木曜日, 12月 22, 2016

20世紀オーケストラ作品集 オーマンディ&フィラデルフィア管弦楽団 Eugene Ormandy Conducts 20th Century Classics

20世紀オーケストラ作品集 オーマンディ&フィラデルフィア管弦楽団(12CD限定盤)
 20世紀オーケストラ作品集 オーマンディ&フィラデルフィア管弦楽団(12CD限定盤)

ストコフスキーLeopold Stokowski-the Columbia Stereoの跡目を継いで、フィラデルフィア管弦楽団の首席指揮者・音楽監督を1938〜1980年の永きにわたって努めたオーマンディは、その主要な活動時期がカラヤン、バーンスタインの2大スターと重なり、かつアメリカでもミュンシュ、ライナー、セルらの強力なライヴァルの存在もあって埋没しがちであったが、その驚異的なレパートリーの広さと楽団の彫琢した美音とともに「異能」の名匠であった。

【ドビュッシー】
交響詩『海』(録音:1972年、音源:RCA)
➡ ドビュッシー:交響詩「海」、牧神の午後への前奏曲、夜想曲他

【ラヴェル】
『ダフニスとクロエ』第2組曲(録音:1971年、音源:RCA)
スペイン狂詩曲(録音:1963年、音源:CBS)
ボレロ(録音:1973年、音源:RCA)
➡ ボレロ~ラヴェル&ドビュッシー..

1960〜70年代、日本でのオーマンディの評価は不当に低かったと思う。それはさらに一時代前、かのカラヤン/フィルハーモニー管弦楽団の清新溌剌たる演奏についてすら、音が「軽い」と一刀両断に評論家からいわれたくらい、「重厚なドイツ的な響き」、「艶やかなウィーンの響き」こそ最上といったステロタイプ化された価値観が、当時の日本では根強かったからかもしれない。

それゆえ1967年のオーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団の初来日ライヴをはじめて聴いた人は、その響きの明耀さと技量の確かさに舌をまいたという。それは1970年のセル/クリーヴランド管弦楽団の来日公演でも音色、アンサンブルこそフィラデルフィアとは異なれ同様の驚きがあったことだろう。今日からは隔世の感があるけれど、これは海外来日クラシック音楽界揺籃期の出来事である。

さて本盤。いま虚心坦懐に耳をかたむけると、この曲集の完成度が実に高いことがわかる。特に「ダフニスとクロエ」の色彩感あふれる表現ぶりー水に反射する陽光に似たりーにはぞくぞくするような感動がある。それはオーマンディが巷間いわれるように技術的に「巧い」からだけではなく、曲の本質をしかと掴み、フィラデルフィア管弦楽団と完全共有していたからこそではないかと思わせる。ドビュッシー、ラヴェルといえばミュンシュLa Merやブーレーズラヴェル:作品集(SACD)の演奏も好きだが、この曲集には真似のできないオーマンディ流の自然体の構えと独立の美意識があろう。

【ムソルグスキー/ラヴェル編】
組曲『展覧会の絵』(録音:1973年、音源:RCA)
➡ 展覧会の絵&ボレロ~ラヴェル名演集

細密画を描くがごとく緻密で、各曲別に性格づけを考えぬいたような周到な演奏。強力なフィラデルフィア・サウンドを前面に立てての華麗な演奏といったイメージとはちょっと違いを感じる。むしろ、どちらかといえば地味な印象で、かつ通常であればリスナーを無条件に魅了する「明るき音響美」よりも、少し型にはまった形式美を追求しているようにも感じる。
オーマンディは、パートでもフィラデルフィア全団でも自在にスクランブルして見事な音楽を奏する。「手兵」フィラデルフィア管にとって、親和性の強い本曲には大いに自信をもっていたことだろう。しかし、そのレヴェルにとどまらず、さらにより高き目標にオーケストラを引っ張っていこうという意欲があったのかも知れない。
その試みは、半分は成功しており、オーケストラに一層の緊張感をあたえ、慎重な運行はより各パートの至芸を際立たせている。その一方、天才的(ないし狂気の)パッションが横溢するようなこの曲の破天荒さに比して、やや常識的すぎる解釈が透けて見えてしまった気もする。規範的な良き演奏ながら、あえて言えば小生が本曲に好む惑乱するような激しき情熱が抑制されているようにも感じた。

