コンセルトヘボウに君臨したオランダの名匠、メンゲルベルク(Joseph Willem Mengelberg, 1871~1951年)は、1922~30年の間、自らオーディションして5つのオーケストラを統合再編しニューヨーク・フィルの首席指揮者を兼任した。その所縁オケのいまのシェフが、同じオランダ人、ズヴェーデン(Jaap van Zweden , 1960年~)である。
ハイティンクを別として、ベイヌム(Eduard van Beinum, 1901~59年)、オッテルロー(Willem van Otterloo,1907~78年)といった同国出身の指揮者(いずれもvanがつく)のエースで、その活躍が期待されたが、道半ばでの降板となるようだ。
ニューヨーク・フィルといえば、かのトスカニーニが目の中にいれても痛くないほどその才能を愛したといわれるカンテッリ(Guido Cantelli, 1920~56年)が不慮の事故で急逝、その「グィード・カンテッリ賞」をとってデビューしたのがリッカルド・ムーティ(Riccardo Muti, 1941年~)である。ニューヨーク・フィルはムーティのシェフ就任に一時、血道をあげていたとも伝えられたが、ムーティはあろうことか、ライバルのシカゴ交響楽団へ行ってしまった。“幻のイタリア人路線”にかわって、急遽ズヴェーデンに白羽の矢がたった印象である。ニューヨーク・フィルの凋落は、あまりにもバーンスタインが偉大であったことの長き反動でもある。さて、立て直しの文字通り立役者は誰になるのであろうか。
NML ナクソス・ミュージック・ライブラリー (naxos.jp)
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作曲家バーンスタインの作品全集(生誕100周年記念の全26枚組CDとDVD3枚セット)。以下では、「交響曲集」と「有名な主要作品」について若干コメントし、その他「自作自演集」についてはほぼ作曲年別に並べ、「本人以外の演奏」を最後に掲げた。ライヴ音源が多いこと、共演者が凄い!こと、晩年まで旺盛な作曲意欲をもっていたことなどが特色である。
<収録情報>
◆交響曲集
(第1番、第2番)
非常に敬虔なユダヤ教徒であった父の影響をうけて、バーンスタイン自身、ユダヤ教の教義には幼少から通じており、これは両曲の思想的、宗教的バックボーンになっている。音楽技法に現代的な装いはあるが、真摯で固い音楽の殻をもった作品である。
その一方、表題と歌詞(第1番)にそって鑑賞すれば、作品そのものの晦渋さは相当緩和されよう。第2番のエピローグのピアノソロの微音のあとの強奏のフィナーレの効果などは抜群である。優れた現代作曲家の若き才能を色濃く感じることだろう。
・第1番「エレミア」 Symphony No.1 for Orchestra and Mezzo-Soprano, "Jeremiah" (1.預言、2.冒とく、3.哀歌)(1942)
・第2番「不安の時代」 Symphony No.2 for Piano and Orchestra, "The Age of Anxiety"(第1部:プロローグ、7つの時代、7つの段階、第2部:挽歌、仮面舞踏会、エピローグ)(1949/1965年改訂版)
クリスタ・ルートヴィヒ(メッゾ・ソプラノ;第1番)、ルーカス・フォス(ピアノ:第2番)バーンスタイン/イスラエル・フィル(1977年、ベルリン・ライヴ)
(第3番)
カディッシュは「神聖なるもの」、ディン・ドーラは「(神からの)試練」といったユダヤ教からの言葉といわれる。全篇に英語でナレーション(バッハの受難曲でいえば、エヴァンゲリストEvangelistにあたろうか?)が入るが、その語るとことの意味は難解である。
音楽は面白い。マーラー的な詠嘆の響き、ショスタコーヴィチ的な強烈なリズム感、ときにヴォルフの歌曲のような深き不安感が交錯し、新ウィーン学派の無調性も顔をのぞかせる。しかし、全体としての明快性への配慮やジャズのノリの良さのブレンド、華麗な楽器の活用などでは、いかにもバーンスタイン流を貫いている。
