水曜日, 8月 26, 2020

マゼールとバレンボイム ブルックナー 第8番

 ブルックナー:交響曲第8番ハ短調(ノーヴァク版)

ブルックナー:交響曲第8番

マゼール(Lorin Maazel, 19302014年)とバレンボイム(Daniel Barenboim, 1942年~)のブルックナーについて。 

まず、マゼールですが、彼は、ウィーン・フィルとは早くも1974年には第5番を、ベルリン・フィルとは1988年に第7番、1989年には第8番を録音しています。この時期は、カラヤンがウィーン・フィルとブルックナーの最後の録音をしている時期に重なります。さらに、その後、1999年の1月から3月にかけて、バイエルン放送響と第0番を含む全曲録音も行っています(フィルハーモニー・ガスタイクでのライヴ)。1993 2002年にかけてマゼールは、幾多の名演を紡いだこのオーケストラの首席指揮者の地位にありました。さらに、晩年の20129月には、チェリビダッケが手塩にかけたミュンヘン・フィルと第3番をライヴ録音しています。3つのメジャーオケを制覇して、バイエルン放送響とは全集まで録音をしているのですから、その成果は歴々たるものがあります。 

バレンボイムについては、なんと3組のブルックナー交響曲全集を世に送りました。197281年にかけてのシカゴ響(テ・デウム、詩篇 第150番、ヘルゴラントを含む)、199097年にかけてのベルリン・フィル(ヘルゴラントを含む)、そして2012年に完結したシュターツカペレ・ベルリンとの全集です。前人未踏の3度も全集を録音し、かつ、カラヤン亡きあとベルリン・フィルを従えてのブルックナー交響曲全集ですから、バレンボイムに衆目のまなざしが寄せられるのも当然でしょう。 

さて、ここでの比較は最大のメルクマールたる第8番についてです。マゼール/ベルリン・フィル盤では、さすが大家らしい堂々たる演奏で前半2楽章の落ち着いた解釈には好感をもてますし、終楽章は一転、思い切り盛り上げます。しかしながら、第3楽章に耳をそばだてていて、ブルックナー特有の霊感(天から音楽が降臨するような一瞬の感動)が乏しく、ここでは緊張が途切れます。音の磨き方はなんとも精妙なのですが、それがゆえにかえって、「音」に神経が向かい「音楽」の深部への心の共鳴をさまたげているようにも思います。

 バレンボイムについてはベルリン・フィルとの第6番はその美しい和声がとても気に入りました。しかし、その後、期待とともに第8番を聴いて評価がかわりました。敢えて良さをいえば豪華な音、ピアニッシモの美しさでしょうか。第6番ではそれが魅力でしたが、精神の格闘技を演じるような第8番においては別です。ベルリン・フィルの場合、誰が振っても一定以上のレヴェルは示すでしょう。よって、第8番では「何を」リスナーに示すかが問われます。遅めの進行のなか、時にいささか不自然なテンポの緩急のつけ方に納得できるものがありません。第3楽章に顕著ですが、テンポの改変によって、ふと求心力に空隙ができるような気すらします。その間、豪華で美しいメロディが流れていくので余計にそう感じます。バレンボイム盤には指揮者のかすかな唸り声とともにブルックナーへの並々ならぬ熱意は感じます。しかし、曲想の大きな掴み方ひとつとっても、小生には最盛期のカラヤン/ベルリン・フィルとの差は歴然としているように思われます。

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