いままで聴いてきたマーラーの交響曲について、第1番から順に”名盤探訪”として下記に掲げた。古い音源が中心ながら、なるべく多様性をもたせるようにしたつもりである。一方、マーラーでは指揮者別のBOXセットのほうが、はるかにお得に入手できる可能性がある。そうした意味でも、以下、各番でもコメントしたマーラー演奏の泰斗の「選集」について、いくつかピックアップしておこう。インデックスがわりにご覧いただきたい。
ワルターの歴史的な成果であり畏敬をもって聴くべき遺産。以下では録音は良くないものもあるが、他の音源との若干の比較を。
本集のニ種類の『巨人』はワルターの代表盤だが、1950年ミュンヘン盤 Symphony B Minor D / Symphony 1 in D Major にはライヴならではの迫力がある。本集『復活』も熱演ながら、これは同じ弟子筋のクレンペラーの1950年アムステルダム盤 Mahler/ Symphony No.2 が取り上げも早く裂帛の気迫では勝っている。
第4番では Mahler/Mozart: Symphony No 4/S もあるが、本盤 Symphony 4 / Lieder & Gesange が本命。第5番 マーラー:交響曲第5番 も唯一の貴重な成果。
なお、第9番 マーラー:交響曲第9番 および『大地の歌』 Mahler: Das Lied von der Erde / Bruno Walter は極めて古い録音ながらもワルターファンなら比較のうえでも聴いておきたい。
【収録情報】
・交響曲第1番ニ長調『巨人』ニューヨーク・フィル(1954年M)
・交響曲第1番ニ長調『巨人』コロンビア響(1961年S)
・交響曲第2番ハ短調『復活』エミリア・クンダリ(S)、モーリーン・フォーレスター(A)、ウェストミンスター合唱団、ニューヨーク・フィル(1957&58年S)
・交響曲第4番ト長調:デジ・ハルバン(S)、ニューヨーク・フィル(1945年M)
・交響曲第5番嬰ハ短調:ニューヨーク・フィル(1947年M)
・交響曲第9番ニ長調:コロンビア響(1961年S)
・『大地の歌』ミルドレッド・ミラー(Ms)、エルンスト・ヘフリガー(T)、ニューヨーク・フィル(1960年S)
・『若き日の歌』から 思い出、別離と忌避、再び相まみえずに、私は緑の森を楽しく歩いた、夏に小鳥はかわり、ハンスとグレーテ、春の朝(たくましい想像力) デジ・ハルバン(S)、ニューヨーク・フィル(1947年M)
・歌曲集『さすらう若人の歌』ミルドレッド・ミラー(Ms) コロンビア響(1960年S)
Sはステレオ、Mはモノラル
➡ The Original Jacket Collection:Bruno Walter Conducts Famous Mahler & Bruckner も参照
★☆★☆★☆★☆
Mahler: Symphonies 2, 4, 7 & 9 / Das Lied von der Erde
クレンペラー、リスナーに一切媚びない自己完結型のマーラー解釈
クレンペラーは同じマーラーの直弟子ながら、ワルターの演奏は評価しておらず、“われこそが正当なるマーラー使徒”と自任していたようだ。後世のリスナーからすれば、一般にワルターに軍配を上げたくなる記録が多いながら、第9番、第2番に関しては、クレンペラーも非常な名演であることに変わりはない。リスナーに一切媚びない自己完結型のマーラー解釈には、忍耐もいるし第7番など強い疑問符もつくが、とにかくここまで自信をもって表現できるのは大家の証だろう。
また、個人的な趣味からは、第2番、第4番のシュヴァルツコップの深い詠唱には心底、感心する。同様に『大地の歌』および歌曲集のルートヴィヒは、先輩シュヴァルツコップを強く意識しつつも、その説得力もたいしたもの。
いまは、さまざまなマーラー全集や選集が、いくらでも廉価入手可能なので、小生の独断ながら、まずはバーンスタイン、テンシュテットのあとに、このクレンペラーや初期のワルターの録音を手にとるのが良いのではないかと思う。
<収録情報>
【交響曲】
・第2番『復活』、シュヴァルツコップ、ヒルデ・レッセル=マイダン(1961年11月、1962年3月)
・第4番、シュヴァルツコップ(1961年4月)
・第7番『夜の歌』(1968年9月)
・第9番(1967年2月)
・『大地の歌』、ルートヴィヒ、フリッツ・ヴンダーリヒ(1964年、1966年)
【歌曲集】
・『リュッケルト歌曲集』~「私はこの世に忘れられ」
・『リュッケルト歌曲集』~「真夜中に」
・『子供の不思議な角笛』~「浮き世の暮らし」
・『リュッケルト歌曲集』~「私は快い香りを吸いこんだ」
・『子供の不思議な角笛』~「トランペットが美しく鳴り響くところ」
クリスタ・ルートヴィヒ(1964年2月)
★☆★☆★☆★☆
(ジャケットは別です)
GUSTAV MAHLER EDITION にて第3番の1961年ライヴ盤 Symphony No. 3 を知って、セッション録音を聴きたくて購入した。9年の懸隔はあっても、演奏の基本はライヴ盤といささかも変わらないが、より精緻な組み立てと音質の向上では確かに本盤が聴きやすいだろう。
第1番も冷静で落ち着いた演奏である。ホーレンシュタインのマーラーは「逆光」のなかで対象物の輪郭がより大きく輝いて見えるような感じ。しかし、一方でその姿をできるだけ緻密に、正確に描写しようとする。また、対象物が動くと太陽光が観賞者をあたかも直射するような瞬間的な迫力がある。これは第6番のライヴではより顕著である。ただし、ストックホルム・フィルは熱演しているが本曲ではやや音質が軽いようにも思う。
一方、ブラームスの第2番(ライヴ)は、シューリヒトを連想した。録音ゆえか枯淡に近い色彩感ながら、演奏は上質で手練れの技を感じさせる。他にR.シュトラウス、ヒンデミットも収録。
<収録情報>
【マーラー】
・交響曲第1番ニ長調 ロンドン響
Recording: 29th and 30th September 1969, Barking Assembly Hall, London
→ Mahler: Symphony No. 1 "Titan"
・交響曲第3番ニ短調 ロンドン響、ワンズワース・スクール少年合唱団、アンブロジアン・シンガーズ
Recording: 27th-29th July 1970, Fairfield Halls, Croydon
・交響曲第6番イ短調 ストックホルム・フィル(ライヴ)
Recording: 15th & 17th April 1966, Stockholm Concert Hall
→ Mahler;Symphony No.6
【ブラームス】
・交響曲第2番ニ長調 デンマーク放送響(ライヴ)
Recording: 16th March 1972, Denmark Radio Concert Hall in Copenhagen
→ Brahms:Sym.2
【R.シュトラウス】
・交響詩『死と変容』 ロンドン響
Recording: 29th July 1970, Fairfield Halls, Croydon
【ヒンデミット】
・交響詩『画家マティス』 ロンドン響
Recording: ) 19th May 1972, Walthamstow Town Hall, London
★☆★☆★☆★☆
交響曲の指揮者布陣は、第1番:ジュリーニ、第2番および大地の歌:クレンペラー、第3、7、10番;ラトル、第4番:ホーレンシュタイン、第5、8番:テンシュテット、第6、9番:バルビローリ、花の章:ヤルヴィである。
まずラトルについては、廉価盤全集 Mahler: the Complete Symphonie もあり聴きもの。ほかの指揮者もマーラーの第一人者揃いで、録音は一部は古いが、内容は申し分ない。
とりわけ、クレンペラー盤 マーラー:交響曲第2番 復活 は名盤の誉れが高いものである。
本集のもう一つのメリットは歌曲集である。歌曲⇋交響曲へのイメージの展開と旋律の共通性は、マーラー音楽の特色だが、双方を年代別に入れ子状に聴くことで理解を深めることができる。さらに、ボーナス・トラックスの「1点、聴き比べ」という趣向も隠し味として面白い。
<収録情報>
【交響曲等】
・第1番「巨人」ジュリーニ/シカゴ響(1971年3月30日)
・第2番「復活」シュヴァルツコップ(ソプラノ)、ヒルデ・レッスル=マイダン(メゾ・ソプラノ)フィルハーモニア合唱団、クレンペラー/フィルハーモニア管(1961年11月22-24日、1962年3月15、24日)
・第3番 ビルギット・レンメルト(コントラルト)、バーミンガム市交響ユース合唱団、バーミンガム市交響女性合唱団、ラトル/バーミンガム市響(1997年10月5-7日)
・第4番 マーガレット・プライス(ソプラノ)、ホーレンシュタイン/ロンドン・フィル(1970年11月23&24日)
・第5番 テンシュテット/ロンドン・フィル(1988年12月13日ライヴ)
・第6番「悲劇的」 バルビローリ/ニュー・フィルハーモニア管(1967年8月17-19日)
・第7番「夜の歌」 ラトル/バーミンガム市響(1991年6月21&22日ライヴ)
・第8番「千人の交響曲」 エリザベス・コネル(ソプラノI)、エディス・ウィーンス(ソプラノII)フェリシティ・ロット(ソプラノIII)、トゥルデリーゼ・シュミット(コントラルトI)ナディーン・ディニーズ(コントラルトII)、リチャード・ヴァーサル(テナー)ヨルマ・ヒンニネン(バリトン)、ハンス・ゾーティン(バス)ティフィン・スクール少年合唱団、ロンドン・フィルハーモニー合唱団、デイヴィッド・ヒル(オルガン)、テンシュテット/ロンドン・フィル(1986年4月20-24日&1986年10月8-10日)
・第9番 バルビローリ/ベルリン・フィル(1964年1月10、11、14&18日)
・第10番(マーラー手稿、デリク・クックとベルトルト・ゴルトシュミット、コリン・マシューズ&デイヴィッド・マシューズの協同による演奏版)ラトル/ベルリン・フィル(1999年9月24&25日ライヴ)
・花の章(交響曲第1番のため創作、1906年放棄)ヤルヴィ/フランクフルト放送響(2007年5月)
・大地の歌 クリスタ・ルートヴィヒ(コントラルト)、フリッツ・ヴンダーリッヒ(テナー)クレンペラー/フィルハーモニア管(1964年2月19-22日、1964年11月7&8日、1966年7月6-9日)
【歌曲集、その他】
・嘆きの歌(1878-80,改訂1892-3&1898-9)ヘレナ・デーゼ(ソプラノ)、アルフリーダ・ホッジソン(メゾ・ソプラノ)ロバート・ティアー(テナー)、ショーン・リー(バス)バーミンガム市交響合唱団、ラトル/バーミンガム市響(1983年10月12&13日、1984年6月24日)
・さすらう若人の歌(マーラー詩)(1884-5,改訂1891-6)(全4曲)フィッシャー=ディースカウ(バリトン)フルトヴェングラー/フィルハーモニア管(1952年6月24&25日)
・「子供の不思議な角笛」からの歌曲集(ブレンターノ&アルミン詩)(1892-1901)(全12曲)シュヴァルツコップ(ソプラノ)、フィッシャー=ディースカウ(バリトン)セル/ロンドン響(1968年3月8&9日)
・亡き子をしのぶ歌(リュッケルト詩)(1901-4)(全5曲)キャスリーン・フェリアー(コントラルト)ワルター/ウィーン・フィル(1949年10月4日)
・5つのリュッケルトの歌(1901-2)〔1〕ジャネット・ベイカー(メゾ・ソプラノ)バルビローリ/ニュー・フィルハーモニア管(1969年7月17&18日)、〔2〕トーマス・ハンプソン(バリトン)ヴォルフラム・リーガー(ピアノ)(1996年3月19-21日)
・さまざまな歌曲集(1879-83)
イアン・ボストリッジ(テナー)アントニオ・パッパーノ(ピアノ)(2010年2月19日)
クリスタ・ルートヴィヒ(メゾ・ソプラノ)ジェラルド・ムーア(ピアノ)(1959年5月1、3-5日)
カタリーナ・カルネウス(メゾ・ソプラノ)ロジェ・ヴィニョール(ピアノ)(1998年7月7-9日)
ブリギッテ・ファスベンダー(メゾ・ソプラノ)アーウィン・ゲイジ(ピアノ)(1979年10月24-26日、1980年3月11-14日)
アリス・クート(メゾ・ソプラノ)ジュリアス・ドレイク(ピアノ)(2002年12月19-21日)
フィシャー=ディースカウ(バリトン)ダニエル・バレンボイム(ピアノ)(1978年2月5-10日)
<ボーナス・トラックス>
・聴き比べ:私はこの世に捨てられて(リュッケルト詩)
〔1〕ジャネット・ベイカー(メゾ・ソプラノ)、バルビローリ/ハレ管(1967年5月)
〔2〕クリスタ・ルートヴィヒ(同上)、ジェラルド・ムーア(ピアノ)(1957年11月)
〔3〕クリスタ・ルートヴィヒ(同上)、クレンペラー/フィルハーモニア管(1964年2月)
〔4〕ディースカウ(バリトン)、バレンボイム(ピアノ)(1978年2月)
〔5〕トーマス・アレン(バリトン)、テイト/イギリス室内管(1989年10月)
〔6〕ブリギッテ・ファスベンダー(メゾ・ソプラノ)、ゲイジ(ピアノ)(1980年3月)
〔7〕カタリナ・カルネウス(メゾ・ソプラノ)、ロジェ・ヴィニョール(ピアノ)(1998年7月)
・原光(交響曲第2番 第4楽章)(子供の不思議な角笛)アリス・クート(メゾ・ソプラノ)ジュリアス・ドレイク(ピアノ)(2002年12月) ほか
0 件のコメント:
コメントを投稿