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クリュイタンスは好きな指揮者の一人だが、最近、フランス音楽を集中的に聴いているのでCDを取り出す機会が増えている。
クリュイタンス(André Cluytens, 1905年3月26日 - 1967年6月3日)。ベルギーのアントウェルペン出身でフランスものでは第一級の録音を残した名指揮者。
§1 まずは代表盤の筆頭からベルリオーズ「幻想交響曲」
多くの「幻想」の名盤があるが、腺病質的な部分が抑制され仄かな明るい基調に支配されていること、純音楽的に磨かれた美しさこそが本盤の最大の特色だろう。一方、リズムは可変的に刻まれ弛みがないようにきっちりとコントロールされており、「こけおどし」的大音量などはなくとも内燃的な迫力は十分。知的で抜群のセンスのよさでは他の追随をいまも許していない。
なお、序曲2曲はフランス国立放送管の演奏で1961年3月の録音。こちらも楽しめる佳演。
フォーレの『レクイエム』、あまりに有名なのだが、その良さに本当に気づくには相応な時間もかかるように思う。普段、ipotに入れて聴いているのだが、嫋々とした音楽は朝の出勤時には向いていない。朝に元気をもらう(というのもレクイエムでは変だが・・・)ということだと、ヴェルディの『レクイエム』がいい。
しかし、夜の帳が降りてから、じっくりと耳を傾けるなら、この美しく、思索的な音楽は高ぶった神経を鎮静化する効果がある。フォーレのしっとりとした、しなやかで、品位のある響きをクリュイタンスほど見事に表現した演奏をいまだ知らない。
ドビュッシー:「遊戯」、「映像」(SACDハイブリッド)
ドビュッシーには明らかに現代音楽の先駆の顔がある。しかも、一筋縄ではいかない狷介さもあわせもっている。「遊戯」や「映像」という標題性や具体的な楽曲につけられた解説を読んで、イメージをふくらませることはできるが、聴後に、それだけでは得心できないものを感じるリスナーも多かろう。
ドビュッシー音楽のこのような複雑な構造を、クリュイタンスは「あるがまま」に描き出そうとしているようだ。標題性の強調よりも、斬新なパーカッションの使い方や、弦楽器のデフォルメされたグラマラスな響きなどを実に慎重に扱いながら、魅力的な音楽空間をそこに創り出している。たとえば、フォーレのレクイエムでみせた「非作為」のスタンスから導かれる自然の美しさの表出をここでも感じる。
クリュイタンスという秀でた指揮者は、どんな音楽でも、彼のもつ抜群の平衡感覚で素材の良さを最大限に引き出せるところにあるのでないか。クリュイタンスの手によって、ドビュッシー音楽の先駆性を考えさせられた1枚である。
1955年6月13日、ギレリス、クリュイタンス/パリ音楽院管弦楽団のパリでの演奏。両者の組み合わせの代表盤。録音は古いが内容は充実。ギレリスのピアノは、ラフマニノフ本人の音源と比較しても、表現が落ち着いており、かつ響きの美しさが際立つ。一方、マイクセッティングのせいもあるかも知れないが、クリュイタンスの追走は全体として、柔らかく抱擁する風のような自然さを感じさせる。第2楽章など難しいパッセージの処理でも両者の呼吸はよくあっており一体感を醸成する一方、第3楽章では思いのほか熱く盛り上がるなど緩急の妙も楽しめる。
録音時点ではラフマニノフは今日のような一大ブームにはなっておらず、両名匠ともに、共感する「現代(同時代)音楽」に挑戦してみようといった積極的な意欲を感じさせ、それがリスナーに直に伝わってくる。
なお、本盤は、ギレリス、クリュイタンス両者の<クロス・ポイント>的な存在で、ギレリス Icon: Emil Gilels, 25th Anniversary of Death にも、クリュイタンス The Cluytens Box - The Collection of His Greatest Hits にも所収されている。
→ Sergey Rachmaninov: Orchestra Works, Piano Concertos, Aleko にて聴取。
その一方、名誉挽回か、フランク交響曲(クリュイタンス唯一の本曲ステレオ盤)は打ち込んだ熱演でこちらが聴きもの。循環形式による交響曲ゆえ、主要なテーマが千変万化しながら執拗に繰り返され次第に熱気を帯びていくーライヴならではの高揚感も加わって印象的なメロディが次第に耳に刻み付けられていくように響く。クリュイタンスの手中の演目であり見事な名演である。
