水曜日, 5月 04, 2022

コンセルトヘボウ 5人の名指揮者  Koninklijk Concertgebouworkest


 










メンゲルベルク

晩年まで現代音楽に強い関心、オランダの大指揮者の軌跡 (amazon.co.jp)


オランダの巨匠、コンセルトヘボウの実質ビルダーにして、マーラー、R.シュトラウスと親しかった大指揮者の集大成。小生がクラシック音楽を聴きはじめた1967年頃、NHK-FMで「メンゲルベルクの芸術」というシリーズがあり、毎日、その演奏に耳を傾けたことを思い出す。当時において、大家の足跡という観点からの特集であったと思う。

但し、3つの留意点がある。第1に録音は当然にして古くそこはまず覚悟が必要。第2にその後、コンセルトヘボウはベイヌムの名演があるので、この楽団の特有の響きを好む向きには、曲目によっては持ち味こそ違うがベイヌム盤との比較考量がいる(小生は個人的にはベイヌムを好む)。第3に収録枚数は多いが、主力のベートーヴェンなどでは同一演目の重複も多い。

膨大なレパートリーのうち以下若干、収録情報をハイライトしたが、晩年でも多くの現代音楽を取り上げるなど旺盛な意欲を持ち続けていたことがわかる。そこに関心がある向きには興味深い曲集だろう。〔以下略、👉晩年まで現代音楽に強い関心、オランダの大指揮者の軌跡 (amazon.co.jp)


ベイヌム

ベイヌムの魅力 (amazon.co.jp)


オランダのアルンヘムに生まれたベイヌム (Eduard van Beinum, 1901〜59年)は、地元アムステルダム音楽院を卒業し1931年、弱冠30歳で名門(現ロイヤル)コンセルトヘボウの第二指揮者に任命された。メンゲンベルクの後をつぎ首席指揮者就任したのは45歳。これからという57歳で心臓病のため急逝した。ベイヌムは、ビオラ奏者から指揮者に転進したゆえか、ふくよかな弦の響かせ方が実に巧みで、それを基調に、木管は弦楽に溶け込ませるように用い、その一方、金管はクライマックスを除き、やや抑制気味に被せていく。全体に共通し端正な演奏スタイルが持ち味である。
本集では、バッハからドビュッシーまで、晩年の幅広い成果を聴くことができるが、以下、主力のブルックナー、ブラームスについてコメントしておきたい。

<ブルックナー>
ベイヌムはそのデビューでブルックナー第8番を取り上げた。コンセルトヘボウをスターダムに乗せた名匠メンゲンベルクはブルックナーを好まなかったが、後任ベイヌムは1945年首席指揮者就任以来、ブルックナーを得意とし、4、5、7、8、9番(本集では5、8、9番を所収)とその遺産を後生に残してくれた。
ベイヌムのあと、ヨッフム、ハイティンク、シャイーとコンセルトヘボウはブルックナーを積極的に取り上げ、それを確固たる「ブランド」化していくが、ベイヌムはその路線をはじめに拓いた功労者である。

<ブラームス>
全体として、「力押し」の部分のない自然体の構え。コンセルトヘボウの音色は、そのブラームス像に柔らかさとほの明るさを点じており、聴きやすく落ち着きのある心地よき響きである。
感情移入の奥深さこそベイヌムの魅力であり、統制の緩さは、独特のほのぼの感を滲ませ、力押しはなくともコンセルトヘボウの内燃度は高く、各番ともに、ここぞという場面でのダイナミズムに不足はない。4曲を通じ、格調あるブラームスの世界に浸れるという意味では、ケンペとともに佳き全集であり、ベイヌム・ファンにははずせないアイテムだろう。

<収録情報>
【ブルックナー】
交響曲第5番(1959年)、第8番(1955年)、第9番(1956年)
➡  
Bruckner;Symphonies 5,7,8,9
【ブラームス】
交響曲第1番(1958年)、第2番(1954年)、第3番(1956年)、第4番(1958年)
➡  
ブラームス:交響曲全集

〔以下略、👉ベイヌムの魅力 (amazon.co.jp)


ベイヌムのエッセンス (amazon.co.jp)


ベイヌムの選集は、この第1集(CD9枚)と別の第2集(CD13枚)があるが、そのエッセンスを味わうのであれば、本集だけでも相当カヴァーされていると思う。録音は古くモノラル収録だが音の品質は悪くない。
特に重要な演目は、幻想交響曲、ブルックナーの第7番、シベリウスの2曲の交響詩およびベイヌムが初演したブリテンの「春の交響曲」(1949年7月9日のライヴ)だろう。
この時代のコンセルトヘボウの各楽器パートの“名技”も魅力の源泉。ベイヌムは、ミュンシュ同様、楽員とのコミュニケーションを重視し、その能力を最大限、プレイアップしている。青少年のための管弦楽入門はその典型。
ハイドン、シューベルトも地味だが好演。“作為、けれんみ、屈託”のない演奏スタイルは、なんど聴いても曲の良さが滲み出るようで飽きさせない。〔以下略、👉ベイヌムのエッセンス (amazon.co.jp)


