土曜日, 5月 20, 2023

Piano Music: Essential Classics Satie











5つ星のうち5.0

サティのピアノ曲。誰しもが様々な場で耳にしているのだが、そのイメージを語ることはたやすくない。受ける印象のひとつは、時間の交錯である。陽光差し込む早朝と沈思にふける深夜。これが時間の経過とともにあるのではなく、曲によって交錯する。ゆえに時間の観念に戸惑い、いまがいつか「行方不明」になるような錯覚がある。もう一つは弱音と高音の綾なす不思議な交錯である(逆に言えば強音と低音の抑制と言っていいかも知れない)。そこから玲瓏とした独特の音楽美が表現される。

なにげなく聴けばとても心地よく、集中して耳を澄ませば思索的な世界に引き込まれる。ダニエル・ヴァルサーノとフィリップ・アントルモンの演奏は深く美しい。また、一瞬吹き上げるパッションもある。2人のピアニストは思索的な世界にリスナーを寄せる名手であると思った。

→ 
 Various: Un Siecle De Musique  にて聴取

 サティの思索的世界への誘い (amazon.co.jp)



1969~1986年の収録されたサティのCD6枚組ピアノ曲集。第一人者によるほぼ全曲に近いカヴァー集をこの価格で入集できるのは幸い。以下は便宜的な収録情報を参考まで。

<収録情報(作曲年)>
『アレグロ』
『ワルツ=バレエ』 - 1885年
『幻想曲=ワルツ』 - 1885年
『オジーヴ』(尖弓形)- 1886年
『1886年の3つの歌曲』
『3つのサラバンド』 - 1887年
『3つのジムノペディ』 - 1888年
『6つのグノシェンヌ』- 1890年
『薔薇十字教団最初の思想』 - 1891年
『星の息子への前奏曲』 - 1891年
『薔薇十字会』『薔薇十字会の鐘』 - 1892年
『ナザレ人の前奏曲I&II』 - 1892年
『エジナールの前奏曲』 - 1892年?
『祈り』 - 1893年から1895年(断片)
『ヴェクサシオン(嫌がらせ)部分演奏』- 1893年から1895年
『ゴシック舞曲』(副題「我が魂の大いなる静けさと堅固な平安のための9日間の祈祷崇拝と聖歌隊的協賛」)- 1893年
『天国の英雄的な門への前奏曲』 - 1894年
『冷たい小品集』 - 1897年
『舞踊への小序曲』 - 1900年
『貧しき者の夢想』(Robert Cabyによる校訂)- 1900年
『世俗的で豪華な唱句』 - 1900年
『愛撫』 - 1897年
『あなたが欲しい(ジュ・トゥ・ヴ:女声版)』『あなたが欲しい(ジュ・トゥ・ヴ:男声版)』『あなたが欲しい(ジュ・トゥ・ヴ)』 - 1900年
『エンパイヤ劇場の歌姫(アメリカ風間奏曲)』
『金の粉』
『ピカデリー』
『夢みる魚』
『びっくり箱』 - 1899年
『1906-1913年の6つの小品』
『パッサカリア』 - 1906年
『12の小コラール』 - 1906年
『2つの夜の夢』 - 1911年
『新・冷たい小品集』 - 1906年?
『犬のためのぶよぶよした前奏曲』 - 1912年
『犬のための本当にぶよぶよした前奏曲』 - 1912年
『自動記述法』 - 1913年
『ひからびた胎児』 - 1913年
『あらゆる意味で、でっちあげられた数章』 - 1913年
『でぶっちょ木製人形へのスケッチとからかい』 - 1913年
『古い金貨と古いよろい』 - 1913年
『童話音楽のメニュー』
『絵のような子供らしさ』
『メデューサの罠のための7つの小舞曲』
『操り人形は踊っている』
『世紀ごとの時間と瞬間的な時間』 - 1914年
『嫌らしい気取り屋の3つの高雅なワルツ』 - 1914年
『最後から2番目の思想』 - 1915年
『スポーツと気晴らし』- 1914年
『官僚的なソナチネ』(全3楽章)- 1917年
『3つの夜想曲』『第4と第5の夜想曲』- 1919年
『梨の形をした3つの小品(4手連弾)』- 1903年
『不愉快な概要(4手連弾)』- 1908年から1912年
『馬の装具で(4手連弾)』- 1911年
『3つの組み立てられた小品(4手連弾と小管弦楽団)』
『風変わりな美女(管弦楽曲、または4手連弾)) - 1920年
『若い令嬢のためにノルマンの騎士によって催された祝宴』
『ゆがんだ踊り』
『悲しい道化師の小曲』
『第1のメヌエット』
『スケッチとクロッキーの手帖』
『モンマルトルの素描とスケッチ』
『あやなすプレリュード』
『心にふれる秘密の音楽』
『うるさいいたずら』
『新・3つの童話音楽』
『潜水人形』
『ブロンズの彫像』
『3つの恋愛詩』
『やさしく』
『4つのささやかな歌曲』
『別の3つの歌曲』
『伊達男』
『軍旗敬礼への賛歌』
『言葉の無い3つの歌曲』
『帽子屋』
『乗合バス』
『医者のところで』
『いいとも、ショショット』、

