土曜日, 8月 21, 2010

クラシック音楽 聴きはじめ 12 ムラヴィンスキー

 
レニングラード・フィルは、日本にEXPO’70で来演したが、残念ながらこの時はヤンソンスの代演となった。しかし、それですら衝撃的で言葉を失った鮮烈な記憶がある。オケのメンバーはステージ上、誰も無駄話などしない。皆がソリストのような緊張感にあふれ、彼らの合奏は、よく訓練された軍隊の一糸乱れぬ閲兵式を彷彿とさせるものであった。そして、数年後、今後はムラヴィンスキーご本人で、さらに強烈なライヴ体験を味わった。 

ムラヴィンスキーは旧ソビエト連邦時代、全ソビエト指揮者コンクールで優勝、直ちに当時同国最高のレニングラード・フィル(現在のサンクトペテルブルク)の常任となる。1938年、時に35才の俊英であった。  
本盤所収の録音は、4番(1960年9月14~15日、ロンドン、ウェンブリー・タウンホール)、5番(同年11月7~9日、ウィーン、ムジークフェラインザール)、6番(同年11月9~10日、5番と同じ)であり、この「幻の」指揮者とオケの実質、西欧デビュー盤である。 これぞチャイコフスキー本国の正統的な解釈の演奏というのが当時のふれこみであったろうが、実際は、そんな生易しいものではなく、冷戦時代の旧ソ連邦の実力を強烈に印象づける最高度の名演である。  
十八番の名演といった表面的なことでなく、この時代、このメンバーでしかなしえない、極度の緊張感と強力な合奏力を背景とした、比類なきチャイコフスキー演奏といってよいだろう。4、5、6番ともに通底する一貫した解釈と各番の性格の違いの明確な浮き彫りにこそ、本盤の特色がある。  録音は半世紀前であり、いまのレヴェルでは物足りないだろうが、それを上回る往時の覇気がある。歴史的名盤である。


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