名盤はある日突然、生まれるのではない。ショルティのシカゴ響との成果は素晴らしいものだが、実はクーベリックの音楽監督時代(1950―53年)に、オーケストラ・ビルダーとして、バルトークやシェーンベルクなどしっかりと種を蒔いていることを知って、ショルティはその路線を継承しているのだと思った。一方、その時期、ショルティはオペラを含むあらゆるジャンルで、着々と大きな仕事の準備をしている。そして両者の邂逅によって、芽吹き花咲いた巨大な名演群が出現することになるのである。
ゲオルグ・ショルティ(1912〜97年)は、天に召される直前までシカゴ響の音楽監督、桂冠指揮者を永く(1969年~1997年)務めた。その集大成が本集だが、以下、いくつかのグループ別に分類してみよう。
第1は、交響曲全集および主要作品グループである。ベートーヴェン、ブラームス、ブルックナー、マーラーの交響曲全集、チャイコフスキーの後期交響曲がすべて収録されている。この集積だけでも驚異的といえよう。
第2は、宗教曲、オペラなどレンジの広い合唱曲集である。バッハ、ハイドン、ベルリオーズ、ワーグナー、ヴェルディなど、ワーグナーはじめ膨大なオペラ録音を残したショルティのメインロードの一部がここにある。また、第1グループに掲げたが歌劇『フィデリオ』(全曲)、『ミサ・ソレムニス』、『ドイツ・レクィエム』も見落とせない。
第3は、彼が最も愛した故国の音楽、いわばフォークロアである。リスト、バルトーク、コダーイ、ドホナーニがここに含まれる。いずれも最右翼の名盤である。
第4は、20世紀音楽、同時代音楽への取り組みである。プロコフィエフ、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチ、シェーンベルク、ベルク、デル・トレディチ、ティペットのうち、デル・トレディチの『最後のアリス』、ティペットの交響曲第4番と『ビザンティウム』の初演者はショルティである。
第5に、それ以外の幅広いレパートリー演目集である。
さて、ハンガリー出身指揮者の系譜を見ると、フリッツ・ライナー(生年1888〜没年1965年)、ジョージ・セル(1897〜1970年)、ユージン・オーマンディ(1899〜1985年)、アンタール・ドラティ(1906〜88年)、フェレンツ・フリッチャイ(1914〜63年)、イシュトヴァン・ケルテス(1929〜73年)そしてゲオルグ・ショルティやドホナーニとなる。彼らの多くはブダペストで生まれ、リスト音楽院に学び、アメリカのメジャー・オーケストラで活躍した<ハンガリアン・ファミリー>である(彼らこそが全米主要オケを鍛え上げた)。欧州で活動したフリッチャイ、ケルテスは残念ながら早世し、ふたりより年長のショルティはもっとも活動時期が長く、ハンガリアン・ファミリーの中心人物であった。また、シカゴ響にとっては、ライナー [[ASIN:B00BT70J0Y Fritz Reiner - The Complete Chicago Symphony Recordings on RCA]] とともにショルティは黄金期を築いてくれた恩人であった。本集はそうした記録としても得難い価値がある。
<収録情報>
◆第1グループ
【ベートーヴェン】
・交響曲全集
・ピアノ協奏曲全集/アシュケナージ(ピアノ)
・『ミサ・ソレムニス』
・歌劇『フィデリオ』(全曲)
・序曲集:『エグモント』序曲、序曲『コリオラン』、『レオノーレ』序曲第3番
【ブラームス】
・交響曲全集
・ハイドンの主題による変奏曲、大学祝典序曲、悲劇的序曲
・『ドイツ・レクィエム』
【ブルックナー】
・交響曲全集(0番を含む)
➡ [[ASIN:B000LZ54SM ブルックナー:交響曲第0番]] も参照
【マーラー】
・交響曲全集、大地の歌
・歌曲集『子供の不思議な角笛』から、さすらう若人の歌
➡ [[ASIN:B001CJJWK2 Symphony 7]] も参照
【チャイコフスキー】
・交響曲第4番~第6番『悲愴』