【ファリャ】
スペインの夏の夜(録音:1971年、音源:RCA) アルトゥール・ルービンシュタイン(ピアノ)
➡ サン=サーンス:ピアノ協奏曲第2番、ファリャ:スペインの庭の夜

ファリャ「スペインの庭の夜」:オーマンディ/フィラデルフィア管のベースが素晴らしく、色彩的で情熱的な本曲を見事に描ききっている。ルービンシュタインは、そこに大輪の花を咲かせる役目。明るく、ユーモラスで、ときにファナティック、ときに無類にやさしくと花束の種類が豊富で色鮮やかな豪華なバスケットである。
 
【ロドリーゴ】
アランフェス協奏曲(録音:1965年、音源:CBS) ジョン・ウィリアムズ(ギター)
➡ Rodrigo & Dodgson

【ホルスト】
組曲『惑星』(録音:1975年、音源:RCA)
➡ ホルスト:惑星&ヴォーン=ウィリアムズ:タリスの主題による幻想曲他

「惑星」はかつては好事家の領域であったが、いまや管弦楽曲のメインの演目である。この曲にはいわば家元の模範といった趣きのボールト ホルスト:組曲「惑星」、エルガー:エニグマ変奏曲 の演奏あり、一気にこの曲の良さを流布させたカラヤン盤 ホルスト:惑星 など「伝説」の音源がある。また、その後でもレヴァインほか、本曲を得意とする指揮者多く、どれが良いかはリスナーの選択如何によるともいえよう。

そうした、いわば先入主をもってオーマンディを聴いたのだが恐れ入った。悠揚とし堂々たる名演である。過度な味付けはなくテンポも安定、むしろ少しゆっくりめの運行ながら、その表現内容の的確さ、音の万華鏡のような豊富さに呑まれたような思いである。リスナーの好みを読みきって提供するというような作為、小細工がいっさいなく、あくまでもスコアを極限まで表現しつくしてやろうといった一徹なる芸を連想させる。自信に満ちた逸品の提供であり、その極上の作品美に感嘆する。

【コープランド】
アパラチアの春(録音:1969年、音源:RCA)
【ブリテン】
青少年のための管弦楽入門(録音:1974年、音源:RCA)
➡ コープランド:アパラチアの春&「ビリー・ザ・キッド」組曲

オーマンディ/フィラデルフィア管の技量・音楽美をあますところなく表現しようとした意欲作である。端正にして、どの楽器もこれぞヴィルトゥオーソというプライドをもって臨場し、そして全体はまた一味違う融合感をだしている。
オーマンディが手塩にかけた管弦楽団そのものが一個の精妙な作品に思えてくる。以下の順に耳を寄せてフィラデルフィア・サウンドを愉しみたい。

Ⅰ主題(全管弦楽、木管楽器、金管楽器、弦楽器、打楽器、全管弦楽)、Ⅱ変奏(フルート、ピッコロ→オーボエ→クラリネット→ファゴット→ヴァイオリン→ヴィオラ→チェロ→コントラバス→ハープ→ホルン→トランペット→トロンボーン→チューバ→ティンパニ→大太鼓とシンバル→タンブリンとトライアングル→小太鼓とウッドブロック→シロフォン→カスタネットとタムタム→むち)、Ⅲフーガ/全管弦楽

