水曜日, 12月 15, 2021

ベイヌムの先駆性 マーラーとブルックナー


 









ベイヌムのマーラーでは、交響曲第7番「夜の歌」の195864日ライヴ盤がある。また、最後の録音は、1959312日のブルックナー交響曲第5番である。このように、ベイヌムは晩年、マーラー、ブルックナー双方ともに積極的に取り上げていたことがわかる。

ベイヌムのブルックナーやブラームスについては、すでになんども書いてきた。

織工Ⅲ: ベイヌムの特質 (shokkou3.blogspot.com)

したがって、ここでは以下、マーラーについて、少しメモしておきたい。

先駆的にマーラーを取り上げた指揮者のなかでは、ロスバウトやホーレンシュタイン、ミトロプーロスなどを最近、聴いている。

shokkouのブログ : マーラー 隠れた名人たち (livedoor.jp)

織工Ⅲ: マーラー 隠れた名指揮者 (shokkou3.blogspot.com)

しかし、いまのブームとはちがい1950年代は直弟子、ワルターやクレンペラーが君臨しており、それ以外の指揮者が録音までこぎ着けるのは大変であったろう。そうしたなか、ベイヌムがマーラーに注力できた一つの要因としては、マーラーと深い親交があった前任者、メンゲンベルクの影響があったことも見落とせない。

メンゲンベルクはベートーヴェンを得意としており交響曲全集もあるが、ベイヌムの交響曲では、現状、第2番、第3番、第7番が知られるくらいである。もっと長生きしてくれたら、いずれベイヌムも全集づくりに勤しんだのではとも想像するが、誠に残念なことではある。

一方、マーラーは第3番、第4番、第6番および第7番にくわえて、大地の歌の名演が残された。以下、前任者と聴き比べができる第4番とワルター十八番の大地の歌について見てみよう。

【メンゲンベルク】

 メンゲルベルクのマーラー第4番、歴史的音源 (amazon.co.jp)

 メンゲルベルクの有名な音源。2つの留意事項がある。第一に、1939年11月9日のライヴ音源であること。音質については望むべくもない。第二に、その解釈のユニークさ。通常の4番を聴く気持ちで接すると強い違和感があるだろう。

そこまで覚悟して聴くと別の面白さが見えてくる。兎がぴょんぴょんと跳ねているようなリズミックさと思い切りのポルタメントのねちっこさが同居しており、ときに歯切れよく、ときに粘着質の音楽が自在なテンポのなかで交錯する。はじめは驚くが、聴きすすむとマーラー音楽の多面性を懸命に伝えようとしている、これは一つの技法ではないかと思えてくる。飽きさせない熱演であり、音が痩せている分、その切実さが強き線状のようにストレートに伝わってくる。

マーラーがメンゲルベルクの演奏を高く評価し、かつ楽譜どおりの演奏でないことも認めたことは著名なるエピソードだが、同時代人としてマーラーの天才に傾倒し、系統的に多くの演奏を行い、コンセルトヘボウにそれをしっかりと根付かせた功績は大きいだろう。この演奏は、マーラーのお墨付きをもらったというよりも、マーラーの内心に真剣に寄り添ったという意味で貴重な音源であると言えよう。

【ベイヌム】

 第4番、オーソドックスな解釈なれど緻密で隙のない演奏 (amazon.co.jp)

 第4番については、ベイヌムの前任者にして、作曲家自らがその演奏を高く評価したメンゲンベルクの1939年盤  Symphony 4  がいまも現役として輝いている。ベイヌムも当然、意識して取り組んだことであろう。重心は後半2楽章におかれ、緻密にして隙のない演奏。マーガレット・リッチーはアルトのような低音もだせる歌手だがけっして美しき詠唱ではない。しかし、たとえば、これもマーラー演奏の泰斗、ワルター/ニューヨーク・フィル  Symphony 4  を聴いても、作曲家はそれを意図していたのかも知れないとも思う。

ベイヌム盤は、この時代としては優れた録音(1952年4月29、30日、5月1-3日に収録)でオーソドックスな解釈の演奏。録音がふるく個性的なメンゲンベルク盤とは違った良さをもつ。しかし、共通するのはコンセルトヘボウ管の明るく温かみのあるすばらしい音色。終始、心地よいこの響きとともにある至福感こそが魅力の源泉である。

【ワルター】


ワルターには数種の「大地の歌」の録音がある。1938年のSP復刻のもの、1952年にウィーン・フィル盤、そしてこのニューヨーク・フィルとの1960年のスタジオ録音盤(唯一のステレオ収録)などである。

  当盤はワルター逝去の2年前の記録であり、「告別」が最後のテーマ(第6章)になっていることから象徴的なものを感じる。ワルターは1911年本曲を初演した。マーラーの弟子・後継指揮者として、この曲を35才のワルターが世に問うたことは、彼自身が述懐しているように実に大きな飛躍のステップであった。

  そうした点を一応、措くとしても当盤はその演奏の気高い品位、クリアな録音において、いまもウィーン・フィル盤とともに代表的名作である。ワルターの説得力に富むアプローチにくわえ、とくに、エルンスト・ヘフリガー(テノール)の独唱が他に代えがたい深い詠嘆を湛えており、心に染み入るものである。第一楽章「大地の哀愁に寄せる酒の歌」の出だしから、ワルターと完全に融合し、マーラーの心境にひしと寄り添っているような一体感を醸している。至芸といえよう。

【ベイヌム】

 
「大地の歌」では、1960年ワルター/ニューヨーク・フィル盤  マーラー交響曲「大地の歌」  が座右の1枚だが、ここではエルンスト・ヘフリガー(テノール)の独唱が他に代えがたい深い詠嘆を湛えており、心に染み入るものである。本ベイヌム盤は遡って1956年12月3~8日の収録だが、同じくへフリガーの登壇、くわえて、ナン・メリマン(メゾソプラノ)もクリアで伸びのある名唱である。なお、この2人+コンセルトヘボウの組み合わせでは、その後1963年のヨッフム盤もある。
ベイヌム盤は、最大限、歌手の力量とオーケストラとの融合を示すことに注力しているように思う。そして、それは成功しており、本曲は交響曲というよりも一大歌曲集といった様相である。しかもへフリガーの明瞭な発音、明燦な声とコンセルトヘボウの音質が全体のトーンを明るくし、見通しのよい演奏となっている。

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 (参考)ベイヌムの録音

【マーラーの交響曲等】

・第3番 アルト:モーリーン・フォレスター 1957714

・第4番 ソプラノ:マーガレット・リッチー 19519

・第6番 1955127(ライヴ)

・第7番 195864日(ライヴ)

・大地の歌+さすらう若人の歌 メゾソプラノ:ナン・メリマン,テノール:エルンスト・ヘフリガー 195612312

 

【ブルックナーの交響曲】

・第4番 19526

・第5番 1959312日(Radio Nederlandによるライヴ録音)

・第7番 ➀19479月、②19535

・第8番 1955669

・第9番 19569

 

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