「異端」の巨匠、ストコフスキー Leopold Stokowski-the Columbia Stereo の跡目を継いで、フィラデルフィア管弦楽団の首席指揮者・音楽監督を1938〜1980年の永きにわたって努めたオーマンディは、その主要な活動時期がカラヤン、バーンスタインの2大スターと重なり、かつアメリカでもミュンシュ、ライナー、セルらの強力なライヴァルの存在もあって埋没しがちであったが、その驚異的なレパートリーの広さと楽団の彫琢した美音とともに「異能」の名匠であった。
小生はかつて ベートーヴェン:交響曲第5番・第6番 を聴いてえも言われぬ感動を覚えたが、改めて下記の【協奏曲等】のラインナップをみて、アイザック・スターンからヨーヨー・マまでの豪華・多彩な共演による名演だけでも本集は十分に元がとれる。
さらに、【交響曲、管弦楽曲】を並べてみると(➡で演奏評)、選曲の妙もあってこの名匠の優れた足跡を追体験するには心憎い選集であることがわかる。この価格なら文句なくライヴラリーに加えたい。
【協奏曲等】
◇プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番/スターン(1963年)
➡ オーマンディ・コンダクツ・プロコフィエフ
◇ロドリーゴ:アランフェス協奏曲/ジョン・ウィリアムズ(1965年)
◇ガーシュイン:ラプソディー・イン・ブルー/アントルモン(1967年)
➡ ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー、グローフェ:グランド・キャニオン&バーバーのアダージョ
◇ファリャ:スペインの夏の夜/ルービンシュタイン(1971年)
◇ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番/アシュケナージ(1975年)、同:パガニーニの主題による狂詩曲/クライバーン(1970年)
◇ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番/ヨーヨー・マ(1982年)
【交響曲、管弦楽曲】
・ストラヴィンスキー:『春の祭典』(1955年)、『ペトルーシュカ』組曲(1964年)
➡ Stravinsky: Le Sacre Du Printemps
・プロコフィエフ:交響曲第1番『古典交響曲』(1961年)
➡ オーマンディ・コンダクツ・プロコフィエフ
・ラヴェル:『ダフニスとクロエ』第2組曲(1971年)、スペイン狂詩曲(1963年)、ボレロ(1973年)
・ドビュッシー:交響詩『海』(1972年)
➡ ボレロ〜ラヴェル&ドビュッシー..
・ハチャトゥリアン:剣の舞、バラの娘たちの踊り(1964、1966年)
・カバレフスキー:道化師のギャロップ(1972年)
➡ はげ山の一夜~ロシア管弦楽曲名演集
・ブリテン:青少年のための管弦楽入門(1974年)
➡ コープランド:アパラチアの春&「ビリー・ザ・キッド」組曲
・ホルスト:組曲『惑星』(1975年)
➡ Holst: the Planets
・ショスタコーヴィチ:交響曲第5番(1975年)
➡ Shostakovich: Symphony No.5, Age of Gold - Polka, Prokofiev: The Love for Three Oranges
・バーバー:弦楽のためのアダージョ(1957年)
➡ ザ・ロマンティック・フィラデルフィア・ストリングス
・ムソルグスキー/ラヴェル編:組曲『展覧会の絵』(1973年)
➡ 展覧会の絵&ボレロ~ラヴェル名演集
・バルトーク:管弦楽のための協奏曲(1979年)
・コダーイ:『ハーリ・ヤーノシュ』組曲(1975年)
➡ バルトーク&コダーイ名演集
・オルフ:カルミナ・ブラーナ(1960年)
➡ オルフ:カルミナ・ブラーナ&カトゥーリ・カルミナ
・スクリャービン:交響曲第4番『法悦の詩』(1971年)
➡ ラフマニノフ:交響曲第2番、合唱曲「鐘」&スクリャービン:法悦の詩、プロメテウス
・マーラー:『大地の歌』/リチャード・ルイス(1966年)
➡ マーラー:大地の歌&交響曲第10番(クック版)
・エネスコ:ルーマニア狂詩曲第1番イ長調(1972年)
・アルヴェーン:スウェーデン狂詩曲第1番『夏至の徹夜祭』 (1968年)
➡ リスト:ハンガリー狂詩曲第1番・第2番&エネスコ:ルーマニア狂詩曲第1番・第2番他
・アイヴズ:交響曲第2番(1973年)、ニュー・イングランドの3つの場所(1974年)
➡ アイヴズ:交響曲「アメリカの祭日」&ニュー・イングランドの3つの場所
・R.シュトラウス:『ばらの騎士』組曲(1964年)
➡ R.シュトラウス:英雄の生涯、町人貴族&「ばらの騎士」組曲 他
・シベリウス:悲しきワルツ(1973年)、『フィンランディア』 (1968年)
➡ オーマンディ・コンダクツ・シベリウス
・コープランド:アパラチアの春(1969年)
➡ コープランド:アパラチアの春&「ビリー・ザ・キッド」組曲
・エルガー:行進曲『威風堂々』第1番(1963年)
➡ マーチの祭典
・ヒンデミット:交響曲『画家マティス』(1962年)
