A グールド、新リスナー向けには選択肢の一つ (amazon.co.jp)
グールドについては、1955年、ゴルトベルク変奏曲 Goldberg Variationen での鮮烈なデビュー以来、25年以上にわたり膨大な録音記録を残しているが、本集は60年代初頭までの活躍の軌跡を当時の5枚のリリース盤で追っている。
パルティータは全6曲のうち2曲のみ、フーガの技法も前半のみ、ブラームスも晩年のバラードなどの録音は入っていないなど、コンプリート派には向かないが、これからグールドを聴きたいという新リスナーにはこの価格であれば有力な選択肢。特に彼が生涯、傾注したバッハ、ベートーヴェン、ブラームスの“3B”を聴くことができること、協奏曲やオルガン演奏が含まれていることも選択の妙といえよう。
なお、とりあえずバッハのみでよいなら、リトル・バッハ・ブック Little Bach Book がお奨め。
<収録情報/録音時点>
【バッハ】
・ゴルトベルク変奏曲 BWV 988/1955年6月10日、14日~16日
・イタリア協奏曲ヘ長調 BWV 971/1959年6月23日~26日
・ パルティータ
第1番:1959年5月1日、8日、9月22日
第2番:1959年6月22、23日
・フーガの技法 BWV 1080より コントラプンクトゥスI-IX(オルガン)
1962年1月31日、2月1日、2日、4日、21日 トロント、オール・セインツ・アングリカン教会および1962年2月21日、ニューヨーク、シオロジカル・カレッジ礼拝堂
【ベートーヴェン】
・ピアノ協奏曲第4番:バーンスタイン、ニューヨーク・フィル/1961年3月20日
【ブラームス】
・ 間奏曲集: 作品117-1、117-2、117-3、118-6、116-4、76-7、76-6、119-1、118-1、118-2/1960年9月、11月
【5枚組みで、¥1384】
B グールド、ベートーヴェンへの厳しい対峙 (amazon.co.jp)
グールドのベートーヴェン/ピアノ・ソナタに対するアプローチの独自性は、よく知られているとおり、最後期の30〜32番を1956年、まっさきに録音したことにある。いわばベートーヴェンの<ゴール>の作品を若きグールドは録音の<スタート>に置いた。では、その後、連続して作品群を取り上げたかというと、さにあらず。次の録音は8年後の64年に5〜7番、66年に8〜10番、67年に「名曲集」たる14番「月光」、17番「テンペスト」、18番、23番「熱情」をとりあげて、以降はふたたび録音を休止、結果的に、初期の1〜3番は最後の79年までかけて録音といった逆さまの対応となった。実にユニークな(ある意味でへそ曲がりな)23年におよぶ録音記録である(下記を参照)。
演奏も独自のグールド流が貫かれ、このベートーヴェンは、バッハ、ブラームスのいわゆる<3B>いずれにも共通し感受性豊かで自由な発想のもと、極度の緊張感とともに作品への凄まじいほどの没入を感じる。その評価はリスナーの好み次第だが、小生はベートーヴェンの強烈なパッションを炙りだし尽くそうとするようなグールドの厳しい対峙をときたま無性に聴きたくなる一人である。
<参考>「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集」録音記録
第1番 1974,76,79年 ※1
第2番 1976年7月、 1979年6,7月 ※1
第3番 1974,76,79年 ※1
第5番 1964年9,7,11月、※2
第6番 1964年9,7,11月、※2
第7番 1964年9,7,11月、※2
第8番「悲愴」1966年4月18,19日、※2
第9番 1966年2〜5月、※2
第10番 1966年2〜5月、※2
第12番「葬送」1979年9月4,5日、※1
第13番 1979年9月4,5日、※1
第14番「月光」1967年5月15日、※2
第15番「田園」1976年7月、1979年6,7月 ※1
第16番 1971年8月、1973年5月 ※1
第17番「テンペスト」1967年1月、※2 &1971年8月 ※1
第18番 1967年3月10日 ※2
第23番「熱情」 1967年10月18日、※2
第30番 1956年6月20〜29日、※2
第31番 1956年6月20〜29日、※2
第32番 1956年6月20〜29日、※2
(録音場所)
※1:トロント、イートンズ・オーディトリアム
※2:ニューヨーク、コロムビア30番街スタジオ
【6枚組みで、¥2569】
【A+B合計11枚組みで、¥3953 /1枚当たり¥359】
