フリッツ・ライナー/シカゴ交響楽団の63CDの廉価盤選集。ライナーは両シュトラウス(R.シュトラウスとJ.シュトラウス)でいまに語りつがれる名演を残した。R.シュトラウスでは、ルドルフ・ケンペのような重厚なドイツ的音響にファンも多い一方、プロ・ドイツ的でないオーケストラの機能主義的な能力を最大限引き出す演奏スタイルを世に問うたという意味でライナーは先達であり、J.シュトラウスはかの名花シュワルツコップが(レコード会社の利害を超えて)孤島にもっていく1枚に選んだことで当時大いに話題になった。
レパートリーの広さでも以下のとおりであり、小品から大曲まで徹底的に磨き上げた音色を均質に提供できるという点で、トスカニーニの背を追い、カラヤンに先行し、そしてセル、ショルティらハンガリアン・ファミリーの後進に与えた影響は計りしれない。
さて、本セットはそうしたライナーの軌跡を追ううえで得がたい記録である。
<収録情報>
◆R.シュトラウス
交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」[1954年盤、1962年盤]、交響詩「ドン・ファン」[1954年盤、1960年盤]、交響詩「ドン・キホーテ」~アントニオ・ヤニグロ(Vc), ミルトン・プレーヴス(Va), ジョン・ウェイチャー(Vn) [1959年]、交響詩「英雄の生涯」[1956年]、
家庭交響曲[1956年]
楽劇「サロメ」より「7枚のヴェールの踊り」~インゲ・ボルク(Sp)、楽劇「エレクトラ」より「ひとりだ!たったひとりだ!」、「何をお望みなの、見知らぬ人よ」、「エレクトラ!ねえさん!」~インゲ・ボルク(Sp:エレクトラ), パウル・シェフラー(Bs:オレスト), フランシス・イーンド(Ms:クリソテミス)[1956年]、組曲「町人貴族」、楽劇「サロメ」より「ああ!私にキスさせてくれなかったわね」~インゲ・ボルク(Sp)[1956年,1955年]、ブルレスケ~バイロン・ジャニス(P)[1957年]、楽劇「ばらの騎士」よりワルツ(ライナー編)』[1957年]
◆J.シュトラウス
J.シュトラウス2世:「朝刊」、「皇帝円舞曲」、「美しく青きドナウ」, ヨーゼフ・シュトラウス:「オーストリアの村つばめ」[1957年]
J.シュトラウス2世:「ウィーン気質」、「芸術家の生活」、「南国のバラ」、「宝のワルツ」「雷鳴と電光」, ヨーゼフ・シュトラウス:「我が人生は愛と喜び」[1960年]
◆ベートーヴェン
交響曲第1番[1961年]、第3番「英雄」[1954年]、第5番「運命」、コリオラン序曲[1959年]、第6番「田園」[1961年]、第7番、歌劇「フィデリオ」序曲[1955年]、第9番「合唱」~フィリス・カーティン(Sp), フローレンス・コレプフ(A), ジョン・マッカラム(T), ドナルド・グラム(Bs), シカゴ・シンフォニー・コーラス[1961年]
ヴァイオリン協奏曲~ハイフェッツ(Vn) [1955年]、ピアノ協奏曲第4番~ヴァン・クライバーン(P) [1963年]、同第5番「皇帝」~ヴァン・クライバーン(P) [1961年]
◆ロッシーニ
「ウィリアム・テル」序曲、「どろぼうかささぎ」序曲、「ブルスキーノ氏」序曲、「セヴィリャの理髪師」序曲、「絹のはしご」序曲、「チェネレントラ」序曲』[1958年]
◆ハイドン
交響曲第88番「V字」[1960年]、第101番「時計」、第95番[1963年]
◆モーツァルト
交響曲第36番「リンツ」、第39番、第40番、第41番「ジュピター」[1954年,55年]
ディヴェルティメント第17番、セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」[1955年]
歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲、ピアノ協奏曲第25番~アンドレ・チャイコフスキー(P)[1959年, 1958年]
◆シューベルト
交響曲第8番「未完成」、交響曲第5番 [1960年]
◆シューマン
ピアノ協奏曲イ短調~バイロン・ジャニス(P) [1959年]、同~ヴァン・クライバーン(P) [1960年]
◆ブラームス
交響曲第3番、悲劇的序曲[1957年]
ピアノ協奏曲第1番~ルービンシュタイン(P) [1954年]、第2番~ギレリス(P) [1958年]、同第2番~ヴァン・クライバーン(P) [1961年]
◆ワーグナー
