べーム/ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲全集。1970~1972年の録音。ほかに、「エグモント」、「コリオラン」、「プロメテウスの創造物」「レオノーレ」(第3番)、「フィデリオ」の5つの序曲(最後の2つは1969年、シュターツカペレ・ドレスデン)を収録(9番データのみ下記)。
ウィーン・フィルでは1960年代末にイッセルシュテットとの素晴らしい演奏(デッカ)もあるが、ドイツ・グラモフォンが数年後、満を持してベームとの組み合わせで世に送った大きな企画であった。ベームは1975,77,80年にウィーン・フィルとあいついで来日、これが空前のブームとなったことから、日本では特に注目された全集である。
ベームの演奏は、このベートーヴェンでもブラームス、ブルックナーでも共通し全体構成がしっかりと組み立てられており、テンポは(驚くべきほど)一定、かつ弦と管の楽器のバランスと融合が絶妙でどちらかが突出するということがない。それを可能とするのは、いくどもベーム自身が語っているように、スコアを徹底的に読み込み(新即物主義と言われる場合もある)、オーケストラに周到な練習を課することによって可能となる。
その一方、リスナーにとってどこに連れていかれるかわからないような、ある種のわくわくどきどき感(たとえばカルロス・クライバー)とは無縁である。
ベームのベートーヴェンは、以上の特質から非常な集中力のもと、はじめの一音から作品そのものに導き、演奏よりも作曲家の心象へリスナーの関心が集中することにある。落ち着きのあるアプローチは、重心の低さを常に意識させるが、磨かれた音は、けっして軽からず重からず、ウィーン・フィルの場合は特に瑞々しくも美しい。よって、幾度耳にしても飽きのこないオーソドックスさを感じさせる。最良の演奏記録といえよう。
(参考)
◆交響曲第9番ニ短調Op.125
ギネス・ジョーンズ(Sp)
タティアナ・トロヤノス(Ms) ジェス・トーマス(T)
カール・リッダーブッシュ(Bs)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン・フィルとのブラームスの交響曲全集もあります。
この時代、フルトヴェングラー、クナッパーツブッシュ、ワルター、カラヤン、ミュンシュ、クレンペラーなど多くの巨匠の名演がノッシノッシと地面を踏み鳴らすように闊歩しており、1959年10月録音のベーム盤の存在はけっして目だったものではなかったが、ひとたび聴けば、「これが重厚なドイツ、ベルリンの音か、これがステレオ録音の威力か」といった新鮮な感動があった。このあと、本曲は、いくたの音源が新手を繰り出すように市場にでるが、その都度、本盤と比較され、やはり頭ひとつベームが抜きん出ているといった評価をえていたと思う。今風にいえば最良の<ベンチ・マーク>盤であった。
低弦の分厚いハーモニーとブレスの一糸乱れぬ重奏、悠揚とした一定のテンポ、起伏の大きな構成力、そしてとぎれぬ緊張感から、聴き終わったあとにずしりとくる充足感。いま聴いてもこの感動の原質はかわらない。気迫あるベーム全盛期の代表盤である。
べーム/ベルリン・フィルは、1959年から1968年にかけて、モーツァルトの交響曲全集を録音した。本集はこのうち後期6曲を所収したものだが、同時期、カラヤン/ウィーン・フィルは40番 (1960年)、41番 (1963年)を録音Legendary Decca Recordings。さらに大御所ワルターも手兵コロンビア響と同6曲を1959~60年にかけて収録Bruno Walter Conducts Mozart。いずれも<黄金の60年代>を象徴する覇を競うような名演である。
晩年、ベーム/ウィーンの新録音もあり、これも実に見事なものだが、小生はベーム絶頂期の緊張感途切れぬ本集を好む。ベームは、50年代のワルター/ウィーン、ニューヨーク・フィルの快刀乱麻、縦横無尽ともいえる先行録音はもちろん意識していただろうが、それに対して、あくまでも<ベーム流>の重心が低く重厚無比、テンポ安定、一部の隙もない迫力あるモーツァルト像を自信をもって提起している。録音の古さは否めないが、この確固たる解釈と凝縮感はやはり大きな魅力である。
◆交響曲第35番 K.385『ハフナー』(1959年10月)
◆交響曲第36番 K.425『リンツ』(1966年2月)
◆交響曲第38番 K.504『プラハ』(1959年10月)
◆交響曲第39番 K.543(1966年2月)
◆交響曲第40番 K.550(1961年12月)
◆交響曲第41番 K.551『ジュピター』(1962年3月)
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モーツァルトは楽器の特性を実にうまく引き出して、管楽器のための名協奏曲集をのこしてくれたと思う。プリンツ(Cl)、トリップ(Fl)、ツェーマン(Fg)いずれも伸び伸びと典雅で快活な曲想を表現している。
べーム/ウィーン・フィルのバックは落ち着いた安定感があり、個人の名人芸ではなく各楽器の特性を最良なかたちで引き立たせているように感じる。だからこそ飽きがこない。毎日でも聴きたくなる名曲の名演(1972~73年の録音)。
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