1960年代前後 イタリアオペラにおける歴史的名演 (amazon.co.jp)
カラヤンの厖大なオペラ・ライヴラリーのうち、以下は主として古きイタリアオペラの音源について。
1960年代前後、帝王カラヤンのイタリアオペラへの取組みは、当時のステレオ録音ブームもあって、当代名歌手が一堂に揃うという絢爛豪華さとその鍔迫り合いのような迫真の競演によって、最高レヴェルの演奏としていまも多くのリスナーを得ている。
特に、ヴェルディについては、セッション、ライヴともに、壮年期のカラヤンらしく、大胆かつエネルギッシュでありながら絶品の叙情性を満載しており、その中核的な演目である。
◆『ドン・カルロ』フェルナンディ、ユリナッチ、シミオナート、バスティアニーニ、ウィーン・フィル(1958年ザルツブルク・ライヴ)
◆『アイーダ』:テバルディ、シミオナート、ベルゴンツィ、ウィーン・フィル(1959年)
◆『オテロ』:テバルディ、デル・モナコ、ウィーン・フィル(1961年)
◆『トロヴァトーレ』:コレルリ、L・プライス、シミオナート、バスティアニーニ、ウィーン・フィル(1962年ザルツブルク・ライヴ)
ほかにも、『ファルスタッフ』では、1956年の旧盤<ゴッビ、パネライ、シュヴァルツコップ、ザッカリア、モッフォ他、フィルハーモニア管>などもあり、いずれも歴史的な名演である。
👉 ヴェルディ ~カラヤン (shokkou3.blogspot.com)
一方のイタリアオペラの雄、プッチーニについては1970年代の録音が中心。プッチーニではクライバーなど他の指揮者の秀でた音源もあり十分に比較考量の余地がある。もちろん、セラフィンやサバータといったイタリアの名指揮者はいるものの、イタリアオペラ「全般」について、いまだカラヤン以上に均一で抜群の記録を残した指揮者はいない。”オーストリーの異邦人”カラヤンのイタリアオペラでの実力は隔絶したものである。
👉 プッチーニ ~カラヤン (shokkou3.blogspot.com)
👉 イタリア&フランス オペラ ~カラヤン (shokkou3.blogspot.com)
KARAJAN EDITION -COMPLETEから。
本場イタリアものをウィーンに引っさげての一大興業は、ヴェルディでは『アイーダ』でテバルディ(S)、シミオナート(Ms)、ベルゴンツィ(T)、『オテロ』でデル・モナコ(T)、テバルディ(S)を起用。一方、プッチーニでは、『ラ・ボエーム』、『蝶々夫人』ともフレーニ(S)、パヴァロッティ(T)の幼なじみの名コンビにスポット。さらに、ロシアものでは、ギャウロフ(B)、ヴィシネフスカヤ(S)、タルヴェラ(B)の最強布陣の『ボリス・ゴドゥノフ』など、ダイナミズムとリリシズムを交互に織りなしたカラヤンの至芸がここに見事に結集されている。
◆プッチーニ:歌劇『トスカ』プライス(トスカ/S)、ステファノ(カヴァラドッシ/T)(1962年)
◆プッチーニ:歌劇『ラ・ボエーム』フレーニ(ミミ/S)、パヴァロッティ(ロドルフォ/T) ベルリン・フィル(1972年)
◆プッチーニ:歌劇『蝶々夫人』フレーニ(蝶々夫人/S)、パヴァロッティ(ピンカートン/T)(1974年)
◆ビゼー:歌劇『カルメン』プライス(カルメン/S)、コレッリ(ドン・ホセ/T)、フレーニ(ミカエラ/S)、ロバート・メリル(エスカミーリョ/Br)(1963年)
◆ムソルグスキー:歌劇『ボリス・ゴドゥノフ』ギャウロフ(ボリス/B)、ヴィシネフスカヤ(マリーナ/S)、タルヴェラ(ピーメン/B)(1970年)
◆「クリスマス・ウィズ・レオンティン・プライス」プライス(S)(1961年)
◆J.シュトラウス2世:歌劇『こうもり』ヒルデ・ギューデン(ロザリンデ/S)、ヴァルデマール・クメント(アイゼンシュタイン/T)(1960年)
◆モーツァルト:歌劇『フィガロの結婚』ジョゼ・ヴァン・ダム(フィガロ/B)、コトルバス(スザンナ/S)(1978年)
Herbert von Karajan - Portrait の最後の3枚に所収されているのが、この「コシ・ファン・トゥッテ」全曲。1950年代の古い音源ながら、再録の多いカラヤンにあって唯一の全曲盤である。小生は、同時期に録音されたベーム盤 Cosi Fan Tutte を聴いて、改めて同時期に録音されたカラヤン盤を手にとった次第。どちらも優れた演奏で甲乙はつけがたく、あとは好みの問題。
ベーム盤でフィオルディリージを歌うリーザ・デラ・カーザには特有の妖艶さが漂うが、カラヤン盤のシュワルツコップには貴婦人然とした落着きがある。一方で、ベーム盤のクリスタ・ルートヴィヒには将来の大器を感じさせる表現力があるけれど、カラヤン盤のドン・アルフォンゾ役、ブルスカンティーニの洒脱にして巧緻な詠唱にも唸らされる。
ベームは本曲を得意としておりDVDを含め多くの音源があるが、カラヤンは、あたかもライヴ盤の如く、この1回に全身をぶつけているような気迫に満ちている。ベームの鷹揚さに比べて、この時代のカラヤンの演奏の顕著な特徴だが、思い切りのよい快速感とちょっと息苦しさもあるくらいの集中度である。
(収録情報)