「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より「第1幕への前奏曲」「第3幕への前奏曲」「徒弟たちの踊り」「マイスタージンガーたちの行進」, 「神々の黄昏」より「夜明けとジークフリートのラインへの旅」「ジークフリートの葬送行進曲」[1959年]
◆ドヴォルザーク
交響曲第9番ホ短調「新世界より」[1957年]
◆チャイコフスキー
交響曲第6番ロ短調「悲愴」[1957年]
ピアノ協奏曲第1番~ギレリス(P) [1955年]、ヴァイオリン協奏曲~ハイフェッツ(Vn)[1957年]、バレエ「くるみ割り人形」より抜粋[1959年]
◆ムソルグスキー(ラヴェル編)
組曲「展覧会の絵」[1957年]
◆R=コルサコフ
交響組曲「シェエラザード」~シドニー・ハース(Vn) [1960年]
◆マーラー
交響曲第4番~リーザ・デラ・カーザ(Sp) [1958年]、「大地の歌」~モーリン・フォレスター(Ms), リチャード・ルイス(T) [1959年]
◆バルトーク
管弦楽のための協奏曲[1955年]
弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽、5つのハンガリー・スケッチ[1958年]
◆プロコフィエフ
カンタータ「アレクサンドル・ネフスキー」~ロザリンド・エリアス(Ms)[1959年]
組曲「キージェ中尉」[1957年]
◆ラフマニノフ
ピアノ協奏曲第1番~バイロン・ジャニス(P)[1957年盤、59年盤]、第2番~ルービンシュタイン(P) 、パガニーニの主題による狂詩曲[1956年]、同第2番~ヴァン・クライバーン(P) [1962年]、交響詩「死の島」[ 1957年]
【管弦楽集Ⅰ】
チャイコフスキー:大序曲「1812年」Op.49, リスト:メフィスト・ワルツ, ヴァインベルガー:歌劇「バグパイプ吹きのシュワンダ」より「ポルカとフーガ」, スメタナ:歌劇「売られた花嫁」序曲, ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」[1955~56年]
【管弦楽集Ⅱ】
チャイコフスキー:大序曲「1812年」, メンデルスゾーン:フィンガルの洞窟, リスト:メフィスト・ワルツ, ブラームス:悲劇的序曲Op.81[1955~57年]
【管弦楽集Ⅲ】
グラナドス:歌劇「ゴイエスカス」より間奏曲, ファリャ:歌劇「はかなき人生」より「間奏曲」「踊り」、バレエ「三角帽子」より「隣人たちの踊り」「粉屋の踊り」「終幕の踊り」, アルベニス:組曲「イベリア」より「ナバーラ」「セビリアの聖体祭」「トゥリアーナ」』[1958年]
【管弦楽集Ⅳ】
カバレフスキー:歌劇「コラ・ブルニョン」序曲, チャイコフスキー:スラヴ行進曲, ボロディン:ポロヴェツ人の行進, ムソルグスキー:禿山の一夜, チャイコフスキー:「組曲第1番」より「小行進曲」, グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲[1959年]
【その他】
リーバーマン:ジャズバンドとシンフォニック・オーケストラのための協奏曲~サウター=フィネガン・オーケストラ[1954年]
ストラヴィンスキー:交響詩「ナイチンゲールの歌」[1956年]
ラヴェル:スペイン狂詩曲、亡き王女のためのパヴァーヌ[1956年,57年]
リスト:死の舞踏 [ 1957年]
ファリャ:交響的印象「スペインの庭の夜」[1957年]
ドビュッシー:イベリア、高雅で感傷的なワルツ、道化師の朝の歌[1957年]
ホヴァネス:交響曲第2番「神秘の山」, ストラヴィンスキー:バレエ「妖精の口づけ」~ディヴェルティメント』[1958年]
レスピーギ:ローマの松、ローマの噴水[1959年]
ドビュッシー:交響詩「海」[1960年]
ベルリオーズ:歌曲集「夏の夜」, ファリャ:恋は魔術師~レオンタイン・プライス(Sp) [1963年]
<ボーナスCD>
J.Sバッハ:ピアノ協奏曲第5番ヘ短調*, アメリカ国歌「星条旗」, ベートーヴェン:交響曲第7番より第3楽章冒頭部分**、フリッツ・ライナーへのインタビュー~アンドレ・チャイコフスキー(P*)[1958年*, 1957年, 1955**]
『フリッツ・ライナー&シカゴ交響楽団~ザ・コンプリート・RCA・アルバム・コレクション』
20世紀オーケストラ演奏芸術の一つの極点を築き上げた巨匠フリッツ・ライナー。その生誕125年を記念し、シカゴ交響楽団とのRCAへの全録音を63枚のCDに集大成。