【演奏】
アルド・チッコリーニ(ピアノ)、
ガブリエル・タッキーノ(ピアノ:4手作品)、マディ・メスプレ(ソプラノ)、ニコライ・ゲッダ(テノール)、ガブリエル・バキエ(バリトン)

リスト・ソロ・レコーディングス  クラウディオ・アラウ



  1960年代の終わりから80年代はじめまで、アラウのリスト録音記録。50年代初頭からアラウはリストを得意としており(  Serious Wizard of Sound  )、彼にとっては晩年にいたるまで、ベートーヴェンやショパンとともに一貫してリストでも定評があった。

  「超絶技巧練習曲」のような技量を発揮する演目のほか、「巡礼の年」のようなポエティックな曲とも、アラウは豊富な経験からしかと手中にしている。前者ではことさらに技巧を誇示せず、むしろテンポをしっかりと保ち、後者では大向こうの受け狙いとは一線を画し、あえて過度な感情移入を抑制しているように感じる。これは、技巧的な曲は華麗に、詩的な曲は叙情たっぷりにという「のめり込み」タイプではなく、あくまでも沈着冷静な「中庸」型。抜群の安定度が持ち味であり、これぞ晩年までリストを十全に弾きえた大家アラウ流ともいえようか。

《収録情報》
【CD1】
・『ダンテを読んで』(録音:1982年4月 デジタル)
・ショパンによる6つのポーランドの歌 S.480(録音:1982年4月 デジタル)
 (おとめの願い/春/指環/バッカナール/私のいとしい人/家路)
・詩的で宗教的な調べ S.173〜『葬送』(録音:1982年4月 デジタル)
【CD2】
・超絶技巧練習曲 S.139(全12曲)(録音:1974年3月、11月、1976年11月 ステレオ)
【CD3】
ヴェルディのオペラの主題による演奏会用パラフレーズ(録音:1971年11月 ステレオ)
・『リゴレット』〜リゴレット・パラフレーズ S.434
・『エルナーニ』〜演奏会用パラフレーズ S.432
・『トロヴァトーレ』〜ミゼレーレ S.433
・『第1回十字軍のロンバルディア人』〜めでたし、マリア S.431
・『アイーダ』〜神前の踊りと終幕の二重唱 S.436
・『ドン・カルロ』〜祝典の合唱と葬送行進曲 S.435
・『シモン・ボッカネグラ』〜シモン・ボッカネグラの回想 S.438
【CD4】
・ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178(録音:1985年6月 デジタル)
・詩的で宗教的な調べ S.173より『孤独のなかの神の祝福』(録音:1970年3月 ステレオ)
・3つの演奏会用練習曲 S.144(録音:1974年5月、1976年11月 ステレオ)
 (悲しみ/軽やかさ/溜め息)
【CD5】
・『巡礼の年』第2年『イタリア』 S.161〜ペトラルカのソネット第104番(録音:1969年3月 ステレオ)
・バラード第2番ロ短調 S.171(録音:1969年3月 ステレオ)
・『巡礼の年』第2年『イタリア』 S.161〜ペトラルカのソネット第123番(録音:1969年3月 ステレオ)
・『巡礼の年』第1年『スイス』 S.160〜『オーベルマンの谷』(録音:1969年3月 ステレオ)
・忘れられたワルツ第1番 S.215(録音:1969年3月 ステレオ)
・『巡礼の年』第3年 S.163〜『エステ荘の噴水』(録音:1969年3月 ステレオ)
・2つの演奏会用練習曲 S.145(録音:1970年3月 ステレオ)
 (森のざわめき/小人の踊り)