【エルガー】
行進曲『威風堂々』第1番(録音:1963年、音源:CBS)
➡ マーチの祭典

『マーチの祭典』の名にふさわしい充実した小品集。小品といえども侮ることなかれ。全体の約半分は以下の録音データのとおり、オーマンディ円熟期の1963年の収録で、古今の重量級の演目をなべて録音していた大家の名タクトによるもの。力みや恣意性が一切なく、各曲の良さを慈しみながら大いに楽しんで演奏しているように思う。その愉悦感がリスナーにも直に伝わってくる。「珠玉」という言葉はこの曲集のためにあるようなものである。

<1963年収録分>
1. 星条旗よ永遠なれ/スーザ(1963/02/23)
2. 歌劇「預言者」より 戴冠式行進曲/マイアベーア(1963/02/03)
3. 劇音楽「アテネの廃墟」作品113より トルコ行進曲/ベートーヴェン(1963/02/03)
4. 操り人形の葬送行進曲/グノー(1963/02/03)
5. アメリカン・サリュート~「ジョニーが凱旋するとき」による/グノー(1963/02/03)
6. 歌劇「アイーダ」より 大行進曲/ヴェルディ(1963/02/03)
7. 歌劇「カルメン」より 闘牛士の行進/ビゼー
8. おもちゃの行進曲/ハーバート(1963/02/03)
9. 軍隊行進曲 第1番 D.733の1/シューベルト(1963/02/23~24)
10. 「3つのオレンジヘの恋」作品33より 行進曲/プロコフィエフ(1963/02/24)
11.「真夏の夜の夢」作品61より 結婚行進曲/メンデルスゾーン(1963/11/24)
12.ラデツキー行進曲 作品228/ヨハン・シュトラウス1世(1963/02/03)
13. 行進曲「威風堂々」第1番 ニ長調 作品39の1/エルガー(1963/02/03)

【ラフマニノフ】
ピアノ協奏曲第3番ニ短調 Op.30(録音:1975年、音源:RCA) ヴラディーミル・アシュケナージ(ピアノ)
パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43(録音:1970年、音源:RCA) ヴァン・クライバーン(ピアノ)
➡ ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番&協奏曲黄河(期間生産限定盤)

ラフマニノフの3番を聴く。ここまで美しく瑞々しい協奏は考えられないのではないかと思わせるオーマンディ/フィラデルフィア管のバック。透明感にあふれた音はこよなく上質で、聴かせどころの弦楽器のピッチは完璧の一致。それに包まれているだけで至福の喜びがある。一方、ラフマニノフでは定評のあるアシュケナージの均質で安定感のあるピアニズムの「背後」には音楽に対する潔癖な誠実さが感じられ、それが清潔感あるフィラデルフィア・サウンドと融和している。本曲における規範的な演奏の一つ。なお、小生は Gilels Plays Saint-Saens, Rachmaninov, Shostakovich も推奨。

【カバレフスキー】
道化師のギャロップ(録音:1972年、音源:RCA)
【ハチャトゥリアン】
剣の舞、バラの娘たちの踊り(録音:1964&1966年、音源:CBS)
【リムスキー=コルサコフ】
スペイン奇想曲 Op.34(録音:1965年、音源:CBS)
➡ はげ山の一夜~ロシア管弦楽曲名演集

オーマンディ/フィラデルフィア管の名演。こうした演目では、アーサー・フィドラー/ボストンポップス響 ペルシャの市場&剣の舞い~オーケストラの玉手箱 とともに当時、アメリカで人気を二分した大御所の演奏。
バレエ音楽「ガイーヌ」より 若い娘の踊り、剣の舞い、そして組曲「道化師」より道化師のギャロップを聴く。明るくて楽しくて心が浮き立つ。シロフォン(木琴)の手に馴染んだ妙技が固い心の殻もトントンと叩いて開けてくれるような気分になる。

