http://blog.bestamericanpoetry.com/.a/6a00e54fe4158b88330133ec6ab848970b-pi
ラフマニノフは人気がある。しかし、残された写真をみるといかにも不機嫌そうな、あるいは本音を見せない鉄面皮のものが多い。その分、音楽では思うさま、感情をぶつけているのかもしれない。まずはゲルギエフの演奏から。
Art of Valery Gergiev
ゲルギエフの90年代から2000年台初頭にかけて録音されたロシア曲集全12枚組。演奏は当時の手兵マリインスキー(キーロフ)劇場管弦楽団(&合唱団)。これ以降現在にいたるまで、あたかも師カラヤンを見習うように、ゲルギエフは旺盛に再録を行っており、本集はスーパー廉価扱いだが、いずれも現役盤であり魅力にあふれている。
全体として、曲の把握に大局観があり見通しのきいた演奏。加えて、彼の持ち味だが、思い切りのよい音楽づくりと音の流麗な奔流感がこ気味よい(→各曲のコメントも参照)。この価格であれば文句なく推奨したい。
(収録情報)
[CD2]
ラフマニノフ:
・ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18、ラン・ラン(ピアノ)
・パガニーニの主題による狂詩曲 作品43(以上2004年7月 フィンランド・ライヴ)
[CD3]
ラフマニノフ:
・交響曲 第2番 ホ短調 作品27
(1993年1月19-23日 サンクトペテルブルク,マリインスキー劇場)
http://www.amazon.co.jp/Sergey-Rachmaninov-Orchestra-Works-Concertos/dp/B003BF8V34/ref=cm_cr-mr-title
録音こそ非常に古いが内容はなんとも豪華なセット。目玉のピアノ協奏曲全4曲では、1、4番の2曲は作曲家自身のピアノ、バックはオーマンディ/フィラデルフィア管の歴史的音源(1939~41年)、2番は、ルービンシュタインとライナー/シカゴ響(同コンビによるパガニーニの主題による狂詩曲も併録)で固め、3番は、ギレリスとクリュイタンス/パリ音楽院管という強力な布陣。面白いのは、3番をのぞきもう1種の佳演(アンダ、ミケランジェリなど)をぶつけてきていることである。とくにアンダの2番は凛然とした好演。
【ピアノ協奏曲】
◆第1番
(1)ラフマニノフ、オーマンディ/フィラデルフィア管(1939/40年)
(2)モイセイヴィチ、サージェント/フィルハーモニア管(1948年)
◆第2番
(1)ルービンシュタイン、ライナー/シカゴ響(1956年ステレオ)
[同コンビでパガニーニの主題による狂詩曲も併録]
(2)ゲザ・アンダ、ガリエラ/フィルハーモニア管(1953年)
◆第3番
ギレリス、クリュイタンス/パリ音楽院管(1955年)
[ギレリスで楽興の時 変ニ長調 op.16-5(1951年)も併録]
◆第4番
(1)ラフマニノフ、オーマンディ/フィラデルフィア管(1941年)
(2)ミケランジェリ、エットーレ・グラチス/フィルハーモニア管(1957年ステレオ)
◆第2番 ヴァーノン・ハンドリー指揮、ロイヤル・フィル(1994年デジタル)
◆第3番 ニコライ・ゴロワノフ/モスクワ放送管(録音時期:1948年)
【歌劇】
◆『アレコ』全曲
イワン・ペトロフ(バス)、ニーナ・ポクロフスカヤ(ソプラノ)、アナトーリ・オルフェノフ(テノール)、アレクサンドル・オグニフツェフ(バス)、ブロニスラワ・ズラトゴロワ(バス)
ゴロワノフ指揮、ボリショイ劇場管弦楽団&合唱団(1951年)
【その他】
・交響詩『死の島』 アンセルメ/パリ音楽院管(1954年)
・10の前奏曲 op.23、13の前奏曲 op.32 モーラ・リンパニー(ピアノ)(1951年)
・前奏曲ト短調op.23-5 ホロヴィッツ(ピアノ)(1931年)
・ラフマニノフによるピアノ独奏
[バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番(トランスクリプション)、メンデルスゾーン:スケルツォ(真夏の夜の夢より)、チャイコフスキー:子守歌 op.16-1](1935/1942年)
Rachmaninov: Symphony No 2