デビュー・リサイタル  アルゲリッチ(マルタ)


 









5つ星のうち4.0

今日、世界中のどこかでさまざまなコンクールが行われており、ピアニストは登竜門をもとめてエントリーしている。しかし、1950年代はその機会はきわめて限られていた。1957年、ブゾーニおよびジュネーブの国際ピアノコンクールであいついで優勝したアルゲリッチの登場はまさに「彗星のごとく」であったろうし、それ以前にアルゼンチン「国家」期待のミューズであり、その後も周到に研鑽を積んで1960年に満を持してのデビュー。小生はアルゲリッチいまだ20歳代、1970年の初来日でライヴに接して圧倒されて以来のファンだが、その強烈な個性と美貌をもって日本でもすでに大人気であった。


本集は1960年7月のデビュー盤だが、強固な打鍵、楽々とパッセージを弾ききる技巧よりも、曲毎に目くるめく変化する多彩な表現ぶりとそれを支える迸るような音楽的な直観力に改めて驚く。音はいささか古くなったが、豊かな感性の発露は今日聴いても十分に挑戦的ですらある。

Martha Argerich: The Collection 1: The Solo Recordings  も参照。下記のラインナップのうち、もう1枚気にいったものがあれば、この全集(第1集)購入がお得です。

<収録情報>
□ショパン:スケルツォ第2番、舟歌 嬰ヘ長調、ブラームス:2つのラプソディ第1番、第2番、プロコフィエフ:トッカータ ハ長調、ラヴェル:水の戯れ、リスト:ハンガリー狂詩曲第6番(本盤)

■ショパン:ピアノ・ソナタ第2番、第3番、スケルツォ第3番、ポロネーズ第6番、第7番、アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ、マズルカ第36番、第37番、第38番、24の前奏曲、前奏曲嬰ハ短調、前奏曲変イ長調(遺作)

■リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調

■シューマン:ピアノ・ソナタ第2番、子供の情景、クライスレリアーナ

■J.S.バッハ:トッカータ BWV.911、パルティータ第2番、イギリス組曲第2番

■ラヴェル:夜のガスパール、ソナチネ、高雅にして感傷的なワルツ

トッカータとフーガ~バッハ:オルガン名曲集  ヴァルヒャ(ヘルムート)


 






5つ星のうち5.0

バッハのオルガンを無性に聴きたくなるひとつのきっかけは、(まったくの個人的意見ながら)少々メランコリーな心持で、一人沈思したいときではないだろうか。しかし、トッカータの原義は「触れる」という意味で、「トッカータとフーガ」は実はオルガンの「腕ならし」曲といわれれば、そうだったのか!と気分もちょっとは和み、さらに本集の終曲、『目覚めよと呼ぶ声が聞こえ』は、よく耳にすれば明るい導きの響きもある。


ヘルムート・ヴァルヒャの即興的な雰囲気漂う名演が、古くからひろく支持をえているのは、バッハの音楽のもつこうした「朗々さ」を見事に表現しているからではないだろうか。聴き終わったら、結構、はじめは落ち込んでいた心持が晴れて変わっているかも!推薦します。

