土曜日, 10月 23, 2021

ショルティ Sir Georg Solti


 










名盤はある日突然、生まれるのではない。ショルティのシカゴ響との成果は素晴らしいものだが、実はクーベリックの音楽監督時代(195053年)に、オーケストラ・ビルダーとして、バルトークやシェーンベルクなどしっかりと種を蒔いていることを知って、ショルティはその路線を継承しているのだと思った。一方、その時期、ショルティはオペラを含むあらゆるジャンルで、着々と大きな仕事の準備をしている。そして両者の邂逅によって、芽吹き花咲いた巨大な名演群が出現することになるのである。

ショルティ/シカゴ響 驚異的録音記録

ゲオルグ・ショルティ(1912〜97年)は、天に召される直前までシカゴ響の音楽監督、桂冠指揮者を永く(1969年~1997年)務めた。その集大成が本集だが、以下、いくつかのグループ別に分類してみよう。

第1は、交響曲全集および主要作品グループである。ベートーヴェン、ブラームス、ブルックナー、マーラーの交響曲全集、チャイコフスキーの後期交響曲がすべて収録されている。この集積だけでも驚異的といえよう。

第2は、宗教曲、オペラなどレンジの広い合唱曲集である。バッハ、ハイドン、ベルリオーズ、ワーグナー、ヴェルディなど、ワーグナーはじめ膨大なオペラ録音を残したショルティのメインロードの一部がここにある。また、第1グループに掲げたが歌劇『フィデリオ』(全曲)、『ミサ・ソレムニス』、『ドイツ・レクィエム』も見落とせない。

第3は、彼が最も愛した故国の音楽、いわばフォークロアである。リスト、バルトーク、コダーイ、ドホナーニがここに含まれる。いずれも最右翼の名盤である。

第4は、20世紀音楽、同時代音楽への取り組みである。プロコフィエフ、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチ、シェーンベルク、ベルク、デル・トレディチ、ティペットのうち、デル・トレディチの『最後のアリス』、ティペットの交響曲第4番と『ビザンティウム』の初演者はショルティである。

第5に、それ以外の幅広いレパートリー演目集である。

さて、ハンガリー出身指揮者の系譜を見ると、フリッツ・ライナー(生年1888〜没年1965年)、ジョージ・セル(1897〜1970年)、ユージン・オーマンディ(1899〜1985年)、アンタール・ドラティ(1906〜88年)、フェレンツ・フリッチャイ(1914〜63年)、イシュトヴァン・ケルテス(1929〜73年)そしてゲオルグ・ショルティやドホナーニとなる。彼らの多くはブダペストで生まれ、リスト音楽院に学び、アメリカのメジャー・オーケストラで活躍した<ハンガリアン・ファミリー>である(彼らこそが全米主要オケを鍛え上げた)。欧州で活動したフリッチャイ、ケルテスは残念ながら早世し、ふたりより年長のショルティはもっとも活動時期が長く、ハンガリアン・ファミリーの中心人物であった。また、シカゴ響にとっては、ライナー  [[ASIN:B00BT70J0Y Fritz Reiner - The Complete Chicago Symphony Recordings on RCA]]  とともにショルティは黄金期を築いてくれた恩人であった。本集はそうした記録としても得難い価値がある。

<収録情報>

◆第1グループ

【ベートーヴェン】

・交響曲全集

・ピアノ協奏曲全集/アシュケナージ(ピアノ)

・『ミサ・ソレムニス』

・歌劇『フィデリオ』(全曲)

・序曲集:『エグモント』序曲、序曲『コリオラン』、『レオノーレ』序曲第3番

【ブラームス】

・交響曲全集

・ハイドンの主題による変奏曲、大学祝典序曲、悲劇的序曲

・『ドイツ・レクィエム』

【ブルックナー】

・交響曲全集(0番を含む)

➡ [[ASIN:B000LZ54SM ブルックナー:交響曲第0番]] も参照

【マーラー】

・交響曲全集、大地の歌

・歌曲集『子供の不思議な角笛』から、さすらう若人の歌

➡ [[ASIN:B001CJJWK2 Symphony 7]] も参照

【チャイコフスキー】

・交響曲第4番~第6番『悲愴』

・ピアノ協奏曲第1番/シフ(ピアノ)