ヴァーノン・ハンドリー指揮、ロイヤル・フィルの演奏(1994年デジタル)。ラフマニノフのスーパー廉価盤集 Sergey Rachmaninov: Orchestra Works, Piano Concertos, Aleko 所収の1枚。ロイヤル・フィルは伝統的に金管楽器群がすぐれているといわれ、第4楽章に期待をもって聴いたが、本曲ではむしろ弦楽器と木管楽器の掛け合いのしっとりした表情が良い。有名な第3楽章のアダージョは、「聴きどころ」で注目度も高いが、特に構えた感じはなく、誇張せずに実にさわやかな響きをとどけてくれる。素直に聴くことができよき余韻がのこる。全体に鷹揚なスタイルをたもち、他の演奏とくらべて特筆すべき部分がない一方で、原曲のもつファンタジアを全楽章にわたって自然に紡ぎだしている。はじめて接したがハンドリーという英国の名匠、なかなかの奥の深さを感じた。
Rachmaninov ALEKO. Nikolai Golovanov
ロシアの文豪プーシキンの叙事詩「ジプシーたち」をもとに、ラフマニノフがモスクワ音楽院作曲科の卒業作品として1892年、わずか17日で作曲したデビュー作。「アレコAleko」は主人公の名前で、ジプシー娘に恋するが、典型的な三角関係に悩み、最後は恋敵と恋人の2人を殺害してしまうというストーリー。
古典的な音調を強く感じさせる曲で、冒頭は日本の縦笛を連想させるオリエンタルな雰囲気ではじまる。全曲にわたって劇的な強奏とラフマニノフらしい豊かな感傷的メロディが交差し親しみやすい。デビュー作がいまに残る演目となるあたり、ラフマニノフの作曲家としての力量を十分に示すものだろう。
ゴロワノフの演奏は、初期の録音で音は悪いが、曲想をうまくとらえて聴かせどころははずさない。主人公役イワン・ペトロフ、その恋人役ポクロフスカヤとも熱唱でなかなかの快演。 Sergey Rachmaninov: Orchestra Works, Piano Concertos, Aleko の1枚として廉価盤で聴くことができる。
◆歌劇『アレコ』全曲
イワン・ペトロフ(バス)、ニーナ・ポクロフスカヤ(ソプラノ)、アナトーリ・オルフェノフ(テノール)、アレクサンドル・オグニフツェフ(バス)、ブロニスラワ・ズラトゴロワ(バス) ゴロワノフ指揮、ボリショイ劇場管弦楽団&合唱団(1951年)
Plays Rachmaninoff/Falla/Chopin
ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。若手から大家までマークすべき演奏は数多ある。しかし、気高さと余韻の清冽な美しさで本盤を超えうるのは難しい気がする。この時代の録音としては驚異の優秀さゆえかも知れないが、音と音の瞬時の余韻、あるいは気品ある微弱音の響きがなんとも美しく耳にとどく。
けっして神経質な演奏ではないのだが、希代の名演奏家同士、ピアノもオーケストラも、細心のうえにも細心に音を徹底的に練磨している。かつ、それを揺るがせにしない極度の集中度が背景にある。ライナーという指揮者の完璧志向が、ソロでは自在な腕を誇るルービンシュタインに少なからず影響をあたえ、全体に強音をもとめぬ禁欲的ともいえる演奏スタイルとそれを緩めた、ここはというときの一瞬の迫力の感興は並々ならぬものがある。いまだベスト盤の一角をしめる貴重な記録。
→ Sergey Rachmaninov: Orchestra Works, Piano Concertos, Aleko にて聴取。[同コンビでパガニーニの主題による狂詩曲も併録]
Gilels Plays Saint-Saens, Rachmaninov, Shostakovich
1955年6月13日、ギレリス、クリュイタンス/パリ音楽院管弦楽団のパリでの演奏。両者の組み合わせの代表盤。録音は古いが内容は充実。ギレリスのピアノは、ラフマニノフ本人の音源と比較しても、表現が落ち着いており、かつ響きの美しさが際立つ。一方、マイクセッティングのせいもあるかも知れないが、クリュイタンスの追走は全体として、柔らかく抱擁する風のような自然さを感じさせる。第2楽章など難しいパッセージの処理でも両者の呼吸はよくあっており一体感を醸成する一方、第3楽章では思いのほか熱く盛り上がるなど緩急の妙も楽しめる。
録音時点ではラフマニノフは今日のような一大ブームにはなっておらず、両名匠ともに、共感する「現代(同時代)音楽」に挑戦してみようといった積極的な意欲を感じさせ、それがリスナーに直に伝わってくる。