<収録情報>
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 Op.58
・フランク:交響曲 ニ短調
フリードリヒ・グルダ(p)
アンドレ・クリュイタンス(指揮)スイス・イタリア語放送管弦楽団
録音:1965年5月14日、ルガーノ[ステレオ]
→ Great Concertos にて聴取
日本では、フォーレやベルリオーズなど<フランスもの>の名匠というイメージが強いクリュイタンスが、当時の欧州においてバイロイトの「常連」であり、ワーグナーについても得意の演目であったことを知ることができる。
かつての、バイロイト・ライヴ経験では、音量の巨大さよりも木製ホール特有の残響効果があり、音のしとやかでしなやかな伸びの良さや中声部が美しく通る音楽空間に驚いた。
そうしたバイロイトの設計思想からは、実はクリュイタンスの柔らかでまろやかな音作りは本3演目のようなファンタジックで劇的な演目では適合力が高いとも言える。クリュイタンス・ファンには待望な廉価盤集である(→ "Andr' Cluytens / A Collection of His Best Recordings も参照)。
【収録情報】
・『ローエングリン』(1958年)
シャンドール・コーンヤ(ローエングリン)
レオニー・リザネク(エルザ)
アストリッド・ヴァルナイ(オルトルート)
エルネスト・ブランク(テルラムント)
キート・エンゲン(ハインリヒ)
エーベルハルト・ヴェヒター(軍令使)他
・『タンホイザー』(1955年)
ヴォルフガング・ヴィントガッセン(タンホイザー)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(ヴォルフラム)
グレ・ブロウェンスティーン(エリーザベト)
ヘルタ・ヴィルヘルト(ヴェーヌス)
ヨゼフ・グラインドル(ヘルマン)他
・『ニュルンベルクのマイスタージンガー』(1957年)
グスタフ・ナイトリンガー(ザックス)
ヨゼフ・グラインドル(ポーグナー)
エリーザベト・グリュンマー(エーファ)
ヴァルター・ガイスラー(ヴァルター)
カール・シュミット・ヴァルター(ベックメッサー)他
以上、クリュイタンス/バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団
また、同じMEMBRANレーベルからは、すでに10枚組の "Andr' Cluytens / A Collection of His Best Recordings もでており、本集とは下記モーツァルトなど一部演目でダブりもある点も留意。
クリュイタンスの演奏を聴いていると、柔よく剛を制すという言葉を連想する。どの演奏でも角がとれたまろやかな響きは、よく伸びかつ奥行きが深い。
たとえば、いまだ決定的名演といわれる1962年2月新録の フォーレ:レクイエム。下記は遡ること12年前のものだが、その一貫した解釈にまったくブレがないことがわかる。ラヴェル、ダンディなども上品、しなやか、エスプリの効いた佳演。録音の古さは承知で、壮年期のその芸風を知るには良いセットである。
【収録情報】(記載のないオケはフランス国立放送管弦楽団、カッコ内録音年)
・モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番(1955年)クララ・ハスキル(ピアノ)
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番(1952年)ソロモン(ピアノ)、フィルハーモニア管弦楽団
・フランク:交響曲ニ短調(1953年)
・フォーレ:レクィエム(1950年)マルタ・アンジェリシ(ソプラノ)、ルイ・ノグェラ(バリトン)、モーリス・デュリュフレ(オルガン)サン・ユスターシュ管弦楽団&合唱団
・ビゼー:交響曲ハ長調(1953,1954年)
・ドビュッシー/カプレ編:バレエ音楽『おもちゃ箱』(1953,1954年)
・ラヴェル:『ダフニスとクロエ』第1、2組曲(1953年)
・ラヴェル:組曲『クープランの墓』(1953年)
・ダンディ:フランスの山人の歌による交響曲(1953年)アルド・チッコリーニ(ピアノ)、パリ音楽院管弦楽団
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