http://www.amazon.co.jp/Art-Valery-Gergiev/dp/B00975F09K/ref=cm_cr-mr-title
ゲルギエフの90年代から2000年台初頭にかけて録音されたロシア曲集全12枚組。演奏は当時の手兵マリインスキー(キーロフ)劇場管弦楽団(&合唱団)。これ以降現在にいたるまで、あたかも師カラヤンを見習うように、ゲルギエフは旺盛に再録を行っており、本集はスーパー廉価扱いだが、いずれも現役盤であり魅力にあふれている。
全体として、曲の把握に大局観があり見通しの良い演奏。加えて音の流麗な奔流感がこ気味よい(→で各曲のコメントも参照)。この価格であれば文句なく推奨したい。
(収録情報)
[CD1]
プロコフィエフ:
・カンタータ《アレクサンドル・ネフスキー》作品78、オリガ・ボロディナ(MS)(2002年5月5-8日、モスクワ)
・スキタイ組曲《アラとロリー》作品20( 2002年7月4日、フィンランド)
[CD2]
ラフマニノフ:
・ピアノ協奏曲
第2番 ハ短調 作品18、ラン・ラン(ピアノ)
・パガニーニの主題による狂詩曲 作品43(以上2004年7月 フィンランド・ライヴ)
[CD3]
ラフマニノフ:
・交響曲 第2番 ホ短調 作品27
(1993年1月19-23日 サンクトペテルブルク,マリインスキー劇場)
[CD4]
・ リムスキー=コルサコフ:交響組曲《シェエラザード》作品35
・ボロディン:交響詩《中央アジアの草原にて》
・バラキレフ:イスラメイ
(以上2001年11月 サンクトペテルブルク)
→ シェエラザードを日本で有名にしたのは、まぎれもなくカラヤンであり、その絶頂期の1967年の録音がお目見えしたときの衝撃はいまもはっきりと覚えている。ラメのような光沢ある青のジャケット、中央に瞑目した横顔のカラヤンが指揮棒を両手で掲げている姿。
ゲルギエフはその10年後、1977年にカラヤン・コンクールに1位なしの2位に入賞してその存在が一躍知られるようになった。カラヤンは大切な「お師匠さん」の1人である。
さて、ゲルギエフのシェエラザードはカラヤン盤以上に濃密でメリハリがきいている。初期のカラヤンの剛毅で繊細なイタリアものを髣髴とさせるような演奏で、第3楽章の濃厚な甘美さ、第4楽章の弾けるようなダイナミズムは、初期カラヤンのそれを連想させる。しかし、ゲルギエフはゲルギエフ。ここまで大胆かつ縦横無尽にやりぬけばひとつのベンチマークになりえる。マッチョな顔の大写しが多いなか、めずらしく地味なのは本ジャケットだけかも知れない。
[CD5]
ショスタコーヴィチ:
・交響曲 第5番 ニ短調 作品47(2002年6月ライヴ)
[CD6]
・ストラヴィンスキー:バレエ《春の祭典》(1947年版)
・スクリャービン:交響曲 第4番 作品54《法悦の詩》
(以上1999年7月 バーデン・バーデン)
[CD7]
・イーゴル・ストラヴィンスキー:バレエ《火の鳥》(1910年版)(1995年4月 サンクトペテルブルク・フィルハーモニー大ホール)
・アレクサンドル・スクリャービン:プロメテウス―火の詩(交響曲 第5番)、アレクサンドル・トラーゼ(ピアノ)(1997年7月 フィンランド,ミケッリ・ホール)
→ ストラヴィンスキーの父はペテルブルク・マリインスキー劇場のバス歌手であった。よって、ゲルギエフとこの管弦楽団のコンビにとって、この作曲家の「3部作」などは最強の持ち駒といえる。
「火の鳥」初稿全曲版は、組曲版に慣れたリスナーにはながく感じるだろうが、それを厭きさせない見事な色彩感覚と技法にあふれ、冴え冴え(さえざえ)たる音響空間づくりに感心する。第12曲「火の鳥の出現」から第15終曲にいたる「追い込み」の迫力はたいしたものである。スクリャービン「火の詩」(交響曲第5番)との組み合わせも悪くない。こちらも緊張感に満ち、強烈なエンディングまで一気に聴くことができる。
[CD8]
・チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
・ミヤスコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品44
ワディム・レーピン(ヴァイオリン)(2002年7月2-4日 フィンランド,ミッケリ,マルッティ・タルヴェラ・ホール、ミッケリ音楽祭でのライヴ録音)
[CD9]
・チャイコフスキー:バレエ《くるみ割り人形》作品71(全曲)(1998年8月 バーデン=バーデン,祝祭劇場)
[CD10]
・チャイコフスキー:
・交響曲 第6番 ロ短調 作品74《悲愴》
・幻想序曲《ロメオとジュリエット》(以上1997年7月4,6,7日 フィンランド,ミッケリ,ミカエリ・ホール)
→ ゲルギエフの音楽は、どの曲をとっても「明解」な解釈と「明確」な音づくりのアプローチがあるように思う。
まず、明確な音づくりに関してはこの6番(マリインスキー劇場管弦楽団)がその典型。弱音部は情感をもってゆっくりと奏で、強音部は速度を増してメカニックに疾走する。全体にリズミックで切れ味がよいが、前者ではフレージングをやや長めにとり、後者ではザックリと短く鋭く刻む。
