D.899-3

【シューマン】
ピアノ協奏曲イ短調 Op.54※※
交響的練習曲 Op.13~第9変奏

【ショパン】
ピアノ協奏曲第1番ホ短調 Op.11
練習曲 変ト長調 Op.10-5『黒鍵』※※
練習曲 ホ短調 Op.25-5
ピアノ・ソナタ第3番ロ短調 Op.58
ノクターン第8番変ニ長調 Op.27-2※※
華麗なワルツ第2番変イ長調 Op.34-1
ワルツ集※※(第1番~第14番、うち第3番※※※)
マズルカ第32番嬰ハ短調 Op.50-3
舟歌 Op.60

【リスト】
ピアノ協奏曲第1番変ホ長調
ペトラルカのソネット第104番
演奏会用練習曲『軽やかさ』
小人の踊り

【ブラームス】
間奏曲 イ短調 Op.116-2
間奏曲 変ホ短調 Op.117-1
間奏曲 変ロ短調 Op.117-2
間奏曲 変ホ短調 Op.118-6(断片)
ワルツ Op.39~第1,2,5,6(2種),10,14,15番
ワルツ集『愛の歌』 Op.52(全18曲+第1曲繰り返し)

【グリーグ】
ピアノ協奏曲イ短調 Op.16

【ラヴェル】
道化師の朝の歌
バズレール編:ハバネラ形式による小品

【フォーレ】
カザルス編:夢のあとに Op.7-1

【リムスキー=コルサコフ】
熊蜂の飛行

【バルトーク】
ピアノ協奏曲第3番

【エネスコ】
ピアノ・ソナタ第1番嬰へ短調~第2楽章
ブーレ~ピアノ組曲第2番ニ長調 Op.10
ピアノ・ソナタ第3番ニ長調 Op.24
ヴァイオリン・ソナタ第2番ヘ短調 Op.6
ヴァイオリン・ソナタ第3番イ短調 Op.25

【リパッティ】
古典様式による小協奏曲 Op.3 ※※
左手のためのソナチネ
ルーマニア舞曲集

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グリーグ&シューマン:ピアノ協奏曲
グリーグ&シューマン:ピアノ協奏曲

グリーグ&シューマンのピアノ協奏曲集は、パッケージ販売の定番。演奏時間や音楽の雰囲気でシナジー効果が高いからであろう。しかし、両曲ともに天下の名演というのはなかなか難しい。
小生は、リヒテルとマタチッチのユニークな組み合わせによる1枚 グリーグ & シューマン: ピアノ協奏曲(クラシック・マスターズ) がお気に入りだが、このリパッティ盤も別のテイストで得難い演奏。シューマンの第2楽章を聴くと、ゆっくりとしたテンポのなか、リパッティの凛とした抒情性をクリアに浮き彫りにし、これをシルキーに包み込むようなカラヤンの追走に惚れ惚れする。その一方、同じフィルハーモニー管を振っての1年違いの収録なのに、グリークでは、リパッティの至芸はかわらないが、ガリエラの音づくりは、甘ったるく雑味があるように感じてしまう。安普請の書割りといっては失礼かも知れないが、カラヤンとの差は歴然。

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ブザンソン音楽祭における最後のリサイタル(クラシック・マスターズ)
ブザンソン音楽祭における最後のリサイタル(クラシック・マスターズ)

演奏家、コンサートの関係者、そして当日の聴衆も、演奏家本人の死期が近いことを知りながらそこに臨場している。演奏家は直前に一時しのぎの注射を何本も打ち、渾身の力を振り絞ってピアノの前に座ったという。その演奏家は「聖者のような風格があった。彼の思考と行動の高潔さと高遠さ、彼の善良さと寛大さは周囲の人たちに信頼と希望と思いやりをよびさました」(録音を担当したウォルター・レッグの追悼文)。そして、本コンサートは「あの死滅した星がその光輝によってなおわれわれに光を与えてくれるように」(マドレーヌ・リパッティ夫人の言葉/三浦淳史訳、以上ライナーノートより引用)いまも聴きつがれる玲瓏なる奇跡の記録である。

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