日曜日, 8月 12, 2007

テンシュテット マーラー6番

 マーラー:交響曲第6番『悲劇的』テンシュテット指揮ロンドン・フィル1991年11月、ロイヤル・フェスティヴァル・ホールでのデジタル録音。
 「どこをとっても感情の込めぬかれた、ライヴならではの過激な演奏で、テンションの高さには驚くばかり。第4楽章のハンマー打撃は三度目無しの通常スタイルで、一度目よりも二度目が強く、二度目の衝撃の強さはかなりのものです。http://www.hmv.co.jp/product/detail/1513595 」

 6番について、マーラーは5番までの作品を聴いた理解者しか、その特質はわからないだろうと語ったとのことだが、3楽章まではそれ以前の作品との連続性も強いと感じるながら、第4楽章に入ると、古典的なソナタ形式に対するアンチテーゼの思いが横溢しているようだ。「形式」が崩れゆく有り様は、強い芳香を発する熟れすぎた果物のような感をもつ。ハンマーが破壊の象徴であれば、なおのことその感を倍加する。

 テンシュテットの特質である豊饒な音楽の拡散感がこの4楽章に実にマッチしている。しかし、それが「だれない」のは、音楽へののめり込み、集中力が少しも途切れないからだろう。交響曲という名称が付されながら、その実、「交響」の意味は複雑で多義的で、それは、かっての積木をキチッと組み上げていくような律儀な「形式美」ではなく、雪崩をうって積雪を吹き飛ばすような「崩壊美」に通じるように思う。第3楽章の美しいメロディに浸ったあと、音の雪崩が突然と起こり、それに慄然とする恐懼がここにある。

 テンシュテットには、そうした効果を狙ってタクトをとっているような「作為」がない。テクストを忠実に再現していく過程で、崩壊美は「自然」に現れると確信しているような運行である。こうした盤にはめったにお目にかかれない。稀代の演奏と言うべきだろう。 

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