Thursday, May 12, 2016

ツァラトゥストラはこう語った Also sprach Zarathustra




『ツァラトゥストラはこう語った Also sprach Zarathustra』をはじめて読んだ時、西欧思想のコンテクストのなかで、これは革新的な思想の転換の書だと思い強い衝撃をうけた。しかし、その後に仏教関係のインドの本に親しむようになって、この転換の思想、すなわち「神は死んだ」「超人Übermenschの定立」「永劫回帰」の思想は、「原始仏教およびその源流の否定」「小乗仏教から大乗仏教への転回」「無の発見」と符合すると思うようになった。

インド仏教における「定番」は、山に籠って一人沈思黙考する、既存の価値観・宗教を否定し、より本源的・超越的思想へと止揚していくプロセスを語ることにあり、これは、『ツァラトゥストラ』と共通する。

『ツァラトゥストラ』が、ゾロアスター教の開祖の名前であるザラスシュトラ(ゾロアスター)をドイツ語読みしたものであるとすれば、その根本において、はるか以前の東洋思想と同じ源流に行きつくことに不思議はない。ニーチェはニヒリズムの元祖でもあるが、その「虚無主義」と仏教における「無」は、実は、「虚」の一字を冠するか否かの差であり、ながき仏教の系譜と体系のなかでは、「虚無」は「無」によって克服されるべき考え方であるとも言える。

さらに、ギリシア哲学とキリスト教を二元的な価値体系と捉える「西洋哲学」以前から、認識論の発達とその歴史を誇る「インド哲学」はあり、両者の関係性の理解なくして、『ツァラトゥストラ』の真の解読はできないかも知れない、とも思う次第である。

以上は、下記の音楽評においては蛇足であるかも知れないが。


Virtuoso-R. Strauss: Also Sprach Zarathustra

『ツァラトゥストラ…』は攻撃的でスリリングさが持続する曲である。大編成のオーケストラの各楽器が実に多彩な表情をみせるという意味でも近現代的な先進性をもっている。劇的な展開と艶やかな響き、あえて言えばマッチョさと女性的なまろやかさを両性具備したような官能性のあるカラヤン盤 R.シュトラウス:ツァラトゥストラ/ティル/ドン・ファン 、作品と真っ向から対峙して、その攻撃性において北風と太陽の相克をみるかの如くのテンシュテット盤 R.シュトラウス:ツァラトゥストラはかく語りき が小生のお奨めだが、加えてシノーポリ盤も実に魅力的だ。

音質の良さに身を乗りだす思いだが、強奏部分でも、緩徐楽章的な静謐さでも輪切りにすれば、完全に均質な断面になっているような演奏で、そこにシノーポリ独自の「集密」を感じる。その一方、その音は冷たくメカニックではなく温もりがある。こういう演奏スタイルもあるのだと驚かされる秀演である。

→ Art of Giuseppe Sinopoli にて聴取

Legendary Decca Recordings

 有名なエピソードだが、映画『2001年宇宙の旅』冒頭の部分でこのカラヤン/ウィーン・フィル盤が使われている。映画の大成功もあり、曲そのものが大きな注目を集めるとともに、当初、使用音楽の一部の修正もあり、そのため契約関係で指揮者・演奏団体があえて秘匿されたことから、いっそう本盤が脚光を浴びることとなった(なお、当初のサウンドトラック盤はあえてベーム/ベルリン・フィルに差し替えられたが、最新のサウンドトラックCD(EMI)は本カラヤン盤に戻っているという)。

 このカラヤン/ウィーン・フィル盤によって「ツァラトゥストラ」自体が人口に膾炙した一因にもなっただろうが、こうしたカラヤン・エピソードはほかにも数多い。気宇浩然たるこの曲の特質をあますところなく表出した本盤はいま聴いても新鮮であり、かつこの演奏を評価されたら是非、同路線をゆくテンシュテット盤(→Also Sprach Zarathustra / Don Juan / 4 Last Songs)にも耳を傾けていただきたい。

◆R.シュトラウス:交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』作品30 (1959年)
◆R.シュトラウス:『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯』作品28 (1961年)
◆R.シュトラウス:交響詩『ドン・ファン』作品20 (1961年)

Legendary Decca Recordingsも参照

Klaus Tennstedt: The Great EMI Recordings

このアルバムは象徴的である。『ツァラトゥストラ・・・』は不思議な曲、難解な曲と言われ、「埋葬の歌」や「病から回復に向かう者」といった表題をもった部分もある。テンシュテットは録音時点の1989年3月、重篤な病気闘病中であり、なぜこの曲の録音を行なったのか、いかなる心象で臨んだのかといった関心は否が応にも高まる。

 しかし、そんなことは付随的とも思わせる素晴らしいスケール感の、これは名演である。オルガンのぶ厚く低いイントロ、低音のトレロモ、トランペットの輝かしい閃光的な登場といった有名な序奏から終曲「さすらい人の夜の歌」まで一気に駆け抜けるような集中力ある演奏で、とても病気を押して演奏しているような風情はない。気迫にあふれ、バランス感絶妙の本演奏を接して、これほど気宇浩然の魅力的な曲だったのかと驚くリスナーも多かろう。1986年3月録音の「ドン・ファン」も同様な印象。テンシュテットがいかにR.シュトラウスを得意にしていたかを知る格好な1枚である。

Great EMI Recordings

http://www.amazon.co.jp/dp/B00BT70J0Y/ref=cm_cr_asin_lnk

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