・組曲『くるみ割り人形』、組曲『白鳥の湖』

・序曲『1812年』、幻想序曲『ロメオとジュリエット』


◆第2グループ

【J.S.バッハ】

・『マタイ受難曲』(全曲)、ミサ曲ロ短調(全曲)

【ハイドン】

・オラトリオ:『天地創造』(全曲)、『メサイア』(全曲)、『四季』(全曲)

【ベルリオーズ】

・『ファウストの劫罰』(全曲)

・幻想交響曲

・序曲『宗教裁判官』

【ワーグナー】

・『ニュルンベルクのマイスタージンガー』(全曲)

・『さまよえるオランダ人』(全曲)

・ワーグナー:序曲と前奏曲集

➡ [[ASIN:B008H29YVY Wagner: The Operas]] も参照

【ヴェルディ】

・歌劇『オテロ』(全曲)

・『レクィエム』、聖歌四篇、合唱曲集

➡ 若き日の記録 [[ASIN:B003ASV3YG Der Operndirigent]] にも注目


◆第3グループ

【リスト】

・ファウスト交響曲

・交響詩『前奏曲』、メフィスト・ワルツ第1番、ハンガリー狂詩曲第2番

【バルトーク】

・『弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽』

・『管弦楽のための協奏曲』

・『中国の不思議な役人』組曲

・舞踏組曲、ディヴェルティメント、5つのハンガリーのスケッチ、ルーマニア民族舞曲

・ヴァイオリン協奏曲第1番/チョン・キョンファ(ヴァイオリン)

【コダーイ】

・組曲『ハーリ・ヤーノシュ』

【ドホナーニ】

・童謡主題による変奏曲

➡ 旧盤 [[ASIN:B004J4RQFK The Hungarian Masters]] も名演


◆第4グループ

【プロコフィエフ】

・『ロメオとジュリエット』抜粋

・交響曲第1番『古典交響曲』

【ストラヴィンスキー】

・交響曲、詩篇交響曲、3楽章の交響曲

・『春の祭典』、『ペトルーシュカ』、カルタ遊び

【ショスタコーヴィチ】

・交響曲:第8番、第10番、第13番『バビ・ヤール』、第15番

【シェーンベルク】

・管弦楽のための変奏曲Disc59-60

・歌劇『モーゼとアロン』全曲

【ベルク】

・ヴァイオリン協奏曲/チョン・キョンファ(ヴァイオリン)

【デル・トレディチ】

・最後のアリス/バーバラ・ヘンドリックス(ソプラノ)

【ティペット】

・交響曲第4番

・『ビザンティウム』

・チャールズ皇太子の誕生日のための組曲


◆第5グループ

【モーツァルト】

・交響曲:第38番『プラハ』、第39番

【メンデルスゾーン】

・交響曲:第3番『スコットランド』、第4番『イタリア』

【ドヴォルザーク】

・交響曲第9番『新世界より』

【ドビュッシー】

・牧神の午後への前奏曲、海、夜想曲

【ラヴェル】

・ボレロ、クープランの墓、ムソルグスキー/ラヴェル編:展覧会の絵

【R.シュトラウス】

・交響詩:ツァラトゥストラはかく語りき、ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯、ドン・ファン

➡ R.シュトラウスのオペラ [[ASIN:B00G4PV0H2 Strauss: Complete Operas]] でも多大の成果

<小品集>

・ロッシーニ:『セヴィリャの理髪師』序曲

・ウェーバー:『オベロン』序曲

・ムソルグスキー:『ホヴァンシチナ』前奏曲、(ショスタコーヴィチ編)死の歌と踊り

・ヴェイネル:『チョンゴルと悪魔』 Op.10~序奏とスケルツォ

・エルガー:エニグマ変奏曲、演奏会用序曲『コケイン』

・スーザ:星条旗よ永遠なれ

・スタッフォード・スミス:アメリカ国歌『星条旗』

・ダウンズ:がんばれ、シカゴ・ベアーズ

➡ ロシアもの [[ASIN:B00J3FKBIO The Russian Masters in Music]] でも若き日から頭角

※ウィリアム・マンによるショルティへのインタビューも収録。なお、上記には一部演目で重複があるが、あえて記載していない。

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