金曜日, 4月 06, 2007

ワルター ブルックナー9番

 トスカニーニ/NBC交響楽団と同様、ワルター/コロンビア交響楽団は、指揮者の実力によって一時期に優秀なオーケストラが結成された希有な事例である。もちろん、いまも小沢征爾/サイトウ記念ORのようなアド・ホックな組み合わせはあるけれど、前二者のような永きにわたる事例は多くはない。
 ドラティなどハンガリアン・ファミリーが手兵を組織した素晴らしい名演の事例も思い浮かぶが、特定の分野にこだわらず、広範な演奏記録を残したという点において、やはりトスカニーニとワルターは傑出している。
 そのワルター/コロンビア交響楽団によるブルックナーの9番を聴く。1959年11月の録音。きびきびとした運行、しかし厳格なテンポは維持されている。つややかにフレーズは磨かれながら全体の構成は実にしっかりとしている。弦楽器の表情豊かな色彩に加えて、管楽器は節度ある協奏でこれに応えている。いい演奏だ。9番の良さを過不足なく引き出している。しかも、演奏の「アク」をけっして出さずに澄み切った心象のみを表に出そうとしているように見受けられる。
 ワルターはかって「ブルックナーは神を見た」とコメントしたが、そうした深い心象がこの演奏の背後にあるのだろう
。ワルターにせよ、クレンペラーにせよ演奏に迷いというものがない。己が信じる作曲家の世界をできるだけ自分の研ぎ澄まされた耳を武器に再現しようと試みているように感じる。この時代のヴィルトオーゾしかなしえない技かも知れないが注目されてよい歴史的名演だろう。

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