【プロコフィエフ】
交響曲第1番ニ長調 Op.25『古典交響曲』(録音:1961年、音源:CBS)
ヴァイオリン協奏曲第2番ト短調 Op.63(録音:1963年、音源:CBS) アイザック・スターン(ヴァイオリン)
➡ オーマンディ・コンダクツ・プロコフィエフ

プロコフィエフの作品集。オーマンディがいかに先駆的にこの作曲家を紹介していたかを知る良いアルバムである(Sergej Prokofiew - Chaming Eccentric も参照)。

有名な古典交響曲を聴く。筋肉質に締まった演奏。しかも、プロコフィエフの高度な管弦楽手法と親しみのあるメロディ、そして短いフレーズに盛り込まれた凝縮の美をあますところなく味わうことができる。この19世紀に逆戻りしたような古典的出だしから次第に現代的な装いを帯びていくウイットに富む作品の本質を描き切っている。本曲、トスカニーニに名演に対して、1960年代初頭とは思えない見事な録音によって、これに比肩する成果となっている。ヴァイオリン協奏曲第2番もスターンを迎えての巧演。


【スクリャービン】
交響曲第4番 Op.54『法悦の詩』(録音:1971年、音源:RCA)
➡ ラフマニノフ:交響曲第2番、合唱曲「鐘」&スクリャービン:法悦の詩、プロメテウス

【ショスタコーヴィチ】
交響曲第5番ニ短調 Op.47(録音:1975年、音源:RCA)
チェロ協奏曲第1番変ホ長調 Op.107(録音:1982年、音源:CBS) ヨーヨー・マ(チェロ)
➡ Shostakovich: Symphony No.5, Age of Gold - Polka, Prokofiev: The Love for Three Oranges

オーマンディは米国にあって、実はショスタコーヴィッチ演奏の先駆者である。残念ながら、その音源はあまり有名ではないが、この第5番のほか以下のラインナップ等が知られている。

◆ショスタコーヴィッチ集(交響曲第1番、第4番、第5番、第10番、チェロ協奏曲第1番、組曲「黄金時代」作品22a‾第3曲:ポルカ) オーマンディ・コンダクツ・ショスタコーヴィチ
◆交響曲第1番&チェロ協奏曲第1番 Shostakovich: Symphony No.1, Cello Concerto No. 1 (このジャケット写真の両雄の表情は実によい)
◆交響曲第4番、第10番 Symphonies 4 & 10
◆交響曲第13番 「バービイ・ヤール」 ショスタコーヴィチ:交響曲第13番「バービイ・ヤール」
◆交響曲第14番 「死者の歌」 ショスタコーヴィチ:交響曲第14番「死者の歌」&ブリテン:「ピーター・グライムズ」‾4つの海の間奏曲
◆交響曲第15番 Symphony 15 in a Major / Piano Sonata 2

第5番はバーンスタイン盤とかぶるので、レコード会社の方針もあってか、バーンスタインの5番+オーマンディのチェロ協奏曲第1番(ヨー・ヨー・マ)のカップリングが主力で、オーマンディの5番の存在の影はうすい。

しかし、これはこれで素晴らしいものである。フィラデルフィア・サウンドを強調するあまり、各楽器を際立たせた録音になっており、その分全体の構成力が見えにくいが、よく耳を研ぎ澄ませば、全体のバランスもよく、熱情型とは異なるテンポの安定した冷静で分析的な演奏であることがわかる。曖昧さのない明解で、かつクリアなサウンドは、作曲家自身が高く評価したとおりショスタコーヴィッチの優れたオーケストレーションをよく描ききっていると思う。

【ストラヴィンスキー】
バレエ音楽『春の祭典』(録音:1955年、音源:CBS モノラル)
『ペトルーシュカ』組曲(録音:1964年、音源:CBS)
➡ Stravinsky: Le Sacre Du Printemps

