日曜日, 3月 06, 2022

ロシアのウクライナ侵略とベルリン・フィル


 









連日、伝えられるロシアのウクライナ侵攻は、クラシック音楽界にも暗い影をおとしている。ベルリン・フィルについて少し考えてみたい。

ベルリン・フィルのシェフは、キリル・ペトレンコである。ロシア(ウクライナ)出身だが、青年期からオーストリアに移住し音楽修行に励んでおり、オーストリアの指揮者という分類も可能だろう。そのベルリン・フィルのシェフ就任は日本では情報(認識)不足から意外性が強調されたが、ドイツ国内では、伝統的なオペラ指揮者としての地道な活動を行ってきており、バイロイトでも輝かしい成果をあげていたことから、有力候補の一角として実は以前からマークされていたようだ。














〔出典〕ベルリン・フィルが選んだ「無名」の指揮者、キリル・ペトレンコ|NIKKEI STYLE

ドイツ人にとって、侵略戦争の歴史では、第二次大戦では強烈な加害者と、その結果としての厳しい被害者の双方の立場があり、今回のロシアによるウクライナ侵略の受け止め方は複雑だろう。さらに、ロシアとの関係では、ナチス軍による辛酸なレニングラード攻防戦(ショスタコーヴィチ:交響曲第7番)や、敗戦後のロシア軍による屈辱的ベルリン支配など、その記憶はなお鮮烈であろう。そしてベルリンの壁が築かれることによって、ドイツの戦後はながく心に棘をさすことになる。

キリル・ペトレンコについても、ロシア人とみるかウクライナ人とみるかによって(その違いは日本からはわかりにくいが)、まったく受け止め方が異なってくる。しかし、すでにゲルギエフについて、欧米から講演キャンセルがあいつぎ、また、ネトレプコについても同様の報道がなされている。嫌な雰囲気だが、人種問題という火種が燻りはじめている。

ニュース&トピックス:ヴァレリー・ゲルギエフ、相次ぐ降板や解任 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

プーチン批判拒否が原因か、最高峰の歌姫ネトレプコも降板、米芸術界で“ロシアボイコット”拡大 - ハリウッド : 日刊スポーツ (nikkansports.com)


多くのドイツ人にとって、ナチス問題はいまも心の古傷である。「第三次世界大戦へのリスク」という言葉は、その古傷の疼きにつながる。いま、ドイツの意想外の強いロシア批判はその裏返しでもあるのだろう。そして、それは同盟国として同じ轍を踏んだ日本も他人事ではありえない。韓国の大統領選挙、中国の出方に関心が向くのは当然のことだろう。

ベルリンは歴史的な桎梏からも、いまも政治的な都市である。ドイツ音楽の最高峰のオケ、ベルリン・フィルの機能もまた、しかりである。商業主義的にみても、水面下できっとさまざまな検討が行われていることだろう。キリル・ペトレンコはプーチン批判にいちはやくその名を連ねている。その帰趨には当面、目が離せない。

プーチン大統領に「ウクライナから手を引け」 ロシアの芸術家ら2万人が署名  (2022年3月5日) - エキサイトニュース (excite.co.jp)

(音楽)ニュース:2月24日、ロシアのウクライナ侵攻に対するクラシック音楽界の反応②(ベルリン・フィル)|来住千保美 Chihomi Kishi|note

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