◇小澤征爾
節度をもった、品格あるアプローチ (amazon.co.jp)
1969年11月17日、ボストン/シンフォニー・ホールでの録音。小澤征爾、得意の演目であるとともに、本曲での代表的な名演である。約20年後のベルリン・フィルとの成果もあるが、ボストン盤の潔癖な表現にも独立した価値がある。
一般に、ボストン盤では小澤、若き日の熱情がPRされるが、実は徹底したスコア研究の成果を「楷書」でしめしたような周到な棒さばきで、一部の隙もなく構成される一方、爆発的な迫力も管弦楽の均衡を崩さずに見事に表現している。
カルミナ・ブラーナは、宗教曲ではなく、世俗的な欲望をおおらかに歌ったものだが、ここでの小澤の表現は、むしろ節度をもった、品格ある音楽的なアプローチを感じさせ、この曲の格調の高さを聴衆に訴えているように思う。
◇オーマンディ
ヨッフム盤(1952年、1967年 オルフ:カルミナ・ブラーナ )が有名だが、オーマンディの本盤も見事な演奏。どこか懐かしく郷愁をそそられるメロディ、切れがよく躍動的なリズム、あたかも掌をきちんと重ねるような合唱と合奏の隙間なき一体感、そして世俗的な言霊がもつ原初的なエネルギー、それらが統一感をもって表現されている。1960年の録音とは思えない解像度の録音。爆発的なパワー、激情型の演奏が好みだと大人しい演奏と思われるかも知れない。ヨッフム盤にくらべると合唱がやや後景に引いて聴こえるが、この生き生きとした表情付けと絶妙なるバランス感覚こそがオーマンディ・トーンの美意識なのだろう。
➡ Eugene Ormandy Conducts 20th Century Classics にて聴取
◇ティ-レマン
「カルミナ・ブラーナ」は世俗的なエネルギー、欲望を開放するような力強さが身上。この曲を世に広く知らしめたヨッフム盤 オルフ:カルミナ・ブラーナ (1967年)が有名だが、ティーレマンは、20年余をへた1998年にヨッフムと同じベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団&合唱団を振って大きな話題になったもの。ヨッフム盤での独唱は、ヤノヴィッツ、シュトルツェ、F.ディースカウと当時の最強のメンバーを結集したが、本盤では、クリスティアーネ・エルツェ(ソプラノ)、デイヴィッド・キューブラー(テノール)、サイモン・キーンリーサイド(バリトン)という手堅い布陣。
ティーレマンは、当時まだ39才。ベルリン生まれでドイツ楽壇の期待を一身に背負ったキャリア形成の途上ながら、ぶ厚い合唱をビシッと統制し、見事な構成力を示している。本曲は演奏会式オペラのような特色があるが、ドイツオペラを得意とするティーレマンには相性がよいのだろう。終曲O Fortuna (おお、運命の女神よ)を聴き終えたあとの感動は「ティーレマン、恐れ入り」といった感じ。
◇プレヴィン
この人は本当に才人である。かつて、デュッセルドルフでライヴも聴いたが、その時は指揮姿には見惚れたが、肝心の演奏については鮮烈な印象はなかった。ドイツ人なのにフランス名をかかげ、アメリカに渡りその後欧州でも地位を築いたが、作曲家、指揮者、ピアニストのうち、もしも一芸に専心したらもっと頂点を極めたかも知れない。一方で、私生活をふくめ、こうしたマルチの活動こそが真骨頂だったのかも、とも思う。カルミナ・ブラーナほか以下のラインナップをみても、レパートリーの広さとウィーン・フィルはじめオーケストラとの多彩な共演、そしてその質の高さに改めて注目する。
織工Ⅲ: プレヴィン André George Previn (shokkou3.blogspot.com)
アンドレ・プレヴィン/カール・オルフ:世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」 (tower.jp)
アンドレ・プレヴィン/オルフ:カルミナ・ブラーナ<生産限定盤> (tower.jp)
◇ヨッフム
小生のライブでの海外オーケストラとの出会いは、1968年、ヨッフム/コンセルトヘボウから始まった。カルミナ・ブラーナの素晴らしさをはじめて教えてくれたのもヨッフム盤を通じてであった。そして、いまも本曲NO.1の評価は揺るがないと思う。
織工Ⅲ 拾遺集 クラシック音楽聴きはじめ3:ヨッフム (fc2.com)
織工Ⅲ: ヨッフム Eugen Jochum (shokkou3.blogspot.com)
オイゲン・ヨッフム/オルフ:カルミナ・ブラーナ (tower.jp)