初期トスカニーニの先駆性
Maestro Furioso Volume 2を聴く
1939年のベートーヴェン:交響曲全集
ブラームス 交響曲全集
チャイコフスキー 交響曲第6番『悲愴』
ロッシーニ:序曲集
レスピーギ:ローマ三部作
ムソルグスキー:『展覧会の絵』
ヴェルディ:『レクイエム』&
20世紀 作品集
驚くべきことにトスカニーニは、今日の音楽鑑賞スタイルをあたかも予測していかのように早くから最先端の録音技術に関心をもっていた。1920年「指揮者稼業」のなかで、すでに50才を越えていたにもかかわらず、この時代、トスカニーニほど、数々の音源を残したプレイヤーはいない。
【収録情報】
<1930年代>
◆ドビュッシー:管弦楽のための映像〜『イベリア』(1936年4月16日)
◆モーツァルト:交響曲第40番ト短調(1937年12月25日)
◆ボロディン:交響曲第2番ロ短調(1938年2月26日)
◆フランク:交響詩『アイオロスの人々』(1938年11月12日)※1
◆ラヴェル:『ダフニスとクロエ』第2組曲(1938年11月26日)
◆ロッシーニ:歌劇『ウィリアム・テル』序曲(1939年3月1日)※2
◆ベートーヴェン:交響曲第8番ヘ長調(1939年11月25日)
<1940年> 73才
◆ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調、ヤッシャ・ハイフェッツ(vn)(1940年3月11日)
◆ヴェルディ:歌劇『アイーダ』第1幕への前奏曲(1940年3月30日)
◆ドヴォルザーク:スケルツォ・カプリチオーソ(1940年4月20日)
<1941年> 74才
◆R.シュトラウス:交響詩『英雄の生涯』(1941年2月1日)
◆ブラームス:交響曲第3番ヘ長調(1941年2月8日)
◆コダーイ:マロシュセーク舞曲(1941年2月8日)
◆ヴェルディ:歌劇『椿姫』第1幕への前奏曲(1941年3月10日)
◆ワーグナー:『ローエングリン』第1幕への前奏曲(1941年3月17日、5月6日)
◆メンデルスゾーン:交響曲第3番『スコットランド』(1941年4月5日)
<1942年> 75才
◆バーバー:弦楽のためのアダージョ(1942年3月19日)
◆ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー(1942年11月1日)
<1943年> 76才
◆リスト:ハンガリー狂詩曲第2番(1943年4月4日)
◆ガーシュウィン:パリのアメリカ人(1943年11月14日)
<1944年> 77才
◆ワーグナー:『パルジファル』第1幕への前奏曲(1944年4月9日)
<1945年> 78才
◆ロッシーニ:歌劇『シンデレラ』序曲(1945年6月8日)※2
◆ロッシーニ:歌劇『セヴィリアの理髪師』序曲(1945年6月28日)※2
→ Gioachino Rossini, Arturo Toscanini: Masterpieces, Overtures (※2を収録)
◆ヴェルディ:歌劇『運命の力』序曲(1945年6月28日)
◆グローフェ:組曲『グランド・キャニオン』(1945年9月10日)
<1946年> 79才
◆ワーグナー:『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第1幕への前奏曲(1946年3月11日)
→ Orchestral Music - Wagner, R. / Strauss Ii / Paganini, N. / Gluck, C.W. (The Years of Maturity in the United States, Vol. 2) (Toscanini) (1929-1946)
◆ワーグナー:ジークフリート牧歌(1946年3月11日)
◆ルーセル:交響詩『くもの饗宴』(1946年4月7日)
◆ワーグナー:『ファウスト』序曲(1946年11月11日)
<1947年> 80才
◆バッハ / レスピーギ編:パッサカリアとフーガ(録音:1947年11月22日)
<1948年> 81才
◆ヴェルディ:歌劇『オテロ』第3幕のバレエ音楽(1948年9月16日)
<1949年> 82才
◆ロッシーニ:歌劇『絹のはしご』序曲(1949年3月5日)※2
◆シューマン:交響曲第3番『ライン』(1949年11月12日)
<1950年> 83才
◆シューベルト:交響曲第8番『未完成』(1950年3月12日、6月2日)
<1951年> 84才
