土曜日, 12月 31, 2016

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金曜日, 12月 30, 2016

クナッパーツブッシュ ブルックナー Knappertsbusch Bruckner

ハンス・クナッパーツブッシュ・コレクション~1925-1964録音集(70CD)
ハンス・クナッパーツブッシュ・コレクション~1925-1964録音集(70CD)


クナッパーツブッシュは練習嫌いで有名、逸話を読むと特に気心のしれたオケではあえて斜に構えてそうしていたふしもあるようです。これはうがった見方では1回の演奏への集中度、燃焼度を高めるうえでの「方法論」といった視点もあるのではないでしょうか。深くえぐり取られるような音の「沈降」と一気に上昇気流に乗るような音の「飛翔」のダイナミクスの大きさは他ではなかなか聴けません。かつ、音が過度に重くならずスカッとした聴後感があります。音楽の設計スケールの大きさが「桁違い」で、こういう演奏をする人にこそ巨匠(ヴィルトゥオーソ)性があると言うのでしょう。

それだけではありません。聴かせどころでリスナーの心を鷲掴みする術も心得ています。たとえば、8番の第3楽章のアダージョ(モーツァルトの交響曲1曲分がすっぽりと入る長さ!)でのクナッパーツブッシュは、この長大楽章を滔々と流しながら、しかし、いかに遅くとも失速感がなく、一方で過度な緊張もしいず、飽きさせずに自然に響かせます。そこから浮かび上がるのは、なんと良き音楽なのだろうという、作品自身に対する深い満足感です。

技術的には、連音符の繰り返しが慎重かつ巧みに処理され、同種テーマの再現でも、局面によって全て表情が違い、肌理の細かい配慮がなされています。その細部に至るまでの表情の「多様性」が、即興的に響くからこそ、魅力を湛えているのだと思います。桁違いの音楽スケールとともに、こうした隠れた技倆こそクナッパーツブッシュの独壇場と言えるかも知れません。


さて、暮れから2017年の正月にかけては、クナッパーツブッシュのブルックナーとともに過ごしています。上記幾度めかの全集もでており、いまだに人気の衰えない大家の魅力はなにか。以下は過去に書いてきたものの再録と今回の補筆分です。


【第3番ニ短調『ワーグナー』 (1889-90, Schalk-Loewe edition)】


(1)★バイエルン国立歌劇場管 録音:11 October 1954

第3交響曲初演は、悲惨な失敗でブルックナーは奈落の底におとされたような敗北感をあじわうこととなるが、その第3交響曲を絶対の自信をもって繰り返し取り上げたのがクナッパーツブッシュである。 

ORFEO盤はその魅力を見事に引き出してくれている。モノラルながら195410月の録音とは思えない鮮度。同年にはウィーン・フィルを振った別音源もあるが、双方ともに気力充実し、「どうだこの曲の素晴らしさは!」と言わんばかりの迫力である。 

クナッパーツブッシュの第3番の多くの音源はすべて、1889-90年のSchalk-Loewe edition(日本ではシャルク改竄版と酷評されるのが一般的)だが、その後の峩々たるブルックナー・ワールドへの登攀にあたって、さしたる瑕疵とは思えないくらいの魂魄の演奏である。


ブルックナー:交響曲第3番

ブルックナー:交響曲第3番

(2)ウィーン・フィル 録音:17 January, April 1954

1954年の録音(ノヴァーク版第3稿)。いわゆる「大見得を切り、大向こうを唸らせるような」演奏でクナッパーツブッシュ好きなら、<堪らない>節回しである。クナッパーツブッシュは同番についてステレオ録音をふくめ多くの記録を残しているが、1954年盤は珍しくスタジオ収録である。

 本盤を聴いていて思うのは、クナッパーツブッシュには一瞬、肩の力を抜いて、「ひらり」と身をかわすような軽ろみの美学があり、これが他の指揮者には見られないスリリングなオーケストラ操舵法だろう。クナッパーツブッシュ自身、ブルックナーが好きで、各曲の解釈に絶対の自信をもち、かつ、ある意味、こうしたトリッキーさをご本人はこよなく楽しんで演奏しているような風情もある。 

その一方で、ときにパッショネイト丸出しのように全力ドライブするかと思うと、次に一転、沈着冷静に深い懐で構えたりと変幻自在で一筋縄ではいかない。その<意外性>こそ、この晦渋なる精神を吐露する3番でのクナッパーツブッシュの面目躍如と言えるだろう。
 

