土曜日, 4月 23, 2016

バンベルク響 Bamberger Symphoniker  Bayerische Staatsphilharmonie



バンベルク市街

バンベルクはドイツにおける「大学都市であり、大司教の都市であり、ビールの都であり、行政都市である。この街は、人口約20万人の人口密集地域の中規模中心都市であり、オーバーフランケン地方の重要な中心地である」。


かつてバイロイト音楽祭に行く際に、家族はバンベルクに泊めて、一人でバイロイトへ。翌日、家族を迎えに行った。料理は田舎風ながら美味しく、ビールも独特で個性のある町だなと思った。旧市街地は歴史的建造物の宝庫で、いまや世界遺産になっている。

ここを拠点とするバンベルク響は、岩城宏之氏が親しかったこともあり日本でも著名である。首席指揮者は、ヨーゼフ・カイルベルト(1940 - 1945年)、ヘルベルト・アルベルト(専任指揮者、1946- 1948年)、ゲオルク・ルートヴィヒ・ヨーフム(専任指揮者、1948 - 1949年)、ふたたびカイルベルト(1949 - 1968年)、オイゲン・ヨッフム(芸術顧問、1968 - 1973年)、ジェームス・ロッホラン(1979 - 1983年)、ヴィトルド・ロヴィツキ(芸術顧問、1983 - 1985年)、ホルスト・シュタイン(1985 - 1996年)、ジョナサン・ノット(2000 - )となっている。


 
以下は、The First 70 Years について
 
来日も多く日本でもファンの多いバンベルク響の17枚組の廉価盤集。バンベルクにはかつて滞在したこともあるが、田舎町ながら歴史的資源や独自の食文化を背景に分厚い伝統と誇りをもったドイツの名都である。
本集では以下のリストのとおり、ブルックナー、マーラー、R.シュトラウスなどは比較的録音が新しく魅力あるラインナップである。一方、このオーケストラの渋くて重い独特の風格ある音楽を満喫したいという意味では、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームスなどの主力分野が気になるところである。

ベートーヴェンでは、1番は所収されているが、抜群の定評のあるカイルベルトで、:交響曲第1番&第2番:交響曲第3番《英雄》&序曲集(1):交響曲第5番《運命》&第6番《田園》:交響曲第7番&序曲集(2) などははもっと入れてほしかった。また、シューベルトでは、ホルスト・シュタインの堂々たる全集( シューベルト:交響曲全集 )もある。さらに、ブラームスでは、比較的新しいエマニュエル・ クリヴィヌの全集( ブラームス:交響曲全集 )も注目されたところ。こうして見ると、演目と指揮者をあまり分散させずに、主力分野に集中して目玉づくりをしてほしかったと思うのは、オールド・ファンのないものねだりであろうか。