・ピアノ協奏曲第1番/シフ(ピアノ)
・組曲『くるみ割り人形』、組曲『白鳥の湖』
・序曲『1812年』、幻想序曲『ロメオとジュリエット』
◆第2グループ
【J.S.バッハ】
・『マタイ受難曲』(全曲)、ミサ曲ロ短調(全曲)
【ハイドン】
・オラトリオ:『天地創造』(全曲)、『メサイア』(全曲)、『四季』(全曲)
【ベルリオーズ】
・『ファウストの劫罰』(全曲)
・幻想交響曲
・序曲『宗教裁判官』
【ワーグナー】
・『ニュルンベルクのマイスタージンガー』(全曲)
・『さまよえるオランダ人』(全曲)
・ワーグナー:序曲と前奏曲集
➡ [[ASIN:B008H29YVY Wagner: The Operas]] も参照
【ヴェルディ】
・歌劇『オテロ』(全曲)
・『レクィエム』、聖歌四篇、合唱曲集
➡ 若き日の記録 [[ASIN:B003ASV3YG Der Operndirigent]] にも注目
◆第3グループ
【リスト】
・ファウスト交響曲
・交響詩『前奏曲』、メフィスト・ワルツ第1番、ハンガリー狂詩曲第2番
【バルトーク】
・『弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽』
・『管弦楽のための協奏曲』
・『中国の不思議な役人』組曲
・舞踏組曲、ディヴェルティメント、5つのハンガリーのスケッチ、ルーマニア民族舞曲
・ヴァイオリン協奏曲第1番/チョン・キョンファ(ヴァイオリン)
【コダーイ】
・組曲『ハーリ・ヤーノシュ』
【ドホナーニ】
・童謡主題による変奏曲
➡ 旧盤 [[ASIN:B004J4RQFK The Hungarian Masters]] も名演
◆第4グループ
【プロコフィエフ】
・『ロメオとジュリエット』抜粋
・交響曲第1番『古典交響曲』
【ストラヴィンスキー】
・交響曲、詩篇交響曲、3楽章の交響曲
・『春の祭典』、『ペトルーシュカ』、カルタ遊び
【ショスタコーヴィチ】
・交響曲:第8番、第10番、第13番『バビ・ヤール』、第15番
【シェーンベルク】
・管弦楽のための変奏曲Disc59-60
・歌劇『モーゼとアロン』全曲
【ベルク】
・ヴァイオリン協奏曲/チョン・キョンファ(ヴァイオリン)
【デル・トレディチ】
・最後のアリス/バーバラ・ヘンドリックス(ソプラノ)
【ティペット】
・交響曲第4番
・『ビザンティウム』
・チャールズ皇太子の誕生日のための組曲
◆第5グループ
【モーツァルト】
・交響曲:第38番『プラハ』、第39番
【メンデルスゾーン】
・交響曲:第3番『スコットランド』、第4番『イタリア』
【ドヴォルザーク】
・交響曲第9番『新世界より』
【ドビュッシー】
・牧神の午後への前奏曲、海、夜想曲
【ラヴェル】
・ボレロ、クープランの墓、ムソルグスキー/ラヴェル編:展覧会の絵
【R.シュトラウス】
・交響詩:ツァラトゥストラはかく語りき、ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯、ドン・ファン
➡ R.シュトラウスのオペラ [[ASIN:B00G4PV0H2 Strauss: Complete Operas]] でも多大の成果
<小品集>
・ロッシーニ:『セヴィリャの理髪師』序曲
・ウェーバー:『オベロン』序曲
・ムソルグスキー:『ホヴァンシチナ』前奏曲、(ショスタコーヴィチ編)死の歌と踊り
・ヴェイネル:『チョンゴルと悪魔』 Op.10~序奏とスケルツォ
・エルガー:エニグマ変奏曲、演奏会用序曲『コケイン』
・スーザ:星条旗よ永遠なれ
・スタッフォード・スミス:アメリカ国歌『星条旗』
・ダウンズ:がんばれ、シカゴ・ベアーズ
➡ ロシアもの [[ASIN:B00J3FKBIO The Russian Masters in Music]] でも若き日から頭角
※ウィリアム・マンによるショルティへのインタビューも収録。なお、上記には一部演目で重複があるが、あえて記載していない。
0 件のコメント:
コメントを投稿