(2)ウィーン・フィル 録音:1960年2月14日

ブルックナー:交響曲第3番ニ短調

ブルックナー:交響曲第3番ニ短調


(3)北ドイツ放送響 録音:15 January 1962

Bruckner: Symphony No.3


(4)☆ミュンヘン・フィル 録音:16 January 1964

ミュンヘン・フィルを振っての1964116日(モノラル/ライヴ)録音。音の鮮度がわるく音飛びもあり、一般の聴取には難があるが、演奏の見事さではこれも刮目に値するもの。


 

【第4番変ホ長調『ロマンティック』(1888, Loewe edition)】

 


(1)★ベルリン・フィル 録音:8 September 1944

ブルックナー:交響曲第4番

ブルックナー:交響曲第4番

194498日の収録。蚊のなくようなか細いイントロからいかにも録音は貧しいが、無意識に補正して聴けば、演奏は実に立派なもの。なにより表題のとおり、全篇「ロマンティック」な雰囲気に包まれている。 

第1楽章アッチェレランドのかけ方が絶妙。第2楽章は比較的遅いイン・テンポ気味で静謐にヴァイオリンが響く。主題の展開が低弦から管楽器に移るにつれ音色は次第に明るくなり音量も自然に増していく。後半の印象的なピチカート部分もキチッと端正な処理。このあたりのクナッパーツブッシュ差配の上手さは格別なもの。第3楽章、冒頭の金管からリズムの振幅が増して、弦楽器の表情が豊かになる。第4楽章、冒頭からふたたびアッチェレランドを強調、オケの音色の陰影はさらに深くなり音楽に没入しているさまがはっきりと看取できる。微妙なニュアンス付けとともにいっそう緊張感を醸成し、極めて迫力あるエンディングを迎える。

改訂版(ノヴァーク版は1953年以降)であること、ライヴゆえの細かなミスも気になるかも知れないが、全体を俯瞰すればまぎれもなく秀逸な名演である。
 
(2)ウィーン・フィル 録音:April 1955

1955年録音。レーヴェとシャルクの監修版(改竄版)という<オリジナル重視派>にとっては、批判すべきバージョンによる演奏でしょう。また、最近の優れた録音に慣れたリスナーにとっては、壁1枚隔てて聞いているような、言われぬもどかしさが部分的にあるかも知れません。 

しかし、以上の要素を考慮したとしても、この4番は「名演」です。どの版を採用するか以前に、作曲者への共感がどれくらいあるかが根本的に重要でしょうし、レーヴェもシャルクもブルックナーの忠実な使徒でした。「師匠」の音楽をなんとか多くの聴衆にわかってもらいたいと念じて奔走しました。そうした改訂者の思いを全て「込み」で受けて、クナッパーツブッシュが指揮台に立ったとしたら・・。 

そうしたことを想起して本盤を聴かれたら、まずは素朴な演奏だなと思われるのではないでしょうか。テンポは遅く、メロディはとても美しく(特に弦楽器のふくよかな音の響きはウィーンフィルならではです)、曲の組み立てのスケールは大きく、蕩々と音楽が奏でられます。想像の世界ですが、古き良きウィーンの息吹が底流に脈々と流れてくるような駘蕩とした感があります。多少の音の荒さは無視して、少しだけ音量を上げて楽しんで下さい。指揮者もオケもブルックナーに深く没入しているのが伝わってきます。推薦します。
 
(3)☆ウィーン・フィル 録音:12 April 1964


非常に遅い運行。いたるところにクナッパーツブッシュ流の手が入っており、ライヴならではの自由な解釈。クナッパーツブッシュのファンには晩年の姿を知ることができる興味があるものの、全体としての格調からは正規盤の折り目正しさを選択すべきだろう。
 

【第5番変ロ長調 (1894, Schalk edition)】

(1)★ウィーン・フィル 録音: 1956年6月3~6日 

ブルックナー : 交響曲 第5番 変ロ長調 (改訂版) (Anton Bruckner : Symphony No.5 in B-flat major (Reviced version) / Hans Knappertsbusch, Vienna Philharmonic Orchestra)


クナッパーツブッシュ(ハンス),ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、 ブルックナー
 
19566月、ウィーン・フィルとの演奏。ブルックナーの演奏では抑揚感というか、ダンスのステップを踏むような軽快さが心地よく気持ちを盛り上げてくれるスケルツオも楽しみの一つです。5番の第3楽章のモルト・ヴィヴァーチェは早いテンポのなか、畳み込むようなリズム感にあふれ、かつ特有の明るい和声が身上ですが、ここでクナッパーツブッシュ/ウィーン・フィルはなんとも見事な名人芸を披露してくれます。  