◆プロコフィエフ:交響曲第1番『古典』(1951年11月10日)
→ Arturo Toscanini - The XX Century
<1952年> 85才
◆フランク:交響詩『プシュケ』(1952年1月5日)
→ Arturo Toscanini Conducts Franck (1938-1952) (※1を収録)
◆ケルビーニ:交響曲ニ長調(1952年3月10日)
◆シベリウス:交響詩『エン・サガ』(1952年3月15日)
一般には1949〜53年に録音された Beethoven: The 9 Symphonies がより廉価で録音も聴きやすくこちらがお奨めですが、トスカニーニのファンには本集も捨てがたい魅力があります。
1937年12月、トスカニーニのために組成されたNBC交響楽団の初期における渾身の録音であることが第1の理由です。翌年の十八番の名演 ヴェルディ:レクイエム&テ・デウム(トスカニーニ指揮1940年ライヴ) も聴きものですが、人口に膾炙したベートーヴェン交響曲全集ゆえ、当時のインパクトは現在では考えられないくらい大きなものがあったでしょう。
放送用録音ゆえに、聴取環境が悪くても、ある程度クリアに聴くことができるような配慮でしょうか、隈取のはっきりした演奏です。金管の強調されすぎや低音部の音痩せには忍耐がいります。演奏の特色としては、アポロン的明燦さときわめて明確な解釈を強く感じます。全体として短めにフレーズを処理し、きっちりと音束を揃えた歯切れのよさが身上です。しかし、迸る情熱は凄まじく、2,4,6番などの緩徐楽章は快速で小気味よく展開し、その一方、3,5,7番の終楽章などの追い込みの迫力は圧倒的です。真の歴史的名演です。
◆ベートーヴェン/交響曲全集&序曲集
第1番(1939年10月28日)
第2番(1939年11月4日)
第3番『英雄』(1939年10月28日)
第4番(1939年11月4日)
第5番『運命』(1939年11月11日)
第6番『田園』(1939年11月11日)
第7番(1939年11月18日)
第8番(1939年11月25日)
第9番『合唱』(1939年12月2日)※
『エグモント』序曲(1939年11月18日)、『レオノーレ』序曲第1番 (1939年11月25日)、同第2番(1939年11月25日)、同第3番 (1939年11月4日)
※ジャルミナ・ノヴォトナ(ソプラノ)、ケルステン・トルボルイ(アルト)、ジャン・ピアース(テノール)、ニコラ・モスコーナ(バス) ウェストミンスター合唱団(於:カーネギー・ホール)
→ ベートーヴェン 交響曲全集については以下も参照
トスカニーニのブラームスの交響曲全集。第2,3,1,4番の順に聴く。古き録音のせいもあるだろうが、全体に筋肉質な響きで、音に<贅肉>がない。言い換えれば、甘い感傷とか、ドイツ的なエモーションとか、そうした抽象的な<フリンジ>を一切感じない。
注意して聞くと、各番とも全4楽章の力のバランスに最大限配慮しており、1曲を聴き終わるとき充足感に過不足がない。次に、ダイナミズムの懸け方が要所要所でピタリと決まっており、それを基点に前後の抑揚をはっきりとつけている。それはいわば一定の「山稜」構造とでも言うべきかもしれない。緩徐楽章のカンタービレに特色があるとの見方もあるが、むしろ磨きぬかれた硬質の叙情性(それがトスカニーニらしさのひとつの特色と思うのだ)がストレートに胸にくる。こうした機能主義的なアプローチが、実はブラームスの雄渾で緻密な作風とよく合致していると感じる。是非、現役廉価盤で多くのリスナーの耳に届いてほしい全集である。
トスカニーニの「規律」 (amazon.co.jp)
1947年の録音。若干の雑音はあるが、全体に音はきれいに録れており、演奏の充実ぶりを十分に追体験することができると思う。第2楽章など落ち着いた哀歓はあるが、一貫して「規律」をしっかりと保持したよく整った演奏。ダイナミズムを強調する部分では、激しく厳しくビシッと決める。凄まじいばかりの迫力である。
この演奏を聴いていてジュリーニ盤を思い出した。朗々たるカンタービレの魅力を期待して聴くと、ものの見事に「剛の者」の気迫で打っちゃられる。ジュリーニはトスカニーニの「悲愴」をよく研究していたのではないかとの感想をもった。
柔なセンチメンタリズムを微塵も感じさせない軽快、かつ高純度の名演である。なお、トスカニーニの他の演奏では後年のステレオ収録盤もある。
◆ロッシーニ:序曲集