<収録内容>(録音時点と場所)
◆トッカータとフーガ ニ短調 BWV565(1956年9月、アルクマール)
◆トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV564(1956年9月、アルクマール)
◆幻想曲とフーガ ト短調 BWV542(1962年9月、アルクマール)
◆パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV583(1962年9月、アルクマール)
◆小フーガ ト短調 BWV578(1970年5月、ストラスブール)
◆コラール『主イエス・キリストよ、われ汝に呼ばわる』 BWV639(1969年9月)
◆コラール『いざ来ませ、異教徒の救い主』 BWV659(1971年5月、ストラスブール)
◆コラール『目覚めよと呼ぶ声が聞こえ』 BWV645(1971年5月、ストラスブール)

Chopin: Klavierwerke (Works for Piano) Arturo Benedetti Michelangeli


 










  第二次大戦前に活躍したパハマン、パデレフスキ、ローゼンタールなど「伝説の名手」のめったに聴くことのできない録音ほか、19世紀生まれで戦後に大家の名をほしいままにしたコルトー、ルービンシュタイン。これにつづく20世紀一桁生まれのソロモン、アラウ、ホロヴィッツらの初期の成果。いずれも非常に古い録音でショパンに深い関心をもつ好事家向け。リパッティ晩年のワルツ集は1950年の収録でこれが一種のボーナス盤だろう。 
  ピアノはモノラルの古い収録でも、オーケストラと比して一応鑑賞に耐えうることから、ディープなショパン・ファンにとってはこの価格なら垂涎のセットだろう。

<収録情報>([生年―没年]、(録音年)を示す)
 
■ヴラディーミル・ド・パハマン[1848-1933]
・マズルカ Op.33-3、Op.50-2、Op.67-4、Op.33-4(全て1917)
・プレリュード Op.28(1907)

■イグナチ・ヤン・パデレフスキ[1860-1941]
・ノクターン:Op.15-1(1917)
・ワルツ:Op.64-2(1917)
・エチュード:Op.25-11(1925)、Op.10-12(1928)
・ポロネーズ:Op.53(1937)

■モリッツ・ローゼンタール[1862-1946]
・マズルカ:Op.24-3(1937)、Op.24-4(1929)、Op.33-2(1937)、Op.33-4(1935)、Op.50-2(1935)、 Op.63-1(1937)、Op.63-3(1931)、Op.67-1(1931)

■アルフレッド・コルトー[1877-1962]
・バラード:第1番 Op.23(1926)、第2番 Op.38(1933)
・ワルツ:Op.34-2(1943)、 Op.42(1943)、 Op.64-2(1943)、 Op.69-1(1943)
・ピアノ・ソナタ:第2番 Op.35(1933)、第3番 Op.58(1931)
・ピアノ・ソナタ・即興曲:Op.36-2(1925)
・幻想曲:Op.49(1933)
・ピアノ協奏曲:第2番 Op.21(1935) ジョン・バルビローリ(指揮)管弦楽団

■アルトゥール・ルービンシュタイン[1887-1982]
・スケルツォ:第1番 Op.20(1932)、第2番 Op.31(1932)、第3番 Op.39(1932)
・ノクターン:Op.9-1(1937)、Op.9-2(1936)、Op.9-3(1937)、Op.15-1(1937)、Op.15-2(1936)、Op.15-3(1937)
・子守唄:Op.57(1932)
・舟歌:Op.60(1928)
・ピアノ協奏曲:第1番 Op.11(1937)、第2番 Op.21(1937) ジョン・バルビローリ(指揮)ロンドン交響楽団

■ソロモン(カットナー)[1902-1988]
・ノクターン:Op.9-2(1943)、Op.27-2(1942)
・ポロネーズ:Op.40-1(1933)、Op.53(1932)
・幻想曲:Op.49(1935)
・バラード:第4番 Op.52(1946)
➡ 
 Complete Recordings
 
■クラウディオ・アラウ[1903-1991]
・エチュード:Op.10-4、Op.25-1、Op.25-2(全て1929)
・バラード:第3番 Op.47(1939)
・プレリュード:Op.28-23(1934)
・タランテラ:Op.43(1930)