<収録情報>(カッコ内録音時点)
【モーツァルト】
・交響曲第38番『プラハ』 カイルベルト(1940年10月9-10日※)
・交響曲第40番 カイルベルト(1959年7月)
・交響曲第41番『ジュピター』 ヨッフム(1982年3月)
・フリーメイソンのための葬送音楽 K.477 ヨッフム(1982年3月)
・ハフナー・セレナード K.250 ライトナー(1951年12月)
・ピアノ協奏曲第24番 ケンプ(ピアノ)、ライトナー(1960年4月)
・ピアノと管弦楽のためのロンド K.386 カール・ゼーマン(ピアノ)、レーマン(1952年10月)
【ベートーヴェン】
・交響曲第1番 カイルベルト(1958年7月)
・交響曲第6番『田園』 ザンデルリング(1998年4月23日、ライヴ)
・『コリオラン』序曲 カイルベルト(1954年8月)
・『エグモント』序曲 ヨッフム(1985年10月)
【ウェーバー】
・歌劇『オイリアンテ』序曲 ケンペ(1963年6月)
・歌劇『オベロン』序曲 クレメンス・クラウス(1953年1月)
【シューベルト】
・交響曲第8番『未完成』 ケンペ(1963年6月)
【ワーグナー】
・歌劇『リエンツィ』序曲 ホルスト・シュタイン(1986年12月)
・『トリスタンとイゾルデ』より前奏曲 ジョナサン・ノット(2012年9月8日、ライヴ)
【ブラームス】
・交響曲第1番 ホルスト・シュタイン(1997年9月)
・交響曲第4番 ブロムシュテット(1995年10月9日、ライヴ)
【ブルックナー】
・交響曲第4番『ロマンティック』 ホルスト・シュタイン(1987年10月)
・交響曲第9番 ヴァント(1995年7月7日、ライヴ)
【マーラー】
・交響曲第1番『巨人』 ジョナサン・ノット(2006年2月)
・交響曲第4番 エディット・ガブリー(ソプラノ)、ケルテス(1971年1月8日、ライヴ)
・さすらう若者の歌 ノーマン・フォスター(バリトン)、ホーレンシュタイン(1953年9月)
【R.シュトラウス】
・アルプス交響曲 ホルスト・シュタイン(1988年5月)
・メタモルフォーゼン シノーポリ(1995年12月9日、ライヴ)
・歌劇『ばらの騎士』より「ワルツ」クレメンス・クラウス(1953年1月)
・交響詩『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯』、『ドン・ファン』
ヨッフム(1984年3月)
・4つの最後の歌 ゲニア・キューマイヤー(ソプラノ)、ジョナサン・ノット(2014年9月8日、ライヴ)
【プフィッツナー】
・歌劇『パレストリーナ』より前奏曲 カイルベルト(1943年3月21日※)
【ドヴォルザーク】
・交響曲第8番 レーマン(1953年3月)
・スラヴ舞曲集 ドラティ(1974年3月)
【スメタナ】
・歌劇『売られた花嫁』(抜粋) ケンペ(1962年12月)
・『わが祖国』より「モルダウ」、「ボヘミアの森と草原から」カイルベルト(1961年6月、1962年6月)
【J.シュトラウス2世】
・ワルツ『芸術家の生活』 カイルベルト(1956年10月)
・ワルツ『春の声』 ライトナー(1952年8月)
【グリーグ】
・『ペール・ギュント』第1組曲 スイトナー(1952年8月)
【チャイコフスキー】
・幻想序曲『ロメオとジュリエット』 レーマン(1952年2月)
【ヴェルディ】
・歌劇『運命の力』序曲 サヴァリッシュ(1953年10月)
【ストラヴィンスキー】
・バレエ音楽『春の祭典』 ジョナサン・ノット(2006年2月)

※プラハ・ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団

 

土曜日, 4月 16, 2016

ミュンシュの幻想交響曲 Charles Munch Symphonie fantastique














べルリオーズの伝記(『小説ベルリオーズ』ジャン・ルスロ著, 横山 一雄訳 音楽之友社1975)を読むと「幻想交響曲」の生成過程がよくわかる。ワーグナーほどではないが、この人も相当、波瀾万丈の生き様をのこしている。彼の人生は「恋愛と恋愛の苦悩にほかならなかった」(ロマン・ロラン)というのもうなずける。

イギリスの女優ハリエットへの熱愛、挫折をへて後のベルリオーズの社会的成功とともに、思いが叶い幸福の絶頂となるが、実はこれが生涯の心労のはじまり。後半生、男女愛憎乱れる複雑な人間関係に発展していくことになる。作品が作曲家の実生活と関係しているかどうかは、音楽を聴くうえでさして重要でない場合も多い。しかし、標題音楽をかかげ一種の私小説的なストーリー性をもった「幻想交響曲」の場合は別である。あのなんとも魔的でおどろおどろしい世界は、毒をふくんだような強烈な刺激をもっているし、ベルリオーズの創作の秘密(懊悩をスコアにぶつける方法論)もそこにあると言ってよいと思う。

「幻想」での悲恋はその後、紆余曲折をえて実り、ベルリオーズは憧れのハリエット・スミスソンと結ばれる。しかし、実はここからが新たな男女の縺れのはじまりであり、 ベルリオーズは社会的な名声をえる一方でスミスソン、そして若い愛人との婚姻、恋愛関係では一生悩むことになる。つまり、「幻想」はその後現実に雲散霧消したのではなく終生、ベルリオーズにメフィストのように纏わりつくのである。 彼は死の床で第5章を反芻していたかも知れない。