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A+Bで、バッハ、ベートーベン、ブラームスのいわゆる”3B”録音をグールドで聴くことができる。ここから先はオプションだが、ベートーヴェンよりもバッハ特化でより聴きたい向きには上記Bではなく、以下のCとの組み合わせがありうる(但し、パルティータ2曲はAと重複する)。
C 心の憂いを晴らし、喜びをもたらさんことを願って (amazon.co.jp)
(以下はパルティータ全6曲について)
全曲の録音は1956年2月(5番)から1963年4月(4番)まで足掛け7年にわたって慎重になされた。バッハが楽譜扉に記した「心の憂いを晴らし、喜びをもたらさんことを願って」を余すところなく表現したグールドの代表盤。
録音時点によって多少の差はあるが、構えが大きく、響きが豊かで表現力が深い。キューンと胸にくる鋭き抒情性がときに襲ってくるような迫力があって心がたじろく(そのバックでクールドのハミンズがかすかに聴こえる)。
◆J.S.バッハ:パルティータ 全曲(録音時点)
パルティータ第1番変ロ長調 BWV.825(1959年5月1日&8日、9月22日)
パルティータ第2番ハ短調 BWV.826(1959年6月22日、23日)
パルティータ第3番イ短調 BWV.827(1962年10月18日、19日)
パルティータ第4番ニ長調 BWV.828(1962年4月11日〜12日、1963年3月19日〜20日、1963年4月8日)
パルティータ第5番ト長調 BWV.829(1956年2月9日、13日〜17日、1957年7月29日〜31日、1957年8月1日)
パルティータ第6番ホ短調 BWV.830(同上)
(本集収録作品は以下を参照)
グレン・グールド/Glenn Gould Plays J.S.Bach - 6 Partitas BWV.825-BWV.830, etc (tower.jp)
【4枚組みで、¥1791】
【A+C合計9枚組みで、¥3175 /1枚当たり¥353】
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逆に、バッハよりもベートーヴェンで協奏曲を聴きたい向きには、廉価盤の協奏曲全集がある(但し、第4番はAと重複する)。
D 第1番/第1、第3楽章のカデンツァは聴きもの (amazon.co.jp)
グールドのベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集。そのラインナップは、第1番:ヴラディーミル・ゴルシュマン/コロンビア響、第2&3番:バーンスタイン/コロンビア響、第4番:バーンスタイン/ニューヨーク・フィル、第5番:ストコフスキー/アメリカ交響楽団と豪華。
このうち、第3番は有名なカラヤンとの共演盤 ピアノ協奏曲第3番他 があり、こちらに軍配。第5番 ピアノ協奏曲第5番「皇帝」 はさすが大人ストコフスキー、グールドの良さを最大限、引き出すような控えめな、それでいて抱擁力ある演奏。一方、バーンスタインもテンポはグールドに合わせているが、シンフォニックな色彩がやや強すぎて、本来の繊細なピアニズムとは微妙なズレを感じてしまう。その対極がゴルシュマン Beethoven:Piano Concerto No.1,2 で、多くの大家との協奏曲を録音してきた長きキャリアから、グールドが弾きやすいようにオケを完全コントロールしている。第1、第3楽章のカデンツァは”グールド流”が徹底しており、ノリに乗っている様子が想像できて、これはこれで楽しめる。但し、全体としては、録音が古くかなり個性的であることからグールド・ファン向けといえよう。
【3枚組みで¥1847】
【A+D合計8枚組みで、¥3231 /1枚当たり¥404】
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以上、いずれも合計3000円台で入手可能(販売状況、価格はいうまでもなく日々に変わるのでご留意)。一方で、1000円台での値頃のシングル盤もいまは多くあるので、これを組み合わせても5000円を切る価格で結構、ラインナップが揃う。
グールドについては1970年代から親しんでいるが、2006年頃から本格的に聴くようになった。かつてはとても高かったグールドのデイスクがいまや廉価で入手できる、良い時代になったと思う。
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