トスカニーニ/NBC交響楽団によるロッシーニ序曲集(ニューヨーク、カーネギー・ホールにて録音)。水を得た魚とでもいうべきか、どの演奏もヴィヴィッドで情景が目に浮かぶようだ(とくに『セヴィリアの理髪師』が出色)。
しかも、序曲ならでは、オペラを鑑賞するわくわく感がここに凝縮されており「さあ、これから大いに楽しんでいってください」といったメッセージ性がこめられている。全曲を知悉しているがゆえの深い読みを感じる。
1945年6月収録が中心だが、録音がもっとよかったら、どれほど鮮烈な印象かと思わせるトスカニーニ十八番の結集である。
<収録情報:カッコ内録音時点>
・『アルジェのイタリア女』序曲(1950年4月)
・『ブルスキーノ氏』序曲(1945年6月)
・『セヴィリャの理髪師』序曲(1945年6月)
・『シンデレラ(チェネレントラ)』序曲(1945年6月)
・『泥棒かささぎ』序曲(1945年6月)
・『コリントの包囲』序曲(1945年6月)
・『セミラーミデ』序曲(1951年9月)
・『ウィリアム・テル』序曲(1953年6月)
レスピーギの良さに目覚めさせてもらったのはトスカニーニの旧盤(1945年ライヴ演奏)を通してだが、本盤は彼の最晩年の録音で、永らくの「十八番」を最後の花道にしているような完結感すらある。こうした秀でた演奏があると後継が難しいが、小生は レスピーギ:交響詩「ローマの松」「ローマの噴水」「ローマの祭り」 が一押しである。本盤とともに推奨したい。
さて、演奏はスケールが大きく、彫りが深く気迫十分。NBC響の各パートの巧さも光る。全般にトスカニーニらしい快速な運行だが、とくに怪奇的でおどろおどろしい、まがまがしい部分は、ここまでイメージをつかみ迫真的に表現できるのかという驚きがある。 終盤の盛り上がりも看取はできるが、もっと録音が良ければより腹の底にズシンとくるものがあったろう。
なお、展覧会の絵&くるみ割り人形 ~華麗なるオーケストラ名曲集 (セッション録音)も参照
しかし、この籠りに籠もって、それが放出される寸前のエネルギーの圧力はなんとも凄い。それを解き放つような「渾身の一撃」をここに加えるといった激しき演奏で、また、マイク・セッティングのためだろうが、独唱が前面にですぎるぐらいに強調される。さらに、その表現ぶりはオペラばりに抑揚がついており濃厚な詠唱である。テンポは可変的だが、全体はキリリと引き締まっており、最後の一音の「追い込み」まで一切の弛緩がない。美しきメロディが蠱惑的に現世をたたえる一方で、神の世界への敬虔な架け橋のような神々しき響きも折々に交差する。聴きおわる頃には録音の悪い痩せた音は気にならなくなり、純正な音楽空間をそこに意識させるような神聖な気持ちに導いてくれる。
ヴェルディ演奏の「規範」、トスカニーニの不滅の成果 (amazon.co.jp)
1943〜1952年にかけてコンサート・ホール(NBCスタジオやカーネギー・ホール)で収録されたセッション録音。第二次大戦前後、欧州が戦禍で荒廃しているなか、メトロポリタン歌劇場などニューヨークやメキシコには多くの優れた歌手が集結した。
ヴェルディの当代きっての第一人者、トスカニーニ/NBC響がこうした歌手群を起用して、オペラ・ライヴではなく、純粋なコンサート仕様で収録したもの。
トスカニーニのオペラ上演改革は有名で、前時代の大歌手の詠唱を主力とした演奏スタイルを一蹴、あくまでも指揮者の完全統率のもと音楽的統一感と品質を重視した方向へと転換した。本セットはその最終結実版ともいえよう。
『椿姫』、『オテロ』、『アイーダ』、『ファルスタッフ』、『仮面舞踏会』の5大演目およびレクイエムの全曲とそれ以外の断片集からなる。各曲は1年以上の十分な準備期間をおいて計画的に収録されており、この年代としてはクリアな音がとれている。とはいっても、劇的、華麗なヴェルディ・サウンドを好む向きにはモノラル音源である点は留意を要する。
演奏は、見事の一語に尽きる。弛みが一切なく歌手が全力で臨場しており、緊張感あふれるもの。かといって堅苦しい印象ではなく、思いっきりのカンタービレには陶酔できる。これ以降のヴェルディ演奏の「規範」であり、ベートーヴェン交響曲全集 Beethoven: The 9 Symphonies などとともに、トスカニーニの不滅の成果である。
【収録情報】
◆歌劇『椿姫』全曲
リチア・アルバネーゼ(ソプラノ)
ジャン・ピアース(テノール)
ロバート・メリル(バリトン)
ヨハンネ・モレラント(ソプラノ)
マクシーヌ・ステルマン(メゾ・ソプラノ)
ジョン・ガリス(テノール)
ジョージ・チェハノフスキー(バリトン)
