ダフニスとクロエ(M57、1909-12)は、ラヴェルの代表作。
第1部「序奏」は、フラクタルな出だし、「宗教的な踊り」は同一旋律の繰り返しによる荘厳な行進曲ふう(のちのボレロを連想させる)、「若い娘達とダフニス」ではクリュイタンスらしい香気がある。「全員の踊り」をへて「ドルコンとダフニス」では音楽による叙事詩的な語り口が印象的で、続く「リュセイオンの踊り」までの3つの踊りは合唱とともに展開されるが、このあたりのクリュイタンスの展開の巧さとニュアンスのつけ方は絶妙で、一瞬の弛緩もない。不安定な心持ちの「夜想曲」ののち、「3人のニンフの神秘的な踊り」は夢想的、そして第1部終曲「間奏曲」でふたたび合唱が加わりその中締めは詠嘆的。
第2部の短い「序奏」のあとの「戦いの踊り」は最大の聴かせどころで、金管の誘導のもと大きく盛り上がる。ここでのクリュイタンスの切れ味は実に鋭く、ストラヴィンスキーの音楽を連想させずにはおかない。静寂のなかでの「クロエの哀願の踊り」はパリ管ご自慢の木管パートが活躍する。
第3部「序奏」のあとの「夜明け」はとりわけ有名な旋律だが、クリュイタンスは上質な色彩感とともに“弦と管の一体の融合感”を醸すが、ここは後日のブーレーズの演奏スタイルの先駆のようである。「無言劇」ではボレロ的な技法が顔をだすが、とくにフルートがウイッティかつ美しい。大団円の「全員の踊り」は明るく、めくるめく、そして乱れぬ統一感のなかでピリオドが打たれる。クリュイタンス、冷静にして規範的な名演である。
クリュイタンス、冷静にして規範的な名演 (amazon.co.jp)
クリュイタンス 気高く調和のとれた演奏スタイル (shokkou3.blogspot.com)
ダフニスとクロエとは?
古代ギリシアの作家ロンゴスによって後2~3世紀ごろ書かれたと伝えられる牧歌的小説。物語の舞台はレスボス島に設定され,全4巻から成る。捨てられていた男の子ダフニスと,これも同じく捨子の女の子クロエが,それぞれ島の牧人に拾われて成長し,年ごろになるにつれて互いに愛しあうようになる。そこに海賊が現れダフニスは連れ去られそうになり,また戦争がおきて敵の船にクロエがさらわれ,二人の間に危機がおとずれる。ようやく救出されたクロエに今度は別の求婚者が現れたりしてさまざまな波乱がおこるが,最後には二人とも身分の良い家柄の生れであったことが判明し,めでたく結ばれる。この作品は牧歌的な雰囲気が特徴的で,抒情性に富んでいるが,同時に構成も緊密で,他の同時代の小説と違った独特のものとなっている。ベルナルダン・ド・サン・ピエールやゲーテなど近代の作家たちにも大きな影響を与えている。
執筆者:引地 正俊
音楽
上記の物語に基づく音楽作品では,M.ラベルのバレエ音楽《ダフニスとクロエDaphnis et Chloé》(1912,1幕3場)が有名である。ディアギレフのバレエ・リュッスの委嘱,フォーキンの台本・振付で1912年初演。しかしバレエとしては成功せず,作曲者自身の編曲による第1組曲(1911,《夜想曲》《間奏曲》《戦いの踊り》),第2組曲(1913,《夜明け》《無言劇》《全員の踊り》)として知られる。ラベルは原作の物語から〈私のうちにあるギリシアに忠実であるような音楽の巨大な壁画を作曲〉(《自伝素描》)しようとした。したがって音楽は原作の筋の進みぐあいと必ずしも一致しない。母音を歌う合唱,古代ギリシアに由来するといわれるクロタル(古代風小型シンバル)などを加えた大編成の管弦楽は,この巨大な壁画を描くラベルの重要なパレットの役割を果たしている。同じ原作による作品として,他にグルックのフランス・オペラ《包囲されたキュテラ島》(1759),J.J.ルソーの未完のオペラ《ダフニスとクロエ》(1779)などがある。
執筆者:小場瀬 純子
ダフニスとクロエ(ダフニストクロエ)とは? 意味や使い方 - コトバンク (kotobank.jp)
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