HMV レビュー
ヴィヴァルディ『ファルナーチェ』 ~ 壮麗なるバロック・オペラ!
幕間まで配慮したサヴァールの大力作!
ジョルディ・サヴァールが運営するレーベル“ALIA VOX”から、ついに大作オペラが登場。CD3枚組で、オール・カラー176ページのブックレットをはさみ込んだ特製美麗パッケージは、マイナー・レーベルならではの凝ったつくりでとにかく立派。イタリア語の歌詞とドイツ語、フランス語、スペイン語、カタルーニャ語、英語の対訳のほか、舞台写真、解説図版、アーティスト写真などを豊富に掲載、資料としても見どころ満点の内容となっています。
モーツァルトのオペラ『ポントの王ミトリダーテ』に、重要な役柄として登場することでも知られるファルナーチェは、紀元前185年から160年頃まで王位に在った実在の王。武勲と愛憎劇に満ちた彼を題材としたオペラを、ヴィヴァルディが作曲したのは、1727年のこと。
同年の謝肉祭シーズンにヴェネツィアのサンタンジェロ劇場で初演された『ファルナーチェ』は好評を博し、幾度か再演されることとなりますが、サヴァールはここで万全を期し、すべてのアリアとコーラスは1731年のヴァージョンを、タミーリのレチタティーヴォ・アコンパニャートに関しては1738年のヴァージョンを復元使用して完全な全曲盤としています。
さらにサヴァールは、幕間の意味が当時と大きく変わった今日の劇場空間に、バロック時代の空気を呼び込むべく(?)、各幕の冒頭に、フランス出身でスペインで活躍した作曲家、フランシスコ・コルセッリ[1705-1778]の作曲になる『ファルナーチェ』からの音楽を配しているのです。
コルセッリの『ファルナーチェ』は、ヴィヴァルディと同じ台本を用いており、初演は1739年におこなわれているとのことなので、まさに同時代の音楽といえるため、非常に興味深い試みだといえるのではないでしょうか。
実際、サヴァールがチョイスしたコルセッリのナンバーはとてもよく書けたもので、特にベレニーチェの華麗なアリアは、歌詞の意味内容とは関係なしに声楽的な快感を与えてくれる美しさが印象的(アドリアーナ・フェルナンデスが最初の聴きどころを見事に歌い上げています)。
2曲収められた「行進曲」も、ヴィヴァルディの方には含まれていない曲種なので、異なる気分を喚起してくれてなかなかに効果的。
もちろん、主役はあくまでヴィヴァルディの作品で、その多彩な表情と雄弁な楽器の扱いはさすがサヴァールといったところ。たとえばCD1トラック13での、コーラス導入のティンパニ・ソロ(ペドロ・エステヴァン)などおもしろい聴きものですし、トラック17の戦いのコーラスも実に勇壮。
通奏低音部隊が音楽的なため、レツィタティーヴォも飽かせず聴かせてくれますし、一方、アリアでは緊密なアンサンブルが密度の濃い伴奏をおこない、ヴァイオリン・パートの美旋律だけに終わらぬ立体的なアプローチが、たとえばCD1トラック21のジラーデのアリアなどを素晴らしく聴き映えのするものにしています。
なお、ライヴ録音ですが比較的小規模な劇場が使用されたため、音質は声楽、器楽ともに非常につややかに収録されていて文句無しに高水準といえる仕上がりです(24ビット/88.2KHz機材による収録)。
・ヴィヴァルディ:歌劇『ファルナーチェ』全曲
(コルセッリによる同名オペラからのナンバー含む)
ファルナーチェ(ポントの王):フリオ・ザナージ
ベレニーチェ(カパドキアの女王、タミーリの母):アドリアーナ・フェルナンデス
タミーリ(王妃、ファルナーチェの妻):サラ・ミンガルド
ポンペオ(アジア州のローマ総督):ソニア・プリーナ
セリンダ(ファルナーチェの妹):グロリア・バンディテッリ
ジラーデ(王子、べレニーチェの海軍大尉):チンツィア・フォルテ
アクィーリオ(ローマ部隊の長):フルヴィオ・ベッティーニ
リュート:エドゥアルド・エグエス
コンセール・デ・ナシオン
指揮: ジョルディ・サヴァール
録音場所:マドリッドのサルスエラ劇場
録音方式:デジタル(ライヴ)
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