ポール・デニス(バス)
アーサー・ニューマン(バス)、他
(1946年NY NBCスタジオ)
◆歌劇『オテロ』全曲
ラモン・ヴィナイ(テノール)
ヘルヴァ・ネッリ(ソプラノ)
ジュゼッペ・ヴァルデンゴ(バリトン)
ナン・メリマン(メゾ・ソプラノ)
ヴィルジニオ・アッサンドリ(テノール)
レスリー・チャベイ(テノール)
アーサー・ニューマン(バリトン)
ニコラ・モスコーナ(バス)、他
(1947年NY NBCスタジオ)
◆歌劇『アイーダ』全曲
ヘルヴァ・ネッリ(ソプラノ)
リチャード・タッカー(テノール)
エヴァ・ギュスターヴソン(メゾ・ソプラノ)
ジュゼッペ・ヴァルデンゴ(バリトン)
ロバート・ショウ合唱団
(1949年NY NBCスタジオ)
◆歌劇『ファルスタッフ』全曲
ジュゼッペ・ヴァルデンゴ(バリトン)
ヘルヴァ・ネッリ(ソプラノ)
クローエ・エルモ(メゾ・ソプラノ)
アントニオ・マダーシ(テノール)、他
ロバート・ショウ合唱団
(1950年NY NBCスタジオ)
◆レクィエム
ヘルヴァ・ネッリ(ソプラノ)
フェードラ・バルビエリ(メゾ・ソプラノ)
ジュゼッペ・ディ・ステーファノ(テノール)
チェーザレ・シエピ(バス)
ロバート・ショウ合唱団
(1951年カーネギー・ホール)
◆歌劇『仮面舞踏会』全曲
ジャン・ピアース(テノール)
ヘルヴァ・ネッリ(ソプラノ)
ロバート・メリル(バリトン)
クララーメ・ターナー(メゾ・ソプラノ)
ヴァージニア・ハスキンス(ソプラノ)
ジョン・カーメン・ロッシ(バリトン)
ジョージ・チェハノフスキー(バリトン)
ニコラ・モスコーナ(バス)
ノーマン・スコット(バス)、他
ロバート・ショウ合唱団
(1954年 カーネギー・ホール)
――――――――――――
(断片集)
・歌劇『シチリア島の夕べの祈り』序曲 (1942年NY NBCスタジオ)
・諸国民の賛歌(1943年録音)
・歌劇『十字軍のロンバルディア人』より「ここに体を休めよ」 (1943年NY NBCスタジオ)
・歌劇『ナブッコ』より合唱「行け、わが思いよ、黄金の翼に乗って」 (1943年NY NBCスタジオ)
・歌劇『ルイーザ・ミラー』序曲とアリア「穏やかな夜には」 (1943年NY NBCスタジオ)
・歌劇『リゴレット』より第3幕 (1944年NY マジソン・スクエア・ガーデン)
・歌劇『運命の力』序曲 (1952年カーネギー・ホール)
本集は下記のラインナップによる20世紀作品集だが、別のスーパー廉価盤集 Arturo Toscanini Conducts Various Composer からプロコフィエフ:交響曲第1番『古典』とグローフェ:組曲『グランド・キャニオン』を聴く。
トスカニーニは、旺盛に(この時代の)現代音楽も取り上げており、かつどの演奏も明快な音づくりに特色がある。『グランド・キャニオン』は自由度の高いファンタジックな雰囲気をたたえた演奏。一方、プロコフィエフだが、トスカニーニよりも24才年下、1917年作曲の『古典交響曲』はまさに同時代音楽。この19世紀に逆戻りしたような古典的出だしから次第に現代的な装いを帯びていくウイットに富む作品の特質を見事にとらえ、トスカニーニは音楽史をなぞるが如く、あたかも名人の彫技をもって完璧に表現している。小生がいままで聴いた本曲ベスト演奏である。
トスカニーニ/20世紀作品集(2CD)
【収録情報】
・グローフェ:組曲『グランド・キャニオン』(1945年9月10日)
・コダーイ:組曲『ハーリ・ヤーノシュ』
・シベリウス:交響詩『ポヒョラの娘』
・シベリウス:トゥオネラの白鳥
・プロコフィエフ:交響曲第1番『古典』(1951年11月10日)
・ストラヴィンスキー:『ペトルーシュカ』より第1場、第4場
・R.シュトラウス:交響詩『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯』
・R.シュトラウス:『サロメ』より「7枚のヴェールの踊り」
・ラヴェル:『ダフニスとクロエ』第2組曲
NBC交響楽団
アルトゥーロ・トスカニーニ(指揮)
録音時期:1940~1951年
録音方式:モノラル
音源:RCA
http://www.amazon.co.jp/Arturo-Toscanini-The-XX-Century/dp/B003NRYQQG/ref=pd_rhf_dp_p_t_3_F51G
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