さて、その「幻想交響曲」をいかに演奏するか。シャルル・ミュンシュの書いた『指揮者という仕事』(福田 達夫訳、春秋社1994)は、この点でとても参考になる本である。ミュンシュは、ある意味、気まぐれで空ろぎやすい聴衆に、いかに音楽を聴かせるかに意を砕くが、「彼は音楽のドラクロアであるが、それは彼が厳密な計画にしたがって組み立てているからではなく、大きな色斑をまき散らした大壁画(フレスク)によってやっているからだ。すべてが自然よりも壮大であり行き過ぎている」(p.73)と言う。

 
 シャルル・ミュンシュは、ドイツ語読みではカール・ミュンヒ (Karl Münch)、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団で、フルトヴェングラーやワルターの下でコンサートマスターを務めていたことはよく知られている。弦楽器の使い方の巧みさ、その音色の澄んだ響きは、この時の自らの豊富な経験からか。

ベルリオーズ:幻想交響曲(1954年録音)&歌劇「トロイ人」より王の狩りと嵐(期間生産限定盤)


ミュンシュ/ボストン交響楽団による幻想交響曲。「幻想」では、クリュイタンス、マルケヴィッチやベイヌムも良い演奏だが、ミュンシュのちょっと真似のできないスケール感はやはり大書しておくべきだろう。ミュンシュには多くの録音があるがこれは旧盤。


構えが大きく立派で、全般に運行早く軽快なテンポを保ち、熱っぽく汗が迸るような演奏であることがミュンシュの特色である。
 
クラシック音楽を聴きはじめた頃、1968116日にミュンシュは逝去した。直後の11日に追悼記念コンサートのテレビ放映があり、その演目は「幻想」であった。当時は、こうした映像自身がめったに紹介されることがなかったから、この貴重な記録を食い入るように魅入った思い出がある。十八番を演じる千両役者の風格があった。 

【以下は引用】
情熱とドラマが持ち味だったミュンシュのトレードマーク、幻想交響曲。
フランスの大指揮者、シャルル・ミュンシュのボストン交響楽団音楽監督時代の録音。ベルリオーズの「幻想交響曲」は、広い守備範囲を誇ったミュンシュのレパートリーのなかでも中心的な作品で、生涯に5回も録音している。そのうち2回はボストン交響楽団とのもので、本作はその最初の方。54年というステレオ最初期の録音ながら圧倒的な鮮度を保ち、華麗なサウンドを構築するミュンシュの手腕に名門ボストン響が十全に応えている。
http://www.amazon.co.jp/dp/B00SRVBTK4/ref=cm_cr_asin_lnk

ベルリオーズ:幻想交響曲


ミュンシュらしい大書揮毫のような思いきった迫力の演奏。しかし、力押しばかりではなく、たっぷりと叙情の旋律をふくませた懐の深さも特質。テンポは緩急自在、全般には速く凝縮された緊張感が支配するが、第3楽章冒頭や中間部などでは大胆に減速しボストン響の木管の名手の腕も最大限アピールしている。このあたりの差配のうまさこそ老練さのなせる技だろう。また、弦楽器には濃やかな表情づけをほどこし、饒舌なささやきぶりは、一途な純情と抑えきれない情念の内面的確執の見事な語り手となっているようだ。管楽器のボリューム感も十分、終楽章では2音階の鐘も立役者として前面にでる。

【以下は引用】
シャルル・ミュンシュ指揮、ボストン交響楽団演奏によるアルバム。巨匠ミュンシュの十八番であった「幻想交響曲」にはいくつもの録音が残されている。本作はその中で、より大きな起伏の描き方がさえる1962年録音を収録。
ベルリオーズ:幻想交響曲

 
ベルリオーズ:幻想交響曲(クラシック・マスターズ)

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<以下はHMVからの引用>

1967年、フランス文化相アンドレ・マルローの提唱により創設されたパリ管弦楽団は「諸外国にパリおよびフランスの音楽的威信を輝かすこと」を使命とされた、まさにフランスが世界に誇ることを目指したオーケストラでした。その初代音楽監督に選ばれたのが、70歳を越えたフランスを代表する指揮者、シャルル・ミュンシュ。この『幻想交響曲』はミュンシュが最も得意とした曲のひとつであり、パリ管弦楽団の記念すべき最初の演奏会での演目。熱のこもった力溢れる名演です。
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当時、アンドレ・マルローの威令はゆきとどき、小生もご多聞にもれず流行していた彼の小説を何冊か読んだ(いまはほとんど内容を忘れているが、人の顔の抉るような描写のうまさに感心したことだけは覚えている)。

