ポリーニⅢまでの分と重複するが、以下の12枚のCDも興味深い録音が所収されており、要チェックである。
全体は4部によって構成されている。1.協奏曲集(CD1~3)のバックは重厚で、べーム/ウイーン・フィル、アバド/ベルリン・フィル。2.ベートーヴェン(4,5)は中期から後期の秀作6曲を所収。3.シューベルト、ショパン、シューマン、リスト(6~9)はポリーニの名を不朽にしたメインのレパートリー群だが、ショパンだけに限定するならより廉価、充実した別のボックス・セット(ショパン編9CD)が発売された。4.20世紀音楽集(10~12)もポリーニ手中のジャンルだが、ここも限定した廉価の別セット(6CD)が出ている。好みに応じて比較検討されたい。
アルゲリッチなどと比較し、本セットはやや割高だが、この編集はポリーニの卓抜な才能を知るうえでよく考えぬかれていると思う。BONUS CDも充実。演奏は現代ピアニズムの一つの頂点を極める高品位、最上等である。
<収録内容>
1.協奏曲集
CD1:協奏曲集<1>ベーム指揮ウィーン・フィルーモーツァルト:第23番(1976年)、ベートーヴェン:第5番『皇帝』(1978年)
CD2:協奏曲集<2>アバド指揮ベルリン・フィルーベートーヴェン:第3番(1992年)、第4番(1992年)
CD3:協奏曲集<3>アバド指揮ベルリン・フィルーシューマン:ピアノ協奏曲(1989年) ブラームス:第1番(1997年)
2.ベートーヴェン
CD4:ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ集<1>ー第13番(1991年)、第14番『月光』(1991年)、第17番『テンぺスト』(1988年)、第21番『ワルトシュタイン』(1988年)
CD5:ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ集<2>ー第29番『ハンマークラヴィーア』(1976年)、第32番(1977年)
3.シューベルト、ショパン、シューマン、リスト
CD6:シューベルト/ピアノ作品集ーソナタ第20番(1983年)、アレグレット(1985年)、3つの小品D.946(1985年)
CD7:ショパン/ピアノ作品集ー練習曲Op.25(1972年)、ソナタ第2番(1984年)、子守歌(1984年)
CD8:シューマン&リスト/ピアノ作品集ーシューマン:幻想曲(1973年)、アラベスク(1981&1983年)、リスト:ソナタロ短調(1989年)、悲しみのゴンドラI(1989年)
4.20世紀音楽集
CD9:ドビュッシー&ブーレーズ/ピアノ作品集ードビュッシー:練習曲集(1992年)、・ブーレーズ:ソナタ第2番(1976&1977年)
CD10:バルトーク&ストラヴィンスキー/ピアノ作品集ーバルトーク:ピアノ協奏曲第1番、第2番(1977年)/ アバド指揮シカゴ交響楽団、ストラヴィンスキー:『ペトルーシュカ』~3つの楽章(1971年)
CD11:シェーンベルク&ヴェーベルン/ピアノ作品集ーシェーンベルク:ピアノ作品集(1974年)、ピアノ協奏曲(1988年)、ヴェーベルン:変奏曲(1976年) アバド指揮ベルリン・フィル
CD12:ノーノ&マンゾーニ/ピアノ作品集ーノーノ:力と光の波のように(ソプラノ、ピアノ、管弦楽とテープの為の)(1973年)、苦悩に満ちながらも晴朗な波(ピアノとテープの為の)(1973年) アバド指揮バイエルン放送交響楽団、マンゾーニ:質量(エドガー・ヴァレーズ賛、ピアノと管弦楽の為の)(1980) シノーポリ指揮ベルリン・フィル
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BONUS CD:ショパン:ピアノ協奏曲第1番(1960年)/ カトレヴィツ指揮ワルシャワ・フィル、シューマン:ピアノ協奏曲(1974年)/ カラヤン指揮ウィーン・フィル
【以下は引用】
HMV レビュー
マウリツィオ・ポリーニ・エディション CD12枚組+ボーナスCD
BONUS CD
ショパン:ピアノ協奏曲第1番(1960年)
カトレヴィツ指揮ワルシャワ・フィル
シューマン:ピアノ協奏曲(1974年)
カラヤン指揮ウィーン・フィル
どちらも未発表マスター・テープによっています。ショパンは第6回ショパン・コンクール最終選考のライヴ・テイク。ポリーニの歴史的ドキュメントとしても貴重なテイクです。
組み合わせのシューマンは、ザルツブルク音楽祭におけるライヴ録音で、カラヤン指揮するウィーン・フィルのゴージャスな音響に負けない果敢なポリーニのピアノが素晴らしい聴きごたえ。実演でのカラヤンの迫力も相当なものです。
【収録情報】
CD1
・モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番(1976年)
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番『皇帝』(1978年)
ベーム指揮ウィーン・フィル
巨匠ベームとは相性の良かったポリーニだけに、ここでの演奏は息も良く合って、迫力といい、旋律美といい申し分の無いクオリティの高さに達しています。
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番(1992年)
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番(1992年)
アバド指揮ベルリン・フィル
ポリーニと最も親密な関係にある指揮者、アバドとのベートーヴェン再録音。前回はベームとの演奏でしたが、今回はアバドが相手だけにポリーニらしい流麗な演奏になっているのが大きな特徴です。
・シューマン:ピアノ協奏曲(1989年)
・ブラームス:ピアノ協奏曲第1番(1997年)
アバド指揮ベルリン・フィル