◆モーツァルト:歌劇『コシ・ファン・トゥッテ』全曲
エリザベート・シュワルツコップ(S:フィオルディリージ)
ナン・メリマン(M:ドラベッラ)
レオポルド・シモノー(T:フェルランド)
ロランド・パネライ(Br:グリエルモ)
セスト・ブルスカンティーニ(Br:ドン・アルフォンゾ)
リザ・オットー(S:デスピーナ)
フィルハーモニア管弦楽団&合唱団
ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)
録音1954,55年、ロンドン
1951年、カラヤンのバイロイト音楽祭「デビュー戦」の旧盤。カラヤンの凄まじいまでのプライドと気概が伝わってくる演奏。これはカラヤン・ライブラリイのなかでも、その異質性において、インパクトの強い代物である。カラヤンは自己主張がはっきりしている性格。天下のバイロイトも翌年はでたがその後、演出の考え方の相違で袂をわかって足を運ばず。後にウィーン国立歌劇場とも同様に決裂。既存の権威に対して、いつでも闘うがゆえの「帝王」の呼称か。録音は悪いが、音楽の豊かさ、しなやかさ、抒情性などは聴きもの。素晴らしく純化され、しかし颯爽としたマイスタージンガーの演奏である。
はじめて聴いた頃はその味わいに気が付かなかったが、いま聴くと、ホフマンスタールの台本はなかなか機微にふれる、巧妙なるものだと愉しめる。爛熟の極みにある元帥夫人は、進行する更年期を自覚し若き愛人との関係を自ら清算する。しかし、その決断は自らの気高き意思によってなされた。その一方で、若き愛人役のオクタヴィアンは女声が担う。ここにはオペラではよくあるが、甘美な同性愛が意識されている。敵役にして道化役的な下品で粗野なオックス男爵には、某国の大統領を思わず連想した。比喩、暗喩、直喩に富む作品。
シュヴァルツコップの元帥夫人。熟女の魅力をたたえながらアンビバレンツな慎ましさも内在した貴族主義的な女性。これほど見事に演じることができるのは、(想像の世界ながら)彼女の特質との共通点をリスナーが思わず感じてしまうからではないか。クリスタ・ルートヴィヒの若衆ぶりも初々しく、エーデルマンのオックス男爵もはまり役。
さて、カラヤンのR.シュトラウスは、どの曲でも冴えた解釈だが本曲では特に、耽美になりすぎぬよう一歩前でとめるような演奏が、独特の品位を保っている。この時代のカラヤンらしいスタイリッシュさが全体に貫かれて実に恰好がいい。
<収録情報>
エリーザベト・シュヴァルツコップ(陸軍元帥夫人)
オットー・エーデルマン(オックス男爵)
クリスタ・ルートヴィヒ(オクタヴィアン)
テレサ・シュティッヒ=ランダル(ゾフィー)
エーベルハルト・ヴェヒター(ファーニナル)
ニコライ・ゲッダ(歌手)、他
フィルハーモニア管弦楽団&合唱団
ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)
録音時期:1956年12月
録音場所:ロンドン、キングズウェイ・ホール
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)
(参考)
オペラ、宗教曲におけるカラヤン&シュヴァルツコップの共演記録
◆ブラームス:ドイツ・レクイエム(1947)/シュヴァルツコップ、ホッター、ウィーン・フィル、ウィーン楽友協会合唱団
◆モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」全曲(1950)/シュヴァルツコップ、ゼーフリート、ユリナッチ、クンツ他、ウィーン・フィル
◆J.S.バッハ:ミサ曲ロ短調 BWV232(1952&53)/シュヴァルツコップ、ヘフゲン、ゲッダ、レーフス、ウィーン響、ウィーン楽友協会合唱団
◆フンパーディンク:歌劇「ヘンゼルとグレーテル」全曲(1953)/シュヴァルツコップ、グリュンマー他、フィルハーモニア管
◆モーツァルト:歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」全曲(1954)/シュヴァルツコップ、メリマン、パネライ、ブルスカンティーニ他、フィルハーモニア管
◆R.シュトラウス:歌劇「ナクソス島のアリアドネ」全曲(1954)/シュヴァルツコップ、シュトライヒ、ゼーフリート他、フィルハーモニア管
◆J.シュトラウス:歌劇「こうもり」全曲(1955)/ゲッダ、シュヴァルツコップ、シュトライヒ他、フィルハーモニア管
◆ヴェルディ:歌劇「ファルスタッフ」全曲(1956)/ゴッビ、パネライ、シュヴァルツコップ、ザッカリア、モッフォ他、フィルハーモニア管
◆R.シュトラウス:楽劇「ばらの騎士」全曲(1956)/シュヴァルツコップ、ルートヴィヒ、ヴェヒター、エーデルマン、ゲッダ他、フィルハーモニア管
◆R.シュトラウス:4つの最後の歌(1956)/シュヴァルツコップ、フィルハーモニア管
◆ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス(1958)/シュヴァルツコップ、ルートヴィヒ、ゲッダ、ザッカリア、フィルハーモニア管、ウィーン楽友協会合唱団
👉 オペラ指揮者の巨匠