マルロー閣下主導、鳴り物入りのパリ管だったが、結果的にミュンシュは無理がたたり命を縮めてしまったような気がする。1967年の「幻想」はまさにパリ管への悲しき置き土産となった。

この演奏は、けっして「美しく」はない。むしろ、ベルリオーズのもつおどろおどろしさも垣間見えるし、腺病質的な危うさもときに顔をだす。「幻想」のもつ複雑な心理描写をトータルとしてもっとも的確に表現しているように思う。

 ボストン時代から手中の演目だが、ミュンシュは録音にあたって吟味し直し考えぬき、表現しつくしてやろうとの気概のようなものを感じる。
 
なお、パリ管への管弦楽の統制は緩めで、パート演奏がややデフォルメされる傾向もある。ここを次に音楽監督についたカラヤンは気にいらず鍛えなおしたエピソードは有名。その意味では、ミュンシュ/ボストン響の完成度の高い演奏を第一とする見方もある。

ベルリオーズ 幻想交響曲
ミュンシュ
 織工 の選ぶ 幻想交響曲 10選
 



土曜日, 4月 09, 2016

クリュイタンス André Cluytens

Cluytens,

http://www.yung.jp/Music/?p=479

クリュイタンスは好きな指揮者の一人だが、最近、フランス音楽を集中的に聴いているのでCDを取り出す機会が増えている。

クリュイタンス(André Cluytens, 1905326 - 196763日)。ベルギーのアントウェルペン出身でフランスものでは第一級の録音を残した名指揮者。

◆クリュイタンス Thursday, March 08, 2012
http://shokkou3.blogspot.jp/2012/03/blog-post.html

§1 まずは代表盤の筆頭からベルリオーズ「幻想交響曲」

ベルリオーズ:幻想交響曲「ローマの謝肉祭」/序曲「海賊」
ベルリオーズ:幻想交響曲「ローマの謝肉祭」/序曲「海賊」

1958年11月の古い音源ながら、いまだにその価値がいささかも減じない名演。第2、3楽章のメロディの美しさには思わず絶句するが、音楽が一瞬たりとも淀むことなく透明感をもって清々と流れていく快感がたまらない。また、管弦楽の各パートのバランスが絶妙で、(第4楽章の冒頭のティンパニーなど一部を除き)特定の楽器が過度に自己を主張することがなく、全体の「音束」が均一に整序されている。

 多くの「幻想」の名盤があるが、腺病質的な部分が抑制され仄かな明るい基調に支配されていること、純音楽的に磨かれた美しさこそが本盤の最大の特色だろう。一方、リズムは可変的に刻まれ弛みがないようにきっちりとコントロールされており、「こけおどし」的大音量などはなくとも内燃的な迫力は十分。知的で抜群のセンスのよさでは他の追随をいまも許していない。

 なお、序曲2曲はフランス国立放送管の演奏で1961年3月の録音。こちらも楽しめる佳演。


フォーレ:レクイエム≪クラシック・マスターズ≫

§2 次はフォーレの「レクイエム」。これもいまだベスト盤の一角をしめる。

◆フォーレ『レクイエム』クリュイタンス名盤 Sunday, May 31, 2015
http://shokkou3.blogspot.jp/2015/05/blog-post_31.html


フォーレの『レクイエム』、あまりに有名なのだが、その良さに本当に気づくには相応な時間もかかるように思う。普段、ipotに入れて聴いているのだが、嫋々とした音楽は朝の出勤時には向いていない。朝に元気をもらう(というのもレクイエムでは変だが・・・)ということだと、ヴェルディの『レクイエム』がいい。 

しかし、夜の帳が降りてから、じっくりと耳を傾けるなら、この美しく、思索的な音楽は高ぶった神経を鎮静化する効果がある。フォーレのしっとりとした、しなやかで、品位のある響きをクリュイタンスほど見事に表現した演奏をいまだ知らない。

§3 ドビュッシーもお家芸。ラヴェルでは多くの指揮者の名盤犇めくが、ドビュッシーは難関。クリュイタンスの演奏はひとつの規範。


ドビュッシー:「遊戯」、「映像」(SACDハイブリッド)
ドビュッシー:「遊戯」、「映像」(SACDハイブリッド)