一方、本盤はいわゆるシャルク改竄版。特に第4楽章はシャルクの手が大幅に入り、原典版に比して100小節以上のカットもあるといわれますが、峨々とした峡谷をいく流量の多い大河の流れにも似たクナッパーツブッシュの運行では、そうした割愛の不自然さをあまり意識させません。
いまのスコア重視主義、原典回帰の傾向のなかでは許されざる仕儀でしょうが、自分はこの演奏に慣れすぎているせいか、ブルックナー「受容初期」の歴史的足跡として、これはこれで良いのではと思ってしまいます。そこも大家の腕かも知れません。聴き終わってスカッとする充足感が味わえる1枚です。

 
(2)☆ミュンヘン・フィル 録音:19 March 1959

ウィーン・フィルとの1956年盤  ブルックナー: 交響曲第5番 もあるが、このミュンヘン・フィルの演奏も基本線は変わらない。シャルク改訂版であることにも留意が必要。さらに、最近の優れた録音に慣れた耳には1959年の録音であり古式蒼然たる響きは覚悟せねばならない。
しかしながら、クナッパーツブッシュの、ときに大胆にして奔放、その反面、全体としてみれば直情的にみえて実は緻密な解釈は、聴くたびに驚きに満ちている。5番は演奏者にとって難曲であり、弛みなく最後まで聴衆を引っ張っていくためには、並々なる技量がいる。


この演奏の凄さは、そんな懸念は毛ほども感じさせず、強靭なるブルックナー・ワールドを見事に描いていることだと思う。第1、第2楽章では大翼を広げたような構え、後半にいたって第3楽章のモルト・ヴィヴァーチェは早いテンポのなか、畳み込むようなリズム感と明るい和声が身上、そして終楽章の峩々とした峡谷をいく流量の多い大河の流れにも似た運行には、目眩くスリリングさと圧倒感がある。大家の技量、ここにありである。


  【第7番ホ長調】


(1)★☆ウィーン・フィル 録音:30 August 1949

Symphony No 7

Symphony No 7



1949830日、ザルツブルク音楽祭でのライヴ録音。雑音こそすくないものの、収録音域がせまく第4楽章のフィナーレなどもっとよい録音で聴ければなあとの感じをいだくリスナーもいるだろう。しかし、演奏そのものは質は高く一聴に値するものである。

1楽章、冒頭の短い「原始霧」から第3主題までの長い呈示部で、クナッパーツブッシュは、まるで自然にハミングするように朗々と歌っていく。その抒情性は優しく心地よい。豊かな詠奏は、第2楽章 アダージョのいわゆる「ワーグナーのための葬送」で頂点をむかえ静かな感動を醸成する。

3楽章のスケルツォは、力感があり明るい曲想に転じるが、この変わり舞台を見るかのような明暗のコントラストのつけ方こそクナッパーツブッシュの自在の技という気がする。第4楽章、コラールふうの旋律で、ふたたび弦のハミングは厚みをもって再開され、いっそうの感情表出ののち、速度を落としてのコーダからブルックナーにしては短い終結部までは、ある意味、すっきりとした運行である。録音の制約からあくまで直観ながら、ライヴ演奏であり、クナッパーツブッシュは、ここではウィーン・フィルらしい柔かく豊かな響きを存分に生かしているのではないかとの想像がはたらく。
 
 (2)ケルン放送響 録音:10 May 1963
ブルックナー:交響曲第7番

ブルックナー:交響曲第7番

 

【第8番ハ短調 (1892, Schalk version, Oberleithner edition)】

 


(1)★ベルリン・フィル 録音:8 January 1951


1951年1月7〜8日にかけて録音されたベルリン・フィルとの演奏(1892年改訂版)。1963年のミュンヘン・フィルとのスタジオ録音およびライヴ演奏があまりにも有名で、かつ録音時点も本盤は古いことから一般にはあまり注目されませんが、これも素晴らしい演奏です。 
クナッパーツブッシュの魅力は、うまく表現できませんが、独特の「節まわし」とでもいうべきところにあるのではないかと感じます。特に変調するときの大きなうねりに似たリズムの刻み方などに彼特有のアクセントがあるような気がします。それがいまはあまり演奏されない「改訂版」の採択と相まって、通常の演奏とかなり異なった印象をあたえる一因になっていると思います。 
ベルリン・フィルの演奏は今日の精密機械にも例えられる機能主義的ではなく、もっとプロ・ドイツ的な古式の響きを感じさせますが、しっかりと8番の「重さ」を受け止めて質感あるブルックナー像を浮かび上がらせています。大御所の名演です。
 
