ミュンシュはフルトヴェングラーに師事し、その指揮法もよく研究していた。一方、彼は練習嫌いではクナパーツブッシュと共通し、ライヴ演奏の即興性こそを大切にしていたという。また、クナパーツブッシュとの共通点では、全集づくりへの拘りが全くないことも挙げられるのではないか。ほかのアメリカ・メジャーオケのシェフはさまざまな全集を残したのに、ミュンシュはなぜ?といった疑問は残る。特に主力演目のベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキー(後期3曲集)はそうだ。以下、ボストン響との正規録音記録から拾ってみると・・・
❶👉豪放なれど見事なバランス感覚 (amazon.co.jp)
ベートーヴェンでは、偶数番号の第2、4番の正規録音がないようだ(なお、ライヴでは第2、4番の録音はある。Amazon | シャルル・ミュンシュ指揮 ベートーヴェン:交響曲全集 | シャルル・ミュンシュ, ベートーヴェン, シャルル・ミュンシュ指揮 | 交響曲・管弦楽曲・協奏曲 | ミュージック)。
ミュンシュのベートーヴェンでは、第9番『合唱』はつとに有名で全曲約62分、LP時代“最も速い第9”の一つ*として高い評価を得ていた。これは敬慕するフルトヴェングラーとは“真逆”のスタイルで興味深い。
<ベートーヴェン:交響曲の主要録音>
・交響曲第1番(1950年12月27日)
・交響曲第3番「英雄」(1957年12月2日)
・交響曲第5番「運命」(1955年5月2日)
・交響曲第6番「田園」(1955年8月16日)
・交響曲第7番(1949年12月19日)
・交響曲第8番(1958年11月30日)
・交響曲第9番「合唱」(1958年12月21-22日)
ブラームスではあれだけ第1番を熱心に取り上げ、第4番も2回収録しているにもかかわらず、第3番がなぜか見当たらない(*第1番は43回、交響曲第2番は62回、そして第4番は56回もの演奏記録があるようだ)。
<ブラームス:交響曲の主要録音>
・交響曲第1番(1956年11月19日)
・交響曲第2番(1955年12月5日)
・交響曲第4番(1950年4月10-11日)(1958年10月27日)
チャイコフスキーも得意の演目ながら、第5番は知られていない。
<チャイコフスキー:交響曲の主要録音>
・交響曲第4番(1955年11月7日)
・交響曲第6番「悲愴」(1962年3月12日)
厳密な記録から見ているわけではないので、ほかにもライヴ音源など漏れが多々あるかも知れない。例えばモーツァルト。交響曲はメイン・レーベルでの正規録音は知られていないが、ほかに以下の記録がある。
<モーツァルト:交響曲の主要録音>
・交響曲第31番「パリ」(1954年4月2日)
・交響曲第35番「ハフナー」(1962年7月22日)
・交響曲第36番「リンツ」(1962年7月21日)
・交響曲第39番(1955年4月9日)
・交響曲第40番(1959年7月11日)
・交響曲第41番「ジュピター」(1962年7月21日)
・レクイエム(1962年7月22日)
シャルル・ミュンシュ/Mozart: Symphony No.31, No.35, No.36, No.39, No.40, No.41, Requiem (tower.jp)
概ねの傾向として、ドイツものでは、ほかにもシューベルトやメンデルスゾーンなど好みの演目は積極的に取り上げる一方、全集や選集を作ろうといった意欲は感じられない。
カルロス・クライバーは少ないレパートリーにさらに磨きをかけ「十八番」の演目で勝負したが、ミュンシュにはそうした“あざとさ”はない。また、レパートリーは現代音楽をふくめ実に豊富である。以下では、座右の25CDのフランスものから見ておこう。
Un Siècle de Musique Française フランス音楽の一世紀(25CD)
<以下は引用>
ベルリオーズ作品集
【Disc1-2】
● 幻想交響曲 Op.14
❾👉ミュンシュ/ボストン響 定評あるベルリオーズ (amazon.co.jp)
