単なる日本語の語感によるものかも知れないが、バックハウスという響きには、いかにもドイツ的な堅牢さを感じさせるし、ケンプというと、なぜか「きちんとした」イメージを抱く。その連想からはアラウは、心を「洗う」がごとき柔らかなをものを・・・。これは、あくまでも語呂合わせであり、日本人の潜在心理に働きかけるようなものとも思う。
しかし、まんざら当たっていないわけでもない。バックハウスの雄渾なピアノはドイツの本流の重さがあり、ケンプ博士のピアニズムは学究的な雰囲気を醸し、そしてアラウは、両者のように個性的ではないが、控えめながら柔よく剛を制するが如く、これも王道をいく立派な出で立ちを想起させる。
クラウディオ・アラウの廉価盤が最近多くでている。下記(12枚組)は代表的なものだが、本集、協奏曲ではグリーグ、シューマンは同一演奏ながら、ベートーヴェンの3~5番は、クレンペラーとのライブでこの時代では著名なもの。また、得意のリストもカンテッリやオーマンディとの協演も収録されている。
アラウは健康に恵まれ長寿で晩年まで活躍したので、その音源は多いが本集は1950年代のモノラル録音が主体である点は留意。ソナタでは、全般にテンポが緩やかで情感表現が豊かゆえ、素直に曲想に入っていけるのが好ましい。特に、ショパンでは演奏家が前面に立つような派手さを嫌い、中庸の大家らしい解釈の深さを自然に感じさせる。音量を控えイン・テンポを守った演奏スタイルはドイツ音楽に限らず、あらゆる作品に適応するアラウならではのアプローチである。
【収録情報、カッコ内録音時点】
<協奏曲他>
◆ベートーヴェン:ピアノ協奏曲
第3番(1957年10月24日)、第4番(1957年11月3日)、第5番(1957年11月8日):クレンペラー/フィルハーモニー管、於:ロイヤル・フェスティヴァル・ホール
◆R.シュトラウス:ブルレスケ(1946 年4 月13 日):デフォー/シカゴ響
◆ヴェーバー:小協奏曲:同上
◆ショパン:ピアノ協奏曲第2番(1950年12月10日):フリッツ・ブッシュ/ニューヨーク・フィル
◆リスト:ピアノ協奏曲第2番(1953年3月15日):グィド・カンテッリ/ニューヨーク・フィル
◆リスト:ハンガリー幻想曲:オーマンディ/フィラデルフィア管(1951~52年)
◆グリーグ:ピアノ協奏曲(1957年4月)):ガリエラ/フィルハーモニア管
◆シューマン:ピアノ協奏曲(1957年5月):同上
<ピアノソロ>
◆ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ
第24番(1958年6月8日)、第31番(1957年5月18日)、於:アビー・ロード・スタジオ
◆シューマン:クライスレリアーナ(1957年)、謝肉祭(1939年)
◆ヴェーバー:ピアノ・ソナタ第1番(1941年2月20日)
◆リスト:ハンガリー狂詩曲第9番、第11番(1951~52年)
◆ショパン:12の練習Op.10、Op.25、演奏会用アレグロ イ長調、3つの新しい練習曲、幻想即興曲、ショパン:舟歌(1953年、56年)
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