Saturday, November 25, 2017

ヨッフムの思い出

Complete Recordings On Deutsche Grammophon Vol. 2 Opera And Choral Works
Complete Recordings On Deutsche Grammophon Vol. 2 Opera And Choral Works


ヨッフムは、小生のライヴでのクラシック音楽開眼の最良の導き手であった。小生がはじめて海外オーケストラのライヴに接したのは、1968910日東京文化会館にて、ヨッフム/アムステルダム・コンセルトヘボウによるベートーヴェン、『エグモント』序曲、交響曲第6番、第5番である。演奏会が終わったあと、出口で待ってヨッフムのサインを貰った。気恥ずかしい思い出である。
 

次は、EXPO70の来日時に、日生劇場でべルリンドイツオペラの公演にて『魔弾の射手』を観賞した。オペラのライヴははじめてではなかったが、その楽しさに目覚めたのはこの時、1970428日であった。本曲をヨッフムは得意としており、カルロス・クライバー盤が登場するまではトップの評価があった。
 

また、その前422日には、東京文化会館でフィシャー・ディスカウを迎えての特別演奏会があり、バッハのカンタータ「我喜びて十字架を担わん」を聴いた。この演奏会では、本曲の前後にモーツァルト、交響曲第39番、第41番が演奏された。モーツァルトの交響曲を海外オケで聴くのはこれが初体験であり、「本場」の演奏を堪能した。
 

ヨッフムがブルックナーの泰斗であることは、その後知ることになるが、当時はブルックナーのライヴなどはまだまだ膾炙しておらず、レコードで聴くのも、フルトヴェングラー、クナッパーツブッシュ、カール・シューリヒトなどのわずかな番数、大家の演奏が中心であった。しかし、ブルックナーに本格的に親しむようになって、系統的に聴くうえでの基準盤はヨッフムのお世話になった。
 
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Bruckner: 9 Symphonies
 
 
A. Bruckner
 
 ヨッフムの偉業はなんと言っても2組のブルックナーの交響曲全集や多くの宗教曲集を残してくれたことでしょう。しかも、彼がブルックナーの交響曲や宗教曲を体系的、系統的に録音しはじめた頃は、誰も今日のようにはブルックナーへの熱い視線は送っていなかったと思います。

 ヨッフムが本交響曲全集を完成させたのは1966年ですが、その後に続く代表的な指揮者の全集をいくつか拾ってみると、ハイティンク/コンセルトヘボウ(63-72)、朝比奈隆/大阪フィル(75-78)、マズア/ゲバントハウス管弦楽団(74-78)、バレンボイム/シカゴ響(72-80)、ヴァント/ケルン放送響(74-81)、カラヤン/ベルリン・フィル(74-81)となりますが、この時にはヨッフムは2度目の全集をドレスデン国立管弦楽団で収録済みですから驚きです。

 4番や後期のブルックナーを定着させたのは、フルトヴェングラー、クナッパーツブッシュ、シューリヒト、ワルター、クレンペラーらの先人ですが、1〜3番や5番の素晴らしさを教えてくれたのはヨッフムの飽くなき挑戦あればこそと思います。その意味でもこの全集の価値はいまや歴史的な遺産と言っていいでしょう。私は他比較でも最高レベルの全集と思っています。

 2つの追加コメントがあります。第1に、本全集録音進行中は、しかしながら、今日のヨッフムへの正当な評価は(少なくとも日本では)一部の鋭利な観察者しかなかったと思います。同時代は、一般にいつもジャーナリスティックで、進行中の地味ながら画期的な営為には気づきにくい面があります。だからこそ、本全集選択にあたっても、ブルックナー演奏の後継者への配慮とそれとの比較考量が必要だと思います。第2に、私は長いヨッフム・ファンですが、その「規範的な解釈」に堅苦しさを感じる向きもあろうかと思います。そこは一応の留意事項として、本全集がいまも一つの規準盤である事実は動かしがたいと考えます。
 
 Eugen Jochum Bruckner: The Complete Symphonies
Staatskapelle Dresden、 Anton Bruckner
 
Bruckner: Symphony No.5
Bruckner、 Concertgebouw Orch
 
  ヨッフムの第5番は数種類があり、どれも名演の誉れが高いですが、これは1964年3月30日、31日にOttobreuren Abbeyでのライブ盤です。コンセルトヘボーの滋味がありながら透明度の高い弦楽器の音色が、録音会場の教会のなかに残響豊かに満ちていきます。ヨッフムは、全体はがっしりとした構えながら、コラール風の安寧に満ちたメロディが随所に繰り返され、それが徐々に力を漲らせながら頂点に向かっていくこの曲を手練れの演奏で聴かせます。これこそブルックナーの魅力の表出といわんばかりの自信に満ちたアプローチです。

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