■ヴラディーミル・ホロヴィッツ[1904-1989]
・マズルカ:Op.7-3(1932)、Op.41-1(1933)、Op.50-3(1935)
・ノクターン:ホ短調(1935)
・即興曲:Op.29-1(1936)
・スケルツォ:Op.7-3(1936)
 
■ディヌ・リパッティ[1917-1950]
・ワルツ:Op.18、Op.34-1、Op.34-2、Op.34-3、Op.42、Op.64-1、Op.64-2、Op.64-3、Op.69-1、Op.69-2、Op.70-1、Op.70-2、Op.70-3、ホ短調(全て1950)
・ピアノ・ソナタ:第3番 Op.58(1947)

■アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ[1920-1995]
・マズルカ:Op.30-4(1941)、Op.33-4(1942)、Op.68-2(1941)
・子守唄:Op.57(1942)
・スケルツォ:Op.31(1941)
・ワルツ:Op.69-1(1941)
・ポロネーズ:Op.22(1935)

■その他
・練習曲集:Op.10、Op.25(1927) ヴィルヘルム・バックハウス(p)
・ノクターン:Op.15-2(1931) デイム・マイラ・ヘス(p)
・ピアノ・ソナタ第2番 Op.35(1932) アレクサンダー・ブライロフスキー(p)
・バラード第3番 Op.47(1933) イグナツ・フリードマン(p)
・スケルツォ第3番 Op.39(1935) シモン・バレル(p)
・バラード第1番 Op.23(1939) エミール・ギレリス(p)

バッハ:リトル・バッハ・ブック  グールド(グレン)










5つ星のうち5.0

全体は2部にわかれ、あたかも<双頭の鷲>のように配置されている。第1部(第1〜11曲)はもっとも有名なゴルドベルク変奏曲アリアからはじまり、小プレリュードをへて2声のインヴェンション4曲、いくつかの著名な小曲ののちフランス組曲(第5番)のガヴォット,ブーレ&ジーグでおわる。

第2部(第12〜21曲)も「劈頭」にふさわしい平均律クラヴィーア曲集第1巻第1番からはじまり、フゲッタ、小プレリュードをへて2声のインヴェンション5曲、フランス組曲、イギリス組曲(第2番)の同じくブーレI,II&ジーグでおわる。

 11才のグールドの愛らしい写真と小粋な盤名で一瞬、入門版、単なる小品集と思いがちだが、そこは奇才グールドである。バッハらしい静謐さ、硬質でパセティックな展開、そして華やいで充実した締めくくり。これは実に周到にくみたてられたバッハ選集であり、エッセンスが濃縮されている。グールド1955〜80年の25年にわたるバッハ解釈の集大成であり、全体は熟慮された「グールド編バッハ組曲第1、2集」となっている。グールド晩年ちかく、結果として長年のリスナーへの最高の贈り物となった1枚。

 周到にくみたてられたバッハ選集 (amazon.co.jp)

Various: the Heart of the Cell Pre, Jacqueline Du


 









5つ星のうち4.0

デュ・プレの人気はいまも衰えない。美人薄命という譬えもあるが、むしろ若き日の情熱的で、直情的で、音楽にのめり込むような集中力ある演奏スタイルでは男性にいささかも引けをとらず、その一方、リリカルで抒情的な曲想での女性的な装いは大きな魅力を湛えている。

じっくりとデュ・プレの個性を味わうのであれば、 Jacqueline Du Pre: The Complete EMI Recordings が望ましいが、本集も廉価ダイジェスト盤としては好適。

<収録情報>
【CD1】
・エルガー:『チェロ協奏曲ホ短調Op.85』 より 第1楽章と第2楽章,
・ディーリアス:『チェロ協奏曲』より アレグラメンテ,
・ドヴォルザーク:『チェロ協奏曲ロ短調』 より 第3楽章,
・サン=サーンス:『チェロ協奏曲第1番イ短調 Op.33』より 第1楽章,
・シューマン:『チェロ協奏曲イ短調Op.129』より 第2楽章と第3楽章,
・ハイドン:『チェロ協奏曲第1番ハ長調』より第3楽章,
・ハイドン:『チェロ協奏曲第2番ニ長調』より第2楽章,
・ボッケリーニ:『チェロ協奏曲 変ロ長調』より第2楽章,

