金曜日, 11月 29, 2024

小澤の「第九」

 

星のうち4.0


CD添付の解説書の最後に、全演奏家のリストがのっている。志あるサイトウ・キネン・オーケストラの面々が2002年9月松本に結集し、同月、小澤征爾がウィーン国立歌劇場音楽監督に就任したお祝いをこめたライヴ盤。同メンバーが1993年から足掛け10年、行ってきたベートーヴェン・チクルスの掉尾を飾る演奏でもある。

聴きながら、「実力」を自ら誇りながら録音を残さないN響にたいして、このオーケストラはいつの間にか、「日本」を世界に発信するユニークな楽団になっていることに思いがいたった。最近もN響を聴いたが、経済だけでなく、ここにも日本の「失われたX年」を感じる。

さて、本演奏はけっして表面的な響きの美しさを追求するものではない。アンサンブルの完璧さを求めるアプローチとも異なり、むしろ伸び伸びとした大らかさこそ身上かも知れない。全体の中で第3楽章が特に出色。この情感の豊かさには素直に心が動く。地理的には日本の真ん中の地方都市で、日本人指揮者、多くが日本人の演奏家によるベートーヴェン。でもこの情感の豊かさと肌理こまやかさの魅力は世界にしかと届くだろうなと感じさせる。心で歌い全員が全員の音楽に耳を傾ける、その様子が手に取るようにわかる。終楽章も緊張感はあってもファナティックさとは無縁で、格調の高さこそ求められているように思う。合唱も天晴れである。

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