土曜日, 8月 11, 2012

リヒテルの魅力

Icon: Sviatoslav Richter


 14枚の構成は、ピアノソロ、協奏曲、ヴァイオリン・ソナタ等からなるスーパー廉価盤集。ソロ曲はいずれもリヒテル十八番で定評あるもの。以下では協奏曲集を中心にコメント。 

 ここまで絢爛にして豪華、聞き比べができる第一級のピアノ協奏曲集はちょっと考えられない。バックを務める指揮者群の顔ぶれは、カルロス・クライバーはじめ、ムーティ、カラヤン、マゼール、マタチッチである。とくにリヒテルvsマタチッチの共演は特異の名演。リヒテルのハンマーのような屈強さ、マタチッチの無骨といった表面的な印象を超えて、迫力満点のグリーグでは思わぬ抒情性にはっと心がぐらつく。その一方、たっぷりの哀愁のシューマンの底にはとぐろを巻く強い情念が疼く。しかし、こうした意表を衝くスリリングさの先に、どちらも、とびっきりに、こころを籠めた真の「音楽」を感じる。多くのヴァイオリン・ソナタはいずれも若き天才といわれたオレグ・カガン(199043才で逝去)との共演。リヒテル・ファミリーといわれた2人の演奏の呼吸は見事にぴたりと合っている。文句なく推薦します。 

<収録情報>

【CD1】ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第1番、第7番(1976年)、第17番ニ短調(1961年)、アンダンテ・ファヴォリ(1977年)

【CD2】シューベルト:ピアノ・ソナタイ長調D.664、幻想曲ハ長調D.760「さすらい人」(バドゥラ-スコダ編、1963年)、シューマン:幻想曲ハ長調Op.171961年)

【CD3】シューマン:蝶々Op.2、ピアノ・ソナタ第2番ト短調Op.22、ウィーンの謝肉祭の道化Op.261962年)

【CD4】ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調Op.24「春」、※(1976年)、シューベルト:ピアノ五重奏曲イ長調D.667「ます」ボロディン四重奏団、ゲオルグ・ヘルトナーゲル(コントラバス、1980年)

【CD5】モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタニ長調K.306、同変ロ長調K.378、同変ロ長調K.372、アンダンテとアレグレットハ長調K.404/385d、※(1974年)

【CD6~7】ヘンデル:クラヴィーア組曲第2番、第3番、第5番、第8番、第9番、第12番、第14番、第16番(1979年)

【CD8】ブラームス:マゲローネのロマンスOp.33(全15曲)、ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン、1970年)

【CD9】モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番変ホ長調K.4821979年)、ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調Op.371977年)、ムーティ(指揮)フィルハーモニー

【CD10】ベートーヴェン:三重協奏曲ハ長調Op.56、オイストラフ(ヴァイオリン)、ロストロポーヴィチ(チェロ)、カラヤン(指揮)ベルリン・フィル(1969年)、

・同:ヴァイオリン・ソナタ第4番イ短調Op.23、※(1976年)

【CD11】ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調Op.83、マゼール(指揮)パリ管弦楽団(1969年)、モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタト長調K.379、※(1974年)

【CD12】ドヴォルザーク:ピアノ協奏曲ト短調Op.33、クライバー(指揮)バイエルン国立管弦楽団(1976年)、バルトーク:ピアノ協奏曲第2Sz.83、マゼール(指揮)パリ管弦楽団(1969年)

【CD13】グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調Op.16、シューマン:ピアノ協奏曲イ短調Op.54、マタチッチ(指揮)モンテ・カルロ国立歌劇場管弦楽団(1974年)

【CD14】プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第5番ト長調Op.55、マゼール(指揮)ロンドン交響楽団(1970年)、ベルク:室内協奏曲※、ユーリ・ニコライエフスキー(指揮)モスクワ音楽院器楽アンサンブル(1977年)

http://www.amazon.co.jp/Icon-Sviatoslav-Richter/dp/B001B1R1HC/ref=sr_1_135?s=music&ie=UTF8&qid=1344706994&sr=1-135

Piano Concertos



 ドヴォルザーク/ピアノ協奏曲は、19766月にクライバー/バイエルン国立管弦楽団との共演。一方、グリーグとシューマンは、197411月にマタチッチ/モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団バックでの収録。どちらも個性的な指揮者とピアニストの邂逅で話題になったもの。
 ドヴォルザークはクライバー・サウンドが冴え、リヒテルの燦然たる音を、どこまでも豊かに包摂するような技芸をみせる。だが、聴き物はマタチッチとの(日本的な表現で恐縮だが・・・)いわば「四つ相撲」的な2曲。 

 一般的なコメント―リヒテルの「ハンマーのような屈強さ」、マタチッチの「野太い無骨さ」、といった先入主をもって臨むと意外な印象をうける。迫力満点のグルーグで、思わぬ深い抒情の部分ではっと、リスナーの感性がぐらつく。かたや、たっぷりの哀愁のシューマンの底に、実はとぐろを巻く強い情念が折りに噴き出す。一筋縄ではいかない2人の巨匠の複雑な展開と表現ぶり。だからこそ面白いのだが、聴き終えた感慨はシンプル。リヒテルの、とびっきりに、こころを籠めた演奏に満足することだろう。3人の「巨匠時代」の貴重なモニュメント的好セット。

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