すでにその兆しもあるが、今後20世紀後期音楽の古典の仲間入りをしてもおかしくない普遍性をそなえた曲といえよう。
・第3番「カディッシュ」 Symphony No.3 for Orchestra, Mixed Chorus, Boy's Choir, Speaker and Soprano Solo, "Kaddish" (1.祈り、カディッシュ[1]、2.ディン・トーラー、カディッシュ[2]、3.スケルツォ、カディッシュ[3]、フィナーレ)(1963/1977年改訂版)
マイケル・ウェイジャー(語り)、モンセラート・カバリエ(ソプラノ)、イスラエル・フィル(1977年、ベルリン・ライヴ)
◆有名な主要作品について
クラシック、ジャズ、ポップスといったジャンルを超える試みは、ショスタコーヴィチなどでも行われているが、バーンスタインの魅力は、大胆にして自由な発想(『ウェスト・サイド・ストーリー』)、全体を支配する天真爛漫な明るさ(『キャンディード』)、楽器の能力を極限までひきだす実験的手法の駆使といったところにあるように思う。
一方で、メロディは親しみやすく(『ファンシー・フリー』『オン・ザ・タウン』)、リズムは不敵な切れ味、そしてオーケストラの質量はときに爆発的になる快感もある。リスナーを自然体で楽しませる才能豊かな作品群である。
・ミュージカル『ウェスト・サイド・ストーリー』(1957)
キリ・テ・カナワ(ソプラノ)、タティアナ・トロヤノス(メッゾ・ソプラノ)、ホセ・カレーラス(テノール)、カート・オルマン(バリトン)、バーンスタイン編成オーケストラ(1984年、ニューヨーク)
~同組曲 エリック・クリーズ/フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル(1985年)
~同「シンフォニック・ダンス」(1960)2種
<1>バーンスタイン/ロサンゼルス・フィル(1982年、サンフランシスコ・ライヴ)
<2>マイケル・ティルソン・トーマス/ロンドン響(1993年、ロンドン)
・ミュージカル『キャンディード』(1989)
ジューン・アンダーソン(ソプラノ)、クリスタ・ルートヴィヒ(メッゾ・ソプラノ)、ジェリー・ハドリー、ニコライ・ゲッタ(テノール)、ロンドン響(1989年、ロンドン)
~同『キャンディード』序曲 フィードラー/ボストン・ポップス・オーケストラ(1971年)
・映画『波止場』からの交響的組曲(1955)
バーンスタイン/イスラエル・フィル(1981年、テルアヴィヴ・ライヴ)
・バレエ音楽『ファンシー・フリー』(1944)
Ruth Mense(ピアノ)、バーンスタイン/イスラエル・フィル(1979年、テルアヴィヴ・ライヴ)
・ミュージカル『オン・ザ・タウン』(1944)
~「3つのダンス・エピソード」
バーンスタイン/イスラエル・フィル(1981年ライヴ)(
・『ファンシー・フリー』―セレクション、
・『オン・ザ・タウン』―セレクション
ビリー・ホリデイ(ヴォーカル)、ベティ・コムデン、アドルフ・グリーン(ヴォーカル)バーンスタイン/バレエ劇場管弦楽団(1944~46年)
◆バーンスタインのよる自作自演集(作曲年別)
・フーガとリフ(1949)
ペーター・シュミードル(クラリネット)、ウィーン・フィル(1988年、ウィーン・ライヴ)
・セレナード(1954)
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)、イスラエル・フィル(1979年、テルアヴィヴ・ライヴ)
・『チチェスター詩篇』(1965)
ウィーン少年合唱団員、ウィーン・ジュネス合唱団、イスラエル・フィル(1977年、ベルリン・ライヴ)
・《ディバック》組曲:第1番、第2番(1974)
ポール・スペリー(テノール)、ブルース・ファイファー(バス・バリトン)、ニューヨーク・フィル(1975年、ニューヨーク)
・合唱曲『ソングフェスト』(1977)
クラマ・デール(ソプラノ)、ロザリンド・エリアス、ナンシー・ウィリアムズ、ニール・ローゼンシャイン(テノール)、ドナルド・グラム(バス)、ジョン・リアードン、ワシントン・ナショナル響(1977年、ワシントンD.C.)