「春の祭典」は1955年の録音。同曲の名盤といえば、マルケヴィッチ盤 ストラヴィンスキー:春の祭典/スキタイ組曲 がでたのが1959年、カラヤン盤 ムソルグスキー:展覧会の絵/ストラヴィンスキー:春の祭典 が1963年、ブーレーズの旧盤 ストラヴィンスキー:春の祭典/ペトルーシュカ が1969年である。マルケヴィッチ盤よりも4年もはやくオーマンディがこの曲を録音していたその先駆性にまず驚く。

次にその演奏だがなんとも見事なもの。このオーマンディの解釈をストラヴィンスキーは気にいらず酷評したらしい。また、1959年、オーマンディからストラヴィンスキーへ直接作品を委嘱するも返事すら来なかったというエピソードがあるとのことだが、実は作曲家がもっとも手厳しく批判したのはカラヤンの演奏だったという。そうした意味では、原曲を素朴に演奏することを最善とした作曲家の意図に反して、オーケストラの技巧がまさり、とても色彩的でかつリズミックな迫力に富むという点で、オーマンディ、カラヤン両者に共通するものがあるのかも知れない。

あらゆる音が明確に浮かび上がり、全体のバランスも崩れることなく、テンポ設定も恣意性を感じさせず、かつ音質が明るく弦楽器の響きがとりわけ美しい、いま聴けばこれはオーマンディの快挙といってよい名録音であると思う。

【R.シュトラウス】
『ばらの騎士』組曲(録音:1964年、音源:CBS)
➡ R.シュトラウス:英雄の生涯、町人貴族&「ばらの騎士」組曲 他

【エネスコ】
ルーマニア狂詩曲第1番イ長調(録音:1972年、音源:RCA)
【アルヴェーン】
スウェーデン狂詩曲第1番『夏至の徹夜祭』 Op.19(録音:1968年、音源:CBS)
➡ リスト:ハンガリー狂詩曲第1番・第2番&エネスコ:ルーマニア狂詩曲第1番・第2番他

なんとも時代がかったジャケットだが、内容はいまだに瑞々しさをたたえている。ルーマニア狂詩曲第1番とスウェーデン狂詩曲第1番「真夏の徹夜祭」を聴く。どちらも耳に親しんだメロディだが、後者はテレビの料理番組「きょうの料理」のイントロでも使われているので思わず浮き浮きと嬉しくなるのではないだろうか。

欧州の人たちが、ウィンナワルツやポルカを身近なリラクゼーション音楽として好むように、人種の坩堝といわれるアメリカの人たちも多様な音楽を嗜好する。オーマンディ/フィラデルフィア管は、「万国の音楽、御座れ!」の姿勢で、どんな国の音楽も平等に、均一に、素晴らしい品質で送りだした。リストはオーマンディの故国、ハンガリーの作曲家である。そしてルーマニア狂詩曲の作者エネスコも、スウェーデン狂詩曲の作者アルヴェーンも、母国の名称を作品名に取り入れた。両曲ともにイマジネーション豊かなラプソディとして見事に仕上げている。オーマンディ/フィラデルフィア管がアメリカでこよなく愛された理由がちょっぴりわかる気がする1枚。


【バルトーク】
管弦楽のための協奏曲 Sz.116(録音:1979年、音源:RCA)
【コダーイ】
『ハーリ・ヤーノシュ』組曲(録音:1975年、音源:RCA)
➡ バルトーク&コダーイ名演集

バルトークについては、ライナー バルトーク:管弦楽のための協奏曲,弦楽器,打楽器とチェレスタのための音楽 ほか名演が目白押しだが、本盤の魅力はなんといってもそのわかりやすさ、愉しき楽想に尽きる。録音は古いが解釈に陳腐さは感じない。

バルトークにはちょっと敬遠気味のリスナーに是非、一度は聴いていただきたい快演で、これほど豊かな愉悦感とダイナミズムが交錯する20世紀音楽があることに新たな感動があるだろう。バルトークの音楽の本質を考究しそれをどう伝えるかに腐心したオーマンディ、会心の演奏である。