そのコントラストにははじめは驚くが、一般に凡長に繰り返されると逆に興ざめとなる場合もある。しかし、彼の演奏でそれがマンネリ化せず鼻につかないのは、手兵たるこのオーケストラの各パートの使い方が絶妙だからだ。
全体として低弦のぶ厚い音響(実に心地よい響きだ)を強調しつつ金管(音がクリアで巧い)が効果的にこれに被さる。その場合、意外にも金管をやたらと大きく前面に出すのではなく、よく切れるカッターのように亀裂的に用いる。弦楽器と木管楽器のハーモニーも文句なく美しい。そこが真骨頂といえるだろう。
顔が<濃厚>系(失礼!)なので、音楽もそうかと言うと、実は別の感想を抱く。明解な頭脳的解釈とでも言うべきか、全体構成がくっきりとしており、リスナーの期待を裏切らない。シャイーなどに共通する感度の良さが身上。そのうえで、音のテクスチャーがよくわかり、局面局面での語りかけてくる音楽のボキャブラリーが豊か。だからリスナーに安心感をあたえ、かつ飽きさせない。
はっきり言えば、原曲が多少退屈で、中だるみがあったとしても、それをカヴァーするようなテクニックをもっている(ロシア管弦楽集などで遺憾なく発揮)。カラヤンがそうであったように。
チャイコフスキーの6番は、彼が自信をもって高く評価しこよなく好きなのだろう。その相乗効果ゆえか、こんなに良い曲だったのかと久しぶりに聴いて心動いた。6番ではジュリーニ以来の驚きである。推薦します。
[CD11]
『ロシア・ロマンティック管弦楽名曲集』
1. グリンカ:《ルスランとルドミラ》序曲
2. ハチャトゥリアン:《ガイーヌ》~剣の舞
3. 同:《スパルタクス》~アダージョ
4. ボロディン:《イーゴリ公》~だったん人の踊り
5. 同~だったん人の行進
6. リャードフ:ババ・ヤガー Op.5
7. 同:キキモラ Op.63
8. チャイコフスキー:大序曲《1812年》Op.49
(以上1993年5月 コンセルトへボウ,ハーレム)
→ 得意演目のアンコール集とでも言うべきか。まず冒頭、グリンカ「ルスランとルドミラ序曲」は、疾風怒涛の快速スタート、ちょっと荒っぽいが次第に引き込まれる。
ハチャトゥリアン「剣の舞」は文字通りリズムの乱舞、一転、ボロディン「イーゴリ公」から「序曲」と「だったん人の踊り」では前者のたっぷりのメロディと後者のエキゾチズムの強調、そしてチャイコフスキーにいたる。
「大序曲1812年」ではオランダ王立海軍軍楽隊員が登場するが、大音響よりもむしろ豊かな壮麗さを感じる。 「スラヴ行進曲」でふたたび大きく盛り上げたのち、最後は「幻想序曲ロメオとジュリエット」でじっくりとロシア・テイストを聴かせる。
選曲、プログラムビルディングの巧みさ、そして自信に満ちた一気呵成、爽快な駆け抜け感、ストレス解消に最適な1枚。
[CD12]
1. 歌劇「ボリス・ゴドノフ」~戴冠式の場
2. スラヴ行進曲 作品31
3. 歌劇「エフゲニ・オネーギン」~ポロネーズ
4. 歌劇「エフゲニ・オネーギン」~ワルツ
5. 魔法にかけられた湖 作品62
6. イタリア奇想曲 作品45
(以上1993年4月 コンセルトへボウ,ハーレム)
→ ボリス・ゴドゥノフの「戴冠式の場」の壮麗にして威厳ある表現、ゲルギエフの演奏は胸のすく切れ味である。エフゲニ・オネーギンの「ポロネーズ」と「ワルツ」では、前者がいい。チャイコフスキーのこのオペラにかける意欲をすべて表現せんとするような気迫を感じる。オペラ全曲を幾度となく演奏してきた手練れのメンバーの自信がこうした演目にはいかんなく溢れている。
対して、「スラブ行進曲」と「魔法にかけられた湖」は期待値が高い分、もっと燃焼度が上がるのでは・・・との憾みもある。最後の「イタリア奇想曲」は、力感をもち、かつスカッとしたエンディングである。
【以下も参照】
(ゲルギエフを聴く)
http://shokkou3.blogspot.jp/2012/02/blog-post_29.htmlhttp://shokkou3.blogspot.jp/search?q=%E3%82%B2%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%82%A8%E3%83%95
(マーラー交響曲全集)
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%BC-%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%B3%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%A5%BD%E5%9B%A3-Symphonies-Symphony-Orchestra/dp/B0096SLCN6
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