ブラームスはベーム盤から18年ぶりの録音。前回のような気負い立った表現は影を潜め、流麗かつマッシヴな迫力に富む演奏を聴かせてくれます。シューマンはアバドと共にこの作品の演奏で陥りやすい漠とした響きの問題を払拭したクリアーな快演で、隅々までフォーカスの合った演奏が実に快適です。
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第13番(1991年) ・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番『月光』(1991年) ・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番『テンぺスト』(1988年) ・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第21番『ワルトシュタイン』(1988年)
ベートーヴェンの中期作品はエネルギッシュな力強さと率直な抒情に特徴があるといえますが、ポリーニの音楽キャラクターにはそれがとてもピッタリきます。ここに収録された4曲もどれも見事な集中力で弾き抜かれており、ワルトシュタインなどまさに素晴らしい迫力です。
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第29番『ハンマークラヴィーア』(1976年)
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番(1977年)
ポリーニを代表する名盤のひとつ「ベートーヴェン:後期ソナタ集」から2曲収録。どちらもかなりのエネルギーを必要とする作品ですが、まだ30代なかばだったポリーニのパワーは凄いもので、両作品で最も力強い演奏との評価を広く獲得しています。
・シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番(1983年)
・シューベルト:アレグレット(1985年)
・シューベルト:3つの小品D.946(1985年)
穏やかなシューベルト演奏の多い中にあって、ポリーニのそれはほとんどベートーヴェンへのスタンスを思わせる緊張感に富むもので、その意味では作風そのものがベートーヴェン的な傾向を示す第20番のソナタはポリーニにピッタリです。
・ショパン:練習曲Op.25(1972年)
・ショパン:ピアノ・ソナタ第2番(1984年)
・ショパン:子守歌(1984年)
ショパンの作品に付きまとうひ弱なイメージを微塵も感じさせない強く整った演奏。テクニックの素晴らしさはもちろん、張り詰めた雰囲気、緊張感には独特なものがあり、ロマンティックなフレーズもここではすべて音響構築への一助として捉えられたような、非常に見通しのよい造形美が痛快です。
CD 8
・シューマン:幻想曲(1973年)
・シューマン:アラベスク(1981&1983年)
・リスト:ピアノ・ソナタロ短調(1989年)
・リスト:悲しみのゴンドラI(1989年)
同じロマン派音楽ながら対照的な作風のシューマンとリストの組み合わせ。ポリーニのアプローチはいつも通り怜悧でダイナミック、造型感覚にあふれたもので、ここでもシューマンを迷い無く美しく響かせてくれているほか、リストのロ短調では期待通りの大迫力演奏をきかせてくれます。
CD9
・ドビュッシー:練習曲集(1992年) ・ブーレーズ:ピアノ・ソナタ第2番(1976&1977年)
ドビュッシーのエチュードには具体的な指の運動が徹底して追求されている面白さがありますが、ポリーニの演奏はそうした要求に完璧にこたえた演奏としてあまりにも名高いもの。組み合わせのブーレーズも難曲ですが、近・現代作品に深い理解を示すポリーニにとって、微細な音響の綾は慣れ親しんだ常の世界。ここでも自信に満ちた演奏を聴かせています。
・バルトーク:ピアノ協奏曲第1番(1977年)
・バルトーク:ピアノ協奏曲第2番(1977年)
・ストラヴィンスキー:『ペトルーシュカ』~3つの楽章(1971年)
アバド指揮シカゴ交響楽団
シカゴ響の音響の個性もあって、ハンガリー系の演奏とはまったく異なる印象が強いここでのバルトークの協奏曲は、多くのファンを持つ見事な演奏です。ポリーニの打鍵の速さ・強さ・小気味よさは、普通のピアニストからは聴けない種類のとんでもないもので、加えてアバド率いるシカゴ響が、民俗性やモダニズムなど意にも介さぬストレートなアプローチで強力なオケ・パートを構築しているから堪りません。最強のバルトークです。
組み合わせのペトルーシュカ3章は、ドイツ・グラモフォンへの録音第1弾となったもので、瞬発力に富む鋭利な演奏が聴きものとなっています。
・シェーンベルク:ピアノ作品集(1974年)
・シェーンベルク:ピアノ協奏曲(1988年)
・ヴェーベルン:変奏曲(1976年)
アバド指揮ベルリン・フィル
一般的な情動を廃したシェーンベルクのピアノ曲をほぼ網羅したポリーニ盤は、以前からシェーンベルク好きにとってのバイブル的存在として知られていました。ここではピアノ協奏曲とヴェーベルンの変奏曲も併せて収録し、数列・点描といった世間的な感想とは裏腹に、ポリーニがこうした作品にも独特な抒情性が備わっていることを教えてくれます。
CD12
・ノーノ:力と光の波のように(ソプラノ、ピアノ、管弦楽とテープの為の)(1973年)
・ノーノ:苦悩に満ちながらも晴朗な波(ピアノとテープの為の)(1973年)
アバド指揮バイエルン放送交響楽団
・マンゾーニ:質量(エドガー・ヴァレーズ賛、ピアノと管弦楽の為の)(1980)
シノーポリ指揮ベルリン・フィル
現代音楽に造詣が深く、政治運動にも関心のあるポリーニだけに、ルイジ・ノーノの作品を取り上げることは自然な成り行きだったのかも知れません。過激なメッセージを含むこれらイタリアの現代音楽の表現者として、ポリーニの鋭利なピアノが果たした役割は極めて大きなものと言えるでしょう。
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