ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスターといえば、歴史的にみても指揮者として栄誉ある最高峰のポジション。メンデルスゾーンは、1835~47年(途中2年は中断)にわたってこれを務め、マズアは1970~96年までなんと四半世紀以上もその重責を果たした。ゲヴァントハウス管におけるメンデルスゾーンがいかに特別な存在であるかがわかるし、その長き伝統を継承し、そしてひとつの黄金期を築いたマズアが満を持して交響曲全集を取り上げるのも頷ける。
併録されている弦楽のための交響曲は短い一種の習作といったものだが、なかなか面白い。続く第1番の作曲は1824年15才の時という早熟、天才ぶりだが、最後に書かれた第3番が1842年なので、ゲヴァントハウス管のシェフをやりながら、作曲にも勤しんでいたことがわかる。シェフ最後の年1847年は逝去の年でもある。歴史と伝統の曲をメンデルスゾーンの本拠のオケでどうぞ!こそが本集の特色であり、それにふさわしい成果である。特に第2番が出色でカラヤン盤と双璧。
<収録情報>
・交響曲全集
第1番、第2番「讃歌」*、第3番「スコットランド」、第4番「イタリア」、第5番「宗教改革」
*バーバラ・ボニー(ソプラノ), イーディス・ウィーンズ(ソプラノ), ペーター・シュライヤー(テノール), ミヒャエル・ショーンハイト(オルガン), ライプツィヒ放送合唱団
・弦楽のための交響曲1~13番 コンチェルト・ケルン
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ベルリン・フィルやウィーン・フィルと並んで、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団は老舗中の老舗である。ゲヴァントハウスのブルックナー(ステレオ録音)が一般的に評価されたのはマズアの時代以降だが、忘れてはいけないのは、それ以前に名匠アーベントロートやコンヴィチュニーが先駆的な取り組みを行ったことであろう。
小生はブルックナーの版の問題に必ずしも敏感ではないが、マズアの録音が1974〜78年で、すでにノヴァーク版が主力になりつつある時期になぜハース版が多いのかの理由は、この伝統ある管弦楽団が永らく使ってきた楽譜がハース版であり、かつ更新する十分な資金にも当時乏しかったからではないかと想像する。
第1番のノイマン(1965年録音)はリンツ稿ハース版、第2番のコンヴィチュニー(1960年)は1877年稿ハース版、第3番ザンデルリング(1963年)は1889年版、第4番はその後のブロムシュテットもハース版、第5番は、アーベントロートもコンヴィチュニー(1961年)もハース版、第7番コンヴィチュニー(1961年)はハース版、第8番のアーベントロート(1949年9月28日)もハース版、そして、第9番のみはコンヴィチュニー(1962年)に続きその後のマズアも原典版となっている。
旧東独時代、外貨稼ぎの事情もあってか、マズアのブルックナーを世界に売り出す試みは成功し、深い響きと良き意味での古色蒼然たるハイマート感は日本でも話題となった。しかし、今日から振り返ると、その素朴ともいえる(しかし、たっぷりの)情感とぶっきらぼうとも思える非技巧性は、アーベントロート、コンヴィチュニーの伝統を引き継ぐものであると思う。ゲヴァントハウス管弦楽団のブルックナーは、その後も実に良い演奏が続く。歴史的には第7番の「初演オケ」には、連綿とし胸を張る伝統と各プレイヤーが引き継いできた楽器と音色に秘めた自信があるのだろう。それを最大限引き出したマズアの功績もまた大きい。
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