ベートーヴェンの交響曲全集、ウィーン・フィルで一人の指揮者による全集という「括り」では、録音は古いけれどイッセルシュテットとベームがよいと思う。イッセルシュテットには派手さはないが、ウィーン・フィルの最良の部分を見事に引き出して丹精なベートーヴェン像を描いている。晩年のベームのベートーヴェンは東京でのライヴを聴いたが充実した名演だった。しかし、個人的な好みとしては、若き日のベルリン・フィル盤の堅牢性と覇気がまさると感じる。アバド、ラトルも好演ながら、いずれもベルリン・フィルのシェフとして、商業主義的な“他流試合”の話題性のほうが目立つ。
ウィーン・フィルとの個々の交響曲収録では、歴史的にみても多くの選択肢がある。しかし、全集づくりには、やはり大きな意義があるだろう。ネルソンスやティーレマンなどの全集は注目されるが、一意専心、入魂の一振り・・・といった気構えでは、オールド・ファンゆえにイッセルシュテットやベームの時代との違いも感じる。
さて、全集以外では、”父”クライバーの「第九」を冒頭掲げた。フルトヴェングラーばかりではない。こうした演奏をやってのけるのもウィーン・フィルの実力ならではだろう。
◇エーリッヒ・クライバー
エーリッヒ・クライバーの「第九」、明るい基調と鷹揚さに魅力 (amazon.co.jp)
カルロス・クライバーもすでに鬼籍の人。その父がエーリッヒ・クライバーである。本音源は1952年のもの。第9といえば、たとえばフルトヴェングラーのバイロイトでの演奏が伝説になっているが、ほぼ同時期のセッション録音盤。しかし、クライバー父子は実はベートーヴェンを得意としていた。
これがなんとも良い。あたりまえだが、当時にあっても皆が眦(まなじり)をけっして第九を演奏し、それを”おしいただいて”聴いていたわけではない。「歓喜の歌」をもつ交響曲である以上、その受容スタイルもさまざまであることは当然。クライバーの演奏は明るい基調で鷹揚に構えつつ、過度な熱情をぶつけることなく、しかし入念に、慎重にこの大曲の素晴らしさを再現せんとしている。フルトヴェングラーなどとの比較では地味な印象はぬぐえないが、その実、手堅さと音楽的な気高さが同居しており、聴きすすむうちに引き込まれていく。中間2楽章の充実ぶり(第2楽章のあふれる生命感、第3楽章のウィーン・フィルの馥郁たる美しき響き)にとくに刮目。これも得難き名演のひとつ。
<収録情報>
・交響曲第9番『合唱』
ヒルデ・ギューデン(S)
ジークリンデ・ワーグナー(A)
アントン・デルモータ(T)
ルートヴィヒ・ウェーバー(Bs)
ウィーン楽友協会合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1952年6月
録音場所:ウィーン、ムジークフェラインザール
録音方式:モノラル(セッション)
◇イッセルシュテット
ハンス・シュミット=イッセルシュテット/ベートーヴェン: 交響曲全集 (第1番-第9番《合唱》) (tower.jp)
織工Ⅲ: イッセルシュテット Hans Schmidt-Isserstedt (shokkou3.blogspot.com)
◇ベーム
カール・ベーム/ベートーヴェン: 交響曲全集 (tower.jp)
◇アバド
クラウディオ・アバド/Beethoven : Symphonies No.1-9 (tower.jp)
織工Ⅲ: アバド 追悼 (shokkou3.blogspot.com)
◇ラトル
サイモン・ラトル/ベートーヴェン: 交響曲全集 (tower.jp)
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