日曜日, 3月 11, 2007

セル シベリウス2番

  いまから約37年前に東京でおこなわれたセル/クリーヴランド管弦楽団によるライヴ録音のCDである。この日、このコンサートを東京文化会館で聴いていた。その時の感動が正確に甦ってくる。セルがこの時に重篤な病気であったことはコンサート会場では知るよしもなかったし、70年大阪万博の記念コンサートが東京でも目白押しで、多くの注目は同時期に来日していたカラヤン/ベルリン・フィルに寄せられていた。セルはもちろん「著名中の著名」な指揮者ではあったが、それでもあまりに多くの巨匠の来日ラッシュのなか正直地味な印象はぬぐえなかった。  しかしその「魂魄の演奏」は、はじめての日本でのライヴで、私ならずとも聴衆の驚きは大きかった。セル/クリーヴランド管弦楽団の演奏は「冷たい」とか「クールな精密機械」といった評論家のイメージが強かったが、実際の演奏はそれとはまったく異質な熱気あふれるものであり、オケから紡ぎだされる音楽は「血のかよった暖かく表情豊かな音色ながら完全なアンサンブルはけっして乱れない」といったものだった。前半の「オベロン」序曲、モーツアルトの40番も素晴らしいものだったが、後半のシベリウスの2番は文字通り白熱の名演だった。当時、シベリウスはいまほど演奏される機会がなく、このプログラム・ビルディングでもクリーヴランド・サウンドに合う曲を選んだのかなと感じたが、のちにセルがこの曲をもっとも得意としていたことを知り十八番で勝負といった演目であったのだろう。   織工Ⅱでも書いたが、ハンガリアン・ファミリーのなかでも若き日から彗星のごとく登場したセルの晩年の集大成をこの日聴いたことを事後的に知ることになる。忘れえぬ思い出である。

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