ドビュッシーには明らかに現代音楽の先駆の顔がある。しかも、一筋縄ではいかない狷介さもあわせもっている。「遊戯」や「映像」という標題性や具体的な楽曲につけられた解説を読んで、イメージをふくらませることはできるが、聴後に、それだけでは得心できないものを感じるリスナーも多かろう。

ドビュッシー音楽のこのような複雑な構造を、クリュイタンスは「あるがまま」に描き出そうとしているようだ。標題性の強調よりも、斬新なパーカッションの使い方や、弦楽器のデフォルメされたグラマラスな響きなどを実に慎重に扱いながら、魅力的な音楽空間をそこに創り出している。たとえば、フォーレのレクイエムでみせた「非作為」のスタンスから導かれる自然の美しさの表出をここでも感じる。

クリュイタンスという秀でた指揮者は、どんな音楽でも、彼のもつ抜群の平衡感覚で素材の良さを最大限に引き出せるところにあるのでないか。クリュイタンスの手によって、ドビュッシー音楽の先駆性を考えさせられた1枚である。



§4 コンチェルトも渋い名演を多く残している。

Gilels Plays Saint-Saens, Rachmaninov, Shostakovich
Gilels Plays Saint-Saens, Rachmaninov, Shostakovich

【以下は協奏曲第3番について】

1955年6月13日、ギレリス、クリュイタンス/パリ音楽院管弦楽団のパリでの演奏。両者の組み合わせの代表盤。録音は古いが内容は充実。ギレリスのピアノは、ラフマニノフ本人の音源と比較しても、表現が落ち着いており、かつ響きの美しさが際立つ。一方、マイクセッティングのせいもあるかも知れないが、クリュイタンスの追走は全体として、柔らかく抱擁する風のような自然さを感じさせる。第2楽章など難しいパッセージの処理でも両者の呼吸はよくあっており一体感を醸成する一方、第3楽章では思いのほか熱く盛り上がるなど緩急の妙も楽しめる。


録音時点ではラフマニノフは今日のような一大ブームにはなっておらず、両名匠ともに、共感する「現代(同時代)音楽」に挑戦してみようといった積極的な意欲を感じさせ、それがリスナーに直に伝わってくる。

なお、本盤は、ギレリス、クリュイタンス両者の<クロス・ポイント>的な存在で、ギレリス Icon: Emil Gilels, 25th Anniversary of Death にも、クリュイタンス The Cluytens Box - The Collection of His Greatest Hits にも所収されている。

→ Sergey Rachmaninov: Orchestra Works, Piano Concertos, Aleko にて聴取。



Beethoven: Piano Concerto No.4 / Franck: Symphony
Beethoven: Piano Concerto No.4 / Franck: Symphony

ベートーヴェンで定評あるグルダと名匠クリュイタンスの4番の協奏曲。グルダは、いつもながらの深い学究と暖かな温もりを感じさせる秀でた演奏ながら、オーケストラの追走がちぐはぐ(特に第1楽章の出来がよくない)で全体としての完成度には難がある。

その一方、名誉挽回か、フランク交響曲(クリュイタンス唯一の本曲ステレオ盤)は打ち込んだ熱演でこちらが聴きもの。循環形式による交響曲ゆえ、主要なテーマが千変万化しながら執拗に繰り返され次第に熱気を帯びていくーライヴならではの高揚感も加わって印象的なメロディが次第に耳に刻み付けられていくように響く。クリュイタンスの手中の演目であり見事な名演である。

<収録情報>
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 Op.58
・フランク:交響曲 ニ短調
 フリードリヒ・グルダ(p)
 アンドレ・クリュイタンス(指揮)スイス・イタリア語放送管弦楽団
 録音:1965年5月14日、ルガーノ[ステレオ]

→ Great Concertos にて聴取



§5 この人の凄さは、フランスものに限定されない。ワーグナーでの成果も。

Wagner: Bayreuth Live
Wagner: Bayreuth Live

バイロイトの古いライヴ音源(モノラル)で、クリュイタンスが指揮した下記の3演目を聴くことができる。Membranレーベルからはすでに Wagner's Vision: Bayreuth Heritage という50枚組の同種のバイロイト・ライヴ集が出ており、いまや多様な選択肢が用意されている。