ハンガリー出身のフリッツ・ライナー(1888-1963)は、アンセルメ(1883-1969)、クレンペラー(1885-1973)、フルトヴェングラー(1886-1954)、E.クライバー(1890-1956)、ミュンシュ(1891-1968)らと同世代にあたる名指揮者で、19世紀の名残であるロマンティックな陶酔よりも、20世紀の主潮である音楽の客観的再現に奉仕した音楽家です。ブダペスト音楽院でバルトークらに作曲、ピアノ、打楽器を学び、1909年にブダペストで指揮デビュー。ブダペスト歌劇場(1911-1914)、ザクセン宮廷歌劇場(ドレスデン国立オペラ)(1914-1921)を経て、1922年に渡米しシンシナティ交響楽団(1922-1931)、ピッツバーグ交響楽団(1938-1948)の音楽監督を歴任。その後メトロポリタン歌劇場の指揮者(1949-1953)を経て、1953年9月にシカゴ交響楽団の音楽監督に就任し、危機に瀕していたこのオーケストラを再建、黄金時代を築き上げました(1962年まで音楽監督。1962/1963年のシーズンは「ミュージカル・アドヴァイザー」)。
ライナー着任時のシカゴ響には、すでにアドルフ・ハーセス(トランペット)、アーノルド・ジェイコブス(チューバ)、フィリップ・ファーカス(ホルン)、バート・ガスキンス(ピッコロ)、クラーク・ブロディ(クラリネット)、レナード・シャロー(ファゴット)といった管の名手が揃っており、ライナーはボルティモアからオーボエのレイ・スティルを引き抜いて管を固め、またメトロポリタン歌劇場時代から信頼を置いていたチェロのヤーノシュ・シュタケル、コンサートマスターにはヴィクター・アイタイという同郷の名手を入団させて、「ライナー体制」を築き上げています。ライナーとシカゴ響きは、カラヤン&ベルリン・フィル、セル&クリーヴランド管、オーマンディ/フィラデルフィア管などと並び、20世紀オーケストラ演奏芸術の極点を築きあげたのです。
ライナー=シカゴ響のRCAへの録音は、1954年3月6日、シカゴ交響楽団の本拠地オーケストラ・ホールにおけるR.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」のセッションで始まりました。この録音は、その2日後に録音された同じR.シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」と並び、オーケストラ・ホールのステージ上に設置された、わずか2本のマイクロフォンで収録された2トラック録音にも関わらず、オーケストラ配置の定位感が鮮明に捉えられており、録音史に残る名録音とされています。
これ以後、1963年4月22日に収録された、クライバーンとのベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番まで、約10年の間に、モーツァルトからリーバーマンにいたる幅広いレパートリーが、ほとんどの場合開発されたばかりのこのステレオ録音技術によって収録されました。ハイフェッツ、ルービンシュタイン、ギレリス、ジャニスなど、綺羅星のごときソリストたちとの共演になる協奏曲も残されています。いずれもちょうど円熟期を迎えていたライナー芸術の真骨頂を示すもので、細部まで鋭い目配りが行き届いた音楽的に純度の高い表現と引き締まった響きは今でも全く鮮度を失っていません。これらの録音「リビング・ステレオ」としてリリースされ、オーケストラの骨太な響きや繊細さ、各パートのバランス、ホールの空間性、響きの純度や透明感が信じがたい精度で達成された、名録音の宝庫となっています。
今回のボックスセットは、ライナーとシカゴ響が残した全122曲を63枚のCDで一つのパッケージに収録するという世界初の企画です。シカゴ響との全録音に加え、ライナーの生涯最後の録音となったハイドンの交響曲第101番「時計」と第95番(1963年、ニューヨークで収録。オケはヴィクター・アイタイをコンマスとするピックアップ・メンバーによる)を収録しています。定評のあるリビング・ステレオSA-CDのリマスターをはじめ、それぞれの曲について最新・最良のリマスター音源を使用。そのうち約1/3にあたる37曲は今回新たにオリジナル・アナログ・マスターからリマスターされています。
http://tower.jp/article/feature_item/2013/07/01/1101
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