→ミュンシュの幻想交響曲 Charles Munch Symphonie fantastique
● 劇的交響曲『ロメオとジュリエット』 Op.17
ロザリンド・エリアス(メゾ・ソプラノ)(Op.17)
チェーザレ・ヴァレッティ(テノール)(Op.17)
ジョルジョ・トッツィ(バス)(Op.17)
ニュー・イングランド音楽院合唱団(Op.17)
ボストン交響楽団
シャルル・ミュンシュ(指揮)
録音:1962年、1961年
『幻想交響曲』は、ボストン交響楽団の音楽監督だったミュンシュによる在任中最後のセッション録音。ミュンシュの幻想交響曲はこれが3回目の録音でした。持ち前の勢いと迫力にスケールの大きさも加わった見事な演奏です。
『ロメオとジュリエット』はミュンシュ2度目の録音で唯一のステレオ録音でもあります。第1楽章冒頭の喧嘩のシーンでの勢いの良い描写、続く公爵の仲裁でのトロンボーンとチューバによるパッセージの力強さ、第2楽章の「キャピュレット家の饗宴」でのすさまじい盛り上がりぶりなど、ミュンシュならではの大迫力。ワーグナーも絶賛した名旋律「愛の情景」でも、すっきりとたちあがる官能美が独特の魅力を放っています。
サン=サーンス作品集
【Disc4】
● 交響曲第3番ハ短調Op.78『オルガン付き』
ボストン交響楽団
シャルル・ミュンシュ(指揮)
録音:1959年
ベルイ・ザムコヒアン(オルガン)
ボストン交響楽団
シャルル・ミュンシュ(指揮)
録音:1960年
レコード・アカデミー賞を受賞した名盤「プーランク:室内楽曲全集」からの5曲に加えて、ルサージュとブラレイの共演による2台ピアノ協奏曲、ミュンシュの歴史的名演も。
【Disc22】
● ミヨー:バレエ音楽『世界の創造』
● ミヨー:プロヴァンス組曲
録音:1961年、1960年
● ダンディ:フランスの山人の歌による交響曲
録音:1958年
● イベール:交響組曲『寄港地』
録音:1956年
ニコール・アンリオ=シュヴァイツァー(ピアノ:ダンディ)
ボストン交響楽団
シャルル・ミュンシュ(指揮)
→名盤探訪 ミュンシュ 牧神の午後への前奏曲、海 ~ドビュッシー : 管弦楽名曲集
La Mer Amazon | ラヴェル:管弦楽曲集(期間生産限定盤) | シャルル・ミュンシュ | 交響曲・管弦楽曲・協奏曲 | ミュージック
【Disc23】
● オネゲル:交響曲第2番
● オネゲル:交響曲第5番『3つのレ』
録音:1953年、1952年
● ルーセル:バレエ音楽『バッカスとアリアーヌ』第2組曲
録音:1952年
ボストン交響楽団
シャルル・ミュンシュ(指揮)
→名盤探訪 ミュンシュ オネゲル:交響曲第2番&第5番「3つのレ」、ルーセル:バッカスとアリアーヌ第2番
【Disc25】
● サン=サーンス:交響詩『オンファールの糸車』
シャルル・ミュンシュ(指揮)
録音:1957年
ミュンシュ&ボストンの名演によるサン=サーンス、ミヨー、ダンディ、イベール、オネゲル、ルーセルの交響曲・管弦楽曲のほか、ケクラン「7人のスターのための交響曲」、フーラン・シュミットの「サランボー」という珍曲を収録。サン=サーンスのカンタータ「夜」ではナタリー・デセイが登場。
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ミュンシュは楽員との人間的なコミュニケーションをなによりも大切にし、ライナー、ショルティ、セルといったオーケストラに君臨する支配者型ではなかった。楽員から敬愛されていた。その日頃の関係性からも、練習は最小限度(いつもはやく切り上げる)、そしてライヴこそ大事といった姿勢が一貫していたようだ。さらに、当人は裕福であったので先のクライバーのようにあくせくする必要もなかった。ゆえに、録音もレコード会社の方針でいいよ、といった鷹揚さだったのかもしれない。
⑭👉 ミュンシュ 苦闘の4年間<1941~44年>の記録も収録
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