さても久しき。マーラーの古録音の名盤を探索しにけり。先達は多からず。然るに皆、往時名匠なるも聊か独創の人の相貌あり。
<ロスバウト>
今回の切っ掛けは、ロスバウトを聴くことから始まった。グラーツ生まれハンス ・ ロスバウト (1895~1962年)のブルックナー選集を聴いて、改めて20 世紀の隠れた偉大な指揮者の一人と思った。
モーツァルト、ブルックナー、シベリウスといった演目に加えて、シェーンベルクやストラヴィンスキーの紹介にも熱心であり、現代音楽へのあくなき挑戦によって、 ブーレーズやシュトックハウゼンにも大きな影響を与えた先覚者である。彼は、1948 年から亡くなるまで、バーデン = バーデン ラジオ オーケストラでその手腕を発揮した。また、彼は素晴らしいマーラー指揮者であり、同時代をリードしたとされる。
マーラーの7番と9番を聴いた。新即物主義ともいわれる、分析的でいい意味で乾いた演奏スタイルにブルックナー同様に感心した。もっと彼の他のマーラー演奏(たとえば、『大地の歌』グレース・ホフマン(メゾ・ソプラノ)、エルンスト・ヘフリガー(テノール)、ケルン放送交響楽団、録音:1955年4月18日など)も聴いてみたい欲求を持ちつつ、別の演奏を取り上げることとした。
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<クレンペラー>
ロスバウトの9番を聴いて、ちょっと立ち止まって比較の上でクレンペラー(1885~1973年)を聴きたくなった。ロスバウトより10才上だが、長命だったので活動時期は、ロスバウトを越える。
小生はバーンスタイン、テンシュテットのマーラー交響曲全集を愛聴してきて、いわば没入型のマーラー解釈が好みながら、一方で、その対極といった見方もできるシノーポリのような分析型演奏にも惹かれる。ロスバウトはシノーポリ型演奏のいわば“はしり”といった感じだが、そのどちらでもない巨匠がマーラーの直弟子クレンペラーである。クレンペラーで9番を聴いたあと、BOXセットにあった2番のコンセルトヘボウのライヴをかけて、しばし絶句してしまった。これは、とてつもない苛烈な名演である。
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Mahler: Symphony No 9
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<ワルター>
クレンペラーに触れて、マーラー愛弟子ワルター(1876~1962年)に触れないわけにはいかない。クレンペラーよりもさらに9才年上で、指揮者としてはマーラーの一番弟子ともいえる存在である。しかし、巨魁クレンペラーは自身、作曲家も任じており、<作曲家にして指揮者>マーラーの本来の跡目は自分であると思っていた“ふし”もある。また、ワルターの解釈には異論をもっており、進歩がないとの批判的な見方もとっていた。ある時、それをワルターに直接話したところ(「お変わりない演奏ですね」といった皮肉ある言い方だったようだが)、ワルターはクレンペラーに慕われていると思ったか、好意的に受けてお礼を言ったとの面白いエピソードもある。
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<アメリカ、異色の巨頭二人>
ストコフスキー(1882~1977年)はワルターとクレンペラーのちょうど中間の生年で、ほぼクレンペラーの同時代人。現代音楽からプロムナード・コンサート系までレパートリーが広く、録音技術にこだわった異才の芸術家ながら、8番では先導的な録音をなしえた。しかし、そのディスコグラフィーをみる限り、マーラーに非常なる関心をもっていたともいえないようではある。
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Mahler 8,Debussy Nocturnes, (上記はライヴ盤)
一方、ギリシア出身のミトロプーロス(1896~1960年)は、ロスバウトとほぼ同時代人。この人の芸域はとても広く、ニューヨーク・フィルの常任をやり、後継者としての若きバーンスタイン抜擢の功績も大きい。マーラーでも米国における先駆者であり、多くの録音を残している。ここでは6番を掲げてみた。
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<クーベリック>
クーベリック(1914~1996年)の「巨人」の旧録音も力演である。クーベリックは5番も若き日の貴重なメモリアルを残している。ほかに3番はホーレンシュタイン(1898~1973年)、4番はライナー(1888~1963年)といったユニークながら堂々と聴かせる名盤もある。
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