一方のコダーイの「ハーリ・ヤーノシュ」も一世を風靡した、かのTV「刑事コロンボ」(といっても若いリスナーはピンとはこないかも知れないが)ほかで効果的に使われて、にんまりとする向きも多いはず。演奏は見事で明るき開放感(各パートの伸び伸びとしたサウンド)にあふれているのに一瞬の隙もない。これぞ故国の作品を取り上げての名人芸である。

ヒンデミット】
交響曲『画家マティス』(録音:1962年、音源:CBS)
➡ Mathis Der Maler / Hindemith Variations

【ヴェーベルン】
管弦楽のための牧歌『夏風の中で』(録音:1963年、音源:CBS)
➡ Great Conductors of the 20th Century

【オルフ】
カルミナ・ブラーナ(録音:1960年、音源:CBS) 
ヤニシュ・ハルシャーニ(ソプラノ)
ルドルフ・ペトラク(テノール)
ハルヴェ・プレスネル(バリトン)
ニュージャージー州立ラトガーズ大学合唱団
➡ オルフ:カルミナ・ブラーナ&カトゥーリ・カルミナ

ヨッフム盤(1952年、1967年 オルフ:カルミナ・ブラーナ )が有名だが、オーマンディの本盤も見事な演奏。どこか懐かしく郷愁をそそられるメロディ、切れがよく躍動的なリズム、あたかも掌をきちんと重ねるような合唱と合奏の隙間なき一体感、そして世俗的な言霊がもつ原初的なエネルギー、それらが統一感をもって表現されている。1960年の録音とは思えない解像度の録音。爆発的なパワー、激情型の演奏が好みだと大人しい演奏と思われるかも知れない。ヨッフム盤にくらべると合唱がやや後景に引いて聴こえるが、この生き生きとした表情付けと絶妙なるバランス感覚こそがオーマンディ・トーンの美意識なのだろう。

【マーラー】
『大地の歌』~大地の哀愁に寄せる酒の歌/春に酔える者(録音:1966年、音源:CBS) リチャード・ルイス(テノール)
➡ マーラー:大地の歌&交響曲第10番(クック版)

【アイヴズ】
交響曲第2番(録音:1973年、音源:RCA)
➡ アイヴズ:交響曲「アメリカの祭日」&ニュー・イングランドの3つの場

【シベリウス】
悲しきワルツ Op.44-1(録音:1973年、音源:RCA)
交響詩『フィンランディア』 Op.26(録音:1968年、音源:CBS)
➡ オーマンディ・コンダクツ・シベリウス

アイヴズ】
ニュー・イングランドの3つの場所(録音:1974年、音源:RCA)
➡ アイヴズ:交響曲「アメリカの祭日」&ニュー・イングランドの3つの場所

【ガーシュイン】
ラプソディー・イン・ブルー(録音:1967年、音源:CBS) フィリップ・アントルモン(ピアノ)
【バーバー】
弦楽のためのアダージョ(録音:1957年、音源:CBS)
➡ ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー、グローフェ:グランド・キャニオン&バーバーのアダージョ
➡ ザ・ロマンティック・フィラデルフィア・ストリングス

ラプソディ・イン・ブルーと弦楽のためのアダージョを聴く。ラプソディ・イン・ブルーは全く崩したところがなく、「正調」とでもいうべき格式をもった演奏。アントルモンが気持ちを集中させて生真面目な、素晴らしいピアノを聴かせてくれる。一方で、弦楽のためのアダージョは、作曲家バーバーがフィラデルフィアのカーティス音楽学校で学んだということもあって、いわばオーマンディ/フィラデルフィア管にとっては、胸をはる「ご当地もの」である。情緒に流れることなく誇り高き、緻密な演奏。

フィラデルフィア管弦楽団
ユージン・オーマンディ(指揮)

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