なお、本盤は、ギレリス、クリュイタンス両者の<クロス・ポイント>的な存在で、ギレリス Icon: Emil Gilels, 25th Anniversary of Death にも、クリュイタンス The Cluytens Box - The Collection of His Greatest Hits にも所収されている。
→ Sergey Rachmaninov: Orchestra Works, Piano Concertos, Aleko にて聴取。
Amazon.co.jp : ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番&協奏曲
Eugene Ormandy Conducts 20th Century Classics からラフマニノフの3番を聴く。ここまで美しく瑞々しい協奏は考えられないのではないかと思わせるオーマンディ/フィラデルフィア管のバック。透明感にあふれた音はこよなく上質で、聴かせどころの弦楽器のピッチは完璧の一致。それに包まれているだけで至福の喜びがある。一方、ラフマニノフでは定評のあるアシュケナージの均質で安定感のあるピアニズムの「背後」には音楽に対する潔癖な誠実さが感じられ、それが清潔感あるフィラデルフィア・サウンドと融和している。本曲における規範的な演奏の一つ。なお、小生は Gilels Plays Saint-Saens, Rachmaninov, Shostakovich も推奨。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/B0090S4AD6/ref=cm_cr_rev_prod_imgRachmaninov: Symphony No 2
ヴァーノン・ハンドリー指揮、ロイヤル・フィルの演奏(1994年デジタル)。ラフマニノフのスーパー廉価盤集 Sergey Rachmaninov: Orchestra Works, Piano Concertos, Aleko 所収の1枚。ロイヤル・フィルは伝統的に金管楽器群がすぐれているといわれ、第4楽章に期待をもって聴いたが、本曲ではむしろ弦楽器と木管楽器の掛け合いのしっとりした表情が良い。有名な第3楽章のアダージョは、「聴きどころ」で注目度も高いが、特に構えた感じはなく、誇張せずに実にさわやかな響きをとどけてくれる。素直に聴くことができよき余韻がのこる。全体に鷹揚なスタイルをたもち、他の演奏とくらべて特筆すべき部分がない一方で、原曲のもつファンタジアを全楽章にわたって自然に紡ぎだしている。はじめて接したがハンドリーという英国の名匠、なかなかの奥の深さを感じた。
Rachmaninov ALEKO. Nikolai Golovanov
ロシアの文豪プーシキンの叙事詩「ジプシーたち」をもとに、ラフマニノフがモスクワ音楽院作曲科の卒業作品として1892年、わずか17日で作曲したデビュー作。「アレコAleko」は主人公の名前で、ジプシー娘に恋するが、典型的な三角関係に悩み、最後は恋敵と恋人の2人を殺害してしまうというストーリー。
古典的な音調を強く感じさせる曲で、冒頭は日本の縦笛を連想させるオリエンタルな雰囲気ではじまる。全曲にわたって劇的な強奏とラフマニノフらしい豊かな感傷的メロディが交差し親しみやすい。デビュー作がいまに残る演目となるあたり、ラフマニノフの作曲家としての力量を十分に示すものだろう。
ゴロワノフの演奏は、初期の録音で音は悪いが、曲想をうまくとらえて聴かせどころははずさない。主人公役イワン・ペトロフ、その恋人役ポクロフスカヤとも熱唱でなかなかの快演。 Sergey Rachmaninov: Orchestra Works, Piano Concertos, Aleko の1枚として廉価盤で聴くことができる。
◆歌劇『アレコ』全曲
イワン・ペトロフ(バス)、ニーナ・ポクロフスカヤ(ソプラノ)、アナトーリ・オルフェノフ(テノール)、アレクサンドル・オグニフツェフ(バス)、ブロニスラワ・ズラトゴロワ(バス) ゴロワノフ指揮、ボリショイ劇場管弦楽団&合唱団(1951年)
Plays Rachmaninoff/Falla/Chopin
ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。若手から大家までマークすべき演奏は数多ある。しかし、気高さと余韻の清冽な美しさで本盤を超えうるのは難しい気がする。この時代の録音としては驚異の優秀さゆえかも知れないが、音と音の瞬時の余韻、あるいは気品ある微弱音の響きがなんとも美しく耳にとどく。