ヨッフム

 ヨッフムの思い出 


ヨッフムは、小生のライヴでのクラシック音楽開眼の最良の導き手であった。小生がはじめて海外オーケストラのライヴに接したのは、1968910日東京文化会館にて、ヨッフム/アムステルダム・コンセルトヘボウによるベートーヴェン、『エグモント』序曲、交響曲第6番、第5番である。演奏会が終わったあと、出口で待ってヨッフムのサインを貰った。気恥ずかしい思い出である。
次は、EXPO70の来日時に、日生劇場でべルリンドイツオペラの公演にて『魔弾の射手』を観賞した。オペラのライヴははじめてではなかったが、その楽しさに目覚めたのはこの時、1970428日であった。本曲をヨッフムは得意としており、カルロス・クライバー盤が登場するまではトップの評価があった。
また、その前422日には、東京文化会館でフィシャー・ディスカウを迎えての特別演奏会があり、バッハのカンタータ「我喜びて十字架を担わん」を聴いた。この演奏会では、本曲の前後にモーツァルト、交響曲第39番、第41番が演奏された。モーツァルトの交響曲を海外オケで聴くのはこれが初体験であり、「本場」の演奏を堪能した。
ヨッフムがブルックナーの泰斗であることは、その後知ることになるが、当時はブルックナーのライヴなどはまだまだ膾炙しておらず、レコードで聴くのも、フルトヴェングラー、クナッパーツブッシュ、カール・シューリヒトなどのわずかな番数、大家の演奏が中心であった。しかし、ブルックナーに本格的に親しむようになって、系統的に聴くうえでの基準盤はヨッフムのお世話になった。

ハイティンク

ハイティンク 若き日からの奮闘 (amazon.co.jp)


ハイティンクの交響曲を中心とする集大成である。以下の6人の作曲家の交響曲全集がすべて収録されている(全36CD)。
マーラー(大地の歌は含まず)、ブルックナー(第0番、クルト・ヴェス版を含む)、チャイコフスキー(主要な演目は70年代の録音)、ブラームス(序曲集を含む)、シューマンそしてベートーヴェン(80年代デジタル録音)でいずれもコンセルトヘボウとの演奏。
以前、ブラームス、ブルックナー、マーラーの全集(23CD)があったが、ほぼ同価格でチャイコフスキー以下が「増補」されたセットともいえる。

ハイティンクは若き日から録音に恵まれており、たとえばマーラーではシカゴ響とも主要演目を再録しており、また、コンセルトヘボウは、その後俊英シャイーの斬新な成果もあるゆえに「旧盤」扱いで安くなっているともいえる。
しかし、小生は70年代先駆的な取り組みであったマーラー、ブルックナーのやや前のめりの熱き演奏にいまは魅力を感じる。コンセルトヘボウでは、メンゲルベルクが普及に努めたマーラー、ベイヌム、ヨッフムといった前任者が得意としたブルックナー。先人の重い伝統、響きの優れたホールに集う耳のよい目の肥えた聴衆。そこでのハイティンクの若き日の奮闘は貴重な記録である。生真面目でオーソドックスな解釈ゆえに派手さには欠けるが、その分、誠実さを感じさせ均質な内容では定評がある。コンセルトヘボウの滋味ある音が好きでじっくりと浸りたいなら有力な選択肢のひとつ。〔以下略、👉ハイティンク 若き日からの奮闘 (amazon.co.jp)


シャイー

独自の<波動>が心に浸潤 (amazon.co.jp)


シャイーのブルックナー全集。しかし、これは一気呵成にではない。7番の1984年から8番の1999年まで、なんと15年をかけてのじっくりと構えた仕事であり、ベルリン放送交響楽団(7、3、1、0番)に続けて、コンセルトヘボウ管弦楽団(4、5、2、9,6,8番)にバトンタッチして完成した。版もノヴァークを基軸としつつも、曲によっては、原典、ハース、ウィーンを採用するなど独自の解釈を覗かせている。

以下は9番について。<波動>が伝わってくる。大きな波動、小さな波動、強い波動、ゆるい波動、そして見事な合成ーそのうねりがひたひたと迫ってくる。その目には見えない<波動>が心に浸潤してくるような演奏。第1楽章冒頭から「巧いなあ」と思う。いわゆる音楽への「没入型」ではなく、指揮者はあくまでも、どこか醒めた感覚は維持しながら、その見事な<波動>をつくっていく技倆は抜群である。

次にこうなってほしい、こういう音を聞きたいとリスナーに期待させる実に巧みな誘導ののちに、それを凌駕するテクスチャーを次々に繰り出していくような感じ。意図的に嵌めていく、と言えば「えぐい」だろうが、<波動>がとても美しく、力強く連続していく快感のほうが先にきて、技法の妙は隠して意識させない。こんな演奏をできる指揮者はそうざらにいない。ブルックナーの聴かせどころ、ツボを研究し尽くしているからこそできる技だろうが、だからといってけっしてリスナーには安易に迎合はしていない。たいしたものです。


👉 織工Ⅲ: 名盤5点 シリーズ (shokkou3.blogspot.com)



0 件のコメント: