ラトルはマーラーに心酔して指揮者になったと本人が話している。
◇ラトル
ラトルのマーラー第3番、色調の明るさと楽器の使い方の上手さに特色 (amazon.co.jp)
第3番の第1楽章をたとえばシノーポリで聴くと、底知れぬ虚無的な世界へ引き込まれるような不安にたじろぐ。しかし、ラトルの演奏は、そうした深い霧の合間を駆け抜けて、おもちゃの兵隊が行進しているような風景を連想させる。
その違いは色調の明るさと楽器の使い方か。遠近に配したさまざまな楽器(特に打楽器と木管楽器)が、ときに軽妙な、滑稽な、奇態な音をこれでもかと繰り出してくる。その音のパノラマを愉しんでいるうちに次第に「暗さ」の感覚が麻痺してくる気がする。むしろ浮き浮きした感情が芽生えてくる。
こうしたアプローチはその後も、起伏をうまく作りながら後半に展開し、第5楽章の微笑みを誘う児童合唱、アルトの掛け合いに素直に連続する。終楽章も十分に盛り上げ、演奏の難しい本曲を飽きさせず、一定の安定感をもって結んでいる。
➡ Mahler: the Complete Symphonie も参照
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ここでは、マーラーを歌っては並ぶ者なきといわれたフェリアーに注目して・・・
◇ボールト
フェリアーのマーラー、深き響きの詠唱 (amazon.co.jp)
Gustav Mahler: The Symphonies, Das Lied von Der Erde(The Song of The Earth) のなかから、第3番ボールトの1947年ライヴ盤を聴く。
古い録音で集音状況が悪く、残念ながらこの演奏そのものの醍醐味をしるところまではいかないが、第4楽章の比較的クリアに聴くことができるキャスリーン・フェリアーの詠唱には改めて感心した。
声帯が非常にすぐれていたのだろう。重からず軽からず、陰影ある、厚みをもった深い響きの独唱である。
特に、「世界は深い」(Die Welt ist tief!)、「(その)深さは苦悩である」(Tief ist ihr Weh!)、「苦悩は言った『滅びよ』と」(Weh spricht: Vergeh!)と韻をふむ掛詞が連続するような有名な下りの説得力は一度聴いたら忘れられないくらい強い印象。これは、 Various: Klemperer Live in Con に所収されている「亡き子をしのぶ歌」も同様である。
なお、前掲( Gustav Mahler: The Symphonies, Das Lied von Der Erde(The Song of The Earth) )のクレンペラーの第2番 Mahler/ Symphony No.2 もフェリアーの代表盤だが、この2曲はいずれも1951年7月12日、マーラー没後40周年記念コンサート、アムステルダム・ライヴで収録されたものである。
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ホーレンシュタインも良き演奏を残している。
◇ホーレンシュタイン
ホーレンシュタインのマーラー第3番、<中道>をいく独特の安定感 (amazon.co.jp)
GUSTAV MAHLER EDITION のなかから、第3番ホーレンシュタインの1961年ライヴ盤を聴く。
第3番は難しい曲だと思う。劇的な迫力に富む第2番とマーラーには珍しく明るさが支配しかつ美々しき第4番の「谷間」にあって、部分的にはどちらの性格もあるものの、やや分裂症的な作品。それでいて、全6楽章には「物語性」が付与されているのだが、それが個人的にはどうもしっくりとこない。しかも、長大曲のわりに全体に抑揚が弱く、集中力の持続が難しい。
そうした中にあって、ホーレンシュタインは本曲を得意としていた。はじめ聴いて地味な印象をもった。しかし、再度聴いて、たとえば、斧を突き立てるようなクレンペラーの第2番 Mahler/ Symphony No.2 とも、マーラーの陰影を一切排除し美的作品に仕立て直したようなライナーの第4番 Mahler: Symphonie Nr. 4 / Das Lied Von Der Erde とも違い、そのちょうど<中道>をいくようなホーレンシュタインの演奏は安心して聴けると思った。
過度に劇的でもなく、思い切り美々しくもないが独特の安定感があり、それが全楽章に自然の流れを引き寄せて、第5楽章の少年合唱にしっくりと連続させ、さらに終楽章の大団円へ導く。丹念に細部を浮かび上がらせる技量は、マーラー音楽への深き信認ゆえ、それがリスナーに伝わり好感をもって聴くことができ飽きさせない。こうしたアプローチは第3番に相応しいもののひとつと感じた。
<収録情報>
交響曲第3番 ニ短調
Symphony No. 3 in D Minor
作詞 : 伝承 - Traditional
作詞 : フリードリヒ・ニーチェ - Friedrich Nietzsche
ヘレン・ワッツ - Helen Watts (コントラルト)
デニス・イーガン - Dennis Egan (ポストホルン)
デニス・ウィック - Denis Wick (トロンボーン)
ハイゲート・スクール合唱団 - Highgate School Choir
オーピントン・ジュニア・シンガーズ - Orpington Junior Singers
ロンドン交響合唱団 - London Symphony Chorus
ロンドン交響楽団 - London Symphony Orchestra
ヤッシャ・ホーレンシュタイン - Jascha Horenstein (指揮)
録音: 16 November 1961, London, United Kingdom
◇アバド
アバド 美し哉マーラー、楽しき哉マーラー (amazon.co.jp)
滔々と流れる美音。機能主義的なドイツの優秀さを誇示するかの如く、ベルリン・フィルの妙技は、分厚い低弦から微細なニュアンスをあますところなく表現する木管まで、どのパートでもこれでもかというくらい見事。ライヴとはとても思えないノーミスの完成度。
アバドらしく柔らかく、抱擁的でかつ神経細やかな目配りがゆきとどいており、彼の得意の演目であったことがわかる。あえて言えば、ここにはマーラーの複雑な心情の襞には入り込まず、音の美しさ、音楽の楽しさ、オーケストレーションの秀抜さのみを掬い上げているような感もあるが、それもここまで徹底されれば至芸というべきだろう。好悪はあるだろうが、美し哉マーラー、楽しき哉マーラーという向きには格好の演奏だろう。
・交響曲第3番ニ短調
アンナ・ラーション(アルト)
ロンドン交響合唱団
バーミンガム市立少年合唱団
アバド/ベルリン・フィル
1999年10月、ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール(ライヴ)
→ People's Edition にて聴取
◇バルビローリ
ジョン・バルビローリ/マーラー: 交響曲第3番、バルビローリ: 「エリザベス朝の組曲」 (tower.jp)
織工Ⅲ: マーラー 交響曲第3番 (shokkou3.blogspot.com)
👉 織工Ⅲ: 名盤5点 シリーズ (shokkou3.blogspot.com)
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