・ヴェーベルン:管弦楽のための牧歌『夏風の中で』(1963年)
・リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲(1965年)
➡ オーマンディには初期の作品集 Eugene Ormandy Conducts Various Composers もありますが、フィラデルフィア・サウンドの肌理細やかさを味わううえでは録音の良い本集から手にとるのが良いと思います。
👉 20世紀オーケストラ作品集 オーマンディ&フィラデルフィア管弦楽団 Eugene Ormandy Conducts 20th Century Classics
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ムーティ/フィラデルフィア管による1989年の録音。とても充実した、そして流麗感ある立派な演奏である。聴いていて、この演奏スタイルは、 ブラームス:交響曲第1番、悲劇的序曲 に似ていると感じた。このカラヤン/ウィーン・フィルのブラームス演奏の「源流」は、そのテンポ設定、切れ味の良さなどで、実はトスカニーニ/NBC響 ブラームス:交響曲全集 にあるのではないかとかねてより思っているが、そうするとムーティの演奏には、結果的に同じイタリア出身でアメリカ楽壇の最高権威でもあった大指揮者の伝統が脈々といきているのかも知れない。
それにしても第2、第3楽章のフィラデルフィア管の響きの美しさは格別。弦楽器にはしっとりとした潤いがあり、管楽器にはスキルフルでかつ輝かしさがある。そして第4楽章は心地良い疾駆感とともに締めくくられる。オーマンディが自身の後任にムーティに白羽の矢を立てたのがわかる気がする。併録の「ハイドン変奏曲」は落ち着いた好演。
➡ THE ART OF RICCARDO MUTI にて聴取。
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現在の常任は、ヤニック・ネゼ=セガン(Yannick Nézet-Séguin、1975年~)
以下も参照(ただし、お相手はフィラデルフィア管弦楽団ではありませんが・・・)
セガン、8と4がキーナンバーか? ロッテルダム・フィルとの意欲的な曲集
ヤニック・ネゼ=セガン/ロッテルダム・フィルの意欲的CD集。2016年収録の最新盤が多いが、面白いのは何かの“ゲン担ぎ”か、ベートーヴェン、ドヴォルザーク、ブルックナーのいずれも第8番を取り上げ、ではマーラーも…と思うと、こちらは渋い第10番で勝負。さらに、ショスタコーヴィチは第4番、ハイドンは第44番となにかと数字の符丁を意識させる。管弦楽曲も“ひとひねり”した選曲で、協奏曲は唯一、タネジのピアノ協奏曲(世界初演)というラインナップ。
ロッテルダム・フィルは、正直なところいままで馴染みがなかったが、ゲルギエフのショスタコーヴィチを聴いて以来、あまりクセのない落ち着いた響きに好感をもっている。何と言っても同国にはコンセルトヘボウという超一級オケが君臨しているので、影が薄いが手堅い演奏で、ゲルギエフ、セガンの首席時代を迎えて黄金期を築きつつあるのかも知れない。
以下ではブルックナーについて。セガンはすでに手兵モントリオール・メトロポリタン管とで交響曲全集も完成させている。同団との第8番収録は2009年なので本録音までに7年の年月がたっている。対するロッテルダム・フィルは、かつてジェフリー・テイトの第9番の佳演もあり、低弦のアンサンブルが心地よく、南ドイツのオケの薄墨を引いたような響きである。
本盤では1939年ハース版を使用。セガンはテンポをゆったりととり、構えが大きく冷静な演奏。オーソドックスな解釈で奇をてらったところがなく、ふとヴァントの演奏を連想させる。
第3楽章の充実ぶりに注目。ブルックナーの音楽の複雑な“構造線”を透視しているような緻密な演奏であり、一音一音が正確に浮かび上がってくる。終楽章もメロディの美しさが映え、ダイナミズムよりもこちらに力点が置かれている。よって、エキサイティングな興奮を求める向きには物足りないかも知れない。しかし、テンポをあまり揺らさず抑制のきいた、この節度あるブルックナー解釈に小生は好感をもつ。“この人、本当にブルックナーを敬慕しているんだろうな”といった暗黙のシンパシーを感じさせる良き演奏である。
<収録情報>(録音時点)
・ハイドン:交響曲第44番『悲しみ』(2012年11月)
・ベートーヴェン:交響曲第8番(2016年12月)
・ドヴォルザーク:交響曲第8番(2016年12月)
・ブルックナー:交響曲第8番(2016年2月)
・マーラー:交響曲第10番(2016年4月)
・ショスタコーヴィチ:交響曲第4番(2016年12月)
・チャイコフスキー:フランチェスカ・ダ・リミニ(2015年11月)
・ドビュッシー:夜想曲、コレギウム・ヴォカーレ・ゲント合唱団(2014年12月)
・バルトーク:管弦楽のための協奏曲(2011年6月)
・タネジ:ピアノ協奏曲、マルカンドレ・アムラン(P)(2013年10月)
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