・ハリル(1981)、『ミサ曲』より3つの瞑想曲(1977)、プレリュード
ジャン=ピエール・ランパル(フルート)、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ:プレリュード)、イスラエル・フィル(1981年、テルアヴィヴ・ライヴ)
・歌劇『静かな場所』(1984)
ビヴァリー・モーガン(ソプラノ)、チェスター・ラジン、ジョン・ブランドステッカー(バリトン)、ORF響(1986年、ウィーン・ライヴ)/
・管弦楽のための協奏曲(『ジュビリー・ゲームズ』)(1989)
ジョセ・エドゥアルド・チャマ(バリトン)、イスラエル・フィル(1989年、テルアヴィヴ)
◆その他(バーンスタイン以外の演奏)
・『ミサ』(歌い手、演奏家、ダンサーのための劇場用作品)(1971)
ヤニック・ネゼ=セガン/フィラデルフィア管(2015年、フィラデルフィア)
~交響組曲(1976)、フィードラー/ボストン・ポップス・オーケストラ(1971年、ボストン)
・『ホワイトハウス・カンタータ』
ジューン・アンダーソン、バーバラ・ヘンドリックス(ソプラノ)、Victor Acquah(ボーイソプラノ)、ケネス・ターヴァー、ニール・ジェンキンス(テノール)、キール・ワトソン(バス・バリトン)、トーマス・ハンプソン(バリトン)、ケント・ナガノ/ロンドン響(1998年、ロンドン)
・ミュージカル『オン・ザ・タウン』(1944)
タイン・デイリー、マリー・マクローリン、イヴリン・リアー(ソプラノ)、フレデリカ・フォン・シュターデ(メッゾ・ソプラノ)、サミュエル・レイミー(バス)、トーマス・ハンプソン、カート・オルマン(バリトン)、マイケル・ティルソン・トーマス/ロンドン響(1992年、ロンドン・ライヴ)
・『静かな場所』管弦楽組曲(1983/1984年改訂版)
トーマス・ロンドン響(1993年、ロンドン)
・アリアと舟歌(1988)
フレデリカ・フォン・シュターデ(2)(メッゾ・ソプラノ)、トーマス・ハンプソン(2)(バリトン)、トーマス/ロンドン響(1993年、ロンドン)
・ミュージカル『ワンダフル・タウン』(オリジナル・ブロードウェイ・プロダクション)(1953)
ロザリンド・ラッセル、エディス・アダムス、ジョージ・ゲインズ、ジョーダン・ベントレー、リーマン・エンゲル/オーケストラ(1953年、アメリカ)
・歌劇『タヒチ島の騒動』全曲(1951)
アーサー・ウィノグラッド/MGM管弦楽団
・CBS Music(1977)
マリン・オールソップ/サンパウロ響
・劇付随音楽『ピーター・パン』(1950)、 [ボーナス・トラック]劇『危機を逃れて』のための付随音楽「Spring Will Come Again」
リンダ・エダー、ダニエル・ナーダッチ、マイケル・ショーン・ルイス、アレクサンダー・フライ/Amber Chamber Orchestra(2005年、プラハ)
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・「ピアノ音楽」集( 1) ノン・トロッポ・プレスト(1937)、2) 2台のピアノのための音楽(1937)、3) ピアノ・ソナタ(1938)、4) 踊りのための音楽第2番(1938)、5) コープランド:エル・サロン・メヒコ(1941)、6) 7つのアニヴァーサリー(1943)、7) 4つのアニヴァーサリー(1948)、8) Four Sabras(1950)、9) 5つのアニヴァーサリー(1951)、11) ブライダル組曲(1960)、12) Touches(1981)、3) 13のアニヴァーサリー(1988))
ケイティ・マハン(1,3,4,6-9,12,13/2017年、ベルリン)、滑川真希&デニス・ラッセル・デイヴィス(2/2008年、リンツ)、アンドリュー・クーパーストック(5,11)(ピアノ)
・「室内音楽/ブラス&ウィンド・アンサンブルのための音楽]集( 1) ピアノ三重奏曲(1937)、
2) ヴァイオリン・ソナタ(1940)、3) クラリネット・ソナタ(1942)、4) ブラス・ミュージック(1948)、5) ジョン・F.ケネディ大統領就任のためのファンファーレ(1961)、6) ニューヨークシティ音楽・芸術高校25周年のためのファンファーレ(1961)、7) シヴァリー・ファンファーレ(1969)、8) ダンス組曲(1989)、9) 八音音階による変奏曲(1989))
・「声楽曲と合唱音楽」集( 1) 我らを休ませたまえ(1945)、2) Simchu-Na(1947)、3) Reenah(1947)、4) Yigdal(1950)、5) ひばり(1955)、6) Warm-Up(1970)、7) オリンピック讃歌(1981)、8) ミサ・ブレヴィス(1988)、9) 詩篇第148番(1935)、10) 私は音楽が大嫌い!(1943)、11) Afterthought(1945)、12) おいしい料理(1947)、13) 2つの愛の歌(1949)、
14) シルエット(1951)、15) とってもきれい(1968)、16) 『セントラルパークウェストの狂った女性』からの歌(1979)、17) ピッコラ・セレナータ(1979))
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《DVD 1》
ドキュメンタリー『音楽の贈り物』―レナード・バーンスタインの素顔(1993年)
《DVD 2》
『キャンディード』(1989)
ジューン・アンダーソン(ソプラノ)、クリスタ・ルートヴィヒ(メッゾ・ソプラノ)、ジェリー・ハドリー(テノール)、ニコライ・ゲッタ、デッラ・ジョーンズ、カート・オルマン(バリトン)、バーンスタイン/ロンドン響&合唱団(1989年、ロンドン)
《DVD 3》
『ウェスト・サイド・ストーリー』メイキング(1984年、ニューヨーク)
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