【CD2】
・J.S.バッハ:『無伴奏チェロ組曲第1番ト長調BWV.1007』より プレリュード,
・ベートーヴェン:『ピアノ三重奏曲第5番ニ長調 Op.70-1』より 第1楽章,
・ベートーヴェン:『ピアノ三重奏曲第7番 変ロ長調 Op.97』より 第4楽章,
・ブラームス:『チェロ・ソナタ第1番ホ短調Op.38』より 第1楽章,
・ブラームス:『チェロ・ソナタ第2番ヘ長調Op.99』より第2楽章,
・ベートーヴェン:『チェロ・ソナタ第3番イ長調Op.69』より第1楽章,
・ベートーヴェン:『チェロ・ソナタ第5番ニ長調Op.102-2』より第1楽章,
・シューマン:『幻想小曲集 Op.73』より第2曲,
・フランク:『チェロ・ソナタ イ長調(原曲:ヴァイオリン)』より第1楽章,
・フォーレ:『エレジー ハ短調Op.24』、
・パラディス:『シチリアーノ』,
・サン=サーンス:『白鳥』

Jacqueline Du Pre: The Complete EMI Recordings Pre, Jacqueline Du










5つ星のうち5.0

 デュ・プレ(1945〜87年)の16才から28才までの12年間の録音の集大成。すでにいくどか同種のbox setがでているが、今回は17CDでこの価格のスーパー廉価盤。以下は録音年代別一覧(B:夫君だったバレンボイムの略)。本ディスコグラフィからも、デビュー当初のデュ・プレにとって、最晩年の巨匠バルビローリ( Great Emi Recordings )と「神業的」伴奏者ムーアという英国で活躍した2人の大家との邂逅が重要な意味をもっていたであろうことがわかる。


【1961年】
◆ヘンデル(スラッター編):ソナタト短調
◆ファリャ-マレシャル編:スペイン民謡組曲 アーネスト・ラッシュ(ピアノ)

【1962年】
◆バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番、第2番
◆同:トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調BWV564よりアダージョ
 ロイ・ジェッソン(オルガン)
◆同:ソナタニ長調BWV1028−アダージョーアレグロ
 ロナルド・キンロック・アンダーソン(チェンバロ)
◆サン=サーンス:動物の謝肉祭より白鳥 オシアン・エリス(ハープ)
◆ファリャ-マレシャル編:スペイン民謡組曲よりホタ ジョン・ウィリアムズ(ギター)
◆ブラームス:チェロ・ソナタ第2番 アーネスト・ラッシュ(ピアノ)
◆ブルッフ:コル・ニドライ ※
◆パラディス-ドュシュキン編:シチリエンヌ ※
◆シューマン:幻想小曲集Op.73 ※
◆メンデルスゾーン:無言歌ニ長調Op.109 ※
以上※ジェラルド・ムーア(ピアノ)

【1963年】
◆クープラン:コンセール第13番(1724) プリース(チェロ)
◆パラディス-ドュシュキン編:シチリエンヌ
◆シューマン:幻想小曲集Op.73 ジェラルド・ムーア(ピアノ)
 
【1965年】
◆エルガー:チェロ協奏曲 バルビローリ/ロンドン交響楽団
◆ディーリアス:チェロ協奏曲 サージェント/ロイヤル・フィル
◆ベートーヴェン:チェロ・ソナタ第3番、第5番 コヴァセヴィチ(ピアノ)
◆ブリテン:チェロ・ソナタ ハ長調Op.65よりスケルツォ、マルツィア 同上

【1967年】
◆ハイドン:チェロ協奏曲ニ長調 バルビローリ/ロンドン交響楽団
◆ハイドン:チェロ協奏曲第1番 B/イギリス室内管弦楽団
◆ボッケリーニ:チェロ協奏曲第9番 B/イギリス室内管弦楽団 