日本では、フォーレやベルリオーズなど<フランスもの>の名匠というイメージが強いクリュイタンスが、当時の欧州においてバイロイトの「常連」であり、ワーグナーについても得意の演目であったことを知ることができる。
かつての、バイロイト・ライヴ経験では、音量の巨大さよりも木製ホール特有の残響効果があり、音のしとやかでしなやかな伸びの良さや中声部が美しく通る音楽空間に驚いた。
そうしたバイロイトの設計思想からは、実はクリュイタンスの柔らかでまろやかな音作りは本3演目のようなファンタジックで劇的な演目では適合力が高いとも言える。クリュイタンス・ファンには待望な廉価盤集である(→ "Andr' Cluytens / A Collection of His Best Recordings も参照)。

【収録情報】
・『ローエングリン』(1958年)

 シャンドール・コーンヤ(ローエングリン)
 レオニー・リザネク(エルザ)
 アストリッド・ヴァルナイ(オルトルート)
 エルネスト・ブランク(テルラムント)
 キート・エンゲン(ハインリヒ)
 エーベルハルト・ヴェヒター(軍令使)他

・『タンホイザー』(1955年)

 ヴォルフガング・ヴィントガッセン(タンホイザー)
 ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(ヴォルフラム)
 グレ・ブロウェンスティーン(エリーザベト)
 ヘルタ・ヴィルヘルト(ヴェーヌス)
 ヨゼフ・グラインドル(ヘルマン)他

・『ニュルンベルクのマイスタージンガー』(1957年)

 グスタフ・ナイトリンガー(ザックス)
 ヨゼフ・グラインドル(ポーグナー)
 エリーザベト・グリュンマー(エーファ)
 ヴァルター・ガイスラー(ヴァルター)
 カール・シュミット・ヴァルター(ベックメッサー)他

以上、クリュイタンス/バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団


§6 最後に、廉価盤では以下がお奨めです。

Andre Cluytens - Noble Maitre de Musique
Andre Cluytens - Noble Maitre de Musique

アンドレ・クリュイタンスは、1949年ミュンシュの後任としてパリ音楽院管弦楽団の首席指揮者に就任し、67年逝去するまで君臨する。本集は、フランス国立放送管弦楽団との50年代の録音が中心。よって、パリ管を主とすれば兼任したフランス国立は従、またその後60年代の新録もあるので旧録扱いということもあって、この廉価となっている。
また、同じMEMBRANレーベルからは、すでに10枚組の "Andr' Cluytens / A Collection of His Best Recordings もでており、本集とは下記モーツァルトなど一部演目でダブりもある点も留意。
クリュイタンスの演奏を聴いていると、柔よく剛を制すという言葉を連想する。どの演奏でも角がとれたまろやかな響きは、よく伸びかつ奥行きが深い。
たとえば、いまだ決定的名演といわれる1962年2月新録の フォーレ:レクイエム。下記は遡ること12年前のものだが、その一貫した解釈にまったくブレがないことがわかる。ラヴェル、ダンディなども上品、しなやか、エスプリの効いた佳演。録音の古さは承知で、壮年期のその芸風を知るには良いセットである。 

【収録情報】(記載のないオケはフランス国立放送管弦楽団、カッコ内録音年)

・モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番(1955年)クララ・ハスキル(ピアノ)
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番(1952年)ソロモン(ピアノ)、フィルハーモニア管弦楽団
・フランク:交響曲ニ短調(1953年)
・フォーレ:レクィエム(1950年)マルタ・アンジェリシ(ソプラノ)、ルイ・ノグェラ(バリトン)、モーリス・デュリュフレ(オルガン)サン・ユスターシュ管弦楽団&合唱団
・ビゼー:交響曲ハ長調(1953,1954年)
・ドビュッシー/カプレ編:バレエ音楽『おもちゃ箱』(1953,1954年)
・ラヴェル:『ダフニスとクロエ』第1、2組曲(1953年)
・ラヴェル:組曲『クープランの墓』(1953年)
・ダンディ:フランスの山人の歌による交響曲(1953年)アルド・チッコリーニ(ピアノ)、パリ音楽院管弦楽団