けっして神経質な演奏ではないのだが、希代の名演奏家同士、ピアノもオーケストラも、細心のうえにも細心に音を徹底的に練磨している。かつ、それを揺るがせにしない極度の集中度が背景にある。ライナーという指揮者の完璧志向が、ソロでは自在な腕を誇るルービンシュタインに少なからず影響をあたえ、全体に強音をもとめぬ禁欲的ともいえる演奏スタイルとそれを緩めた、ここはというときの一瞬の迫力の感興は並々ならぬものがある。いまだベスト盤の一角をしめる貴重な記録。
→ Sergey Rachmaninov: Orchestra Works, Piano Concertos, Aleko にて聴取。[同コンビでパガニーニの主題による狂詩曲も併録]
Gilels Plays Saint-Saens, Rachmaninov, Shostakovich
1955年6月13日、ギレリス、クリュイタンス/パリ音楽院管弦楽団のパリでの演奏。両者の組み合わせの代表盤。録音は古いが内容は充実。ギレリスのピアノは、ラフマニノフ本人の音源と比較しても、表現が落ち着いており、かつ響きの美しさが際立つ。一方、マイクセッティングのせいもあるかも知れないが、クリュイタンスの追走は全体として、柔らかく抱擁する風のような自然さを感じさせる。第2楽章など難しいパッセージの処理でも両者の呼吸はよくあっており一体感を醸成する一方、第3楽章では思いのほか熱く盛り上がるなど緩急の妙も楽しめる。
録音時点ではラフマニノフは今日のような一大ブームにはなっておらず、両名匠ともに、共感する「現代(同時代)音楽」に挑戦してみようといった積極的な意欲を感じさせ、それがリスナーに直に伝わってくる。
なお、本盤は、ギレリス、クリュイタンス両者の<クロス・ポイント>的な存在で、ギレリス Icon: Emil Gilels, 25th Anniversary of Death にも、クリュイタンス The Cluytens Box - The Collection of His Greatest Hits にも所収されている。
→ Sergey Rachmaninov: Orchestra Works, Piano Concertos, Aleko にて聴取。
Amazon.co.jp : ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番&協奏曲
Eugene Ormandy Conducts 20th Century Classics からラフマニノフの3番を聴く。ここまで美しく瑞々しい協奏は考えられないのではないかと思わせるオーマンディ/フィラデルフィア管のバック。透明感にあふれた音はこよなく上質で、聴かせどころの弦楽器のピッチは完璧の一致。それに包まれているだけで至福の喜びがある。一方、ラフマニノフでは定評のあるアシュケナージの均質で安定感のあるピアニズムの「背後」には音楽に対する潔癖な誠実さが感じられ、それが清潔感あるフィラデルフィア・サウンドと融和している。本曲における規範的な演奏の一つ。なお、小生は Gilels Plays Saint-Saens, Rachmaninov, Shostakovich も推奨。
ピアノ協奏曲第3番は、ラフマニノフ自身がオーマンディ/フィラデルフィア響をバックに録音している記念碑的音源がある。一方、同時代人としてオーマンディとともに作曲家から篤い信頼をかちえていたホロヴィッツはライナー盤(1951年)とともに四半世紀をへて、このオーマンディ/ニューヨーク・フィル盤(1978年)を残している。これだけの事実で歴史的名盤の資格は十分すぎるものがある。
その演奏には背筋にひびくような凄みがある。縦横に拡散し、さんざめくラフマニノフの華麗な音響とふと兆すやるせない哀調をこれほどまでに大きく、深く表現した演奏は稀有だろう。特に第3楽章、ライヴならではの異常なファナティックさは「鬼神、ここに降れり」といった風情。
一方、ピアノソナタ第2番はホロヴィッツが伝道師的な役割を果たして、スタンダードにした伝説の曲。はてしなきパッションと強靭な迫力に文字通り圧倒される。
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