(2)バイエルン国立歌劇場管 録音:5 December 1955

ブルックナー:交響曲第8番

ブルックナー:交響曲第8番



未完に終わった9番の演奏では終楽章をどうこなすかは至難なれど、8番の長丁場と最後の第4楽章の「大団円」をどう乗り切るかは指揮者にとっての大きな試金石である。

厳密な解釈と丁寧な処理があたりまえになっている最近の録音に接して好ましいと思う一方、いにしえの録音の強烈な感動とは違うなあと感じることも多い。
この曲はクールヘッド一辺倒な演奏だけでは不足で、一種の「天啓」が必要な気がする。それは、ブルックナーの全交響曲やミサ曲に通じるが、音楽の神様の降臨の瞬間があるかどうか(リスナーにかかる感興を想像させうるかどうか)が決め手であると思う。
クナッパーツブッシュはフルトヴェングラーとともに、そうした降臨をしばしば呼びこむことができる法力をもった指揮者であり、8番の第3楽章や終楽章のここぞというフレーズでそのカタルシスが出現するかどうかはリスナーの密やかな期待である。
ORFEOレーベルの本盤(バイエルン国立歌劇場管/1955125日ライヴ)は、音質補正はされているが、原盤の集音そのものに問題はあり、一般には1963年のミュンヘン・フィルとのスタジオ録音およびライヴ演奏を選択すべきと思う。しかし、ライヴ独特のクナッパーツブッシュ節の魅力は得難く、「天啓」を感じる瞬間もある。多くの音源のある彼の8番だが、聴き比べたい選択肢のひとつであることに変わりはない。
 
 (3)ウィーン・フィル 録音:29 October 1961
 

ブルックナー:交響曲第8番ハ短調 (Bruckner : Symphonie Nr.8 / Hans Knappertsbusch, Wiener Philharmoniker / 1961 Live) [2CD]

 
(4)ミュンヘン・フィル 録音:January1963


(5)☆ミュンヘン・フィル 録音:24 January 1963

【第9番ニ短調 (Loewe edition)】

 


(1)★ベルリン・フィル 録音:28 January 1950

von Berlin Po und Knappertsbusch

1950128日、ベルリンでの録音。第1楽章「荘重かつ神秘的に」(Feierlich, misterioso)とはこうした解釈によって可能となるのか、といった逆説的な思いをいだくくらい強い説得力がある。不安定な調性、半音階の多用などの手法でリスナーに安寧をなかなか与えない原曲のもつ斬新さが、明確かつ強烈なサウンドによってより倍加される。ベルリン・フィルの色調は暗く、重く、しかも弦楽器の音色は独特のくすみのなかに深い哀切さがある。まさに作曲家の指示どおり一切の曖昧さなく「荘重かつ神秘的に」運行される。
2楽章はいかにもクナッパーツブッシュ的な、ダンスをするような軽やかなステップ感に満ち音楽がときに跳躍する。色調が明るく変化し、聴かせどころの強烈なトゥッティにも迫力はあるが、むしろ全体のリズムの見事な生かし方とメロディアスな部分の豊かな表情こそ重視されているようだ。

3楽章は、原典版にくらべてかなり改変があるが、各種のクナッパーツブッシュ盤に親しんできたリスナーには、最後の部分を除いては突然の違和感は少ないだろう。ワーグナーチューバを用いた荘厳なコラール風の主題の部分ではオーケストラが集中しひとつになり、存分に歌っている。
クナッパーツブッシュの解釈は、全体を通して、悲壮さよりも強靭な精神を感じさせ、ブルックナーの最後の交響曲のもつ斬新さをより抽出せんとしているようだ。しかも、それは作曲家への心からの共感と熱い思いからでているとリスナーに感じさせる。なればこそブルックナー好きには胸打つ演奏である。
 
 (2)☆ベルリン・フィル 録音:30 January 1950


(3)バイエルン国立歌劇場管 録音: 2 October 1958

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★クナッパーツブッシュ ブルックナー選集

・交響曲第3番(録音:19541011日)バイエルン国立歌劇場管

・交響曲第4番(194498日)ベルリン・フィル

・交響曲第5番(19566月)ウィーン・フィル

・交響曲第7番(1949830日)ウィーン・フィル

・交響曲第8番(195118日)ベルリン・フィル

・交響曲第9番(1950128日)ベルリン・フィル


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☆クナッパーツブッシュ ブルックナー選集

第3番((録音:1964116日) ミュンヘン・フィル

4番(1964412日)ウィーン・フィル

5番(1959319日)ミュンヘン・フィル

7番(1949830日)ウィーン・フィル

8番(1963124日)ミュンヘン・フィル

9番(1950130日)ベルリン・フィル

交響曲第3・4・5・7・8・9番 クナッパーツブッシュ&ミュンヘン・フィル、ウィーン・フィル、ベルリン・フィル(6CD)

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