グールドのバッハの”衝撃”は、ゴルトベルク変奏曲 BWV 988(1955年6月10日、14日~16日録音)から始まり、同曲の最後の録音(1981年4月22日~25日、5月15日、19日、29日)ののち、グールドの突然の脳溢血の死により終わる。なお、本曲については先行する1954年の1年前の録音に加えて、1958年7月23日(バンクーバー)、1959年8月25日(ザルツブルク)でのライヴもよく知られている。
織工Ⅲ 拾遺集 グールドの名演10 ゴルトベルク変奏曲 (fc2.com)
この(1955~81年)間、グールドはバッハを一人弾き続け、多くのディスクがつくられる。当代きっての”売れっ子”のグールドの録音は、その都度、ただちにリリースされたので、初期はその全体像がまったくわからず、少なくとも1960年代央までは、グールドは好きな曲を選んで収録しているのではないか・・・との憶測も一部にはあったことだろう(SONY:GOULD (nextftp.com)参照)。
しかし、いまから振り返ってみれば、それは周到に計画され、なによりも孤独で、前人未踏な努力の純粋な結晶であった。以下でそれを少しトレースしてみたい。
彼がゴルトベルク変奏曲の次に取り組んだのは 、いまも本曲の代表盤、パルティータ集BWV825~830である。しかし、その録音時期は3期に分かれ、6曲完結までになんと足掛け7年を要している。若きグールドの”品質管理”が、そのスタート・アップの頃から変わりなく、このように厳しかったことは銘記しておいてよいと思う。
◆ パルティータ(録音順)
第5番:1957年4月9日、10日第6番:1957年4月11日
第2番:1959年6月22日、23日
第4番:1962年12月11日、12日、3月19日、20日
◆フーガの技法 BWV 1080より コントラプンクトゥスI-IX(オルガン)
1962年1月31日、2月1日、2日、4日、21日 トロント、オール・セインツ・アングリカン教会および1962年2月21日、ニューヨーク、シオロジカル・カレッジ礼拝堂
◆2声のインヴェンションと3声のシンフォニア BWV 772-801
1963年12月6日、11日、19日、1964年1月2日、3月18日&19日
織工Ⅲ 拾遺集 グールドの名演13 バッハ:インヴェンションとシンフォニア (fc2.com)
◆平均律クラヴィーア曲集:前奏曲とフーガ
[第1巻]
第1~8番 BWV 846-853 1962年7月~9月
第9~16番 BWV 854-861 1963年6月~8月
第17~24番 BWV 862-869 1965年2月~8月
[第2巻]
第1~8番 BWV 870-877 1966年8月~1967年2月
第9~16番 BWV 878-885 1969年9月~12月
第17~24番 BWV 886-893 1971年1月
織工Ⅲ 拾遺集 グールドの名演14 バッハ:平均率クラヴィーア曲集 (fc2.com)
ここで興味深いのは、フーガの技法 BWV 1080と2声のインヴェンション・3声のシンフォニア BWV 772-801は一気呵成にテイク(後者は、記載月日の準備ののち3月18、19日の両日に収録)する一方、平均律クラヴィーア曲集については、腰をすえてじっくりと取り組んでいることである。十分に時間をかけて、かつ、第1、2巻の順にのっとり、各ユニットにそって系統的に録音を行っている。
さらに、50~60年代には以下のように、バッハ:ピアノ協奏曲も収録しているが、私見ながらここにはソナタほどの情熱を感じない。もしも、グールド指揮&ピアノで、彼を慕う楽員による小規模楽団編成での録音であったら、まったく別のテイストになったかもしれないなとも思うが、それは見果てぬ夢である。
◆ピアノ協奏曲集
第1番:バーンスタイン/コロンビア響(1957年4月11日)
第2番:1969年2月10~12日
第3番:1967年5月2日
第4番:1969年2月11日
第5番:1958年5月1日
第7番:1967年5月4日
第2~7番:ヴラディーミル・ゴルシュマン/コロンビア響
1970年代にはいると、系統的な録音傾向が一層強まり、フランス組曲、イギリス組曲、チェロ・ソナタ、ヴァイオリン・ソナタ、トッカータ集と順に精力的に収録した活動期であった。その後、晩年にいたる80年初頭には前奏曲集などにも取り組んでいる。そして、冒頭に記した1981年の最後のゴルトベルク変奏曲にいたる。
◆フランス組曲
第1番:1972年11月15日&16日
第2番:1972年11月5日
第3番:1972年12月12日、1973年2月17日
第4番:1973年2月17日
第5番:1971年2月27日、28日、3月23日、1973年2月17日
第6番:1971年3月14日&5月23日
フランス風序曲:1971年1月31日、2月27日&28日、1973年11月5日
織工Ⅲ 拾遺集 グールドの名演8 バッハ:イタリア協奏曲&フランス組曲他 (fc2.com)
◆イギリス組曲
第1番:1973年3月11日、11月4日、5日
第2番:1971年5月23日
第3番:1974年6月21日&22日
第4番:1974年12月14日、15日、1975年5月23日、24日
第5番:1974年12月14日、15日、1975年5月23日、24日
第6番: 1975年10月10日、11日、1976年5月23日、24日
◆チェロ・ソナタ
第1番:1974年5月28日&29日
第2番:1973年12月16日&17日
第3番:1973年12月16日&17日
[演奏]レナード・ローズ(チェロ)
◆ヴァイオリン・ソナタ
第1番:1975年2月1日~3日
第2番:1975年2月1日~3日
第3番:1975年11月24日&25日、1976年1月9日~11日
第4番:1975年11月23日&24日
第5番:1976年1月9日~11日
第6番:1976年1月9日~11日
[演奏]ハイメ・ラレード(ヴァイオリン)
◆トッカータ集
・ 嬰ヘ短調BWV 910 1976年10月31日、11月1日
・ ハ短調 BWV 911 1979年5月15日&16日
・ ニ長調 BWV 912 1976年10月16日、17日、31日、11月1日
・ ニ短調BWV 913 1976年16日&17日
・ ホ短調BWV 914 1963年4月8日※
・ ト短調BWV 915 1979年6月12日
・ト長調BWV 916 1979年5月15日
[録音]※はニューヨーク、コロンビア30番街スタジオ
◆前奏曲集、その他
前奏曲とフーガ
イ短調BWV 895 1980年1月10日、11日、2月2日
前奏曲とフゲッタ BWV 899 1979年10月10日
前奏曲とフゲッタ ホ短調 BWV 900 1980年1月10日、11日、2月2日
前奏曲とフゲッタ BWV 902 1979年10月10日
9つの小前奏曲より 1980年1月10日、11日、2月2日
(1)第1番ハ長調 BWV 924
(2)第4番ヘ長調 BWV 927
(3)第3番ニ長調 BWV 926
(4)第2番ニ長調 BWV 925
(5)第5番ヘ長調 BWV 928
(6)第7番ト短調 BWV 930
6つの小前奏曲 BWV 933-938 1979年10月10日
フーガ
ハ長調BWV 952 1980年1月10日、11日、2月2日
フーガ ハ長調 BWV 953 同上
フゲッタ ハ短調BWV 961 同上
最後に、エッセンス集として、自選のリトル・バッハ・ブックを残す。以上の聴きどころを抑えた良きアルバムで、グールドらしい”ひねり”のきいた題名だが、”リトル”を”グレート”に変えたいような充実した内容である。
織工Ⅲ 拾遺集 グールドの名演7 リトル・バッハ・ブック (fc2.com)
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