【1968年】
◆モン:チェロ協奏曲 バルビローリ/ロンドン交響楽団
◆サン=サーンス:チェロ協奏曲第1番 B/ニュー・フィル
◆シューマン:チェロ協奏曲      同上
◆R.シュトラウス:交響詩『ドン・キホーテ』 ボールト/ニュー・フィル
◆ブラームス:チェロ・ソナタ第1番、第2番 B(ピアノ)
◆ブルッフ:コル・ニドライOp.47 B/イスラエル・フィル

【1969年】
◆ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲変ホ長調Op.1-1
◆同 ピアノ三重奏曲ト長調Op.1-2
◆同 ピアノ三重奏曲ハ短調Op.1-3
◆同 14の変奏曲変ホ長調Op.44
◆同 ピアノ三重奏曲変ロ長調Op.97「大公」
◆同 ピアノ三重奏曲変ホ長調WoO38
◆同 ピアノ三重奏曲変ロ長調WoO39よりアレグレット
◆同 ピアノ三重奏曲変ホ長調(1784)よりアレグレット
◆同 ピアノ三重奏曲ニ長調Op.70-1「幽霊」
◆同 ピアノ三重奏曲変ホ長調Op.70-2
◆同 カカドゥ変奏曲Op.121a
以上 ズーカーマン(ヴァイオリン)、B(ピアノ)
◆フォーレ:エレジーOp.24 ジェラルド・ムーア(ピアノ)
 
【1970年】
◆ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 B/シカゴ交響楽団
◆ドヴォルザーク:『森の静けさ』 同上 
◆ベートーヴェン:・チェロ・ソナタ第1〜5番 B(ピアノ)
◆同 「マカベウスのユダ」の主題による12の変奏曲 B(ピアノ) 
◆同 「魔笛」の主題による7つの変奏曲 B(ピアノ)
◆同 「魔笛」の主題による12の変奏曲 B(ピアノ) 
◆同 クラリネット三重奏曲変ロ長調Op.11 ペイエ(クラリネット)、B(ピアノ)

【1971年】
◆ショパン:チェロ・ソナタ ト短調Op.65 B(ピアノ)
◆フランク(デルサール編):チェロ・ソナタイ長調 B(ピアノ)

【1972年】
◆チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲イ短調Op.50 
ズーカーマン(ヴァイオリン)、B(ピアノ)

【1973年】
◆ラロ:チェロ協奏曲ニ短調 B/クリーヴランド管弦楽団

ドヴォルザーク&サン=サーンス:チェロ協奏曲  ジャクリーヌ・デュ・プレ


 









Jacqueline Du Pre: The Complete EMI Recordings  にも2曲は収録されており、落ち着いて味わうのであれば、こちらがお奨めとも思う。しかし、チェリビダッケとの共演という点で本盤には興味がわくだろう。


デュ・プレの魅力は、ときに“神懸かりの巫女”とでもいうべき没入感にある。ドヴォルザークのなかでもパッショネイトなこの曲を選び、スウェーデン放送響を、第1楽章冒頭からこれでもかと目一杯鳴らしながら、デュ・プレの“憑きものがついたような”むき出しの感性を思い切り発現させたチェリビダッケの手練と秘かな「企み」に思いはいたる。一期一会、ライヴならではの凄演である。

エルガー:チェロ協奏曲 ジャクリーヌ・デュ・プレ

 

星のうち5.0

デュ・プレの代表的な協奏曲の2パッケージ。エルガーは、バルビローリ/ロンドン響、ディーリアスは、サージェント/ロイヤル・フィルがバックでいずれも1965年の録音。


イギリスの誇る2人の作曲家のうち、ディーリアスはビーチャム後継のサージェント得意の演目で、一方、エルガーのバルビローリは本曲に限らず最高位の定評のあるもの。デュ・プレの若き(いまだ10代!)弾けるような才能を十全に引き出す英国の2人の名指揮者の妙技がこの秀演盤を生んだことは間違いない。