土曜日, 1月 12, 2019

ヴァント ブルックナー Wand Bruckner

Bruckner: Symphonies No.1 - 9
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ヴァントのブルックナー、右顧左眄しない解釈

ヴァントは、1938年ケルン近くのデトモルト州立歌劇場で、その後ケルン歌劇場を足場に一歩一歩実力を蓄え、ケルンを本拠地に1946年同市の音楽総監督に就任。手兵ケルン放送交響楽団とのブルックナー交響曲全集はその代表作です。

 ヴァントのブルックナーの特色は、テキストを徹底的に研究し忠実な演奏を目指すことや4楽章間の最適な力配分を常に意識した演奏といった点ではヨッフムに似ています。その一方で、テンポ・コントロールは常に安定しつつも決して過度に遅くならず、むしろ時に軽快なさばきを見せる(それゆえ、全体に「重すぎる」感じを与えない)技巧ではシューリヒトと共通するところもあります。さらに、音の凝縮感をだすためにおそらくは相当な練習で音を練りあげる名トレーナーとしての顔ではベームと二重写しとも言えます。しかし、そうした印象を持ちながら聴いたとしても、全体の構成力からはやはりヴァントはヴァントであり、右顧左眄しない解釈にこそ彼の独自性があると思います。

 全曲、均一な優れたものですが、特に番数の若いものにヴァントらしい丁寧な音づくりの至芸がみえると思います。以下では座右の1〜3番について若干のコメントを。

<第1番>
 第1番は、ブルックナーがリンツで初演し、その稿である<リンツ版>とその後、ほぼ四半世紀をへて作曲者自身が大きな校正をくわえた<ウイーン版:作曲者晩年の1890/1891年改訂>があります。私は、リンツ版ではノイマン、サヴァリッシュが、ウイーン版ではシャイーの少しく濃厚な演奏が好きですが、ヴァントの本盤はそれに比べて恬淡とはしていますが同じくウイーン版の代表的な1枚です。

<第2番>
 第2番では、ジュリーニ、ヨッフムをよく聴きますが、改めてヴァント/ケルン放送響に耳を澄ましてみて、これは実に良い演奏だと思います。シューリヒト的な小鳥の囀りに似た柔らかな木管の響きに癒され、第4楽章ではミサ曲第3番<キリエ>からの楽句の滋味溢れる解釈には深い感動を覚えます。2番では凡庸な演奏には時に感じる全体構成上の<ダレ>も全くありません。練り上げられた技倆とブルックナー第一人者としての自信と自負に裏打ちされた名演です。

<第3番>
 第3番も見事な演奏です。細部まで練りに練った演奏で、自由な音楽の飛翔とは無縁な、理詰めな解釈と一部も隙のないような凝縮感が特色です。それでいて重苦しさがないのは、時に軽妙なテンポでいなすコントロールゆえでしょうか。ブルックナーを聞きこんだリスナーにこそ高く評価される練達の演奏です。

(参考)
ブルックナー:交響曲第1番&第2番
ブルックナー:交響曲第3番&第4番「ロマンティック」
ブルックナー:交響曲第5番&第6番
ブルックナー:交響曲第8番
ブルックナー:交響曲第7番&第9番


ブルックナー:交響曲第5番
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ヴァント 1991年ベルリン・ライヴ

ヴァントのブルックナーの5番には数々の音源がある。早くはケルン放送響の1974年のセッション録音、日本でのN響ライヴ(1979年11月14日、東京、NHKホール)、北ドイツ放送響ライヴ1(1989年10月8日〜10日、ハンブルク、ムジークハレ)、BBC交響楽団ライヴ(1990年9月9日、ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホール)、ミュンヘン・フィルライヴ(1995年11月29日&12月1日、ミュンヘン、ガスタイク)、ベルリン・フィルライヴ(1996年1月12-14日、ベルリン、フィルハーモニー)、 北ドイツ放送響ライヴ2(1998年7月11日、リューベック、コングレスハレ)などがあるのだから、その音源の多さは群を抜く。根強い人気の裏返しであり5番が十八番であった証左だろう。
 小生はこのうち ブルックナー:交響曲第5番&第6番 やブルックナー:交響曲第5番(演奏の特質はこちらを参照)をよく聴くが、本盤は以下のようにその中間点に位置する1991年の録音。

 これが「掘り出しもの」の熱演である。他の演奏にくらべてオケの相対的な弱さを指摘する向きもあるが、技量よりもライヴの高揚感(冒頭から顕著)と集中度に注目すれば見事な演奏である。なにより、ヴァント79才の漲る気力に驚く。朝比奈隆の晩年の耀きを思い出す。両人ともブルックナー指揮者としての堂々たる自負心があればこそか。多少の技術的な瑕疵などは問題にはならないだろう。ヴァントの演奏が好きで、また5番の複雑なる心象に惹かれるリスナーであれば一度は聴いて損のない記録である。

<収録情報>
■ブルックナー:交響曲第5番変ロ長調
 ベルリン・ドイツ交響楽団
 ギュンター・ヴァント(指揮)

 録音時期:1991年10月6日(ライヴ)
 録音場所:ベルリン、コンツェルトハウス

ブルックナー:交響曲第9番
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ヴァント ベネディクト修道院バジリカ聖堂 ライヴ

ヴァントのブルックナーの9番には数々の音源がある。ケルン放送響の1979年6月(シュトルベルガー・シュトラーセ・シュトゥディオ、ケルン)でのセッション録音が先行。
 その後、晩年のライヴ録音も多く、ベルリン・ドイツ交響楽団(1993年3月20日、ベルリン、コンツェルトハウス)、ミュンヘン・フィル(1998年4月21日、ミュンヘン、ガスタイク、フィルハーモニー)、ベルリン・フィル(1998年9月18&20日、ベルリン、フィルハーモニー)、北ドイツ放送交響楽団1(2000年11月13日、東京オペラシティ・コンサートホール)、北ドイツ放送交響楽団2(2001年7月8日、リューベック、コングレスハレ)などがある。→ ブルックナー:交響曲第9番 も参照

 本盤は、ケルン放送響と同時期の1979年、シュトゥットガルト放送響とのライヴ録音である。シュトゥットガルト放送響の演奏は大層充実している。それもそのはず、この時期(1971-79年)、同団ではかのチェリビダッケが君臨し、ブルックナーを集中的に取り上げており徹底的に鍛えられていた時代。本演奏は、比喩的に言えば、高度地域で猛練習してきたマラソン選手が、この日ばかりは低地で伸び伸びと走りこんでいるような雰囲気かも。
  一方、ヴァントは好んでシューベルトの「未完成」とこの9番を組み合わせて演奏会を行っているが、両曲ともに胸を張る自信の演目だったのだろう。ヴァント66才の本演奏でもその息吹を強く感じる。さらに、残響のながい教会での収録であることも本盤の特色で、9番の詠嘆的な終曲(第3楽章)は力感にあふれ、かつ心地よき響きである。

■ブルックナー:交響曲第9番ニ短調
 シュトゥットガルト放送交響楽団
 ギュンター・ヴァント(指揮)

 録音時期:1979年6月24日(ライヴ)
 録音場所:オットーボイレン、ベネディクト修道院バジリカ聖堂

→  Bruckner Collection も参照

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