木曜日, 1月 13, 2022

グールドのバッハ


 









グールドのバッハの”衝撃”は、ゴルトベルク変奏曲 BWV 9881955年6月10日、14日~16日録音)から始まり、同曲の最後の録音(1981年4月22日~25日、5月15日、19日、29日)ののち、グールドの突然の脳溢血の死により終わる。なお、本曲については先行する1954年の1年前の録音に加えて、1958723日(バンクーバー)、1959825日(ザルツブルク)でのライヴもよく知られている。

織工Ⅲ 拾遺集 グールドの名演10 ゴルトベルク変奏曲 (fc2.com)


この(1955~81年)間、グールドはバッハを一人弾き続け、多くのディスクがつくられる。当代きっての”売れっ子”のグールドの録音は、その都度、ただちにリリースされたので、初期はその全体像がまったくわからず、少なくとも1960年代央までは、グールドは好きな曲を選んで収録しているのではないか・・・との憶測も一部にはあったことだろう(SONY:GOULD (nextftp.com)参照)。

しかし、いまから振り返ってみれば、それは周到に計画され、なによりも孤独で、前人未踏な努力の純粋な結晶であった。以下でそれを少しトレースしてみたい。

彼がゴルトベルク変奏曲の次に取り組んだのは 、いまも本曲の代表盤、パルティータ集BWV825~830である。しかし、その録音時期は3期に分かれ、6曲完結までになんと足掛け7年を要している。若きグールドの”品質管理”が、そのスタート・アップの頃から変わりなく、このように厳しかったことは銘記しておいてよいと思う。

◆ パルティータ(録音順) 

第5番:1957年4月9日、10日
第6番:1957年4月11日

第1番:1959年5月1日、8日、9月22日
第2番:1959年6月22日、23日

第3番:1962年10月18日、19日
第4番:1962年12月11日、12日、3月19日、20日


この間、イタリア協奏曲ヘ長調 BWV971(1959年6月23日~26日)も世にでる。明るい色調が映えるグールドの名盤である。バッハのみならず、その一方でグールドは、ベートーヴェンのソナタ全集づくりについても、同時併行、はやくから着手している(最初期の3032番の録音は195662029日)。

1960年代にはいると、バッハへの傾注を強めていく。一方、ブラームスについても関心をしめし、この時代は、いわゆる”3B”に集中していく。

◆フーガの技法 BWV 1080より コントラプンクトゥスI-IX(オルガン)

1962131日、21日、2日、4日、21日 トロント、オール・セインツ・アングリカン教会および1962221日、ニューヨーク、シオロジカル・カレッジ礼拝堂 


2声のインヴェンションと3声のシンフォニア BWV 772-801

1963126日、11日、19日、196412日、318&19

織工Ⅲ 拾遺集 グールドの名演13  バッハ:インヴェンションとシンフォニア (fc2.com)


◆平均律クラヴィーア曲集:前奏曲とフーガ

[第1巻]

18 BWV 846-853 19627月~9

第9~16 BWV 854-861 19636月~8

1724 BWV 862-869 19652月~8月 

[第2巻]

18 BWV 870-877 19668月~19672

916 BWV 878-885 19699月~12

1724 BWV 886-893 19711

織工Ⅲ 拾遺集 グールドの名演14  バッハ:平均率クラヴィーア曲集 (fc2.com)


ここで興味深いのは、フーガの技法 BWV 1080と2声のインヴェンション・3声のシンフォニア BWV 772-801は一気呵成にテイク(後者は、記載月日の準備ののち318、19日の両日に収録)する一方、平均律クラヴィーア曲集については、腰をすえてじっくりと取り組んでいることである。十分に時間をかけて、かつ、第1、2巻の順にのっとり、各ユニットにそって系統的に録音を行っている。

さらに、50~60年代には以下のように、バッハ:ピアノ協奏曲も収録しているが、私見ながらここにはソナタほどの情熱を感じない。もしも、グールド指揮&ピアノで、彼を慕う楽員による小規模楽団編成での録音であったら、まったく別のテイストになったかもしれないなとも思うが、それは見果てぬ夢である。

◆ピアノ協奏曲集

1番:バーンスタイン/コロンビア響(1957411日)

2番:196921012

3番:196752

4番:1969211

5番:195851

7番:196754

第2~7番:ヴラディーミル・ゴルシュマン/コロンビア響


1970年代にはいると、系統的な録音傾向が一層強まり、フランス組曲、イギリス組曲、チェロ・ソナタ、ヴァイオリン・ソナタ、トッカータ集と順に精力的に収録した活動期であった。その後、晩年にいたる80年初頭には前奏曲集などにも取り組んでいる。そして、冒頭に記した1981年の最後のゴルトベルク変奏曲にいたる。


◆フランス組曲

1番:19721115&16

2番:1972115

3番:19721212日、1973217

4番:1973217

5番:1971227日、28日、323日、1973217

6番:1971314&523

フランス風序曲:1971131日、227&28日、1973115

 織工Ⅲ 拾遺集 グールドの名演8  バッハ:イタリア協奏曲&フランス組曲他 (fc2.com)


◆イギリス組曲

1番:1973311日、114日、5

2番:1971523

3番:1974621&22

4番:19741214日、15日、1975523日、24

5番:19741214日、15日、1975523日、24

6番: 19751010日、11日、1976523日、24

 

◆チェロ・ソナタ

1番:1974528&29

2番:19731216&17

3番:19731216&17日 

[演奏]レナード・ローズ(チェロ)

 

◆ヴァイオリン・ソナタ

1番:197521日~3

2番:197521日~3

3番:19751124&25日、197619日~11

4番:19751123&24

5番:197619日~11

6番:197619日~11

[演奏]ハイメ・ラレード(ヴァイオリン)

 

◆トッカータ集

・ 嬰ヘ短調BWV 910  19761031日、111

・ ハ短調 BWV 911  1979515&16

・ ニ長調 BWV 912  19761016日、17日、31日、111

・ ニ短調BWV 913   197616&17

・ ホ短調BWV 914  196348

・ ト短調BWV 915  1979612

・ト長調BWV 916  1979515

[録音]※はニューヨーク、コロンビア30番街スタジオ

 

◆前奏曲集、その他

前奏曲とフーガ イ短調BWV 895   1980110日、11日、22

前奏曲とフゲッタ BWV 899     19791010

前奏曲とフゲッタ ホ短調 BWV 900    1980110日、11日、22

前奏曲とフゲッタ BWV 902     19791010

 

9つの小前奏曲より 1980110日、11日、22

(1)1番ハ長調 BWV 924

(2)4番ヘ長調 BWV 927

(3)3番ニ長調 BWV 926

(4)2番ニ長調 BWV 925

(5)5番ヘ長調 BWV 928

(6)7番ト短調 BWV 930 


6つの小前奏曲 BWV 933-938 19791010

フーガ ハ長調BWV 952  1980110日、11日、22

フーガ ハ長調 BWV 953   同上

フゲッタ ハ短調BWV 961   同上


最後に、エッセンス集として、自選のリトル・バッハ・ブックを残す。以上の聴きどころを抑えた良きアルバムで、グールドらしい”ひねり”のきいた題名だが、”リトル”を”グレート”に変えたいような充実した内容である。

織工Ⅲ 拾遺集 グールドの名演7 リトル・バッハ・ブック (fc2.com)

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